宏は、上も下も分からない光の中に包まれていた。
光の点滅は見えない壁にぶつかりあい、乱反射する。
あまりのまばゆさに目も開いていられない。
ーヒロシ・・・。
−宏・・・。
「誰?」
頭の中に直接呼びかけてくるこの声の感じが、なんとはなしに懐かしい。
いつの間にやら光の点滅はおさまり、まぶたの裏側まで射つくすかのような強い光は淡い琥珀色をした母なる海を思わせるあたたかなものへと変化していた。平衡感覚は感じられないが、慣れたせいもあるのだろう、置き所のない不安感は消えていた。もともと、順応性が早い宏ではあったのだがー。
−誰・・・とな? ふふ・・・。
「・・・タ、タロウなの?」
−そうだ、私だ。
「ああ、よかった! 捜していたんだ! ずうっと!!」
宏の声は既に涙声になっている。
ーそう、お前は私を捜していた。だから、こうして伝えに来た。私はここにいると。
「え・・・? ここ、に?」
−そうだ。『ここ』に。つまり宏、お前の中に、だ。
「俺の・・・、中にだって?」
声がうわずっていた。それもそうだ。随分と突拍子もないことを言うではないか。
−お前の命を救うために、私はお前になったのだ。
「なにそれ? まるでウルトラマンみたいじゃないか。」
そう、まるでそれは歴代のウルトラマンのようであった。
−宏があんな目にあった一因は私にもある。私がついていながら、危機を避けることが出来なかったからだ。
宏はぼんやりと事故に遭った時のことを脳裏に描いてみた。タロウの散歩をする際に、細い十字路へ飛び出した瞬間の自分を・・・・。