『まず、器楽、声楽、宗教曲とあらゆるジャンルを手がけており、
いずれのジャンルでも名曲として世に残る作品を書いている。
コレは誰にでもできることではない。
例えばJSバッハは長年教会の音楽監督という職務にあったこともあり、
作品のジャンルは宗教音楽にかたよっている。
当時はオペラ作曲の見返りが非常に大きく、需要も多かったので、
バッハはよほど機会に恵まれなかったか、オペラに向いていなかったか・・・
ハイドンは「交響曲の父」と呼ばれるだけあって
100曲以上もの交響曲を書きオペラも25曲あまり書いている。
また弦楽四重奏曲など、室内楽の分野でも多大な業績を残しているが、
しかし今日演奏される作品は、モーツァルトに比べれば限られている。
楽聖ベートーベンはさまざまなジャンルの作品を残しているが、
ことオペラに関しては成果は寂しい。
ベートーベンのオペラは「フィデリオ」一作、
それも幾度も書き直したあげくである。
またこの時代、作曲家は多作であったが
モーツァルトの場合、駄作や失敗作が極端に少ないのが特徴。
名曲の多さでは抜きんでており、高打率のヒットメーカーといえる。
おまけにモーツァルトの生涯は36年にわずかにおよばぬ短さであった。
旅に費やした日々も多かったから、
眠ったり食べたりしている以外は、
おおむね五線譜にペンを走らせていた計算になろう。
にもかかわらずモーツァルトの自筆譜は
いずれも清書したようにきれいで、
一カ所の書き直しもない。
それはわずか9歳の時の作品においてもそうであるから、恐れ入る。
ちなみにベートーベンの自筆譜と比較してみると、
楽聖の筆跡は書き直しだらけで、余白に何かの計算書きやら
「バカヤロー」といった罵詈雑言が書き込まれていたりする。』
(それはそれで面白いけど)
(後藤真理子さん著 「モーツァルト」より)
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