2013.Jan.14

JDカー再読〜その4

『五つの箱の死』(1938・HM卿)
 さすがである。
 若竹七海が「初心者に薦めてはいけないカー作品」の筆頭に上げただけのことはある(笑)。

 誰も手を触れていないグラスに仕込まれた毒。四人の被害者。その被害者が、それぞれ後ろ暗い過去があると噂されており… などと書くとまともそうだがとんでもない。『わらう後家』が、一発おバカトリックの代表作だとすると、こちらはアレもコレもと詰め込み過ぎて、破綻した例。メインは犯人探しなのか、毒殺トリックなのか、登場人物の過去なのか… 最後は作者自身にさえ、分からなくなってるのじゃないか(笑)。

 ではこの作品はつまらないのかというと、そうとも言えない。もともとカーの作品なんて、傑作とバカミスの境界線はあいまいなのだ。いい例が『曲がった蝶番』。カーのベスト作に上げる人もいるが、個人的にはあれはバカミス(笑)。この作品だって、もう少し状況を整理して、「××が犯人」というアクロバット技を明確にしていれば… 傑作といわれる作品になっていたかもしれない。

 カーの珍作と最近のバカミスの違いはその点。最近のものは、明らかにウケを狙ってる。カー先生は違う。ウケなど微塵も狙っていない。おバカなトリックを、本気で仕掛けて本気でコケる(笑)。最近のバカミスが、売れない新人芸人のギャグだとすれば、カーのは大女優が舞台で噛みまくったようなもんである。だから、カーの珍作は読み応えがある。

 だからと言って、もしこの作品を読みたいと思った人がいたら… 噛んでない作品を読んでからにしてね、としか言いようがないのだけど(笑)。

投稿者 TEH Editors : 20:03 | 読書(ミステリ)

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