Vol. 7

 ・・・・・・・・・ろし・・・。
 
 ・・・・ひろし・・。

 だれ? 僕を呼ぶのは・・・?

 声を出そうとした・・・が、声が出ない。のどの奥の粘膜が張り付いているような、そんな感覚。今まで味わったことのない不快感や痛みがともなう。何度声を出そうとしても、それは同じだった。いや、さらにその感覚は増しているようだった。
 これはなんなんだ?
 いったい、なにがおきたんだ?!
 ナニがナニがナニがナニが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?! 気持ちが悪い。吐きそうだ。
 首を曲げようとした。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 曲がらない。
 吐きたいのに、吐くことも叶わないなんて・・・。
 生き地獄だ。そう、これを『生き地獄』と呼ばずしてなんと呼べばいいのか。いや、これはもしかしたら本当に地獄なのかも知れない。そのうち、地獄の番人がやってきて、ようこそ・・・などと言うかも知れない。
 



 「ああああああ!!  ひろし!ひろしいいいいい・・・!!」
 ICU治療室で、中年の女が激しく泣き叫びながら、目の前で横たわりすべての処置という処置を施されている少年の体を揺さぶった。寝坊していまだ覚めない息子を、起こすように優しく、そうっと。
 女の隣には、やはり女と同じように泣きはらした赤く重たいまぶたの、中年の男が立ちすくんでいる。ベッドで治療を受けたまま目を覚まさない少年の顔に、二人とも面立ちがよく似ているところを見ると、少年の両親であろうか。
 閑散とした病室で、ピ、ピ、ピ・・・という電子音が響いている。規則的な電子音は、少年の命の音ともいえるかも知れない。その音がどうか止まずにいますように・・・両親は願わずにはいられない。
 救急車で運ばれた宏は、緊急手術を受けていた。。
 骨折や打撲はもちろん、内臓や脳内にも以上がないかすべてをチェックした後の大掛かりな手術だった。。内臓にも出血があり、頭部もかなり危ないかもしれない・・・それほどまでに、打ち所が悪かった。しかし、手術はなんとか成功していた。後は宏の生命力にかかっている。だからこそ、希望を捨てたくないし、生きて欲しい。親が子を思う気持ちは、何にも変えがたい。



 ・・・・・ひろ・・・し・・・。
 
 宏・・・・・・・・・・・・・・。

 頭の中で何かがキラリ・・・とスパークした。まばゆい光の郡。閃光。
 
 {ひろ・・・し・・・。}

 それは宏の名を、呼んだ。なぜだろう、懐かしいような温かいぬくもりさえ感じられる。

 {私の・・・声を、聞け・・・。}

 聞いてるよ、聞こえるよ・・・ー。