さて、ここでジンギスカンについて少し触れたい。今夜のお肉は、舌の肥えた北海道民(オレのことね)には懐かしい整形肉の冷凍だ。
整形肉とは、羊の肉をいったんギュッと直径20センチほどの棒状に圧縮し、それをボンレスハムよろしく垂直に輪切りして食べるものであり、おれが子供のころ(1970年代)にはジンギスカンといえばこれだった。
しかし、飽食が進み、人間の飽くなきうまいものへの憧憬は、ついに生ラム、にたどり着く。生ラムとは読んで字のごとく、冷凍ではなく生肉であり、もちろんぎゅうぎゅうに圧縮されているものではなくはらりはらりと一枚づつ焼いてそのまま口に放り込むのにふさわしいサイズになっている。初期のころはたれに漬け込んでいるものばかりだったが、そのうち肉のみの生ラムが出てくるとまさに群雄割拠、すすきのには“元祖生ラム”のジンギスカン店が平行して営業をしている。
若干説明が長くなってしまったが、とにかく俺たちの目の前にあるジンギスカンは1970年代、まさに合成着色料入りのジュースを口の端を紫にしながらうひうひ飲んでいた、小川ローザが「お〜、モウレツ」といっていた子供のころのあれだった。札幌にいるなら一も二もなく却下しているであろうメニューを目の前に、おれは異常なテンションの上がりっぷりを感ぜずに入られなかった。なにしろさっきからお預けを食らっているビールがここでは生として目の前に(缶やビン入りじゃないよ、れっきとしたサーバーから注がれたもの)、冷えひえのジョッキの中に納まってその神々しい黄金色をきらきらとさせている
鍋があったまると、ほかのメンバーに断りもなくおれは肉を放り込んだ。目の前のチューヤン(本日宿泊♂1号)はせっせと野菜を放り込んでいる。「今日はどこに言ったんですか?」何口めかのビールでのどを潤したオレは目の前の黒髪生真面目一人旅ちゃんに声をかけた。そのとなりのチューヤンは、自己紹介などのイントロダクションなしに話が成立する関係が若干「?」だったらしい。俺の顔をしげしげと眺めている。「今日は○○と××にいって散歩していたりしたらすっかり日が傾いて、あわてて宿についた」とのこと。そういえば、ビールを買出しに言った後も彼女のレンタカーはなかったモンな。座のみなさんに、昨日の宿でも一緒だった旨を話し、一同納得。同じスタートラインで初対面同士の旅人の一期一会がスタート。おれの隣のデブチン(本日宿泊♂2号)は自分の話ししかしないジコチュー君。まあ、どうでもいいんだけどね。おれはいつものようにジョッキを開けるペースが速い。肉を3切れ腹に収めるころに一杯目がカラになる。すかさず宿主さんに2杯目をオーダー。しかし、ジョッキはいっぱい目のものに注いでもってきた。泡もなにもあったものじゃない。ちょっとは気ぃ〜使おうよ、いっぱい450円も取るんだからさぁ〜。何杯も飲まれるのがいやなら一人何杯までって決めればいいじゃん、ってそんなの決めている宿ならこっちも泊まるのはごめんだけど。いかんいかん、ビールのことになるとあまり妥協したくない性格が。なんか、その日は話が盛り上がった。「あしたどこに行こう?」とか「あそこはよかったよ」という情報交換に花が咲く。僕と黒髪ちゃんは明日で旅がおしまい。ほかの野郎2人はこれからばりばり道内を回るそうで、う〜む、うらやましい。
時計が8時半過ぎるとカンパ制の飲み会。500円以上出すと自家製の果実種や焼酎、日本酒が飲めるというシステム。簡単なつまみもある。なんとなくバイクや旅の雑誌を眺めてだらだら。宴会もまだ続きそうだけどそろそろ部屋に戻って眠るとする。やはり個室をとって正解だったなぁ〜、とおもいつつ眠りに落ちた。
本日の総走行距離 140キロ