vol.6

 終わりも始まりも、ある日突然やってくるものだ・・・                     

 誰かが言っていたような気がする。

 そう・・・誰だったろう・・・? もうそんなこと、どうでもいい・・・。

 だって、僕は。

 僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 




 遠くの方でサイレンの音が聞こえる。
 それは次第に大きくな
り、すぐ脇で、止まった。
 とある、見通しのあまりきかない交差点だった。
 少年が倒れたまま、動かない。
 かたわらには、寄り添うように心配げな様子で彼を見守っている犬がいた。
 時折、キューン・・・と切ない鼻にかかった声で小さく鳴いている。
 救急隊の男性数人が、バラバラっと駆け下りてくる。
 「ぼく、だいじょうぶ?お名前、言えるかな?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 少年は何も答えられない。
 意識もないようだった。
 少年の頭部はかなりの出血のため、毛髪もカラーリングでもしたかのように、まっかに染まっていた。顔も、頬がはれ上がり打ち身のせいだろうか、紫色をしていた。腕は普通の人間が曲がるはずのない方向へぐにゃりと曲がっており、すべてがグロテスクに見えた。
 少年はタンカに乗せられ、救急車の内部へと運ばれ、再びピーポーピーポー・・・と定番のサイレンを鳴らすと、走り去って行った。
 後に残された犬には頓着もせずに・・・。





 「さあ、タロウ! 散歩いこうぜ!!」
 その日の宏は、すこぶる機嫌が良かった。
 夏休みに入り、これからいくらでも遊んでいられる。そんなわくわくした気持ちで、胸がいっぱいだった。今年の夏は、6歳上の従兄弟がかぶと虫を捕まえに行く際には、宏を誘ってくれると約束してくれたというのもある。夏休みに入ったら、いい穴場に連れてってやるよー。従兄弟の声がまだ頭の中に残っていた。
 浮き足立っていた。
 タロウも機嫌のいい宏と散歩にいけるのは、とても楽しみでもあったし、実際楽しかった。
 その、瞬間まではー。
 不覚だった。
 タロウは自分をそう責める。
 普段の自分であったなら、宏をいともたやすく、その災難に会う前にかわせていただろうと思うのだ。
 交差点にさしかかり、宏もタロウも信号はなくとも、いつもは必ず止まっている場所。角には煙草の自動販売機がおいてあり、こんな所に設置した業者をいつもアホだの馬鹿だのと毒づいては、きちんと一時停止して左右を確認していた場所。
 「あ!!」
 と宏が悲鳴をあげた瞬間には、すぐ横に車があった。
 そして、鈍い衝撃音と共に、宏の体は宙を舞い、タロウと宏をつないでいた綱が、宏の手から放れた・・・。
 {宏!!}
 タロウが助けようとした時にはもう遅かった。
 次の瞬間には、宏の姿は無残にもあまりにも変わり果てた姿となっていた。
 急ブレーキをかけて慌てふためいておりてくる運転手。
 周囲の人だかり。
 あたりは騒然とし出したにもかかわらず、タロウは身動きひとつ出来ずにいた。

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