1.2度目のケニア訪問 |
2.プロジェクトの概要 |
3.調査地:タイタランチについて |
4.プロジェクトの活動 |
5.キャンプ生活 |
6.レクチャー:森林破壊 |
7.捕獲! |
98年8月以来、2度目となったケニアである。今回は、アースウォッチの「ツァボのライオン」というプロジェクトに参加するためである。このプロジェクトは人気が高く、すぐに定員一杯になり参加が難しい。申し込みを早期にしなければいけないわけで、私は5月開催のチームに、1月頃に参加を申し込んで承諾された。しかし、その後にアメリカのイラク侵略が起き、その影響から今度は逆に参加者数が定員割れでプロジェクト開催が危ぶまれたのであった。
その後、プロジェクトは予定どおり開催されることが決定し、4月25日、関西空港よりエミレーツ航空にてドバイ経由でケニアへ向かう。前回のケニア訪問もドバイ経由だったが、今回は関空よりドバイへの直行便があり、大幅に時間短縮されて非常に楽だった。翌26日にナイロビに到着。プロジェクト開始は5月2日であるので、その前にケニア山に登ったのだが、その詳細は「ケニア山登山記」を見て下さい。
正式名称は"Ecology and Behavior of Maneless Lions in Arig Rangelands of Kenya"という。ようするにライオンの生態調査である。Maneless とは「たてがみが無い」という意味で、ツァボに生息するライオンはたてがみが短いのである。
プロジェクトは2002年5月より調査が開始され、目的は
1:人間とライオンの共生の道を探る 目的2:たてがみが短い原因の調査
が主である。アメリカ人のDr. Bruce Pattersonと、ケニア人のDr. Samuel Kasikiが共同研究を行っている。私の参加したチームは、Dr. Samuelのみが来ていた。
Dr. Samuelの話によると、年々ライオンによる家畜襲撃の被害が拡大しているとのこと。この対策として、以前は毒入り罠が使われていたが、現在タイタ・ランチ内では禁止されている。家畜が被害を受けても政府からの補償は無く、地元民にとっては深刻な問題になっているようだ。現在のケニアの外貨獲得手段としては、1−茶の輸出,2−観光産業 であり、観光はサファリを意味する。このため野生動物保護が必要であり、それを行うためには地元民の教育や補償が必要なのである。そのため、観光収入の一部がタイタのランチ所有者へ還元されている。しかし、ツァボではライオン×人間よりも、象×人間の方が深刻な問題になっているということだった。この問題について取り組んでいる研究者ももちろんいる。
先にも述べたが、ツァボのライオンは、たてがみが短い。こういったライオンは他地区にもいるが、非常に数が少ないらしい。Dr. Samuelによると、オスライオンがリーダーとしてプライド(群れ)を持つと、たてがみが無くなる傾向があるとのこと。これは雄性ホルモンの影響ではないのか? (人間も男性ホルモンが多いとハゲになる傾向がある) あるいは、気候への適応なのか?(ツァボは暑い)
右の絵はプロジェクトのブリーフィングから拝借したもの。上が、たてがみがはえそろったライオン。下が、ツァボに生息するたてがみの短いライオンの典型的な例。
出発前の1月に、NHKの「生き物地球紀行」という番組で、ライオンのたてがみの役割というテーマで放送していたのを観た。この番組では、たてがみは雄としての強さを表す(色の濃いものが雌をひき付ける)。ツァボのライオンのたてがみは、暑さに適応して短くなった と結論づけていた。まとめると、
たてがみの役割は、「オス同士の闘いの際に首への致命的な怪我を防ぐためにある」と考えられていた。
しかし、この説を覆す、ぬいぐるみを使った実験がタンザニア・セレンゲティで行われた。
研究チームは、たてがみの長さや色の濃さに着目した実験結果から「たてがみは闘いのときの防御のためにあるのではない」との結論をだした。
研究者ペイトン・ウエストさんは、たてがみの役割を探るため、ケニア、東ツァボ国立公園へ。驚くべきことに、ツァボのライオンは、たてがみが短い。たてがみが果たす役割は長さに関係ないと推論、色に注目した。セレンゲティ・ライオンを観察すると群れのリーダーのたてがみは色が濃いことがわかった。さらに、ぬいぐるみ実験からメスは濃い色のたてがみのオスを好むことも明らかになった。つまり色の濃さが強いオスの証ということ。オスは、たてがみの色で強いオスを見分けて無益な争いを避け、メスもたてがみの色で強い子孫を残すための相手を選んでいた。たてがみの色が強さを示す信号の役割を果たしていた。
ということだった。
5月2日の朝、ナイロビのフェアビューホテルに集合。ボランティアは私を含め全員が前日からここに泊っていた。迎えのスタッフがやってきて、2台のランドローバーに荷物を積み込み、ツァボへ向けて出発。前回のケニア訪問時とはまったく方角が異なり、景色も当然違う。我々ボランティアは、今どこを走っているのかわからないので、地図で現在地を確認しながら
途中1回の休憩を取り、お昼過ぎにガラ・キャンプに到着。各自のテントの割り当て、この後のスケジュールの説明を受けた。
プロジェクト期間中の全体日程とその日の出来事、デイリースケジュールを以下に書きました。
5月2日 7:30 | フェアビューホテル集合 ランドローバー2台に分乗し、ガラキャンプへ。 |
3日 | ネイチャーウォーク,ライオン探査(13:00〜,22:00〜) |
4日 | ネイチャーウォーク,スワヒリ語講座,ライオン探査 |
5日 | ネイチャーウォーク,ライオン探査 |
6日 | ケニアの文化に関する講義,ライオン探査 |
7日 | Dr. Hamisiを招いて象の講義。 ライオン捕獲の知らせに興奮、そして観察。 |
8日 | 休日:ツァボ・イーストNPへ |
9日 | ライオン探査(3:00〜,16:00〜) |
10日 | ライオン探査 |
11日 | ライオン探査 |
12日 | ライオン探査 |
13日 | ライオン探査,夕方はサンセット見物へ |
14日 | 調査終了、ナイロビへ (私は帰らず、ツァボ・イーストNPへ) |
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| チームメンバー | 主任研究者のDr. Samuel M. Kasiki |
ロメオ(♂) | 2002.4.27 |
ポール(♂) | 2003.2 |
シャドウ(♂) | 2003.5.7 |
良かったこと | 悪かったこと |
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・野生動物が毎日見られる。(毎日サファリをしているようなもの) ・夜行性動物も見られる。 ・ライオン捕獲という、めったにないことに遭遇できた。 ・象に追いかけられるという体験も。 ・車での調査には、主任研究者も同行し、動物の生態についていろいろ教えてもらえた。 ・キャンプ生活だったこと。 ・素晴らしいガラキャンプの環境(おいしい食事,快適なテント,景観) ・個性的メンバーが揃い、異常な盛り上がりだった。 | ・研究分担金が高い ¥350,295 ・西洋料理が主、ウガリも西洋風だった ・調査活動が単調 ・ライオンを捕獲しても、ボランティアは触れさせてもらえなかった。 |
必要なもの |
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・カメラ,双眼鏡 フィルム(私は36枚取りを20本+デジカメ) ・懐中電灯(頭にベルトで装着するものが良い) ・蚊取線香(電池式のものは効かなかった。他のメンバーはとくに問題なかった様子。スプレー式殺虫剤は、各テントに常備) ・乾電池(余ったら調査チームに寄付、喜ばれる。) ・虫除け&虫刺されの薬 (これは、地元の薬のほうがよく効くようだ。) ・マラリア予防薬 (私は、MEPHAQUIN を持参。クロロキン耐性の蚊がいるので、メフロキン製剤が必要。) ・長袖シャツ,ウインドブレーカー(夜は冷える) ・最後にキャンプのスタッフにチップを渡すので、現金を残すこと(今回は、$50/人集めた) ・予防接種 絶対必要なものは無い。 推奨されるもの(ブリーフィングより):ポリオ,チフス,破傷風,黄熱病,A型肝炎 |
必要なもの |
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エミレーツ航空 フライトルート:関空〜ドバイ〜ナイロビ(値段,乗継時間とも満足) 参考:前回(’98年)のルート シンガポール航空,エミレーツ航空 名古屋〜シンガポール〜ドバイ〜ナイロビ |
タイトル | 著者 | 出版社 |
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Lonely Planet "Madagascar" | Lonely Planet | |
地球の歩き方 | ユベール・デシャン 著 | 白水社 |
ライオンはなぜ「人食い」になったか | 小原秀雄 | 裳華房 |
愛のアフリカ象 エレナ | ダフニ・シェルドリック | 八月書館 |
野生のエルザ他 | ジョイ・アダムソン | どうぶつ社 |
追憶のエルザ―ライオンと妻とわが生涯 | ジョージ・アダムソン | どうぶつ社 |
参加費が高いことを除けば、文句なく楽しいプロジェクトだった。
後半は、ライオン観察の時間が多かった。 ライオンは、想像以上にぐうたらである。
(20〜21時間/日は寝ている。)
01年の「マダガスカルの肉食獣」に続く動物生態調査のプロジェクトだったが、前回同様に肉食獣の調査は大変難しい。そのエリアの生態系の頂点に立つ動物であるということは、生息数が非常に少ないということ。捕食動物がうじゃうじゃいたんでは、すぐに獲物がなくなり、生態系が成り立たない。なので、調査対象にでくわす機会が非常に少ないのである。幸いにも、我々のチームはライオン捕獲に遭遇でき、ライオンを長時間見ることができた。しかし、チームによってはライオンが見られないこともあるそうだ。
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