2013.Jan.14

JDカー再読〜その6

『ユダの窓』(1938・HM卿)
 やはり、傑作だ。

 このトリックは、推理クイズ本やミステリ紹介本でさんざんネタバレされ、『プレーグ・コートの殺人』とならび、「読者が読む前からトリックを知っているカー作品」の二大巨頭と言ってもいい。

 ラストで明かされる密室の解決は、単純な機械トリックである。1938年(昭和13年w)の発表当時ならともかく、昭和の後半の時点で、もはやこのトリックは古くさい。何も知らずにこの小説を読むと、尻つぼみの印象すら持たれてしまう。かくいう私も高校時代に初めて読んだ時には、「堅い、遊び心がない」という感想だった。

 しかしあらためて読み直すと、トリックがネタバレされていることは、むしろこの作品にとって幸福なことだったのではないかと気づく。

 読者のほとんどは、有名な「ユダの窓トリック」を知っている。そしてそのトリックに、検察も裁判長も陪審員もひれ伏すことを知っている。誰もが知ってるあのトリック、殿堂入りのあのトリック… それが少しずつ、少しずつ姿を現し、最後にその全貌が姿を現したとき、読者もそれにひれ伏すのが正しい読み方(笑)。そこに至るまでの数十ページは前座にすぎない。

 何も知らない子供が水戸黄門の印籠を見ても「何それ」と言うに決まってる。水戸黄門の印籠がなぜ偉大なのかというと、「そういう設定だから」偉大なのだ。『ユダの窓』も同じだ。このトリックは偉大だという共通認識がなかったら、「何それ」と言うしかないのである(笑)。

投稿者 TEH Editors : 20:21 | 読書(ミステリ)

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