VOL.8
光の玉・・・。
幼少の折によく遊んだ、あのしゃぼんだまが虹色に輝いていたのを思わせるような・・・。
そんな美しい過去の記憶が、脳裏に浮かんでは消える。
玉のなかでは、何かがさらなる輝きを放ちながら、こちらを見据えていた。
それはぼんやりとして、ふわりふわりと形を変え、やがて1個の姿をさらした。
{宏。}
それータロウーは、言った。言葉が音声となって出るものとは異質の、心に直接響いてくる
ような・・・そんな声だった。犬の体型をしながらにして、言語を発していることになぜか違和
感を覚えることなく、宏はタロウに久しぶりに会えたことに喜びを感じていた。
タロウ! タロウ!!
{お前は、大変な事故に巻き込まれてしまったことは知っているな?}
宏はこくりと頷いた。夢のようではあるが、体を動かすこともままならないどころか、すべて
がこれまで味わったことのない苦痛を伴っており、この現実を直視せざるを得なかったのだ。
{このままではお前は死ぬ。}
死ぬ・・・?
{そうだ。死んで、お前の清らかなる命の玉も、しゃぼんのように消えてなくなる。なくすに
は、失うにはあまりにも尊く惜しい・・・。 あの事故は私にも責任がある。いながらにして、回
避することができなかったからだ。・・・ああ・・・、時間がない・・・−−−。}
タロウの様子が急におかしくなった。
光の玉はしぼみかかって、タロウの体をぐいぐいと圧迫している。このままではその勢いに
耐えることも至難のわざだ。
タロウ!