vol.5

 宏が記録的なスピードで取り込む様子を、あっけにとられながら傍観している2匹の犬と猫たちは、あっという間にびしょぬれになっていく宏をなんとなく凄いとおもっていた。というのも、この2匹。雨にぬれるのが大の苦手だったからだー。雨と同化してしまいそうだったが、さすが宏だ、洗濯物はほとんど濡らさずに取り込みを完了している!!
 {すばらしい!!}
 タロウが言うよりも先に、猫のミヤオが感嘆の声をあげた。
 {あのスピードは、わしの想像以上のすばやさ!! うーむ・・・うつくしい・・・} 
 なおも続けて言うミヤオのあほらしさに、タロウはつい吹き出してしまった。うつくしいと、きたもんだ・・・
 なにはともあれ、玉虫猫ミヤオを感嘆かつ、賞賛させた宏という少年には、底知れぬ未知なる何かが宿っているのやも知れない。


  自分の体をくまなくタオルでぬぐい終わった宏は、玄関にしょんぼりとうなだれている2匹の犬と猫を見やってくすりと笑った。
 「2人して情けない顔してるなよ」
 体中の体毛は玄関のタイルがみずたまりを作るほどに濡れていた。
 「ほら、今度はお前たちの番だよ。」
 ていねいに、2匹の体を拭いてやる。全身が体毛で覆われているというのも不便なものだ。タロウもミヤオも、次に何をされるのかもいまだ知らない。今までに経験したことのない恐怖が待っているのだ。いつの間にか、宏の手には黒い鉄砲のような形をした物体が、握られていた。そしてー。
 それは、ゴオオオっという轟音と疾風を巻き起こして、2匹を襲いにかかる。
 2匹ともに、耳をぺたんと頭にくっつけて、目をぎゅうっとつぶるさまを見て、宏はナニがおかしいのかけたたましく笑い出した。笑いすぎて、目に涙さえうかべている。
 「おいおい、逃げないでくれよ。−こら! 乾かないじゃないか!」
 狭い玄関中くるくる回り逃げ惑う2匹をたしなめつつも、笑いは止まらない。
 そう、2匹ともに後に知ることになるのだが、宏が手にしているものは、さもあらん『ドライヤー』なのである。そして、人間界に存在する文明の中で、これほど恐ろしい武器はないと、後の語り草になるのだった。