おなかが空いたのか、タロウが鼻をくんくん言わせてすり寄って来る。
 かわいいやつ。
 やわらかい毛並みの頭を、軽くなでてやって、宏は飛び跳ねるように、ぴょん、と立ち上がった。
 「ごはん、ごはん。・・・んー。ちょっと待ってな。」
 タロウを庭に残し、思い切り良く玄関のドアを開ける、また乱暴にバタン、と閉める。
 「ひろし! 静かに閉めなさいっていつも言ってるでしょ!!」
 母親の声を後ろでに、気にもとめずに階段下の物置まで駆け足。
 

 庭につながれて、うろうろと待つタロウが、ビクリ!! と体を一瞬硬直させた。
 目の前に、ゆらめく黒い影。
 それは、ふわふわと次第に立体化していき、猫の形になった。
 {こんなところにいたのか}
 それは言った。言葉に出して言うそれではなく、テレパスを思わせるような、念によるものだった。猫の瞳が、金色から、銀色。時には緑がかった光をはなち、さしずめ玉虫のような妖しい美しさを帯びている。
 {よく、ここが分かったな。}
 ふふふ・・・、タロウが笑った。口元に笑みを浮かべている。
 まるで動物に似つかわしくないこの表情を、誰か見ているものがいたならば、史上初の『笑う犬』として、マスコミに公表することだろう。
 {つながれて、いいざまだな。}
 {ふ・・・。2食昼寝つきだ。悪くない。}
 {落ちたものだな}
 玉虫眼光の猫はペッ、っとつばを吐いた。
 「タロウ! えさだよ〜!」
 バタン! けたたましくドアを開けるのと同時に、宏の明るい声。
 「おなか空いただろう? 待たせちゃってごめんな・・・。あれ?」
 タロウのそばに、猫がいる。
 タロウもかなりの美形だが、その猫もまた、容姿端麗でタロウに匹敵する。
 犬と猫の差はあるにしても。
 「にゃーん・・・」
 甘えた声で、猫は、おもねるように宏の足に体を寄せる。
 先ほどの様子を、おくびにも見せない。
 それはタロウもいっしょだが・・・。

vol. 2