2013.Jan.28

ポール・アルテ『第四の扉』『七番目の仮説』『赤い霧』

『第四の扉』
 なるほどね… こういう人だったんだ。
 まあ、ミステリの犯人は、何もやってないような表の顔と裏の顔はあるのが普通… にしてもこれは凄すぎ。『狂人の部屋』でも思ったけれど、むしろデビュー作のこちらのほうがひどい(笑)。
 カーもポール・アルテも、どちらも解決に負担がかかるタイプの作家だけど、カーの場合はその負担が物理的な方向(瀕死の状態で歩けるのか?とか)にかかるのに対し、アルテの場合は登場人物のキャラ設定にかかってくる。トリックが行える立場にいる人物なら、解決でそれまでのキャラクターが崩壊しても無視なんですよね。
 これがカーになると、主人公&ヒロインは絶対に犯人にならない。大抵はあまり目立たない「犯人候補の登場人物」の中から出る(笑)。そういう意味では似たり寄ったり、しょせんはTVの時代劇程度の人物描写しかしていないんだけど、おかげで「キャラ崩壊」は免れている気がするんですよね。
 トリックは日本の新本格の某作品とまったく同一。わずか一年違いで(アルテの方が一年先)、同じトリックを使った作品がフランスでも出るのが面白い。

『七番目の仮説』
 不可能犯罪という趣向は、設定が完璧であればあるほど、「事件を起こせるタイミングはここしかない」と読者に推測されてしまうものらしい。厳重に封印された箱から奇術師が脱出したら、タネは封印する前か、後しかないというような。前半の人間消失事件は、厳重すぎる設定がアダになってしまったようで、推測は可能。
 後半は容疑者が極端に少ない中でのフーダニット。この趣向を作品のウリにしてくれたほうが、自分の好みには合ってたかもしれない。
 冒頭に登場する、ペストの医者の不気味さは秀逸でした。

『赤い霧』
 1887〜1888年を舞台に、前半はいつもの密室犯罪。後半は切り裂きジャック事件。一冊で二度おいしい… とはとても言えないほど、前半と後半が分離してます(笑)。私はむしろ二部のほうが面白かった。
 切り裂きジャック事件の舞台となったドーセット・ストリート(Dorset Street)。地図で検索してみたがヒットしない。まあ、そうだよね。ロンドンの街にとっては名誉な記憶ではない。ここがかつてのドーセット・ストリートですよ〜 と堂々と宣伝するわけはないわな(笑)。
 でも気になったので、ストリートビューで「大体このあたりでは?」と目星を付けた地区を歩き回って見つけました。なに酔狂なことやってんだ、自分(汗)。

 海外の新本格、と割り切って読めばそれなりに楽しい作家さんですが、そろそろ疲れてきたので次の作家に行きます(笑)。

投稿者 TEH Editors : 01:08 | 読書(ミステリ) | comments (33) | trackbacks (0)

2013.Jan.23

ポール・アルテ『狂人の部屋』

 フランスのディクスン・カー? というより新本格みたいだなぁ…? そう思って読んでいたが、最後に至って考えが変わった。これだけのネタをバラまいて収束させるのは、カーでも全盛期にしかできていないこと。後年のカーはワン・アイデアの作品が多いですからね。このジャンル限定での評価なら、読みごたえあるし、とても楽しい。
 ちょっと納得がいかないのは犯人のキャラ設定。さすがにあれは豹変しすぎでしょう。作者も無理があると思ったのかエピローグで言い訳しているが、いっそ不合理な部分はすべて怪談オチに持っていって、『火刑法廷』をやったほうが良かったのかもね。それができるだけの道具立ては揃ってますからね。

投稿者 TEH Editors : 02:02 | 読書(ミステリ) | comments (67) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その7

『三つの棺』(1935・フェル博士)
 高校時代以来の再読。現象としての不思議さを優先し過ぎたのか、この解決はさすがに無理があるのでは…
 一方で、HM卿シリーズのドタバタのような別の楽しみ方があるわけでもない。密室講義のせいで知名度は高いけれど、上の下、または中の上の評価になってしまうのは仕方ないのかもしれないなぁ…

『パンチとジュディ』(1936・HM卿)
 結婚式の前日にHM卿に呼び出された元情報部員のケン・ブレイク。HMの指示で元スパイの老人の家に潜入すると、そこで死体を発見。警察官、牧師と次々に衣装を替えて逃げ回ることに…
 ここまで先読みできない話も珍しい。カーのプロット作りの才能の一端を感じさせる作品だと思います。ただ、綺麗に収束できないんだよね。そのへん、乱歩と似ています(笑)。

『ビロードの悪魔』(1951)
 いやいや、これはなかなか楽しいカー風チャンバラ小説。もしもこの設定が、作中の毒殺事件の「意外な犯人」を成立させるために作り出されたのだとしたら笑える。確かに冒頭から手がかりは明らかにされてます(笑)。
 英国の歴史に詳しいわけではないので、苦しかった部分もあるんですが… 長さを感じさせない娯楽作です。

『囁く影』(1944・フェル博士)
 中期の傑作として最近なぜか評価の高まっている作品。
 再評価の理由も分からなくはありません。お得意の不可能犯罪はあるものの、無駄に複雑化していないので、トリックもプロットもすっきりしてる。ただ、設定に派手さがなく、静かな雰囲気の作品であるだけに、トリックから逆算したような登場人物設定が気になります。

『弓弦城殺人事件』(1934)
 15世紀の古城に甲冑室… 邸内の見取り図が欲しかったという意見も聞くが、私はこの「読んだだけではどこがどう繋がっているのか分からない構造」が、逆にこの古城の雰囲気を高めているような気がします。舞台は最高。トリックもそこそこ。なのに名作の仲間入りができなかったのは、探偵役が没個性すぎるせいか。これを読むと、カーの作品にはHMやフェル博士のようなアクの強い探偵役が必要だったことが良く分かる。

『青ひげの花嫁(別れた妻たち)』(1946・HM卿)
 ある舞台役者のもとに、11年前に姿を消した連続殺人鬼をモデルにした脚本が送られてくる。そこには真犯人しか知らない事柄が描かれており…

 世間的にはまったく無名ですが、私は楽しく読みました。死体消失のトリックは確かに腰砕けかもしれない。しかし冒頭は相変わらず上手いし、中盤までのストーリー展開は面白い。結末で破綻しても、それまで楽しませてくれたからいいや、って考え方もあると思う。
「死者はよみがえる」にしても「パンチとジュディ」にしても、犯罪部分のトリックで減点されているわけで、無理に殺人事件を起こさずに(または不可能犯罪にせずに)、主人公がひたすら巻き込まれるだけのストーリー主導型の話にしていれば… あるいは冒頭のシチュエーションだけを脚本家に渡して、映画化でもしていれば、意外に面白い作品になった気がするんですよね。そんな作品がカーにはたくさんあると思う。

投稿者 TEH Editors : 20:24 | 読書(ミステリ) | comments (0) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その6

『ユダの窓』(1938・HM卿)
 やはり、傑作だ。

 このトリックは、推理クイズ本やミステリ紹介本でさんざんネタバレされ、『プレーグ・コートの殺人』とならび、「読者が読む前からトリックを知っているカー作品」の二大巨頭と言ってもいい。

 ラストで明かされる密室の解決は、単純な機械トリックである。1938年(昭和13年w)の発表当時ならともかく、昭和の後半の時点で、もはやこのトリックは古くさい。何も知らずにこの小説を読むと、尻つぼみの印象すら持たれてしまう。かくいう私も高校時代に初めて読んだ時には、「堅い、遊び心がない」という感想だった。

 しかしあらためて読み直すと、トリックがネタバレされていることは、むしろこの作品にとって幸福なことだったのではないかと気づく。

 読者のほとんどは、有名な「ユダの窓トリック」を知っている。そしてそのトリックに、検察も裁判長も陪審員もひれ伏すことを知っている。誰もが知ってるあのトリック、殿堂入りのあのトリック… それが少しずつ、少しずつ姿を現し、最後にその全貌が姿を現したとき、読者もそれにひれ伏すのが正しい読み方(笑)。そこに至るまでの数十ページは前座にすぎない。

 何も知らない子供が水戸黄門の印籠を見ても「何それ」と言うに決まってる。水戸黄門の印籠がなぜ偉大なのかというと、「そういう設定だから」偉大なのだ。『ユダの窓』も同じだ。このトリックは偉大だという共通認識がなかったら、「何それ」と言うしかないのである(笑)。

投稿者 TEH Editors : 20:21 | 読書(ミステリ) | comments (0) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その5

『死者はよみがえる』(1938・フェル博士)
 カーはトリック一発の人と思われがちだけど、魅力的な設定を考え出すことにも才能あると思う。
 この作品の冒頭、ホテルで無銭飲食しようとした青年が、宿泊客になりすましているうちに、その宿泊客の部屋で死体を見つけてしまうという出だしは見事なつかみだと思います。ただし、乱歩と同じでせっかくの魅力的な書き出しが後半に行くに従って失速しますが(笑)。

 作中のあちこちで姿を現す「ホテルの制服を着た謎の男」にしても、舞台がロイヤル・スカーレット・ホテルの内部だったときは効果的ですが、後半になって舞台が田舎町に移るとなんともチグハグな感じ。結末は… 好意的に見てもアンフェアでしょ、これ(笑)。
 まとまりには欠けるけれど、なんとなく引っかかる、愛すべき作品ってとこでしょうか。

『一角獣の殺人』(1935・HM卿)
「一角獣の角で刺されたような傷跡」というオカルト設定が完全に空回りした作品(笑)。
 怪盗まで登場し、ジュブナイルを読んでいるような作品なので、フェル博士よりドタバタ風味の強いHM卿を起用して正解だったと思う。

『震えない男』(1940・フェル博士)
 いやあ、これは、やってくれました(笑)。
 幽霊が出る、と評判の屋敷で、拳銃がひとりでに宙に浮き上がり、銃弾を発射するという… どんなおバカトリックが待ち受けているのかと、ワクワクさせてくれます。結末は、驚愕と脱力の紙一重(笑)。惜しかったな、これ、作者が意識的に書いていれば、「××館の殺人」の元祖と言われたかも知れない。とてもカーらしい作品でした。

 金田一少年の14巻に「墓場島殺人事件」という作品がありますが、ここで使われているトリックがほぼそのまま流用されています。もちろん、カーの小説のほうが先。パクリだとか騒ぐつもりはなく、むしろカーのこんなマイナー作まで読んでいる金田一少年の原作者は立派。

『貴婦人として死す』(1943・HM卿)
 なぜか最近になって評価が上がっている作品ですが…

「被害者の足跡しか見あたらない」という足跡トリックは立派。単純な仕掛けでさらっと解決してみせる。こういうのは複雑化しちゃいけない。
 しかし作品全体が、どうも陰鬱な感じなんですよね。大戦中の1943年という執筆時期がそうさせたのか。個人的に評価している『九人と死で十人だ』はその雰囲気を緊迫感に転化しているからいいけれど、カーの作品には、もっとケレン味が欲しいと思ってしまう。探偵役のHM卿もどこか老け込んだ感じで、むしろ戦後の『わらう後家』のほうが、イキイキしてるんですよねぇ…

 近年、再評価されている理由は読んで納得。ああいうトリックは最近人気高いもんね。

『魔女の隠れ家』(1933・フェル博士)
 イヤハヤ、意外な傑作で驚きました。
 舞台はイギリスの田舎村。現在は廃墟となっている元・チャターハム監獄。村の地主であるスタバース家は、代々この監獄の長官を務めており、スタバース家の長男は、25歳の誕生日に地所相続の儀式として、夜中に監獄に入り、長官室の金庫を開けなければならない…

 もうね、この設定だけで現代の日本では置き換え不可能(笑)。いま、こんな話を書いたら「金田一少年かよw」「どこの国の話だw」と言われるのは必至。まさに1933年(昭和8年)のイギリスでなければ成立しない状況設定で、古典ミステリの存在意義は、ここにあるのだと言いたい。ちょっとした錯覚で読者を最後まで煙に巻くトリックも秀逸で、なぜ知名度が低いのか不思議なくらい。横溝正史からカーに入った読者には、お薦めの作品だと思う。

 それにしても、いくら事件解決のためとはいえ、よくあんな古井戸に入るよな… 私なら絶対イヤだ。病気になりそ(笑)。

投稿者 TEH Editors : 20:19 | 読書(ミステリ) | comments (0) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その4

『五つの箱の死』(1938・HM卿)
 さすがである。
 若竹七海が「初心者に薦めてはいけないカー作品」の筆頭に上げただけのことはある(笑)。

 誰も手を触れていないグラスに仕込まれた毒。四人の被害者。その被害者が、それぞれ後ろ暗い過去があると噂されており… などと書くとまともそうだがとんでもない。『わらう後家』が、一発おバカトリックの代表作だとすると、こちらはアレもコレもと詰め込み過ぎて、破綻した例。メインは犯人探しなのか、毒殺トリックなのか、登場人物の過去なのか… 最後は作者自身にさえ、分からなくなってるのじゃないか(笑)。

 ではこの作品はつまらないのかというと、そうとも言えない。もともとカーの作品なんて、傑作とバカミスの境界線はあいまいなのだ。いい例が『曲がった蝶番』。カーのベスト作に上げる人もいるが、個人的にはあれはバカミス(笑)。この作品だって、もう少し状況を整理して、「××が犯人」というアクロバット技を明確にしていれば… 傑作といわれる作品になっていたかもしれない。

 カーの珍作と最近のバカミスの違いはその点。最近のものは、明らかにウケを狙ってる。カー先生は違う。ウケなど微塵も狙っていない。おバカなトリックを、本気で仕掛けて本気でコケる(笑)。最近のバカミスが、売れない新人芸人のギャグだとすれば、カーのは大女優が舞台で噛みまくったようなもんである。だから、カーの珍作は読み応えがある。

 だからと言って、もしこの作品を読みたいと思った人がいたら… 噛んでない作品を読んでからにしてね、としか言いようがないのだけど(笑)。

投稿者 TEH Editors : 20:03 | 読書(ミステリ) | comments (0) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その3

『九人と死で十人だ』(1940・HM卿)
 昭和31年に「別冊宝石」にダイジェスト訳が公開されたのみで、平成11年に改訳されるまで、日本語では読めなかった作品。意外な良作です。

 第二次大戦中の1940年、ニューヨークから英国に向かう客船が舞台。灯火管制のため、船の窓は開かず、乗客は救命用具の携帯を義務づけられている、緊迫した状況の中での事件。
 正直言って、メインのトリックは大したことありません。日本のある有名作家が、短編で使用しているようなネタですから。もうひとつのトリックとの組み合わせで効果が上がっています。読者がメインのトリックに目をうばわれてるうちに、「もうひとつの不自然さ」を見逃してしまうという…

 トリックのネタ切れが当たり前になった、現代だからこその再評価かな。今では誰も、トリックの独創性なんかこだわらないもんね。もう少し早く、ちゃんとした翻訳本が出ていれば、カーの有名作品のひとつになれていたかも。緊迫した状況下だから、HM卿のいつものドタバタが少ないのが残念。

『かくして殺人へ』(1940・HM卿)
 評判悪いですねぇ… カーのファンで有名な二階堂黎人ですら「読む価値なし」と切り捨てているぐらい。
 確かにトリックらしいトリックはなく、ストーリーを楽しむ作品なのは確か。当時の映画撮影所の雰囲気や、殺人未遂事件に巻き込まれた男女の描写はそれなりなので、どうせならHM卿を絡めてのドタバタ喜劇にしたほうが良かったのかも。

『連続殺人事件』(1941・フェル博士)
 このタイトルはそっけなさすぎる。原題通りなら『連続自殺事件』が正しいのでしょうが、この作品が初訳のころは、そんなのは日本語としておかしいと思われたんでしょうか。今ならこのタイトルでもOKの気がしますが。
 内容的には可もなし不可もなしの印象。

『火刑法廷』(1937)
 1930年代のカーの作品には、趣向がてんこ盛りでポイントがぼやけた作品も多い時期ですが、すっきりとまとまった良作です。冒頭のオカルト趣味も空回りせず、オカルトとトリック、そして結末がすっきりとつながっている。ベストテン級の作品であることは確かですが、しかしカー・マニアの場合、まとまっている作品が好まれるとは限らないんだよね(笑)。

『盲目の理髪師』(1934・フェル博士)
 NYからイギリスへ向かう豪華客船の中で起こる殺人事件と宝石盗難事件。いや、これはやっぱり楽しいな(笑)。カーの全作品中、最も笑劇(ファルス)の味が濃いと言われる作品ですが、あと一歩羽目を外すと何がやりたかったのか分からなくなるところを、ギリギリで踏みとどまっています。まあ、これを踏みとどまってると見るか、すでに一線を越えていると見るかで評価が分かれる作品だと思いますが。
 最後に姿を現す「犯人=盲目の理髪師」の不気味さはちょっと特筆もの。ドタバタ喜劇の本編のラストにはちょっとふさわしくないような気もした。このへんのバランスがちょっと崩れているのもカーらしい(笑)。

投稿者 TEH Editors : 19:49 | 読書(ミステリ) | comments (1) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その2

『帽子収集狂事件』(1933・フェル博士)
 江戸川乱歩がカーのベスト作と評価した作品。ただ、高校時代に読んだ印象では、なぜこれがベスト1なのか分からず、この文庫の解説者も、初読時は乱歩の評価が分からなかったと書いている。

 この作品、部分的にコメディなんですよね。例えば、探偵役のギディオン・フェルが、自分は警察の人間だと偽って取り調べを始め、近くにいた民間人の青年(テッド・ランポール)も巻き込んで、刑事のフリをさせるシーンがある。
 つまりこの作品、翻訳者がその気になればもっとお笑いにできる話なんじゃないか? そして乱歩は、この作品を原書で読んだのではないか? 全編お笑いのようなストーリーでありながら、一本スジの通ったトリックがあれば、傑作という評価も理解できます。今回の新訳版のほうが、その面白みは伝わっていると思います。

『読者よ欺かるるなかれ』(1939・HM卿)
 読者によって、カーの傑作のひとつと言う人もいれば、バカミスという人もいる、評価の分かれる作品。個人的には、バカミス意見に近いかな(笑)。なにしろ未解決のまま投げ出される要素があるんだから。
 解説の泡坂妻夫さんは「昔の日本の歌舞伎や大衆芝居は、お客さんが目当てのチャンバラが終わったら『本日はこれまで』と宣言して終わってしまい、動機や結末など野暮なことにはこだわらなかった」と弁護していますが、さすが泡坂妻夫さんです。この解説のほうが、本文よりもある意味「粋」です。

『皇帝のかぎ煙草入れ』(1942)
 数年前、姉が『古畑任三郎』のストーリーを話していたら、この作品とまったく同じトリックが使われていたので、「え、それってカーの『皇帝のかぎ煙草入れ』が原作?」と聞いたら、姉のほうがキョトンとしたことがありました。現在でも、通用するトリックのようです。
 盲点を突いた一発トリックの作品だと思っていたが、再読してみると意外に細かい部分まで目が行き届いている。やっぱりこれは代表作の名に恥じない。
 最大の欠点はカーらしくないところか(笑)。初めての人がこれを読んで「こういう作風の人なんだ」と思いこむと、次は開かずの間やら霊媒師やらを読まされるという(笑)。

『わらう後家(魔女が笑う夜)』(1950・HM卿)
 これは初読です。ちょっと前まではカーのファンでも読んだ人の少ない作品だったが、ある評論家が「バカミスの元祖」と評したことでにわかに注目度が上がり、今では古本屋でもなかなか入手できない。
 私がやっと入手したのは昭和33年の旧訳ですが… とにかく訳がすごい。「わたくしは、全然そんなことは言いませんわ」みたいな直訳セリフの応酬。原文が透けて見えそうだ。普通に「私は、そんなことは言ってないわ」って訳せばいいのに(笑)。

 笑撃のおバカトリックに関しては… うん、これをネタに小説が書けないかと思った気持ちは分かる。しかし実行するか、普通(笑)。それより内容が突き抜けている。探偵役のHM(ヘンリー・メルヴェール)卿はいつにもましてイキイキしており、クライマックスにはインディアンの大酋長のコスプレで登場する。
 いや私、嘘は何ひとつ書いていませんよ。本当にそういう話です(笑)。もはやおバカトリックを許すか許さないか以前の問題。それでもHM卿のファンには、楽しかったことは否定できない。京極作品で例えれば、内容は大したことないが、榎木津が大暴れしているような作品。

『夜歩く』(1930・バンコラン)
 メイントリックは単純ながら効果的で、昔読んだ時はとても印象が良かった覚えがある。
 でも一般的には「カーのデビュー作」という評価以上でも以下でもないんだよね。再読して納得。全体的に文章に堅い印象があります。ネタは面白いので、後期作品のような余裕をもって書いたほうが面白かったんだろうなぁ…
 何より、あんな凄い殺しをした後で平然と話しのできる犯人にビックリだが、この頃のミステリはみんなそんなもんか(笑)。

投稿者 TEH Editors : 19:47 | 読書(ミステリ) | comments (2) | trackbacks (0)

2013.Jan.14

JDカー再読〜その1

気まぐれで読み直した『曲った蝶番』が意外に面白かったので、
J.D.カーの読み直しに昨秋からハマってます。
途中からは初読の作品も増えて、完全にマイブーム。
mixiで書いた日記に手を加えたものも含め、以下、感想を…

『曲った蝶番』(1938・フェル博士)
 由緒ある家柄のファーンリ家に、現在の当主は偽物であり、タイタニック遭難の時、自分と入れ替わったのだと主張する人物が現れる… というストーリーは秀逸だと思う。昔のミステリは、中盤が取り調べに終始して退屈を感じることもあるけれど、このネタで引っ張る。
 ただ、スジはとても面白いのだがトリックが(笑)。これは反則でしょう。読者には予測不可能ですよ。人によってはカーのベスト1に推す作品だけど、個人的にはどうかな…

『白い僧院の殺人』(1934・HM卿)
 現場を取り囲む雪の上には、発見者の足跡しかない。このトリックは意外に分かりやすいみたいで、私も初読のときから、トリックを当ててしまった覚えがあります。
 読み返して驚いたのが、犯人絞り込みのロジック。エラリー・クイーンかよと言いたくなるほど、端正な論理展開をみせます。
まるでカーじゃないみたい(笑)。アクの強さがないのが、不満といえば不満。

『爬虫館殺人事件』(1944・HM卿)
 これは初読ですが、意外な掘り出し物。
 フーダニットにこだわったミステリほど、登場人物が没個性的になるもので、上記の「白い僧院」など、その傾向があるのですが、この作品は登場人物のキャラが立ってる。今の読者に受けそう。結果としてキャラ的に犯人ではない、と予測がつく人が何人もいますが…
 作品の舞台は1941年。空襲下のロンドン、灯火管制… と、馴染みの薄い要素もあり、筋立てもスッキリして分かりやすい。トリックはちょっと苦しいが、気軽に読める作品で楽しい。

『プレーグ・コートの殺人』(1934・HM卿)
 まぁ、メイントリックは乱歩の随筆などでさんざんネタバレされているので、私も初読のときから、トリックは知っていました。しかし読み返してみると、どっちかというとフーダニットだね、これ。

 HM卿&ケン・ブレイクのコンビが初登場する作品ですが、これはJDカー名義の探偵役であるフェル博士&テッド・ランポールの関係にそっくり(笑)。カーは登場人物がどれも同じような人ばかり、という非難の原因にもなってますが、ファンは意外にそんなことは気にしていない(笑)。
 これはいわば究極の劇団システムで、「劇団・カー」では50〜60代の看板役者がHM卿やフェル博士を演じ、若手俳優がケン・ブレイクやテッド・ランポールを演じていると思えばよろしい(笑)。ケンの恋人のイブリンと、テッドの恋人のドロシーを演じているのも、きっと同じ女優です(笑)。これが多分、カーにとって一番動かしやすいキャスティング。それが失敗するとどうなるかは、後に「弓弦城殺人事件」を読んだ時に味わいました。

『赤後家の殺人』(1935・HM卿)
 ひとりでその部屋で過ごした者は必ず死ぬ、という部屋での密室殺人。今回の再読で一番評価が上がったのがこれ。この「あかずの間」設定は、現代のマンションでは無理だから、当時の英国の大邸宅でしか成立しない、よき時代のミステリという気がします。
 やはり後期の「爬虫館」などに比べると、前期の「プレーグ・コート」やこの「赤後家」は力が入っているというか、読んでて疲れるほどの、トリックや趣向がてんこ盛りなのがたまりません。

投稿者 TEH Editors : 19:43 | 読書(ミステリ) | comments (1) | trackbacks (0)

2013.Jan.2

ジャパンカップの写真公開

というわけで、久々に衛生博覧会の本サイトに、2012年ジャパンカップの写真を公開しました。

まあ、冬眠してたサイトですからねw、しばらくの間は見てくれる人も少ないでしょうが、どっかの検索で引っかかって、オルフェやジェンティルのファンに見てもらえれば嬉しいです。

ジョーダンやダークシャドウは写りが良くなかったので残念ながらボツ。
そしてもう一つ… 恐ろしいことにルーラーシップの写真を一枚も撮っていない(笑)。

上は凱旋門賞馬・ソレミア&ペリエの写真。
これも本サイトに公開しようかと思ったが、日本にソレミアやペリエの熱烈なファンがいるとも思えず、やめましたw

投稿者 TEH Editors : 18:22 | 競馬 | comments (0) | trackbacks (0)

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