で、わすれちゃいけない、枕の下に1ドル紙幣をしのばせ、荷物に南京錠をかけ、部屋をあとにしたのが午前8時。人通りの多いカラカウアを急ぎ足で歩く。
しかし、ガァッッデェ〜ム!!途中で重要なものを忘れているのに気づく。それは、昨日、すでにレンタル代金を支払った領収書だ。日本なら「忘れちゃった、てへ」ですむところだがここは訴訟王国アメリカ。契約書とかそういった帳票類には非常にシビアだろうと思い、決死の覚悟でもと来た道を爆走。汗だくになってレンタル屋サンについたのは予定の時刻を20分、オーバーしていた。
親父は俺の汗だくを気の毒に思ったのか、「汗をふけ、そして日焼けするからクリームを塗ったほうがいい」みたいなことを(もちろん英語で)言った。おれはおやじに日焼け止めクリームを売りつけられるのかと思い「OKOK」とまたわけのわからない答えをしていると、あいまいな受け答えはユルサン、とばかりにしきりと事務所奥の洗面所へ俺を促し、クリームのチューブを差し出してくれた。そのチューブも半分は使用していると思われる残量を示していたので、あ、これはサービスなのねと思い、親父を疑ったことを心の中でをわびた。しかし、「汗を拭いてから塗りな」と貸してくれたタオルは、まるでウェスのように汚れていたがもちろん、好意を無にするわけにいかないのでそれで額の汗をぬぐうことにする。
そのあと、親父ははニュースポスタのところまで俺を連れて行き、ロックの仕方を説明し、チョークを引っ張り、エンジンを指導させた。始動させてからもかなりの時間、辛抱強く暖気を行い、シリンダーヘッドの暖まり具合を丹念にチェックしている。
「あ〜、おれも普段からこれくらい暖気に時間をかけるべきなんだ」と反省することしきり。
と、親父が俺の目を見て一言「こんどの新型はさぁ〜、始動のときホンダみたいな音がするんだよね〜」と言ったあと、顔をしかめて「too bad」といった。
日本人の俺に対する挑戦と受け取るべきかと思ったが、日米貿易摩擦に対する考えを相手に伝えるほど語学力のない伯爵は「あ〜は〜」と意味不明の相槌を打った。
しかしそんなことより今の俺は、新型のスポーツスターを目の前に盛り上がっていたわけだ。で、最後に親父からの説明を受け、ガソリンを満タンにして返せとしつこく言われ、車の流れが収まるのを待たされ出発したのだった
カラカウア通りはごった返していた。
オートバイに乗り始めてもうかれこれ10年。しかし、乗るときはいつもフルフェイスヘルメットをかぶり、暑くても革ジャンで、エンジニアブーツを欠かさない俺にとっては真っ裸で乗っているに等しいくらいのむき出し感にすっかりビビってしまっていた。普段はヘルメットで若干、弱まっている聴力が本日は能力100%で、スポスタのメカニカルノイズをすべて拾ってくれているのも、空気の中でのむき出し感を助長する要因のひとつとなっている。
ビーチのある道路で信号につかまりアイドリングを聞きながら目の前を横断する歩行者を見ていたら、女連れの日本人と思われる男性が仕切りと俺のほうをみた。その目は「あ〜、こいつ日本人だ。ハーレー、借りれるんだぁ〜」と物語っていた。おれは少しばかり優越感に浸り、青とともに先ほどより心持多めにスロットルを開けた。
右)またまた登場のおっさん。日焼け止めクリームどうもありがとう
左)ホテルから見る夕日