大河ドラマ「新選組!」のツボ

 

正月時代劇 「新選組!! 土方歳三最期の一日」  その1

 
2006年1月3日午後9時。
1年間待ちに待った、『新選組!! 土方歳三最期の一日』の始まりです。


函館、五稜郭。旧幕府軍最後の砦。

ドラマは五稜郭の空撮映像から始まりました。
いつ見ても、綺麗な星型。
だけど、どうしてもここが要塞とは思えないんですよね。
こんなだだっ広いところに籠もったって、勝てるとは思えない。
美しく整っていれば整っているほど、ここに賭けた男たちの夢が、いかに儚いものだったかを表しているようで。(涙)

ナレーションが変わりました。
バックに流れるのは、組!!書き下ろしの新曲です。
服部先生、ありがとう〜〜。
チェロのソロから、3拍子の物悲しい旋律のワルツへ。


明治2年5月には、箱館の町と五稜郭周辺だけが最後の拠り所となっていた。


「正月時代劇」のタイトル。月にかかる雲。
この絵がなんか古臭くて笑っちゃったんですけど、これを映像に変えていくところは、上手いな〜と感心。
「明治2年(1869)5月」のテロップです。


ここは、蝦夷地(北海道)七重浜。
海辺に設置されているのは、どうやら新政府軍の陣らしい。
そして、林の中からその陣に忍び寄っていくのは、新選組です!!
島田さん、“新選組頭取”。偉くなったね〜。
どうやら土方の到着を待ちきれず、自分たちだけで攻撃を掛けようとしているらしい。
けれど敵の見張りに見つかりそうになって、伏せたところへ可愛いヘビが!
悲鳴をあげて倒れる島田。おーいっ!!(笑)

不審に思って近づいてきた見張りに、“誠の旗”を見つけられて、万事休す!

・・・と思ったところへ、
「待たせたな!!」
遅れてやってきて、いいとこ全部持ってく男が来ましたよ。(爆)
この時の土方の表情が、池田屋の「待たせたな!」の時と全くおんなじで、悪さしてるヤンチャ坊主みたいなのが嬉しい。

さらに島田に「遅い」と文句を言われて、
「うるせぇな。俺だって忙しいんだよ。」
と言い返す言葉が、総司に文句を言われていた頃と全然変わっていなくて、嬉しいですねぇ。
横の髪を撫で付ける仕草は、めちゃくちゃ気障なんだけど。(爆)

そういう変わっていない部分を見せつつ、土方は既に“陸軍奉行並”という、上の立場に立ってしまっていることを台詞で説明していくところが、三谷さん、上手いです。
相馬がしっかり敵の情報を仕入れてきて、有能な部下であることを見せているのも上手いですね。


尾関が掲げる“誠の旗”。
すでに土スタなどで見てしまっているけれど、汚れて、破れて、焼け焦げて、ぼろぼろになった隊旗。
だけど全然輝きを失っていないというか、逆に神々しささえ感じてしまうのが不思議。

「いざっ!!」
土方を先頭に、敵陣に斬り込む新選組。
予告でさんざんに見てきましたが、この殺陣がすごくかっこいい。
さらに、隊旗を守るようにして立つ土方たちが。
山本さんがきちんと周囲に視線を配っているようにみせているのが、とてもリアルです。

炎をバックに翻る“誠の旗”。
その上に、「新選組!!」のタイトルが重ねられます。
すっげー、かっこいい。
めちゃくちゃ男前なオープニングじゃないですか〜。



一転して、物悲しいテーマ曲が流れる中、ここは五稜郭。

卵?
誰かが卵白と卵黄を分けています。
庭には、負傷した兵士たち。
このシーンかな?
スタパで負傷した兵士たちを見ましたよ。
3拍子の旋律に乗って、五稜郭の中をカメラが動いていくのがいいですね。

卵白を溶いていたのは、榎本さんでした。
ただ今、お髭の手入れ中。
っていうか、当時は卵白で固めていたのか〜。
愛之助榎本、男前過ぎっ!!(爆)
江戸弁のイントネーションもいい感じ。

のんびり身だしなみを整える榎本に、苦言を呈す大鳥さん。
小刻みに動かす扇子が、大鳥の苛立ちを表しているんですね。
で、仕方なく椅子に座ったとたんに
「では参ろう」
と言われて、思わず扇子を取り落とす。
吹越大鳥、面白い〜〜。

この二人、登場と同時にしっかりそのキャラ見せてくれて、さすがです。>愛之助さん&吹越さん
慌てて威儀を正そうとする兵士たちに、そのままでいいと声をかける、愛之助榎本の鷹揚な態度も、総裁役にぴったりです。



一方、戦利品とともに、箱館山麓の本陣に戻った新選組。

この本陣は、市内称名寺に置かれていました。
ちなみにこの頃の新選組は、確かに連夜、敵に夜襲をかけています。
4月29日と5月1日は有川。2、3、6、8日は七重浜。
敵陣が有川から七重浜に移ったということは、着実に五稜郭に向かって前進してきているということですね。
これらの夜襲の指揮を土方が執っていたという記録はなく、2日は大鳥圭介が新選組・彰義隊・伝習歩兵隊を率いていたことが、『函館戦史』に記載されています。



わぁ〜、仏の副長だ〜〜。酒の振る舞いエピソードだ〜〜。
「ただし言っとくが、たいした酒じゃねぇ。今さっき、敵からかっぱらってきたヤツだ。」
爆笑。いかにも山本土方らしい台詞だわ。
さらに“へべれけ”っすか?
もう、可笑しい〜〜。げらげら。

ちなみにこの“酒ふるまいエピソード”は、実際には新選組とのものではなく、4月23日二股口を守っていた衝鋒隊・伝習歩兵隊との土方のエピソードです。
『島田魁日記』によれば、土方は兵たちに「吾、重賞を与う。しかれども、酔いに乗じて軍律侵すを患い、ただ一椀を与うのみ」と言ったらしい。
“へべれけ”じゃねぇじゃんよ〜〜。(爆笑)
でも、山本土方はこれでいいと思う。
多少史実を変えてでも、三谷さん、上手くシーンを作ったなぁと思いました。



若い隊士たちに囲まれる土方を、少し離れて見守っている島田と尾関。
二人が土方の変化を上手く語っています。
丸くなった土方に、隊士たちはみんな惚れている。
みんなが土方を慕ってついてくるから、京にいた頃のように法度で縛る必要もなくなったと。

“土方奉行”と呼ぶ相馬に、“副長”とよんでくれと言う土方。
土方にとって、自分の居場所はあくまで新選組であり、立場的にはそのトップになったとはいえ、やっぱり自分は副長なんですね。
彼の中にはいつまでも局長近藤勇がいて、自分は副長であると。

「誠忠浪士組になったり、壬生浪士組になったり」には、当時を思い出して、思わず爆笑してしまいました。
新見たちと八木家の門に掛ける看板を争って、最後には右と左に誠忠浪士組と壬生浪士組と、それぞれの看板を掛けてありましたっけ。(笑)

そして、相馬が山南のことを“法度に背いて切腹させられた人”と表現すると、土方は「山南総長がいなければ、今の新選組は無かった」と言いきります。
相馬の軽蔑したような言い方に、てっきり怒るのかと思ったら、優しく諭す土方。
山南の切腹に関してずっと背負ってきた苦く辛い感情が、土方の中でようやく昇華されて、ただ山南の信念や思いだけが、今もなお大切に土方の胸にしまわれているのを感じさせました。



武蔵野楼で開かれている榎本たちの会合に、早く出席するようにと促す島田と尾関。
「あいつらと飲んでても、面白くねぇんだよ。」
おいっ。(笑)

それより・・・と、土方は山野や蟻通も呼び寄せて、明日、敵は総攻撃をかけてくるであろうことを告げます。
池田屋に踏み込んだ時の仲間で、今も残っているのはこの5人だけだと土方。
「あれ? お前ら、そんな前からいたか?」
「すみません。目立たなくて。」
笑える〜〜。

島田たちに、新選組はここ箱館山に残り、町を守り抜けと命じる土方。
そして自分は五稜郭へ戻るという土方に、自分も連れていってくれと駄々をこねる島田。
「いや、我慢できねぇ。」
「てめぇはガキか!」
「ガキでけっこう!!」
このやり取りが好きです。
古参隊士で、信頼し合ってきた仲間で、もはや上官と部下の関係を超えていることがよくわかりますよね。

島田と土方、いろいろ思い出してしまいます。
最初に顔を合わせた時の島田のボケっぷりと、笑いを必死で噛み殺していた山本土方とか。
新見を切腹させた時、後始末を島田に頼んだこととか。
山南の切腹が決まった時、島田に石田散薬を勧めて、永倉たちに時間稼ぎをしてやったこととか。
そして描かれなかったこの1年の間にも、宇都宮城の攻防戦で負傷した土方に、島田が付き添って会津入りしたんだよな、とか。

一緒にいたいと土方に縋り付く島田。照英さん、渾身の演技です。
島田の慟哭が伝わってきて、思わずじわりときてしまいました。
冷静に土方の命令を受ける尾関も、気持ちは島田と同じだということが、その決意の籠もった表情の中に見てとれますね。
「心配すんな。どうせまた一緒に戦う時がくる。」
土方が島田の背中に置いた手。
その温もりを、島田が感じることはもう二度とないんだなぁと思ったら、胸が詰まりました。



武蔵野楼では、箱館政府の幹部たちによる宴が開かれていました。
もちろん、土方はいません。
女将が、土方なら昼間、溜まっていた勘定を払いに来た、と話します。
身辺整理をしている土方。
このことからも、彼が死ぬ覚悟を決めていることがわかりますね。
それにしても山本土方、立居振舞いがかっこ良すぎ。
これで、惚れずにいらりょうか。(爆)

箱館政府が商家から軍用金を集めようとした時、ただ一人反対したのは土方だった、と。
この話は、市内に言い伝えられているようですね。
日野の佐藤家にも、伝わっている話らしい。
このためか、土方の死後、箱館の商家がその慰霊を執り行っているそうです。
榎本は「律儀な男だ」と言ったけど、土方は農民の出身だから、このような時代に一番苦労するのが民であることを知っていたのでしょう。


新選組は、京の町で乱暴狼藉を繰り返した無頼の集まり・・・。
おいおい、大鳥さん。(苦笑)
その時、それは違うという声が・・・。
永井様です!
新選組は、けして京の人々には迷惑をかけなかった。自ら厳しい法度を設け、武士としてあるまじき振舞いを厳しく戒めていたと、永井様は訂正してくれます。
ありがとうございます〜〜。(涙)
永井様は、近藤局長の真っ直ぐな心根を、気に入ってくださっていたんですものね。

榎本と大鳥、二人の会話。
そして、榎本が座を見渡して宣言します。
「我らは明日、降伏する!!」
最初に予告で見た時、榎本のこの宣言に、うぎゃーーっと思ったのでした。
バックに流れる、組!!の(というか、箱館政府の、なのかな?)テーマ曲。
3拍子というのがどこか、愚かさというか哀れさを誘いますよね。


確かに、5月10日、箱館総攻撃の前夜、箱館政府の幹部たちは武蔵野楼で別盃を交わしました。
総裁榎本釜次郎(武揚)、副総裁松平太郎、陸軍奉行大鳥圭介をはじめとして、37、8人が残らず集まったと、人見勝太郎はのちに語っています。(『史談会速記録』)
陸軍奉行添役の大野右仲と相馬主計も、同席していたらしい。(『函館戦記』)
当然土方もいたと思われますが、名前は上がっていない。
三谷さんは、そこを上手く利用しましたね。




一方、酒も入って、活気溢れる新選組本陣。
「富士ノ白雪ヤ、ノーエ」
これは確か、多摩の農兵隊の歌ではなかったでしたっけ?
島田さんが鉄之助に酒を注いでやっています。
でもちょっと恐いって。それじゃまるで、“美女と野獣”だ。(笑)

鉄之助が無理に酒を飲もうとした時、それを止める手が。
土方は鉄之助に、無理に飲むことはない、酒に頼るのは弱い男だと言います。
あ〜、芹沢さんはそうでした。
酒に頼り、酒に呑まれ、酒のせい(瓢箪のせい)で死んでいったのでした。


土方は鉄之助を連れて、箱館山の中腹に登ります。
鉄、可愛い〜!!可愛いよ〜〜!! ほんと、女の子みたいだ。
山本さんが惚れるのも無理はない。
っていうか、山本土方、めちゃくちゃ嬉しそうなんですけど〜。(笑)

「一度きちんと礼が言いたかった。」
あぁ、それって・・・。それって・・・。(涙)
土方が胸のうちで何を思っているかを知らず、微笑んで首を横に振る鉄之助が、抱き締めたいくらいに可愛いわ。(爆)

眼下には、箱館の町の灯り。
この距離感を感じさせる撮り方が、いいですね。
新選組が好きかと訊ねる土方に、他に私のいるところはないと答える鉄之助。
そういえば、島田も昔、そんなことを言っていましたね。
王政復古の大号令が発せられて、徳川慶喜が二条城から大坂へ退去した時、やっぱり、他にいる場所がないって。
・・・なんか、泣けます。新選組はそんな奴ばかり。
土方からしてそうだろうし、まだ16歳の鉄之助まで、新選組しか居場所が無いなんて・・・。(涙)

鉄之助が突然、生き物の中で一番強いのは何でしょうか、と土方に訊ねます。
どうした?鉄。突然に・・・。(笑)
みんなで、そんな話をしたとのこと。熊か、虎か・・・。
しかし土方は、一番強いのは“ヌエ”だと言います。
「ヌエ?」
「知らなきゃ、自分で調べるこった。」
土方のこの言い方、なんか好き。


「鉄、頼みを聞いてくれるか。」
キターーーッ!!(涙)
土方に仕事を命じられるのが嬉しくて、わくわくしながら鉄之助が聞いた言葉は、今すぐここを離れて、多摩へ行くようにという指示でした。
日野の佐藤彦五郎にこれを届けてほしいと、土方は油紙に包んだものを、鉄之助に差し出します。
必死に拒絶する鉄之助に、
「命令に背く者は、斬る!」
と兼定を抜く土方。
新選組がこの箱館まで、薩長を相手にいかに戦ったか、多摩の人たちに伝えてほしいと。
お前に頼みたいと。お前の他に誰に頼める、と。
あぁ、このバックに流れる曲は・・・。絶望を感じさせる、この悲しい曲は・・・。(泣)

土方の気持ちを感じ取ったのでしょうか。
鉄之助は目に涙を溜めて、しっかりと頷きます。
「ここに、お前のことも書いてある。」
“使いの者の身の上、頼み上げ候  義豊”と書いた小切紙ですね。
それから、沖田みつという人を探して、これを渡してくれ、と頼む土方。
コルクだーーっ。
土方は、まるで別れを告げるように、あるいは何かを託すように、じっとコルクを見つめます。
「お守りだ」と言って、あんなに肌身離さず身に付けていたのに、鉄之助に託してしまうのですね。
え? もしかして、このコルクを鉄之助に渡してしまったから、土方はこのあと・・・?(嗚呼)

「先生は・・・死ぬおつもりなんですね?」
鉄之助〜〜。
鉄之助に背を向けている、土方の哀愁を帯びた表情。
堪らないです〜〜。(泣)


あぁ、すごい、いい。やっぱり、いい。
このシーンはほとんど、鉄之助が佐藤家に伝えたと言われる通りに、三谷さん、作ってありますね。
ここは、土方歳三ファンにとっては、まさに宝物のような大切なシーン。
正確にいえば、土方が鉄之助に形見の品を託して、箱館を脱出させたのは4月15日です。
第一次二股口の戦いと第二次の戦いの間の、土方が五稜郭に帰営した時であることがわかっています。

でも三谷さん、この話を“最期の一日”に入れてくれて、そして基本に忠実に場面を作ってくれて、本当にありがとう。
このシーンを、山本土方と池松鉄之助で見られて良かった・・・。幸せです。

他の隊士たち、特に、島田と尾関には悟られるな、と言って、土方は自分の短筒を渡し、鉄之助を送り出します。
走り去る鉄之助の、まだ華奢な背中がいじらしい。
そして彼を見送った土方は、岩の上に腰掛け、カンテラの灯を見つめます。
そのまぶしい灯りの中に、土方が見たものは・・・。



・・・それは、7年ほど前の江戸試衛館。穏やかな朝のひとコマでした。


永倉と原田の朝稽古の様子を、腕組みしながら楽しそうに見ている土方。
山本土方、色白過ぎます。朝日を浴びて、ハレーション起こしてます。(笑)
稽古が終わって家の中に入ると、総司と平助・山南・源さんが朝ごはんを食べていました。
わ〜い、トシのポニーテールを払う仕草、久しぶり〜〜。

世の中で一番強い生き物は何か、みんなに訊く総司。
あれ?この質問って・・・。
だから鉄之助に訊かれた時、土方は妙に嬉しそうな顔をしていたんですね?

素手で熊と戦って勝ったことのある源さんに、びっくり〜〜!!
加藤清正って言い出す左之助も相変わらずだし、それに突っ込む永倉さんも変わらない。
平助はお行儀が良くて、総司はお行儀が悪くて、山南さんはやっぱりにやにやしていて。(笑)

これって、板の間でご飯を食べてる総司たちと、土間で体を拭いている永倉&左之助と、別撮りなんですよね。
合成がみごとで、役者さんたちの演技も自然で、知らなければ全然気付かなかったと思います。


で、この時も、一番強いのは“ヌエ”だと言う土方。
頭は猿、胴は狸、尾っぽは蛇、手足は虎・・・って、すごい生き物ですね〜。
「手足は虎って、ここに虎がくっ付いてるのか?」
左之助に爆笑。あんたの思考回路って本当にすごい。(爆)
土方は得意そうに総司に説明しますが、横から山南が“ヌエ”は人の心が創った想像の生き物ではないかと反論します。

一番恐ろしいのは人ではないか。人は人を欺くが、獣は嘘を吐かない。
さすが、山南さん!と思わず私も呟きました。
自慢げに微笑む山南と、とたんに不機嫌になる土方の対比がいいですねぇ。
「そんな締め方でいいのか?」
「別に、もういいや。この話は。」
「お前が言い出したんだろ!」

土方の突っ込み、最高!!
そしてこの面子の会話が、やっぱりいいですよね。
キャラがすっかり出来上がっているから、視聴者をあっという間に7年前にタイムワープさせてくれます。
総司のメイクが濃くなっているのにはびっくりしたけど。(笑)


ちなみに“ヌエ”とは『平家物語』に出てくる化け物で、土方が説明していた通りの姿をし、黒雲に乗って空を駆けたといいます。
漢字で表記すると、“鵺”。
ツグミ科のトラツグミのことともいい、また、トラツグミに鳴き声が似ていたともいいいます。
トラツグミは、ヒューヒューと口笛のような鳴き方をするとか。
そういえば、土方と鉄之助が話している時、梟の声に混じってそんな鳴き声もしていませんでした?

仁平3年(1153)、ヌエの出没に悩まされていた近衛天皇は、源頼政にその退治を命じました。
頼政は郎党とともに御所の警備につき、やってきたヌエを弓矢で射落としたといいます。
頼政はその手柄により、獅子王という剣を天皇から下賜されました。
けれど治承4年(1180)、頼政は以仁王を奉じて平家を追討しようとして敗れ、宇治の平等院で討死しました。

世阿弥はこの説話をもとに、ヌエの亡霊を描いた、能「鵺」を創作しています。
そして同様に、平家に敗れた頼政の霊のことを、能「頼政」で描いています。
成仏できずに僧に回向を請う両曲を書くことで、世阿弥は歴史に善悪などないことを、絶対的な勝敗などないことを伝えたかったのではないかといわれます。


長くなりました。回想シーンに戻りましょう。

一人別室で食べている近藤先生も、こちらに呼んであげましょうと提案する総司。
土方は平助に呼びに行かせようとしますが、山南がそれを止めます。
近藤先生は天然理心流宗家を継いだ方、食客と一緒に食事を取るべきではない。
寂しいかもしれないけれど、それが道場主というものだ。

実は最初にこの山南の台詞を聞いた時、慎吾くんの撮影ができなかった言い訳のように感じられちゃったんですよねぇ。
でも何度か観るうちに、今の土方の立場と寂しさにリンクさせているのかと思いました。
さっきも島田と尾関に、早く榎本のところへ行けと言われていたし。



風に吹き消される、カンテラの灯。
思い出とともに、儚く消える。
「みんな、いなくなっちまった・・・。」
土方が呟きます。
この言い方、意外と乾いているのに、ちょっと驚きました。
もっと泣けと言わんばかりに、口にされると思っていたのに・・・。
でもね、だからこそ、その表情に泣かされるんですよね。

土方は兼定を手に立ち去ります。
あれ? カンテラは置いていっちゃっていいの?



酒が振舞われて、盛り上がっている新選組本陣。
そこを抜け出そうとしている鉄之助。
必死のあまり、お口をぽっかり開けているのが可愛い。
あともう少し・・・と思ったら。
わぁ、捕まったーーっ!!

「土方さんは死ぬ気だ。」
やっぱり、わかっていたんですね? 島田と尾関。
そして鉄之助が土方から預かったものを見て、そのことを確信します。
五稜郭へ行って土方と一緒に死ぬと言う島田を、必死に引き止める尾関。
尾関は言います。
自分たちに新選組を託した、副長の思いを大事にしようと。
なにがあっても生き延びて、新選組を引き継いでいこうと。
「あの人の目はまるで変わっていない。勝負を最後まで捨てない、鬼の副長のまんまです。」
島田も熱いけど、尾関がさらに熱いです。

島田がすごい勢いで、鉄之助に歩み寄ります。
怯えてるよ〜、鉄之助。
やっぱり“美女と野獣”だ。それとも“小鹿と獅子”かな。
池松くんが上手いですよね。表情がすごく良い。
「走れ!多摩まで走り抜け!!」
「はいっ!!」
島田の激励を受けて、駆け出す鉄之助。
多摩までの道のりを思うと、つい涙が・・・。



暗い林の中の道を、土方が馬でやってきます。
反対側から提灯を片手に、やはり馬でやってきたのは、永井様でした。
このシーン、ロケですよねぇ。
『新選組!』はスタッフさんが素晴らしい職人さんばかりで、紅葉の嵐山や川の流れる刑場をスタジオにみごとに作り上げてくれましたけど、やっぱりロケの画面は違いますよね。
本物は香りがする。土の香り、木の香り、風の香り・・・。
だから今回はロケが多くて、とても嬉しいです。


二人は近くの民家の軒先に腰掛けて、話をします。
このツーショット、面白いですね。
洋装の土方と具足姿の永井様。
武蔵野楼でも士官はほとんど洋装の中で、具足姿は永井様だけでしたが、お似合いです。
徳川の意地を貫いているって感じがします。

自分は榎本を好きになれないと、土方は永井様に告白します。
兵士が戦っている時に、昼間から部屋で菓子を食っているような男・・・。
そりゃ、私もイヤだわ。(苦笑)
けれど永井様は、あれはあれで性根の据わった男だと評します。
理屈でものを考え過ぎると批判しながら、自分に戦う場所を与えてくれた、と榎本に感謝する土方。

やはり、ずいぶん器が大きくなりましたよね。
昔は、好き嫌いの方が先に立っちゃっていたのに。
たとえ相手の良さがわかっていても、つい反発して受け入れられずにいたのに。


「それよりも永井様。」
報告のために、永井様の前に片膝を付く土方、素敵です〜。
背中から流れ落ちるフロックコートの裾が、めちゃくちゃお洒落じゃありません?

明日の総攻撃が、最後の決戦になるような気がする。薩長の奴らに、徳川家臣の本当の力を見せつけてやります、と、決意を述べる土方に、永井様は、すでに榎本が降伏を決め、新政府軍と交渉を始めていることを伝えます。
「まだ負けてない!!」
思わず叫ぶ土方。

自分が今日まで生き続けてきたのは、近藤勇の無念を晴らすため。
「あの人が死んだとき、俺の人生も終わった。それでも俺が死ななかったのは・・・」
近藤斬首の報告を受けた時の絶望する土方が、目に見えるような気がしました。
流山で、無事を祈るように、近藤と別れた土方。
その祈りが無に帰した時、土方は泣いたでしょうか。叫んだでしょうか。
いや、寧ろ、言葉もなく淡々としていたかもしれません。すべてが空虚になって・・・。
近藤さんを大名にする、近藤さんにあんな思いはさせないと、自分のすべてを近藤勇に賭けてきた土方であれば、その近藤を失った時、自分の存在理由すら無くしてしまったのかもしれませんよね。

「今、薩長に白旗を揚げたら、俺はなんと言ってあの人に詫びたらいいんですか!!」
必死で叫ぶ土方に、胸が潰れるような気持ちです。
さらにここへ、この曲のこの旋律を被せてくるなんて。


感情のありったけをぶつけてくる土方に、
「ごめんなさいで、いいじゃないか。」
と諭す永井様。
「それで怒るような近藤さんじゃないだろう。」
永井様ーーーっ!!(号泣)
ずるいです、永井様、その台詞。

山本さんがまた、上手いんですよね。
感情が極まって、微かに震えているんです。
眉間に力を入れて、涙を必死に堪えて。それでも瞳が潤んできて。

永井様の言うとおり、近藤さんはきっと許してくれるでしょう。
だけどきっと土方は、自分で自分が許せないんだと思う。
近藤を救えなかった自分が。薩長に降る自分が。一人生き延びる自分が。

西郷や桂がどんな世の中を作るのか、見届けてやろうと説く永井様の優しさを振り切るように、土方は目を閉じて息を吐きます。
永井様と視線を合わせるのを避け、兼定を掴み馬に跨る土方。
榎本に降伏を思い止まらせる、さもなくば榎本を斬る、と言って、土方は五稜郭へと向かいます。
最後に永井様を見た、思い詰めた視線は、西本願寺で鬼になっていた頃の眼差しでした。


佐倉藩士依田学海の残した『譚海』には、土方の言葉として、
「吾、近藤昌宜と倶(とも)に死せざるは、一に故主の冤を雪(すす)がんと欲せしむのみ、万一赦(ゆるし)に遭いては、何の面目ありて地下に於ける昌宜に見(まみ)えんや。」
と書かれています。
また、小島鹿之助がまとめた『両雄史伝』をもとに大槻盤渓が撰文を書いた、高幡不動尊の『殉節両雄之碑』には、
「義豊愀然語人曰我昔日所以不与昌宜倶死者期有以一雪君之冤也今如此唯有死」
とあります。
自分が近藤勇とともに死ななかったのは、徳川の、近藤の、そして自分たちの冤罪をはらすためであると。
そして今このような状況となっては、ただ死有るのみと。
実際の土方の覚悟が、山本土方らしい言葉で、切実に語られていたシーンではないかと思いました。




土方は単騎、五稜郭に向かい駆けていきます。


掘り起こされる土。青々とした緑。
山道を下から上ってくるのは、笠を目深に被った、土方と斎藤です。
穴を掘っている人夫たちの横に佇んでいるのは、僧侶。
これは、近藤さんのお墓を建てるシーンですね。

「ここでは駄目だ。もっと上だ。」
三谷さん、山本さんが天寧寺のお墓で感じた土方さんの気持ちを、台詞にしてくれてありがとう〜。(感涙)
会津のお城と町が一望に見渡せる場所を見つけて、頷きあう土方と斎藤。


青い空の下、緑の木々に囲まれて、近藤勇の墓は建てられました。
“貫天院殿純忠誠義大居士”
戒名が書かれたばかりの、白木の墓標。
スタッフさんたちが、近藤さんのお墓を雨曝しにするのは忍びないからと被せた祠は、2話で近藤と土方が「一緒にでかいことやろうぜ」「考えとく」と言って別れたシーンで、道端にあった祠だそうで。
あぁ、バックに流れているのは、あの時のBGM『誠の友情』ですよ。(涙)

斎藤が墓に供えたのは、容保様から下賜された虎鉄ですね。
そうか。あの時、自ら手を差し出していただいたのは、近藤さんのためだったのか・・・。
その後ろで、土方は脇差でだんだらの羽織を2つに割きます。
片方は墓前へ。そしてもう片方は、自分の手元に置くつもりでしょうか。
二人は静かに手を合わせます。
その後ろに近づいた人影は・・・。この赤い陣羽織は・・・。

殿です。容保様です。
つぶらな瞳を瞬いて。
なんか、この殿を見ると、ほっとするんですよね。
誠実で優しいお人柄そのままで。

近藤のことを思い浮かべたら、この戒名の、この字しか思い浮かばなかったと容保様。
俗名は入れないのか、という問いに土方は、素性がわかってしまうと、薩長の奴らに何をされるかわからないからと答えます。
「長岡も落ちた。次は会津だ。」
殿〜!!そんなにさらりとおっしゃらないで下さい〜〜。
この後会津で起こる悲惨な戦いを思うと、堪りません。(涙)

もはや会津に勝機はないと、すべてを覚悟した容保様の言葉に、まだ勝負はついていない、殿は自分たちがお守りすると誓う土方。
しかし容保様は、「北へ行け。榎本武揚と合流せよ。」と土方の進むべき道を示します。
迷う土方に、「殿と局長は俺が守る。あんたは心おきなく戦ってくれ。」と背中を押す斎藤。
あ〜、斎藤はいつも黙って土方の傍にいて、土方の本心を見抜いていましたっけ。
鳥羽伏見で敗れて江戸に戻る前も、新選組の編制表を破ろうとした土方に、「とっておけ」と言ってくれたんでしたっけ。

斎藤の最後の「承知!」。そして最後の恩返し。
墓標を見つめる二人と、そんな二人を優しく見守る容保様。
優しく温かいシーンになりましたね。
辛いばかりのはずの会津でのエピソードが、こんなに素敵なシーンになるなんて。
きっと土方にとっても、宝物になったことでしょう。
そしてもちろん、私たちにも。
ありがとう、三谷さん。そして、スタッフ&キャストの皆さん。


土方は厳しい表情のまま、五稜郭に向かって駆け続けます。



土方が五稜郭へ戻ってきました。

この帰営するシーン、スタパで撮影を見ていたんですよねぇ。
最初に、颯爽と上がっていく後ろ姿にドキドキして。
そして、上がってきた表情の険しさに驚いて。
かなり戦況が悪化してきたんだろう、いよいよ最後の出陣のために戻ってきたのかな?なんて想像しながら見ていたんですけど、まさか、降伏を考える榎本を説得しようとしていたとは!!


自室にいる大鳥のところへ、兵士が土方の帰営を報告しに来ます。
榎本総裁には会わせなくていい、あとで自分が会うから待たせておけ、と大鳥。
すべてが洋風で明るい榎本の部屋とは対照的に、和風でどっしりと落ち着いた大鳥の部屋。
最初に吹越大鳥を見た時、この髷に違和感があったのですが、こうして彼自身の空間の中で見ると、悪くはないですね。
大鳥さん、なんかちまちまと作っていますよ。(笑)


そして、会議室で待ちぼうけを食わされている土方です。
愁いを帯びた表情がいいですね〜。
それに、うなじに色気を感じるんですよ。
このショットだけで、私、ご飯3杯はいけます。(爆)

目の前にあるのは、箱館のジオラマ。
大鳥はこれを作っていたんですね。
雪に閉ざされて休戦していた頃から、せっせと作り上げてきたのでしょうか。
五稜郭には日章旗と王将の駒が立っています。


大鳥がやってきました。
榎本に会わせろ、用件は私が聞く、という問答のあと、負けてもいないのに何故降伏するのかと土方が問います。
全滅を避けるためだ、今さら異を唱えられても道理に合わない、と答える大鳥。
そして逆に、今夜、総裁は君を待っていたのに、なぜ来なかったのかと土方を問い詰めます。


二人のこのやり取り、榎本の自室にまで聞こえているようです。
榎本が書いているのは、新政府軍への降伏の書状なのでしょうか。

今夜は、死ぬ覚悟で別れの盃を交わしているのかと思っていた。ところが実際は、降伏を前にしての宴だったんじゃないかと詰る土方。
「てめぇら、生き延びるつもりで酒を喰らってたんだろう。そんなところへノコノコ顔を出してみろ。土方歳三、末代までの恥になるところだった。」
土方の言葉にふと顔を上げた榎本が、窓の向こうに見えるその姿に微笑みを洩らします。

このシーンがいいですね。
榎本の部屋から会議室が見えて、窓越しに言い合っている土方と大鳥を見ることができる。
五稜郭の箱館奉行所をそのままスタジオに作ってしまった、このセットの良さが生きています。
榎本が部屋で聞いているショットになると、大鳥と土方の声が遠くに聞こえるのも、音声さん、いいお仕事しています。


状況は日に日に悪くなっている。それを見極め、軍を率いるのが我々の務めだ。ただ攻めるだけの戦好きとは違うのだ!
嫌味の一つも加えつつ説明する大鳥に、
薩長軍を蹴散らして勢いに乗っている時に、ありもしない敵の反撃に怯えて退却命令を出し、状況を悪くしたのはどこのどいつだ!
と激しく言い返す土方。

これは、二股口を撤退しなければならなかったことを言っているのでしょうかねぇ。
でもあの時は、本当に孤立することが予想できたから退却した訳で、それはたぶん、土方さんも納得の上でのこと。
単に三谷さんの創作でしょうか。


声を荒げて大鳥を詰りながら、兼定の柄でジオラマの駒を弾き飛ばしていく土方。そして、慌ててそれを拾う大鳥。
二人の息がぴったりで、すごくリズム感のあるシーンになっています。
動きながらの掛け合いって、難しいと思うんですよね。
稽古の時間も少なかったでしょうに、これだけ呼吸を合わせられるというのも、舞台経験豊富なお二人だからでしょうか。
「言いがかりだ!」
「前に出なくちゃ、勝てやしねぇんだよ!!」
土方に詰め寄ったはずの大鳥が、土方の勢いにじりじりと押されて、あとずさるのも面白い。
二人の背丈のバランスが、すごくいいんですよねぇ。
大鳥は背が低かったといいますから、実際にこんな風に議論する場面もあったかも?

降伏は申し入れるが、薩長の出方次第で、自分は再び闘うつもりでいると告白する大鳥。
「聞かせてもらおう。」
大鳥の考えている戦略は、五稜郭に篭城して冬を待ち、敵が一旦兵を引いたところで、薩長に不満を持つ者たちを蝦夷地に呼び寄せ、再び戦うというもの。
しかし、土方は、
「甘い!!」
と一言で却下。(笑)
「無礼であろう。」
目を丸くして言い返す大鳥が可愛いです。
「学者さん、もっと人の心を読めよ。」
土方は、すでに負けた奴のいったい誰が、海まで渡って援軍に来てくれるのか。薩長が我らを包囲したあとも、蝦夷地の民が変わらず味方してくれると思うのか、と批判します。
「最悪の場合を考えるのが、策っていうもんじゃねぇのか。世の中、机の上の計算の通りにはならねぇってことだ。」


土方さん、その言葉は・・・!!
“あらゆることに備えて、策を練っておくのが軍議ではないか!!”
池田屋事件の前の軍議の時に、山南さんが怒鳴った台詞ではないですか?
あの時、土方は黙ってしまったんですよね。
それで山南の言うとおりに会津へ援兵を要請し、さらにはあらゆることに備えて、屯所の守りも固めた。
山南も学者肌で、その知恵は書物から得た知識がほとんどでした。
机上の空論を嫌う土方だけど、でもそれが尤もなことであれば受け入れる。
あの頃の山南の知恵が、今の土方の考え方を支える一部にしっかりとなっているんですね。


「参考までに聞かせてもらおうか。」
土方の戦略は、小さな戦を仕掛けて何度も勝つ。そして相手に、この戦が永久に続くのではないかという恐怖を与えるというもの。
しかし、大鳥は、
「そんな策があるか!!」
と一言で却下。(笑)
その先にあるのは全滅だと批判する大鳥に、全滅はさせない、約束する!と土方は誓います。
大鳥は一瞬言葉を失って、「もういい」と議論を打ち切ろうとして。

「ひーじーかーたーくんっ!!」
この言い方、最高!!
すっかりツボに入ってしまいました。(笑)
「お前では話にならん!」
「お、お前とはなんだ?」
「どけ!!」
あ〜あ、突き飛ばされた。(笑)
この飛ばされ方がまた、お見事で。
吹越大鳥に惚れました。(爆)


ズカズカと榎本の部屋へ向かう土方と、追いすがり、必死で止めようとする大鳥。
「では榎本を斬ってお前も斬る!」
「だ、誰かーーっ!」
兵士たちが土方を囲み、土方も兼定を抜こうと身構えます。
ここの流れも、ハードでスピード感があって、かっこいいですよね〜。
そして、自室から出てくる榎本が、またかっこいいんだ。
「土方くん」
予告で聞いたこの一声で、落ちましたもの。(爆)

「どうぞ、私の部屋へ。」
「それでは、私も。」
「大鳥は外してくれ。」
「え?」
思わず爆笑。
「総裁がお呼びなので、行ってくるわ。」
この土方の言い方。(笑)
大鳥さん、落ち込んでますよ。

さらに大鳥の受難は続きます。
土方は突然、昨年暮れに行われた総裁選出の入れ札の話を始め、
「あんた、1点だけ入ってたな。お前、自分に入れたろ、自分に。かっこ悪かったぜ。」
言ったかと思うと、大鳥のモミアゲを指先で弾いて、さっさと榎本の部屋に入っていってしまいました。
兵士たちの中にポツンと残された大鳥。
「今、ここで、言うことではないだろうーーっ!!」「今ここで言うことではないだろう」
呟きながら、慌てて自室に戻っていく大鳥が最高です。いや、哀れです。(笑)


三谷さん、こんなところに史実ネタを使ってくるとは思いませんでした。
明治元年(1868)12月、蝦夷地を平定した旧幕府軍は、箱館政府としての選挙を行いました。
まず最初に閣僚候補を選ぶ投票が行われ、次に役職ごとの投票が行われたとみられ、総裁選の結果は以下のように、沢太郎左衛門が記しています。
 榎本武揚  155点
 松平太郎   14点
 永井玄蕃    4点
 大鳥圭介    1点
この大鳥圭介の1点を本人が入れたかどうかは・・・知りません。(爆)
ま、三谷さんが上手くキャラ作りに使ったということでしょうか。



ところで、以前にも書きましたが、私は実際の土方と大鳥を、土方=常勝将軍、大鳥=常敗将軍とは思っていません。
土方だって負けていれば、大鳥だって勝っている。
それぞれ、運や天候にも左右されているし、圧倒的な人数差で勝ち負けが決まってもいます。

ただ、土方はそれこそ、いいとこ持っていってるんですよね〜。
宇都宮城を落として、松前城を落として、二股口では負け知らず。
だからどうしても、創作ものではそこにスポットが当たるし、対比として大鳥がヘタレに描かれてしまう。

今回は、そういうイメージを取り入れつつも、性格や考え方の違いからくる戦い方の差として、三谷さん、上手く描いていたと思います。
学者肌の大鳥は、緻密に計算をして、確実で安全な戦略を取っていこうとする。
現場の叩き上げの土方は、経験と勘で、勝利をもぎ取る戦法を立てる。
大鳥のやり方ではなかなか勝てないかもしれませんが、土方のやり方では危険も隣り合わせだったりします。

はてさて。
その昔、土方と山南がタッグを組んで最強だったように、大鳥と土方も協力し合って作戦を立てていれば、新政府軍に勝てていたのかもしれないのにね。
・・・って、これはドラマであって、歴史は変わりませんが。(苦笑)



「君と大鳥は愉快だね。顔を合わせるたびに、いつでもいがみ合っている。」
確かに。(笑)

榎本が分析するに、大鳥は、土方がいつも自分には思いもよらない戦をして勝ちをおさめるから、やっかんでいるらしい。
「あれも、根っからの戦好きなんでね。」
ふ〜ん、そうなのか。
あの凝ったジオラマ作りも、戦好きが昂じたものということなのかな。

榎本は、大鳥と土方が存在するこの旧幕府軍は、日本で最強の軍隊だと言います。
天気さえ味方してくれていれば、こんなことにはならなかったと。

これは、暴風雪で軍艦開陽が座礁沈没してしまったことと、宮古湾海戦では暴風雨が原因で作戦に支障をきたし、大きな犠牲を出して結局敗走しなければならなかったことを差しているのでしょうか。


君とは一度膝を交えて話がしたかったという榎本に、酒は一人で飲むものだと答える土方。
さらに、葡萄酒を勧められれば西洋の酒はやらないといい、サンドウィッチを勧められれば握り飯の方が食べやすいという。
かわいくねぇよ。(苦笑)
でも榎本さん、これぐらいでは動じません。

「君は西洋の文化に対して、かなりの偏見をお持ちのようだ。」
「俺は西洋が嫌いなんじゃない。西洋かぶれが嫌いなだけだ。」
「しかしそういう君は、今どんな格好をしている。」
「洋風にしたのは、そっちの方が便利だからだ。俺は無駄が嫌いなだけだ。」
「だからそれが西洋流の考え方だと私は言っているんだがね。つまり私と君は似た者同志という訳だ。」

実は榎本は、土方と親しくなりたいとずっと思ってきたのかしら。
戦闘を指揮する手腕を買っているのはもちろんのこと、洋風を素早く取り入れ、自分のものにしてしまう才能も、一本筋が通った性格も、気に入っていたのかもしれませんね。

このドラマでは描かれませんでしたが、前年、仙台で開かれた奥羽列藩同盟軍の軍議の席で、榎本は土方を同盟軍の総督に推薦しています。
結局総督就任は実現しませんでしたが、実際に榎本は、土方という人物を高く評価していたのでしょう。


「その西洋かぶれのとんがった髭を手入れするのに、どれだけの手間を毎日かけてる。」
「好きでやっているんだからいいだろう。」
「無駄のない西洋流が聞いて呆れるぜ。」
「形から入るのも大事だということだ。」
「あんたは西洋の形ばかりを真似る。俺は理に叶ったことだけを受け入れる。俺とあんたでは、申し訳ないがまるで違う。」

いや〜、かわいくないです、土方さん。(笑)
榎本と自分が似ているなど、絶対に認めたくないらしい。
でもさ〜、近藤さんと総司に初めて洋装を披露した時、「俺は姿かたちから入るんだ」って言っていませんでしたっけ?(爆)
「まぁ、いいや。」
さすがの榎本さんもお手上げらしい。
そして二人は、本題に突入します。



降伏を取り下げてもらいたい、と請う土方に、それはできないと答える榎本。
榎本さんの表情が、急に険しくなりました。惹き付けられますね、愛之助さん。
では仕方がない、と土方は兼定を抜き、榎本に突きつけます。
しかし榎本は動じません。
永井様が性根の据わった男だと評していたのは、確かなようです。

「私を斬ってどうする?」
「これからは俺が全軍の指揮を執る。」
「他の者が言うことを聞くかね。」
「説得してみせる。」
「悪いがそれは無理だね。」
畳み掛けるような応酬が素晴らしいです。
榎本の正面から撮っていたカメラが土方の正面へと回りこんでいくのは、『流山』で近藤と有馬様が対峙していた時と同じ手法ですね。

自分に100人の兵を預けてほしい、必ず形勢をひっくり返してみせると頼む土方。
しかし榎本は、それは無理だときっぱり。
この戦の勝敗がすでに決まっていることを一番よく知っているのは、誰よりも勝ち方を知っている君のはずだと言います。


「あんた、死にたいんだろう? 1日も早く戦でさ。」
予告でこの榎本の台詞を聞いた時、それこそ刀を突きつけられたような気がしました。
こちら・・・というか、土方が刀を突きつけているはずなのに。
榎本はすべてお見通しだった訳ですね。
一気に主導権は榎本が握ります。
榎本に促されるまま、兼定を下ろす土方。
「いろいろ御託を並べちゃいるが、要は死に場所を求めているだけだ。そんな物騒な奴に、俺の兵を預けられるかっ!!」
ご尤も。

だけど、土方もここで引き下がる訳にはいきません。
今さら薩長に頭を下げる気はない、と、改めて榎本に刀を突き付ける土方。
榎本はついに本心を語ります。
明日の今頃は、自分も腹を切っている。自分の命と引き換えに、皆を救ってもらうつもりでいる、と。
榎本の覚悟を知って、土方は動揺を見せます。
「こう見えても俺だってサムライだよ。あんたも本気のようだが、私だって本気なんだ。だからそいつを納めてくれねぇか。」
愛之助榎本の江戸弁は、ちょっと上品過ぎるんだけど、逆にそれが貫禄を感じさせますね。
関西のイントネーションをまるで感じさせない台詞、お見事です。
そして、山本さんの指導もグッジョブかな?

しばらく対峙する二人。やがて土方は、思い詰めた表情で、兼定を鞘に納めます。
この納め方、めちゃくちゃかっこよくないですか?(爆)
「兵はいらん。だったら俺一人斬り込ませてくれ。俺が死んだあとで降伏すりゃぁいい。」
膝を付いて懇願する土方に、
「悪いがそいつもできねぇな。」
と無情にも拒絶する榎本。
もうこれ以上、自分以外の誰一人も死なせないと、榎本は告げます。
「だったら俺はどうすればいい?!」
追いつめられて行き場のなくなった土方が、思わず苦悩を吐き出します。

傷ついた自分を曝け出すなんて、よほど心を許した人の前でしかありえなかった土方が、榎本に対してその心を開いてみせている。
驚きですね〜。
榎本が本心を打ち明けてくれたから、土方の心も開いたのでしょうか。
もしかしたら、この時点ではまだ土方は、自分では気付いていないと思いますが、榎本の覚悟を知り、その度量の大きさに打たれたことで、急速に榎本という男に惹かれていっているのかもしれませんね。

「どうするかねぇ・・・。ん・・・。そうだな。とりあえず一杯やんなよ。」
器がでかいや、榎本さん。(惚)


うわぁ! 既に敵が上陸してきたようですよ!!



絨毯の上に胡坐をかいて、葡萄酒を飲み始める二人。
こんなのもいいですね。
榎本が葡萄酒の薀蓄を語りだします。
初めて葡萄酒を口にする土方。
「悪くないだろ。」
「悪くはない。良くもないが。」
かわいくないな〜。(笑)
だから好き。(爆)
サンドウィッチも勧められる土方。
白パンじゃないところが、リアルですね。
中に挟んであるのは、チーズとハムかな?


土方は、あんたという人間がどうしてもわからない、と榎本に言います。
仙台で初めて蝦夷地に渡る話を聞かされた。
開拓を進め、力を蓄えて、独立を目指す。薩長に張り合って、日本にもう一つ新しい国を作る。
あんただって、それが夢でしかないことはわかっていただろう。でもそれで良かった。
俺たちの思いはただ一つ、薩長に一泡吹かせること。だから俺は榎本武揚に賭けた。
それなのにどうして、今になって奴らに頭を下げるのか。なぜ最後まで戦おうとしないのか。
「俺ははっきり言って、あんたに失望した。一時でも榎本武揚に、近藤勇を重ねた自分が恥ずかしい。」

史実はどうあれ、山本土方だったら、死に場所を探しているのもアリかなとは思っていました。
でも、やっぱり死に場所を求めて戦っていただけじゃなかったんですね。
薩長に一泡吹かせるという意地のため、信念のため、榎本武揚という男に賭け、榎本を支え、最後まで戦おうとしていたんだ。

そんな土方に榎本は言います。
「勝手に近藤さんと重ねて、勝手にがっかりされたんじゃ、こっちはたまんねぇな。」
おっしゃるとおり。
土方に真っ向から批判されて、さらには近藤勇と比較されて、はすっぱな言い方をする榎本がかっこいい。

この二人の葡萄酒の飲み方の違いが面白いんですよね。
さりげなくグラスを持って、美味しそうに飲む榎本に対して、盃の日本酒をちびちび飲んでる感じの土方。

「近藤さんは信念の人だった。正しいと思った道を、あの人はひたすら歩き続けた。真面目さが首を絞めたこともあったが、人はそのまっすぐな生き方に惚れてあの人についていった。」
土方が近藤のことをこんなに語ったのは、初めてではないですか?
“かっちゃんlove”なのは十分わかっていましたが、言葉にしてもらえるなんて思ってもいませんでした。
なにか新鮮。
続編で初めて『新選組!』を見る人への説明ということもあるかもしれませんが、榎本に語りたい、語らなければならないと思ったのかもしれませんね。

榎本は土方の言葉を真剣に聞いています。
けれどさすがに「あんたとは違う。」と言われて、「私は榎本武揚だ」と言い返す。
そりゃそうだ。自尊心、傷つけられますよねぇ。
そして榎本は、土方の見方を訂正します。
あの時、自分は本気だったと。蝦夷地に新しい国を本気で作ろうと思っていたと。
「来たまえ。」
土方を望楼へと誘う榎本。


海岸に上陸した新政府軍が、闇に紛れて、険しい山を登っていきます。
来るぞ、来るぞーー。



望楼へ向かって廊下を歩きながら、君はリアリストかもしれない、と土方を評する榎本。
そして自分のことを、こう評します。
「まぬけなロマンチストさね。」
言ったとたん、3拍子のテーマ曲が流れ始めるところがいいですね。

薩長は新しい国を作ると言いながら、徳川の力を奪い取り、山分けしているだけだ、と榎本は批難します。
しかし自分は、何もないところから新しい国作りを始めたかったのだと言う。


「見たまえ。この豊かな広々とした土地を。」
望楼の窓から見渡す箱館の町。
この時の画がいいですよね〜。
榎本と土方の肩越しに見える、箱館湾と箱館山。そして山の麓にちらちら見える町の灯り。
榎本が語るとおり、蝦夷地の広がりを感じさせます。

水は清く土も良く、その下には鉱物資源が計り知れないほど眠っている。
この地を踏んだ時、ここなら新しい国が生み出せるに違いないと思った。
「薩長に張り合って、この地に新しい国を作る。我ら自身の手で。」
目を輝かせて、自分の夢を語る榎本。
土方は訊きます。
あんたは今まで、本気で薩長に勝つつもりでいたのかと。
「もちろんだ。」
「あんたは馬鹿だ。」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ。」

このやり取りがいいですよね。
土方の「馬鹿だ」にも、すでに親しみが篭められていて。
好き嫌いの激しい土方の気持ちを、この短い時間でここまで引き寄せた、榎本の人柄に感服してしまいます。

「しかし、夢は醒めた。」
醒めたからには、自分の夢に力を貸してくれた人たちを救うのが、自分の仕事だと榎本は言います。
戦が終わったら、この地で牛を飼うことにしていた。何万頭もの牛だ。
牛の乳は、西洋人にとって大きな滋養のもと。乳からはバターやチーズが作られる。
嬉しそうに語る榎本の言葉に、
「牛?」
「チーズ?」
と聞き返す土方は、なんとなく心ここにあらずという感じで。
やはり、自分は救ってなどもらいたくはない、降伏などしたくないという思いが、頭を駆け巡っているのでしょうか。

でも、さっき葡萄酒の感想を訊かれた時は、「悪くはない。良くもないが。」なんて意地を張っていたのに、今度チーズの感想を訊かれると、「美味かったろ?」「ああ。」って素直に認めて。
少し了見が広がりましたか?(笑)
この広い大地を開拓し、農業や牧畜を盛んにして、人々を豊かにする。
薩長が作る国よりも、素晴らしいものにしてみせる。
夢は醒めたと口では言いながら、つい語りたくなってしまう。
本当は榎本も、捨てられないでいるのでしょうね。
この希望を表すBGM、『勇姿颯爽』が、「すべては夢に終わった・・・。」という榎本の言葉とともに、フェードアウトしていくのが上手いです。



そこへ、大鳥が階段を上ってきました。
「探したぞ。」
榎本に声をかけたのに、
「おう。」
と土方に頭上から答えられて、ちょいムカ!な大鳥。
榎本さんじゃないけど、この二人ってほんと、愉快だわ。(笑)
戻ってきた各陣の指揮官たちが、先のことを不安に思っている。総裁から一言もらいたいと、大鳥は榎本に請います。
快諾した榎本は、土方も誘います。
 

 

前へ 戻る 次へ