翌日は朝6時起床。ピーピー島への日帰りツアーに参加することに。

 言わずもがなだが一応説明しておくと、ピーピー島とはディカプリオの映画「ザ・ビーチ」の舞台になった島である。正確には「ピーピーレイ島」という無人島のほうが舞台であり、ピーピー本土(という言い方もヘンだが)はホテルもあり、かなり観光客向けになっている。

 話が前後するが、俺の泊まったエリアはプーケットでも一番にぎやかな「パトンビーチ」と呼ばれるところで、そこからピーピー島までは島を横切る形でプーケットタウンに行き、港から高速船で約1時間半、といったところ。

 パトンビーチが観光客のための町なのに対し、プーケットタウンは完全に地元の人々の生活の場所になっている。車で結構な勾配とRのきついカーブを抜けなくてはならなくて、俺の乗っているトヨタハイエースはかなり苦しそうな声を上げている。
しかしその横を3ケツのミニバイクがバンバン通りすぎていくのがめちゃくちゃオモシロイ。
お父さんを中心にして前に男の子、後ろに女の子が、はっしとつかまり、彼女の手にはなぜかカキ氷が握られていたりすると「いったい何に使うのかなぁ〜」と考えるだけでも飽きない。しかもほとんどの人がメットをかぶっていないのよ。

 バイクといえば、プーケットに限らずタイでは110CCのミニバイクが大活躍している。自動車の値段が高い分、生活の足として欠かせないものらしい。
オーによると、タイ人はだいたい12〜3歳で乗り始め、もちろん無免許だが親は文句を言わない。さらに19くらいになると一回はすごい事故をやらかし(彼は19歳のとき400CCのバイクで公道レースをして事故り、3日間意識がなかったという。「ミンナ、スピードスキね」といって笑う)、それでもバイクから降りないそうで、、いやはやなんとも。

 もちろん12歳から乗っているからみんな乗るのがうまい。運転はもちろんだが、女の子がミニスカートをはきながら横ノリ(足をそろえてよこに投げ出し、運転者の腰に手をまわす乗り方)で峠越えや渋滞をすり抜けながらサンダルをぷらぷらさせている様は、まさにタイ国民総ヤンキー、ってカンジである(意味ワカラン)。

 峠を越えてプーケットタウンに入ると、タイの日常が垣間見られて楽しい。小川の上に高床式倉庫よろしく足を立て、その上に壁がトタンの粗末な家が並んでいる。市場では買い物をするおばさんや登校途中の女の子の白いブラウスなんかが目に入ってくる。なんとなく懐かしいのは高い建物がないことと、道路以外は土、ということだろう。

 やがて車は船着場へ。ピーピー島へ俺を運んでくれる船は50人乗りのバスみたいなカンジで、一階の客室の上にはデッキがあり、海上の景色を思う存分楽しむことが出来る。
ミネラルウォーターとなぜかカップケーキが食べ放題な船は朝9時にピーピー島へ向けて出発。おれは船酔いが怖いのでオーに酔い止めをもらい、ひたすら眠ることに、、、。

 うとうとして1時間くらい経ってオーが起こしてくれる。どうやらシャッターチャンスらしい。デッキに上がり周りを見ると、まさに絶景。切り立った崖が連なる無人島のすぐわきを通り過ぎる。中国の水墨画に描かれているようなジャンク船がのんびりとエメラルドグリーンの海に浮かんでいる。その横ではダイビングをする白人たち。さらに奥に進むと、小さな砂浜の入り江がみえる。「あれがピーピーレイだよ」とオーが教えてくれた。
入り江の海面はまさに透き通ったグリーン。白い砂浜とのコントラストが目にまぶしい。
一旦、ピーピー島についてからさらに小さな船で来ることが出来るらしい。これ以上小さな船に乗るとリバースの危険性があるため遠慮。しかし、キレイなところだった。やはり無人島だね。

 やっとこさピーピー島に到着。乗ってきたのが大型船のため、沖合いで小さなボートに乗り換える必要アリ。
正直そんなに感動はない。やはりツーリスティックな場所なんだなぁ〜。しかしパトンよりは静かなビーチにとりあえず満足。デッキチェアーを選び、レイチャールズみたいなサングラスをした、いかりや長介みたいなオッサンに40バーツ払い、よっこらしょっと。
早速、シンハービールを飲む。500mlなんてすぐに開けてしまう。
目の前には絵に描いたような南国のビーチ風景が広がる。そんな中、ジョン・アーヴィングの「第四の手」がサクサクと読めてしまう。
日本なら読むタイミングが合わないと、ぜったい厳しいアーヴィングの小説(ながたらしい描写と、ディケンズなみの寄り道な文章)も、異国の、ノロっとした濃密な空気の中では海綿に吸収される水のように一文一文がしっかりと頭の中に入ってくる。

 俺の目の前にはチャイニーズカップル二組がかなりハジけている。そのうちの一組はかなり腹が前に突き出た男と、どう考えても「ぽっちゃり」と形容したらイヤミなくらい豊満な女性。しかしその豊満チャイニーズレディをサモハンキンポーはななな、なんとお姫様抱っこして写真を撮っている。アンビリバボー。腰に爆弾を抱えた自分には無理な行為に唖然としていると、これまたチャイニーズ女性二人組がお互いにグラビア撮影ごっこをして楽しんでいる。グラビアに詳しい人はわかるだろうけど、『女豹』ポーズなんかキメながら、谷間を開陳、レイバンのグラサンの奥で俺の目が光っていたのは言うまでもない。

 一応、海に入ってみるもなんか冷たくてそそくさとビーチチェアにモドって、おとなしく読書。そしてビールを繰り返すとやがてウトウト、、、、。

 そんなこんなであっという間に帰る時間。正味4時間弱の滞在だったのであわただしさは否めないが今回の旅の目的「ビーチで夏の間買って読んでいない本を読む」という目的は達成されたわけだ。
帰り道の酔い止めをオーからもらい、母船に向かうべく小さな船に乗り、デジカメで撮影を繰り返しているとレンズが収納できなくなり、ピピピピピピ、と電子音だけが悲しく響く。どうやら故障してしまったらしい。しかしこんな不幸は、これから始まる悲劇の序章に過ぎなかったとは、このときの俺には知る由もなかったのであった。

モドル
次へ