鉄道未成線 五新鉄道 (奈良県五條市・奈良県西吉野村)

  2004812() 2004/8/16月 公開)

 

 JRの和歌山線五条駅から城戸・西吉野温泉方面へ向かう奈良交通のバスには2つの系統ある。1つは一般道経由の系統であり、もう1つは専用道経由の系統である。

 この専用道とは、鉄道未成線を転換した道である。なお、五新鉄道・五新線・阪本線という表現があるが、いずれも同じものをさす。また、地名は五條だが、JRの駅名は五条である。

 紀伊半島を縦断し、五条と新宮を結ぶ鉄道(五新線)の構想自体は明治時代からあった。建設と中止が繰り返され、ついに建設工事は全面的に中断された。その後、五条⇔城戸間はバス専用道に改装され、昭和40年から国鉄バスが運行されるようになった。ここで、この路線建設の経緯について詳述するつもりは無い。なお、平成149月には西日本ジェイアールバスがこの“JRバス阪本線”から撤退した。その後は奈良交通がこの路線を引き継いだ。

 かつて、この路線には南近畿ワイド周遊券で訪れた事がある。およそ10年ぶりの再訪となる。2年前にも訪れたのだが、専用道の道路改修工事で運休となっていて空振りしてしまったのである。今回は、前日にバスの運行状況を確認しておいた。

 

 かつてJRバスが発車していたバス用プラットホームが五条駅に残る。鉄道の駅舎からシームレスでJRバスへの乗換えが可能であった。

 また、日中の鉄道は上下共に1時間ヘッドだが、五条駅はこの辺りの交通の要衝らしい。本数は少ないながらも多方面にバスが出ており、列車の来ない時間帯であっても数台のタクシーが待機していた。なお、駅前には「住民の足 桜井線・和歌山線を切り捨てないで」という看板が多数ある。

 駅前の案内板には“JRバス専用道”の記載が見られる。また、駅前の西日本ジェイアールバスの社屋は消えていた。ついでに記すが、2年前に食事をした店も営業していないようであった。

 

 このバス路線は、五條病院前(県立五條病院前)→霊安寺間で一般道から専用道に入る。写真中央に見えるのが専用道の入り口である。

 記録の為に記しておくが、五条駅⇔専用道城戸間の片道運賃は520円である。

 

 踏切を行く。専用道を走っているのになぜか徐行や一時停止が見られた。かつては遮断機が機能する踏切もあった。

 

 単線非電化鉄道と雰囲気は変わらない。単線鉄道規格のトンネルや橋梁が多いので気分が盛り上がる。

 このバス路線は単線鉄道の基盤を転用したものであり、ところどころに行き違い設備が設けられている。

 10年ぐらい前に南近畿ワイド周遊券で訪れた時には本数も多く、専用道での速度は40km/hだった。現在は17往復で、専用道は35km/hで走行する。道路の保守コスト削減の為なのだろうか。本当ならば手放したい設備なのかもしれない。激しく揺れる場面があり、設備が朽ちていく様を感じた。

 

 専用道の終点である“専用道城戸”。専用道の各停留所には“専用道”と冠せられるようになっていた。ちなみに鉄道を転換した国鉄バス路線によくある事だが、“城戸”はかつて“駅”を名乗っていた。さて、写真の中央よりやや左寄りに見える建物には、10年ぐらい前に見た時には乗務員の休憩所があった。現在では待合室だけが機能しているようである。

 

 専用道の終点となる城戸から先もトンネルなどはできている。実は山の中にはループ線も眠っているのである。さて、城戸でトンネルを撮影するわけだが、トンネルの手前の橋からは村役場の管理地のため、西吉野村役場に電話で許可を得て撮影した。

  

 

 

 この五新線や西吉野村を題材にした「萌の朱雀」という映画がある。私はこの作品が好きだ。この映画の河瀬直美監督は、この作品で1997年カンヌ国際映画祭カメラドール賞(新人監督賞)を受賞した。

「映画/萌の朱雀」の舞台となった“賀名生(あのう)”のバス停。

 セーラー服姿のみちるが乗降するバス停である。

 セーラー服姿のみちるが、えいちゃんのバイクに乗降する場所である。

 セーラー服姿のみちるが、えいちゃんのバイクを長い時間待っていた場所でもある。

 このような印象深い場面が展開された。

 ここは駅が計画されていた所であり、往復ともにまとまった乗降が見られた。五条駅11:05発の往路2名下車、専用道城戸11:52発の復路4名ほど乗車。また、ここから南朝の皇居も近い。

 

 

 

 「五條新宮道路」という地域高規格道路の計画がある。典型的な過疎地であり、鉄道建設も頓挫し、路線バスも細々としか走っていないような地域にどのようなストック効果を見込んでいるのだろうか? “均衡ある国土の発展”という視点なのかどうかは知らないが、一般国道の整備だけで十分ではないかという気がしてならない。

 それにしても、鉄道の趣にあふれたバス路線であり、鉄道遺跡ファンにはたまらない路線である。京都から奈良を経て世界文化遺産の地や南紀新宮へと向かう、幻の気動車特急に思いをはせるのも趣味的に面白いかもしれない。

 

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