紀勢本線「特急くろしお」紀行 (2010725日公開)

 

 20107月の3連休に近畿へ帰省して、「特急スーパーくろしお号」のパノラマグリーン車で南紀へ行ってきた。そこで、「スーパーくろしお」と「オーシャンアロー」をも含めた“紀勢本線の「特急くろしお号」”について述べる事にする。

 

今回の主なテーマは、

「特急くろしお号」の紀勢本線内の停車駅設定について

「特急くろしお号」の速度について

「特急スーパーくろしお号」グリーン車乗車

 

 

 

★★★第1部 「特急くろしお号」について★★★

★★「特急くろしお号」の紀勢本線内の停車駅設定★★

 天王寺、和歌山、御坊、紀伊田辺、白浜、串本、紀伊勝浦、新宮…30年ぐらい前はこれが「特急くろしお号」の停車駅であった。もっとも、気動車時代には御坊や串本に停まらない列車もあった。

 200410月からは周参見にも全列車が停車するようになり、現在の速達型の列車は、紀勢本線では和歌山、御坊、紀伊田辺、白浜、周参見、串本、紀伊勝浦、新宮に停車する。一方、下記のような主要駅停車型の列車も多く存在する。

  【紀伊田辺以北】 和歌山、海南、箕島、藤並、湯浅、御坊、南部、紀伊田辺

  【白浜以南】 白浜、椿、周参見、串本、古座、太地、紀伊勝浦、新宮

 主要駅停車型の列車は、「急行きのくに号」から転じた停車駅設定である。基本的に主要駅は、分散停車や選択停車ではなく、停まらない列車は本当に停まらないし、よく停まる列車は本当によく停まるのである。なお、白浜を境に、北側と南側とで速達型と主要駅停車型の性格が変わる列車もある。

 

 藤並は、20083月から主要駅停車型の特急が停車するようになったが、主要駅停車型の臨時特急でも停車しない列車がある。「駅舎が新しくなるのにあわせて特急を停車させた」という説明はわけがわからない。

 椿は、かつて当駅発着の急行もあったぐらいだが、今では特急は2往復しか停車しない。

 湯川は特急停車駅から降格しているが、1977年には太地を通過して湯川に停車する急行が多かったぐらいだ。

 那智も特急停車駅から降格しているが、こちらは「特急ワイドビュー南紀号」がたまに臨時停車している。

 なお、椿や湯川の乗降客数は驚くほど少ない。

 

 

★海南駅の躍進★

 198010月、「特急くろしお号」のうちの1往復が箕島、湯浅、南部に停車するようになった。当時は気動車の「急行きのくに号」もたくさん走っており、これらの急行停車駅に特急が停車する事は特別視された。南部や湯浅や箕島から大阪に向かうのが便利なようにこれらの駅に「特急くろしお1(白浜発天王寺行き)」が停車する事は、鉄道誌においてもわざわざ特記されるほどであった。

 その後、海南、箕島、湯浅、南部に停車する特急が増えていったが、その中で海南だけがほんの少し格下の扱いを受けていた。1986年の時刻表を見ると、箕島、湯浅、南部には停車するにもかかわらず、海南に停車しない特急が上下1本ずつ存在した。どういうわけか国鉄は、重要な主要駅から近い主要駅には特急や快速といった速達列車を停めないダイヤを組む傾向があった(この例では和歌山駅に近い海南駅に特急を停めていない)

 ところが今、海南駅は大躍進を遂げ、24線の近代的な高架駅に生まれ変わり、和歌山と御坊の間で海南だけに停車する速達型の特急も多数設定されている。それどころか、海南始発の特急も設定されているのだから驚きである。

 

  

★★「特急くろしお号」の速度★★

 阪和線の鳳以南は120km/h、紀勢本線の和歌山⇔紀伊田辺間は原則として110km/hである。一部区間で「オーシャンアロー」が130km/hである。決して遅くないが、120km/h130km/hの運転線区が増えた今となっては、速いとは言いにくい。また、新大阪から和歌山方面へ向かう列車は、新大阪を発車してからしばらくはゆっくり走るので、新幹線から乗り換えた乗客からは遅いという印象を持たれるかもしれない。

 紀勢本線の南の方は気動車特急時代から速度がほとんど変わっていない。「オーシャンアロー」の登場によって最速列車こそ所要時間を縮めたが、振り子式の381系電車も性能を活かさずのんびり走っている。並走する国道42号線の貨物自動車に抜かれる状況もあるぐらいだ。一般的に白浜以北は速いと言われるが、本当に紀伊田辺⇔白浜間も速いのか気になっていた。それゆえに、後述のようにこの区間の速度を確認してきたのである。

 

 一方、阪和線に目を転じると、数年前まで阪和間最速38分の列車もあったが、今では最速でも41分にまで後退している。1987年頃に45分(一部44分)から41分へ短縮された当時よりも後退しているのだ。これは、阪和線が延着運休の多発する路線である事と、福知山線の大事故以来、大阪圏の各線区で余裕時分の見直しが行われた結果であろう。

 

 198010月からしばらくの間、和歌山と白浜の間を無停車で走る列車が1往復走っていた。阪和線内95km/h、紀勢本線内110km/hに抑えられていたにも関わらず、その列車は、国鉄在来線第5位の表定速度を記録していた。紀勢本線は120km/h運転線区ではないが、昔から381系振り子式電車の特急が高速運転をがんばってきた路線なのである。

 

 20073月には、切目→岩代間の海岸線沿いで特急列車が速度を落として乗客に景色を楽しんでもらう「ビューポイント減速」が開始された。せっかく高速運転をがんばってきた線区なのになんてバカな事をするのだろうと思った。何の為の特急列車なのか。今でも下り「1号」から「13号」までで実施されている。

 

 

★★381系電車の実力★★

 381系電車は、カーブに強い振り子式車両という以外にも国鉄形特急車としては特異点がある。山岳路線に投入される事を前提とされていたため、歯数比が急行形と同じになっている。さらに振り子対応の軽量なアルミ車体という事もあり、加速性能も定格速度も国鉄時代の特急形電車としては高いようである。狭軌鉄道世界最速記録を叩き出した電車であり、今なお記録が破られたという情報は聞かない。

 381系電車が初めて投入された中央西線ではすでに運用から外されて後輩の383系電車が活躍しているが、JR西日本管内では「くろしお系統」、「やくも系統」で今なお現役続行中なのである。

 

 

 

★★★第2部 旅行記★★★

★★「スーパーくろしお7号」を選んだ理由★★

 今回、南紀白浜と紀伊田辺を訪問するにあたって「スーパーくろしお7号」を選んだ理由を述べておこう。

・白浜→紀伊田辺間の普通列車の時間帯を考慮するとこの「7号」がいい。

・紀伊田辺→白浜間の速度を見たい。

・その為には、和歌山からではなく海南から乗車する。(グリーン料金を100kmまでに抑えられる)

・しかも変貌を遂げた海南駅を見る事ができる。

 

 「スーパーくろしお7号」は、京都発新宮行きの長距離列車なのだが、その系統としては珍しく、主要駅停車型である。なんと椿にも停車する。一方で太地に停車しないのがよくわからない。

 「スーパーくろしお7号」の1時間前の「オーシャンアロー3号」も京都発新宮行きであるが、これは下り最速列車である。

 「スーパーくろしお7号」の1時間後の「スーパーくろしお9号」も京都発新宮行きであるが、こちらは日根野すら停車しない速達型だが海南と古座には停車する。

 

  

★★紀勢本線くろしお紀行★★

2010718日(日)

 まずは南海線で和歌山市駅へ行き、そこから和歌山駅へと向かった。和歌山市⇔和歌山間の列車は、「紀勢線と和歌山線に接続の・・・」と案内されるが、紀勢本線の特急列車との接続が良い訳ではない。特急が和歌山に16:16に到着するのに、16:15に和歌山市に向けて発車する列車もあるぐらいだ。この区間の時刻にあわせて、私は、「スーパーくろしお7号」より1時間前の「オーシャンアロー3号」が到着する直前の9:58に和歌山駅に到着した。

 一般的な感覚から言えば、人気列車の「オーシャンアロー」に乗った方が良いように思われるだろう。しかし私は、「スーパーくろしお」のクロ380形パノラマグリーン車とその座席が好きなのである。

 1時間以上の待ち時間が発生する事は予定の内であった。何かと確認できる時間を取れるのである。時間に余裕を持っていれば、車両運用が変更された場合にも対応を考える事ができる。せっかくクロ380形を目的に東京から来たのに、何らかの都合でクロ381形に来られたりしたらたまらない。

 

 さて、この日の「オーシャンアロー3号」は9両編成であり、なんと、京都寄りの先頭車もパノラマグリーン車であった。京都寄りのパノラマグリーン車は「くろしお系統」にこの1両しか存在しない。そこで、和歌山駅前の旅行会社にて、「3号」の折り返しとなる「オーシャンアロー20号」の紀伊田辺→和歌山間の9号車グリーン車先頭席を所望した。残念ながら3席とも売り切れであった。

 仕方が無いので、椿→新大阪間の新幹線乗継割引自由席特急券と翌日の新幹線特急券を購入した。なぜなら、紀伊田辺→和歌山間のグリーン車と自由席の特急料金が940円なのに対して、椿→新大阪間の新幹線乗継割引自由席特急料金は840円だからである。我ながらすばらしい。

 なぜ白浜や周参見からではなく椿からにしたかと言うと、椿が珍しい特急停車駅だからである。湯川や鳳のように特急停車駅から降格してしまいそうな感じがするので記念にしておきたかったのである。

  

 

★★「特急スーパーくろしお号」パノラマグリーン車で南紀へ!★★

「特急スーパーくろしお7号」紀勢本線57M 海南11:12→白浜12:24 クロ380-5 

 海南で「特急スーパーくろしお7号」に乗り込んだ。前述のとおり海南駅は近代的に生まれ変わっているが、1号車グリーン車乗り場には屋根が無い。

 

 乗車してすぐに女性車掌さんが検札に来た。椿で乗降する乗客が多いか否かを尋ねてみた。あまり多くないとの回答であった。

 

 駅間の速度、駅通過時の速度、駅間所要時間を記録してきた。速度計を見る為にせっかく1A席を取ったので、ストップウォッチ機能の付いた時計も持って行ったのだ。しかし、それらの記録の詳細は公開しない方針である。さすがにそのような事を公開するのは運転士さんに対して申し訳ない。

 複線区間の紀伊田辺までは、110km/hで急カーブに突っ込む激走ぶりを存分に味わえた。この「7号」のように停車駅の多い列車でも俊敏な加速で駅間を高速で駆け抜ける。さすが前述のような高性能特急車だ。

 カーブが続く紀勢本線を高速で駆け抜けるのは振り子式電車ゆえの芸当であり、カーブに突っ込む度に車体が大きく傾く。運転席の部屋にいる2人の乗務員はカーブに備えて上半身を左や右に傾けていた。前方が見える人間はカーブがわかるから気構える事ができるが、大部分の乗客はカーブや揺れを予測できない。自然振り子式の381系電車においては若干の揺れ遅れが発生してしまう。後方の席からは「この揺れキモイ」という発言が聞こえてきた。

 

 途中停車駅においては、構内のポイントに進入する時点でも80km/hも出ていたのには驚いた。また、発車してから1分で8090km/hに達するようである。いくら加減速がよくても、やはり停車駅が多いと時間的損失が大きい。

 直線区間が長く続くようなところでも110km/hでノッチオフにしていた。

 件のビューポイント減速区間では50km/hで走行した。

 南部→芳養間は「オーシャンアロー」が130km/hで走るそうなのだが、今回乗車した「7号」は120km/hも出さず、110km/hのままであった。

 紀伊田辺以前の停車駅については直前までトップスピードを維持していたが、紀伊田辺については到着のおよそ1分前から80km/hでの走行が続いた。

 

★紀伊田辺⇔白浜間の速度★

 紀伊田辺で運転士が変わり、この先は単線区間となる。紀伊田辺⇔白浜間は営業キロが10.0kmだが、ほとんどの特急が10分あるいはそれ以上かかっている。前述のとおり、白浜以北は速いと言われるが、私はそのようには思っていなかった。この「7号」は、時刻表で見る限り、この区間をなんと最速の9分で駆け抜ける。そういう意味でも楽しみにしていたのだ。60km/h70km/hの制限区間も多く、最高でも80km/hしか見なかった。予想通りの展開であった。

 

★クロ380-5 1B席のフットレスト★

 せっかくだからグリーン車としても着目しておこう。帰宅後に知ったのだが、この車両は、20016月に乗ったクロ380-5である。当該乗車体験記において1B席にフットレストが無い事を突っ込んだからなのか、今回は持ち運びができるクロ381形用の不適切なフットレストが置かれていた。これはクロ381形のシートピッチが広すぎる部分に使われる物である。

 20107月 クロ380-5

  20016月 クロ380-5

           

 

★車内放送時のチャイム★

 数年前までは381系「くろしお」、「スーパーくろしお」においては、停車駅毎に到着アナウンス前のチャイムが変えられていた。ところが近年は、当該放送装置の老朽化とかで、鉄道唱歌に統一されたみたいである。元より、放送装置を有する車両や車掌さんの違いによって扱いが異なっていたので、民謡チャイムが聞けた時はうれしく思えたものであった。

 

 

★★白浜 / 紀伊田辺★★

 「特急スーパーくろしお7号」が白浜に到着した時点において、駅構内には回送をも含めた3本の特急編成が並んだ。駅前の道を線路沿いに南へ歩いて行くと、もう1本特急編成を見かけた。その編成は奇妙であった。「スーパーくろしお」の6号車用のクハ381500番台が9号車に付き、6号車には「くろしお」増結用のサハ381形が付いていた。1号車はクロ380形であった。あまりにも珍しい「スーパーくろしお」編成であった。

 

 白浜駅は、夏季には駅員がアロハシャツを着用している。また、駅や駅前は観光地の華やかさに満ちていた。

 

 白浜から紀伊田辺まで乗った2330M13:4513:59には上半身裸で乗り込んでいる若者達もいた。海岸気分で列車に乗るってか…。

 久々に訪れた紀伊田辺駅はバリアフリー化が完了しており、古い跨線橋は無くなっていた。

 

 

★★「特急オーシャンアロー号」で戻る★★

「特急オーシャンアロー20号」紀勢本線70M 紀伊田辺14:44→和歌山15:46 サハ283-2 

 「特急オーシャンアロー号」は、19967月に「特急スーパーくろしお・オーシャンアロー号」という長ったらしい名前で登場した。JR西日本のネーミングセンスが疑われるような名前であり、これは北陸特急の「スーパー雷鳥・サンダーバード号」とともに、翌年には改称された。

 「オーシャンアロー」の283系電車は南紀観光の活性化を狙って地元からの要望で導入されたと言われている。総勢18両の小所帯であり、目玉商品的な扱いである。381系電車を置き換える主役級として登場した訳ではないのだ。なお、381系電車とは異なって制御振り子式であり、カーブでの乗り心地も向上している。

 

 さて、前述のとおり、残念ながら京都寄りのグリーン車の先頭席が取れなかったので、普通車にした。

 帰りの列車に特に着目する気は無かったのだが、気が向いたので、紀伊田辺の隣の芳養を通過する時点を基準として、駅間所要時間を記録してきた。岩代→切目間は、ビューポイント減速を行う「スーパーくろしお7号」よりも35秒程度短い時間で通過した。

 この「特急オーシャンアロー20号」は上り最速列車であり、紀伊田辺と和歌山の間では御坊にしか停車しない。この日は、紀伊田辺を4分程度の遅れで発車し、和歌山には3分遅れで到着した。

 

 椿からの特急券で、最速列車の「オーシャンアロー20号」に乗車…。

 

 紀伊田辺⇔和歌山間(営業キロ95.5km)は、現在では最速61分だが、ビューポイント減速が行われる前は60分で走破する列車もあった。なお、今から四半世紀前も、速達型はこの区間を現在とほぼ同じ水準の65分ぐらいで走っていた。そう、前述のとおり、この区間は昔から381系電車が高速運転をがんばってきたのである。

 

 

 

★★★あとがき★★★

 ここまで紀勢本線「特急くろしお号」について述べてきたが、381系のパンダシートや、283系の展望ラウンジには関心が無い。

 

 南紀方面へ向かう「スーパーくろしお」のパノラマグリーン車の前方席は、これにより概ね京都から白浜まで経験した事になる。特殊な行程の京都→天王寺間、 120km/hで突っ走る鳳→和歌山間、 振り子機能で急カーブに臨む和泉砂川→紀伊田辺間、いずれも魅力的である。機会があれば、一般国道の自動車に追い抜かれるような紀勢本線の南側でも乗ってみたいものである。

 

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