南アルプス国立公園 奥大井の秘境を訪問
2008年5月17日(土)(2008/5/25(日)公開)
私は産業鉄道や軽便鉄道も好きであり、長らく大井川鐵道井川線が気になっていた。
今回の主なテーマは、
★★★旅の構想★★★
ゴールデンウィークに帰省する際には井川線に寄り道してから帰省しようかと考えて時刻を調べたりもしていた。井川駅と静岡駅を結ぶバスが
5月いっぱいで廃止になるという事を知った。バスに特にこだわりがあるわけではないが、往路と復路はできれば別の道を通りたいというのが私の旅の志向である。私は
5月が好きだ。4月は嫌いだが、その次の5月は好きなのだ。新緑の香、夏へと向かう高揚感、過ごしやすい気候、遅い日没時刻…、一年で最も好きな季節だ。残念ながらゴールデンウィークは他に優先すべき事があったので旅行はできなかったが、5月17日に井川に行く事にした。井川駅と静岡駅を結ぶバスの時刻が旅程の基準となる。逆算していくと、金谷からの「
SL急行かわね路号」と御殿場線の「特急あさぎり1号」が良い時間帯になる。そこで、もしも近所の旅行会社にてJR東海の「休日乗り放題きっぷ」を買えるとすれば、せっかくの機会なので小田急線から直通で沼津まで行こうと考えた。旅行前日に旅行会社JR東海の「休日乗り放題きっぷ」を買う為には松田で一度下車する必要があるので、旅程を練り直す事にした。「特急あさぎり1号」の直前には、新松田に停車する「特急はこね1号」が走っており、スーパーシートが付くRSEである。これに乗る事にした。
★★★小田急ロマンスカー
RSEスーパーシート★★★町田
7:25→新松田8:03 「小田急ロマンスカー特急はこね1号」 RSEスーパーシート 20251(運転区間 新宿
7:00→箱根湯本8:27)最寄の小田急の駅まで原付バイクで向かい、新百合ヶ丘
7:08の急行で町田まで行った。本当はこの急行に乗り続けた方が新松田には早く着くのだが、せっかくの機会なので、新松田に停車する特急ロマンスカー「はこね1号」のスーパーシートに乗る事に決めていた。急行は通学客で混雑しており、快適な特急ロマンスカーに乗る事自体が賢明な選択だと言えるだろう。ロマンスカー
RSEに乗るのは約9年ぶりとなる。このRSEはJR東海直通特急車として1991年に登場し、私鉄としては珍しく特別席を有する。特別席は、小田急線内で運用される場合はスーパーシートとして扱われ、JR線内ではグリーン車として扱われる。JR線内ではかなり高額になるのである。
マガジンラックも設置されている。
特別席は二階建車両の二階部分であり、座席配置は横
1+2列で、シートピッチはJR特急グリーン車の標準より60mm短い1,100mmである。ちなみに階下の普通席もシートピッチ1,100mmで横1+2列の座席配置となっている。
新松田での乗り換え
小田急の新松田駅から
松田
8:12→御殿場8:49本当は、沼津までこの列車に乗り続けても「大井川鐵道
SL急行かわね路号」には間に合うのだが、何らかの突発的な出来事で遅れられると困るので、御殿場から先は「特急あさぎり1号」で先を急ぐ事に決めていたのであった。
★★★小田急ロマンスカーで
JR線を行く★★★御殿場
8:59→沼津9:23 「特急あさぎり1号」 小田急ロマンスカーRSE 20052(運転区間 新宿
7:20→沼津9:23)本日二度目の
RSEである。この「特急あさぎり1号」は新宿から御殿場までは全席指定であるが、御殿場から沼津までは6号車だけが自由席となる。しかもその自由席特急券はわずか310円という激安価格なのである。つまり、町田から「特急あさぎり1号」に乗り続けるよりも安く来られた事になるのである。裾野からの短距離の乗客も多く、制服姿の高校生の姿も見られた。小田急ロマンスカーで、旧東海道本線である御殿場線を行く。なんだか不思議な感覚だ。車内で目に付くものは小田急なのに、行き違う列車や通過する駅は
JR東海…。
沼津駅の東海道本線下りホームに到着した「小田急ロマンスカー
RSE」
沼津から先は東海道本線を西へと進む。静岡と島田で乗り換えて金谷へと向かう。よく通る路線なので島田まではほとんど寝ていた。金谷には
11:13に到着した。沼津
静岡
10:33→島田10:59島田
11:09→金谷11:13
★★★
SL列車で行く、「映画/学校の怪談2」の撮影地★★★金谷
11:48→千頭13:12 「SL急行かわね路号」 オハ47-512 C56-44 補機501(運転区間 金谷
11:48→千頭13:12 )ゴールデンウィーク明けだから混雑する事はないだろうと思っていたのだが、大井川鐵道の駅舎はものすごい盛況である。
SL急行券を買い求めたが、事前の予約で相当埋まっているみたいだ。私は蒸気機関車の音や姿を楽しみたいので前寄りの車両を希望したのだが、前寄りの7号車と6号車は団体で埋まっており、金谷駅で販売できるのは4号車と2号車だけとの事であった。4号車を所望した。しばらくすると、売り切れの案内が出ていた。指定券が売り切れていても「立席承知」ならば乗車は可能である。それにしても7両の長大編成である。すごい人気だ。「特急あさぎり1号」に乗らなければ金谷には11:33に到着となり、「立席承知」のSL急行券しか入手できなかったという事である。「特急あさぎり1号」に乗ってきて正解であった。
東海道金谷宿弁当を買って乗り込み、混雑がひどくなりそうな前に食べた。
私の居るボックスには同年代の男性がいた。彼は東京から静岡のホビーショーを見に来て、ついでに大井川鐵道まで来たとの事である。この先、彼と長らく同行する事になる。
金谷の次の新金谷は大井川鐵道の拠点駅であり、バスでやってくる団体などが多数乗り込んでくる。激しい混雑が予想されたのだが、私が居るボックスは私と彼だけであった。
さて、この路線は
2003年4月に家山まで訪ねた事がある。私にとってこの路線は、蒸気機関車よりもむしろ、「映画/学校の怪談2(東宝1996年)」の印象が強い。
車内放送におけるハーモニカ演奏や歌はいらない。懐かしい汽車旅を提供したいのであれば、静かにしておいてほしいものである。
先頭の機関車は
C56-44だと案内された。この機関車はタイとビルマを結ぶ泰緬鉄道から奇跡的に帰還できた車両であり、2007年に復活した際にはタイ仕様の装飾がなされた。外観的には「懐かしい汽車旅」に程遠い…。
「映画
/学校の怪談2」の終盤で印象的な別れの場面の舞台となった家山駅。柵の状態が良くないようで、触れないように注記されていた。
家山では、通路を挟んだ反対側のボックスが空いた。この先、左右好きな方の車窓を楽しんだ。
多くの停車駅では、列車が長過ぎてホームに全ての車両がかからない。私がいた
4号車は、下泉や駿河徳山の各停車駅ではちょうどプラットホームの端であった。ホームに降り立った車掌と編成後方に乗っていた車掌とで合図を送りあって発車しているのが印象的であった。
この路線においてもう
1箇所見てみたい場所があった。そこの場所を特定するには、実際に見て探す以外に方法は無い。橋梁の前後に注意していた。ついに見つけた。ここだ! 「映画
/学校の怪談2」のラストシーンで、お寺荒らしの浅野がオートバイで逃走し、それをパトカーが追いかけ、東京へ戻る子供たちが乗った列車がそこを並走する場面の舞台である。
千頭に近づく頃に雨粒のらしき物が降ってきた。この日は全国的に行楽日和との事なので出かけてきたのだが、山間部では雨もあるとも報じられていた。山へ向かう私はもちろん傘を持ってきている。
同行の彼は千頭までのきっぷを持っているが、この先どうしようか迷っているみたいだ。
タイ仕様の外観にされてしまった
C56-44 …外観がイカン!
千頭駅は大きい。失礼な言い方で申し訳ないが、とてもローカル私鉄の終点という規模ではないと感じた。井川線への乗り換え時間がわずか
10分しかないというのが残念だ。じっくり観てみたい駅である。
★★★産業鉄道の趣満点! 井川線ミニ列車★★★
千頭
13:22→井川15:06 スロフ315 旅客車5両千頭
井川線はダム工事用の建設資材運搬鉄道として開通した。秘境鉄道や産業鉄道の魅力が満載である。線路幅が狭かった時代には一部区間において森林鉄道と線路を共用していた歴史もある。
現在の線路の幅こそ大井川本線や
JRの在来線と同様の1,067mmであるが、軽便鉄道の印象も持ち合わせている。手動の扉、小さな車両、全てが規格外の世界である。それでいて現役の実用鉄道なのである。井川線は大井川鐵道の路線であるが、車両や施設は中部電力が所有しており、膨大な赤字も中部電力が補填している。何もかもが異色のダム鉄道なのである。
案内放送がよく入る。井川線で頻繁に案内が入るのはうれしい。
某駅の案内はおもしろかった。駅前には
3件の民家があり、苗字が駅名と同じらしい。道路が開通する以前はそこの民家への全ての物資を井川線で運んでいた経緯があり、今でも新聞は井川線の一番列車で届けているとの事だ。なんて秘境なんだ!
アプトいちしろ
-長島ダム間は有名なアプト式である。ダムで水没する旧線に替わってアプト式で急勾配を克服する新線が1990年に設けられたのであった。通常ならば廃線になってもおかしくない状況であるが、中部電力は新線を通したのであった。この一駅間だけは電化されており、専用の大きなアプト式電気機関車が全動力を受け持つ。アプト式とは、ラックレールと機関車側の歯車を噛み合わせる事により急勾配を克服する方法である。
アプトいちしろ到着前にはアプト式機関車連結についての見学案内の放送が入った。わざわざ後ろの車両を選ぶ必要もなかったわけである。
アプトいちしろでは、産業遺産の「市代吊橋」を間近に見る事ができる。
客室内の足元にヒーターが見当たらないので、アプトいちしろ停車中に乗務員に尋ねてみた。この編成においては前寄りの
2両にしか暖房が付いていないようだ。こんな山の中なのに暖房の無い車両で運行されているのである。そもそも、スロフという車両だが、何が“ロ”なのだろうか? 先頭の制御客車はクハなのだが、“ロ”と“ハ”の命名の基準がわからない。また、スロフ300形には座席の背もたれがやたら低い車両もあるので要注意である。また、ここで、
SL急行の車内で知り合った彼と再会し、彼が私のいる車両に移って来た。
90‰の勾配区間を過ぎて長島ダムに到着すると多数の下車があり、車内は閑散とするようになった。
一度降り立ってみたいと思っていた奥大井湖上駅。湖の半島の上に駅と公園だけがある。
奥大井湖上駅およびその前後の橋上からは、井川線の旧線が見える。廃線跡マニアにとってもたまらない路線である。この写真にもトンネルと橋梁が見える。
有名な尾盛駅…ここは周辺に民家は一軒もなく、この駅へ通じる道も無い。この駅を訪ねる為には井川線以外に方法は無いのである。交換設備も無く、存在意義自体が不明な駅である。
尾盛
-閑蔵間では高さ100mの「関の沢橋梁」の案内がなされるわけだが、私としては本線のトンネルの傍らに延びる謎の線路の方が気になる…。
終点井川の一つ手前の閑蔵でも列車の行き違いがあるのだが、行き違い列車への乗り換え案内も行われる。そもそも、駅で降りる事を前提にしていない秘境路線なのである。
駅が設置されていない所にも、ダム施設への業務用の連絡設備がある。興味が尽きない路線だ。
終点井川に到着した。興奮度満点の井川線の旅が終わった。乗ってきた列車の折り返し便が千頭への最終列車となる。写真右側に見えるトンネルは休止中の貨物線である。その貨物線の先の堂平こそが井川線の本当の終点なのである。ちなみに、ここ井川は、政令指定都市の静岡市内である。
同行の彼は、鉄道線で来た道を戻ろうか私と同様にバスで静岡駅へ向かおうか迷っていたのだが、結局私と同じバスに乗る事に決めたのであった。
★★★しずてつジャストライン 廃止間際の静岡井川線★★★
井川駅前
15:35→JR静岡駅17:55 しずてつジャストライン 静岡井川線井川駅前にて
10分ぐらい停車する新静岡・JR静岡駅行きこの静岡井川線は、新静岡駅と畑薙第一ダムの間を走っている。もう一日
1往復しか残っていない。補助金で運行されていたが、2008年5月31日を最後に廃止される事になった。夏季には「南アルプス登山線(仮称)」として運行される構想もあるようだが、その場合の新静岡・JR静岡駅発はノンストップであり、新静岡・JR静岡駅行きは井川駅前で下車のみ扱う予定のようである。廃止間近という事もあり、乗客が多過ぎて乗れないのではないかと心配していたのだが杞憂であった。静岡の市街地で
1名下車したが、井川駅前からそこまでは、乗客はたったの7人であった。
狭い道を行く為、行き違いの調整要員が必要なので
2名乗務となる。左側最前列の座席は乗務員席である。ちなみに、車内はリクライニングシートが付いた観光バス仕様である。井川駅前を出発するとダムの上を通過する。井川線と同様にダム施設を交えたおもしろい車窓が期待できそうだ。と思ったが、車窓がおもしろかったのはそこまでであった。右へ左へのカーブが続く山中の隘路を行く。キモチワルクなってきた。ちょうど眠くなってきた事だし、車窓もつまらないので、富士見峠を越えて横沢の休憩地点に着くまで眠る事にした。
廃止間近の路線という事もあって、このバスを撮影する人の姿もチラホラ見られた。
静岡市街が近づいてくると運賃の徴収にやって来た。下車時だと混雑するので事前に行うとの事である。運賃
1,850円を支払うと、運賃受領書が手渡された。この運賃受領書を下車時に渡すわけである。 静岡駅に到着し、旅の目的は果たせた。ここで同行の彼ともお別れである。
★★★旅の終わり
/あとがき★★★御殿場線の時刻の関係で、静岡は
19:11に出発してもじゅうぶんである。1時間ぐらい滞在時間があるので静岡駅にて食事にした。沼津で御殿場線に乗り換えた。御殿場から松田までは、往路に一緒だったおっさんの団体と乗り合わせた。新松田
21:33の急行で新百合ヶ丘まで戻ってきた。本厚木あたりで上り最終の特急ロマンスカーに乗り換えようかとも考えたのだが、所要時間や帰宅時間帯はほとんど変わらないし、お金を出してまでロマンスカーEXEに乗りたいとも思わないのでそのまま急行に乗り続けた。町田あたりから本格的な雨になった。静岡
沼津
20:15→松田21:25新松田
21:33→新百合ヶ丘22:29
東京から在来線とバスだけの気軽な日帰りで、井川線のような強烈な所へ行けたのであった。
SL列車の旧型客車に冷房は付いておらず、5月のこの日でもやや暑いぐらいであった。一方の井川線には暖房すら無い。夏と冬は避けるべきだろう。良い時季に訪れたものだと思う。