「鉄道旅行記 2005年夏」 からのシングルカット

特急はまかぜ6号 キロ180形グリーン車 R28形リクライニングシート 2005814

 (2005917日 公開)

姫路から大阪まで「特急はまかぜ6号」のグリーン車に乗車した。

 

今回のテーマは、

1. R27系統(R28形)リクライニングシートへの熱い想い

2. 特急はまかぜ6号 グリーン車でいく

  

  

1. R27系統(R28形)リクライニングシートへの熱い想い

 はじめに、「R27系統」という呼び方をお許しいただこう。キロ180形グリーン車に用いられている原形の座席はR28形リクライニングシートである。モハ20系(後に151系に改称)のR17形から基本的な意匠が受け継がれており、国鉄終焉期に各地でグレードアップグリーン車が登場するまでは在来線特急形グリーン車の座席はほとんどがR27形であった。細かな仕様の違いはあったが、1980年代の特急・急行のグリーン車は、一部の例外と新幹線を除けば日本全国ほとんど同じR27系統の座席であったと言っても差し支えないほどであった。

 幼少の頃の私が鉄道に興味を示すきっかけになったのは、ブルートレインの美しさであったと記憶している。しかし12歳の時、転機が訪れた。図鑑においてR27形リクライニングシートの横からの写真を見た瞬間に、その意匠の美しさと機能美に心を奪われてしまった。なんといってもフットレストが強烈であった。他にも、肘掛の横からテーブルを上げてくる仕掛けになっている。その写真ではフットレストや背もたれは動かされておらず、テーブルだけがセットされていたのだが、その時には高さが変えられる肘掛まで付いているものだと誤解していた。仕掛け満載の座席に、少年の頃の私は激しく萌えたものであった。これ以来、グリーン車や座席にとてもこだわるようになった。なお、フットレストが反転できる事と肘掛の横から上げてくる物体がテーブルであるという事実を知ったのは、その数ヵ月後にグリーン車に乗った時であった。

 このコーナーは、乗車体験記の真打ちと言っても言い過ぎではないだろう。私のグリーン車趣味の扉を開いた、まさにその形状の座席である。

 R27系統をそのままの形状で定期特急列車のグリーン車として使っているのは、現在ではこの「はまかぜ号」だけである。R27形を改造した座席を有する特急形グリーン車は近年までよく見られたが、それらは背もたれの幅が広くなったり、なんだか変な形状のものが多い気がした。現在でも「急行能登号」のサロ489形グリーン車などで見られるようであるが、形状が変わってしまった座席にはあまり関心が無い。

  

 

 なんて美しいんだ…。背もたれ、座面、肘掛、フットレスト…総じて美しい意匠を生み出している。着目すべきは肘掛のカバーである。昔は回転クロスシートの在来線特急の普通車でさえも肘掛に真っ白なリネンのカバーが掛けられていたのだが、近年では、新幹線グリーン車も含めてリネンのカバーの着かない肘掛がほとんどになってきた。もちろん、新しいグリーン車の座席にはよく研究された立派なものが多く、それに比べるとメカニカルロック式の座席は古めかしいものかもしれない。しかし、私は、白いカバーが掛けられた座席が好きである。昔のグリーン車の座席には大きなカバーが掛けられていた。肘掛にカバーが無くなった近年の座席は、省力化を感じてしまい、特別車両らしさが弱まった気がしてならない。座席には、人間工学的な優秀さの他に視覚的な素晴らしさも大切だと思う。まぁ、座席の意匠の好みは人それぞれだろう。私はこの形状が好きでたまらない。廃品を入手したいとさえ思っているぐらいだ。

 これで座席が昔のように赤系であったら、気が狂うほどうれしいのだが…。車体内外ともに国鉄時代とは配色が変わってしまった。

 床は一見絨毯が敷かれているように見えるが、実は絨毯張りではない。国鉄時代は、同じ等級の車両であっても、気動車の客室装備は電車のそれに比べると簡素なものであった。気動車の方が製作コストが高いからだという説もあるようだが、単なるローカル線の軽視のように思えなくもない。

 

 

2. 特急はまかぜ6号 グリーン車でいく

姫路19:05→大阪20:12 山陽本線・東海道本線6D 「特急はまかぜ6号」 キハ181系気動車7連 キロ180-12

6D 運転区間:浜坂16:33→大阪20:12

 

 「特急はまかぜ号」はキハ181系気動車で運転される唯一の定期特急列車となってしまった。キハ181系気動車は、ターボ機能付500psハイパワーエンジンDML30HSC形を各座席車に1基ずつ搭載した高出力気動車として1968年に登場した。初めての高出力量産形式であり、保守や騒音の面での問題は残った。現在ではターボ機能はすっかり鳴りを潜めている。はじめに山岳路線の中央西線「特急しなの号」に充当され、板谷峠を擁する奥羽本線「特急つばさ号」や、陰陽連絡各幹線および四国などで活躍した。

 500psといえば近年ではたいした数字ではないように思われる。JR化後には700ps級(350ps×2基)や900ps級(450ps×2基)の後継車両が誕生しており、電車と遜色のないダイヤ構成の気動車列車もあって驚かされる。キハ181系は、晩年は山陰の鈍足特急として活躍したために足の遅い印象を持たれがちであるが、かつては東北本線などの電化幹線では電車特急と伍して我が国の気動車で初めての120km/h営業運転を行い、先輩のキハ80系と共に非電化幹線の近代化をも担った往年の名優である。この車両の功績を忘れてはならないだろう。

 

 この夏の旅行記においては、津山線の「急行つやま号」と「快速ことぶき号」の所要時間の差について触れた。しかし、ここで乗車する「特急はまかぜ6号」は、姫路→大阪間において同区間を走る特別料金不要の普通列車「新快速」よりも遅いのである。単線路線と直通するような優等列車には特に余裕時分が必要であり、しかも相手があの「新快速」では仕方がないと思うのだが、世の中には「“遅くてボロい”はまかぜ号」が特急列車であるという事を許せない人もいるらしい…。

 せっかくなので、大阪⇔姫路間(営業キロ87.9km)において面白い比較をしてみよう。

   「特急スーパーはくと号」 HOT7000系気動車 130km/h 2駅停車 52

   「新快速」 223系電車 130km/h 7駅停車 57

   「特急はまかぜ3号」 キハ181系気動車 120km/h 3駅停車 59

   「寝台特急サンライズ瀬戸・出雲号(上り)」 285系電車 130km/h 1駅停車 59

   「寝台特急あかつき・彗星号(下り)」 EF66形電気機関車 110km/h  1駅停車 62

   「特急はまかぜ6号」 キハ181系気動車 120km/h 3駅停車 67

   「臨時快速ムーンライト高知号(上り)」 EF65形電気機関車 110km/h  4駅停車 69

   「寝台特急なは号(下り)」 EF65形電気機関車 110km/h  1駅停車 69

   (参考)「新幹線特急のぞみ号」 700系新幹線電車 285km/h  1駅停車 29分 (新大阪→姫路)

   (1977年頃)「寝台特急」 EF58形電気機関車および581系電車 1駅停車 95km/hの夜間平行ダイヤの為、この時代でも遅い約80

 

 

 

 姫路駅にてJR東日本のSuicaをチャージし、大阪までの乗車券を購入した。

 「特急はまかぜ6号」は、通常は香住発大阪行きであるが、多客期には浜坂始発となる。また、通常は4連であるが、この日は7連であった。

 列車番号に着目してほしい。「特急はまかぜ号」の定期列車は1号から6号まであり、1Dから6Dまでの堂々たる列車番号が割り当てられている。陰陽連絡特急および近畿山陰連絡特急の真の重鎮かもしれない。さすが古豪キハ181系…。

 

 

 大阪行きの「特急はまかぜ号」は、姫路駅では播但線ホームに着発する。ここで進行方向が変わるのである。

 プラットホームから車内に入り、扉2枚隔てた所から客室となる。国鉄時代の特急形グリーン車らしい車体構造である。

 

 この列車のグリーン車は2号車である。各車両の乗降扉は片側1ヶ所ずつであり、姫路寄り1号車以外の車両の乗降扉は1号車側にある。このキロ180形グリーン車にはトイレと洗面所が2ヶ所ずつある。車掌室がある1号車寄り便所が洋式で、3号車寄り便所が和式である。和洋両方の便所を備えるのは国鉄1等車時代からの伝統である。なお、このキハ181系気動車の先頭車両であるキハ181形には便所および洗面所が無い。従って、1号車普通車指定席の乗客もグリーン車特有の洋式便所を使うことになる。

 グリーン車には女性客が1人いた。それにしても昔ながらの指定券の売り方らしく、通路を挟んだ近くの席だった。私は客室内を撮影するので、静かな客室を邪魔しない為にしばらくは別の席に移った。全ての座席の向きはそのままにしておいた。今回公開する座席は、全て後ろ向きに走っているのである。一方、お隣の1号車と3号車では座席の向きを変える乗客の姿がわりと見られた。

 なお、この列車の車掌さんは女性だったので、車掌室を訪ねるような事はしなかった。

 

 

 座席背面を見てみる。

 

 通路を隔てた反対側を撮影した。この写真では若干低い位置から撮影しているが、ほとんどの乗客が目にするであろう光景である。なんと言っても、白いカバーが掛けられた肘掛がまぶしい。

しかしながら、肘掛カバーはかなりくたびれた様子である。

 

 客室の端の様子を見てみる。

 

 客室端の座席には折りたたみ式のテーブルが備えられている。ちなみに、この席は姫路寄りの12番席だが、大阪寄りの1番席は非常口仕様の為に窓がやや小さい。

 それにしても、フットレストの土足側が特徴的である。街中でも見かけるような金属板に取り替えられていた。リニューアルに際してこのようになったようであるが、これには驚いた。つるつる滑るので足を置きやすいとは言えない。通常はこの部分にはゴムか絨毯が用いられる。

 

 

 「特急はまかぜ号」は、現行ダイヤにおいて神戸駅に停車する唯一の定期特急列車である。神戸市の商業的中心地は三ノ宮であり、全ての昼行旅客特急と一部を除く寝台特急は三ノ宮駅に停車する。神戸駅は東海道本線の終点であり、山陽本線の起点でもある。ポイントレールもあり、始発終着駅としての機能も持っている。また、時刻表での表記ではこの駅が市の代表駅となっている。かつては神戸発着の特急もあり、三ノ宮と神戸とで特急が選択停車していた時代もあったが、すでに三ノ宮が優勢になってから久しい。このあたりの事情を調査した事があったが、ここでは割愛する。

 

 神戸から終点大阪まで、グリーン車客室内は私一人になった。

 

 神戸にて先程の女性客が下車した。なんとグリーン車客室内は私一人になった。グリーン客室内の全48席が私の自由な空間になったのである。この状況を何年待ち望んだことか…。「グリーン車内に自分一人だけ」という状況に憧れ続けて十数年、グリーン車に数十回乗り続けてきて初めての事態である。かつて、個室A寝台車で一人になった事があったが、個室なのでさしたる違いはなかった。今回は正真正銘の一人になれた。うれしすぎる。それにしても、「神戸停車、R27系統、一人だけのグリーン車」…すごい組み合わせである。

 今回の旅行で「特急はまかぜ6号」に乗る事については、事前告知を行わないことにした。キハ181系惜別乗車を思い立つ人が出てきて、グリーン車内で一人になれるかもしれないせっかくの機会をつぶしたくなかったからである。そうは言うものの、グリーン客室の写真を撮りに来た人が一人いた。

 

 「特急はまかぜ号」は、大阪とその西側を結ぶ特急列車でありながら珍しく新大阪発着ではなく大阪発着である。しかしながら、乗換案内は新幹線の分も行われた。

 

 近い将来消えゆく大阪駅現行11番乗り場に到着した、古豪キハ181系「特急はまかぜ6号」。

 

 

 1994年、智頭急行線の開業とともに「特急スーパーはくと号」が登場したことにより、「特急はまかぜ号」は大阪と鳥取を結ぶという重要な使命を失った。また、大阪と城崎あたりを結ぶにしても福知山線経由の「特急北近畿号」などにはかなわない。現在の「特急はまかぜ号」は兵庫県内の旅客輸送に重点が置かれていると言えなくもないが、実にあいまいな状態に置かれているのである。キロ180形グリーン車に古い座席が残されている事は私にとってはうれしい事であるが、見方を変えれば、大幅な更新工事を施してまで運用しないというJR西日本の方針の表れであろう。古豪キハ181系が現役の特急列車として活躍できる時間もそう長くは残されていない。キロ180形グリーン車については、関西に行くたびになるべく乗る機会を得たいものである。

 

 

 トップページ 鉄道旅行記2005年夏 乗車体験記 メール