vol. 3
犬と猫って、仲いいんだったっけ?
宏は、並んで庭にたたずんでいる2匹を交互に見た。
手には、タロウの好きなドッグフードを入れた金製の皿があり、その立場を誇示しようと、鼻の良いものたちへ匂いのアピールをしていた。
その匂いを敏感に察知したタロウは、もう1匹のことなど、瞬間忘れた。
「わん!!」
尻尾を思い切り振り、開いた口からは、はしたなくもヨダレがとめどなくあふれている。
その様子を、軽蔑のまなざしで一瞥すると、玉虫眼光の猫は、吐き捨てるように言った。
{本物の犬になり下がったな・・・}
もちろんその声は、宏には聞こえないが、タロウの耳にも入ってはいないようだった。宏は何も知らず、食べてしまいたいほどに愛らしいタロウのために、餌をやる前の『芸』をさせるのに夢中だ。宏の一声一声に、タロウは忠実な下僕ぶりをさらしていた。
「お手!」
右足を宏の手のひらに差し出すタロウ。
「おかわり!!」
今度は右足を引っ込めて、左足を差し出す。
しまいに、「チンチン」までも上手にやってのけたタロウは、みごと念願のドッグフードにありつけて、無我夢中でガツガツむさぼるのだった・・・。
さあ、タロウが必死で餌を食べている横で、まるであきれたような表情でそれを横目で眺めている猫は、いったいどこの猫だろう。宏はなるべく同じ目線で相手を見るために、芝の上に尻をついて、体育座りをした。猫も宏をじいっと、見た。互いに見つめあった2人(?)だが、ふと気が付いた。猫って、目と目があんまり長く合うのって、好きじゃないんじゃなかったっけ?
「お前、変わってる。」
宏がうかがうように覗き込んだ。冷静沈着であったはずのこの猫、正直ドキリ・・・とした。
{おぬしこそ。}
にんまりとほくそ笑みたい気分になったが、その気持ちを抑えて、『猫』らしく宏のすねの辺りに、おもねるように体をすりつけた。
「可愛いなあ・・・。おい、猫。お前はどこの猫だい?猫のくせに、タロウのそばにいるなんて、よっぽど変じゃないか。」
{そりゃあ、変かも知れんな。少年よ、お前も見ようによっては不思議な引力を持った何かを秘めているようだな}
「にゃ〜ん。」
などと、ついでに猫らしく鳴いてみる。
隣でものすごい勢いで食べていたタロウが、人心地付いた様子でしゃがんだまま水を飲んだ。水がはねて、皿から芝の上やら宏や猫の体に飛んだ。宏は思わず飛び上がってよけるが、やはり猫も同じように飛び跳ねて飛沫のかからないあたりへとよけていた。