二日目 その4

 まあ、具合が悪いのをなんとかするのが今のオレの最優先事項だからして、宿にもぐりこんで糊の利いたシーツにもぐりこんで眠ることのみに集中する。
 
 宿に着いてバイクのエンジンを切り、旅装を解いていると女性の宿主さんがでてくる。「こんにちは」というと「とりあえず入って宿帳書いて」と。とりあえず昨日よりは確実に肩にずっしり来るザックをしょって宿に入る。

 はじめてみる建物の形だ。こんな様式の建物は、見たことがない。本州の人が北海道にきてまず驚くことは「屋根がかわらじゃない」ことだろう。そのかわりカラフルな色のトタン屋根があまねく普及していることも、北海道の特徴といっていい。そしてこの宿はそのトタンが、壁にまで貼ってあるのだ(右写真参照)。

 一歩中に入ると、となりの建て増しした宿(いわゆる新館)に案内される。こちらは普通の建物だ。疲れていたため、個室を取りたい旨を伝えると「千円まし」といわれる。もちろん承知していたのでOKとつたえる。おんな主人はオレを部屋に案内した。
 部屋はシングルベッドが二つ置いてあるだけのシンプルな部屋。右側のベッドに枕カバーとシーツを放り投げると「風呂は4時から。夕食は6時半」と告げて去って行った。
 
 欲も得もなく眠りたかった俺は、そのままジーパンを脚からひん剥いて、シーツにもぐりこんだ。相当つかれていたのだろう。そこからまるでつなぎ目のない眠りに引き込まれていった

 がんがんと、ノックの音で起こされる。「風呂が入りました」と、はじめてみる男性。多分、ヘルパーさんだろう。どれくらい眠ったのだろう?目を覚ましても日差しはまだ高い。とりあえず風呂に入る。なんの変哲もない家風呂。しかし、お湯の温かさがありがたい。一番風呂なのでなるべくきれいに使い、新しい下着とTシャツい着替えると幾分、さっぱりした。

 急にビールが飲みたくなり、とりあえず散歩がてら買いに出かける。スニーカーに履き替え、浜頓別の町までゆっくり歩く。さすがに日は傾きかけている。湯上りの火照った頬に秋の風がさわやかだ。まさに田舎の風景の中、ぼんやりと歩く。スーパーでビールと麦チョコとカールスティックとお茶を買い、ついでだからといって薬局でのむ風邪薬とユンケルを飲む。なんとなく体がカッと、熱くなった気がした。薬局を出ると、まさに今目の前で日が没するところだった。こんなにぼんやり、ゆったりした気持ちになったのは何年ぶりだろう?おもえばたまに取れる休みも、彼女との旅行に費やしていた。その旅行が楽しくなかったのか?といわれればそんなことはない。ただ、旅はやはり、自分ひとりで知らない土地にいる不条理さや寂しさや期待や、そんなさまざまな感情が絶妙なバランスで成り立っていることを楽しむものだと再確認する。宿に帰るころにはすっかり日が暮れていた。ジンギスカン食べ放題の宿は、これからどんなことが待っているんだろうか?

二日目、その3へモドル
次のページへ

下2枚)浜頓別「トシカの宿」とほ宿の草分け的存在

上、右)風呂に入って眠ってぶらり。浜頓別の夕暮れを散歩