大河ドラマ「新選組!」のツボ

 

第48回  流山  

“(甲州勝沼の戦いから)散り散りに江戸に戻った近藤たちは、江戸の中心部を避け、北東の五兵衛
 新田で密かに再起を期していた。”


近藤と土方が、川でのんびり釣りをしています。
「京にいたのが、夢のようだな。昔、多摩で遊んでいた頃のことを思い出す。」
遠い目をして話す近藤に、
「覚えてねぇな。」
と土方はそっけない。(笑)
「人は変わらないと駄目なんだ。俺には振り返ってる暇なんかねぇ。かっちゃん、ここで新しい新選組
 を作ろう。」
「まだやるか。」
「当り前よ。これからだ。」
「これからか。」
「あぁ。」
希望に満ちた土方の笑顔。
こんな表情、久しぶりだな〜。京へ上る頃は、みんなこういう表情をしていたような気がする。
昔を振り返る近藤と、先を見つめている土方。その違いは、残された時間の差からくるのだろうか。
でも、土方の希望が伝わってきたのかもしれません。
近藤は立ち上がって腕を組むと、明るい表情で空を見上げて、
「これからだ。」
と応えます。

そこへ周平が、帳面に何かを書き付けながら歩いてきました。
「周平、何をしている。」
「どうして五兵衛新田て言うか、知ってます?」
「いや。」
「ここは、徳川様が江戸に幕府を開かれた頃に、方々からやってきた人が開拓した場所らしいです。
 京極弥五郎さんという人が切り開いたのが、弥五郎新田。金子五兵衛さんが切り開いたのが、五
 兵衛新田です。」
嬉しそうに説明する周平。笑顔がめちゃくちゃ可愛いなぁ。
「よく調べたな。」
近藤が周平の肩に手を置いて褒めてやると、
「こういうの、好きなんです。」
にこにこ笑って去っていきます。
二人の背後をにぎやかに駆けていく、子供たちの姿も安らぎますねぇ。

「あいつは変わり者だな。」
そう言って、近藤が土方の方を振り向くと・・・、いない。(笑)
川の向こうで、村娘が何かにハッとして立ち尽くしています。
村娘の視線の先を辿ると、そこにはキザなポーズで娘を見ている土方が!(爆)
指で弄んでいた葉を娘の方にふっと吹いて、微笑んでみせれば、娘ははにかんだ笑顔を見せて、頬
 に手を当て、慌てて駆けていきます。
それを、にやりと見送る土方。
さすがだわ、土方さん・・・。(苦笑)
「変わってない・・・。」
呟く近藤さんが最高です。

五兵衛新田で、土方が釣りをしていたという話が残っているんですよね。
あと、村の娘たちが、「いい男だ」と騒いだという言い伝えも。
最終回前に、このエピソードを上手く入れてきた三谷さん、ありがとう〜〜。


“一方、江戸に迫る新政府軍は、3月15日を江戸城総攻撃と定めたが、旧幕府軍の実質的な責任
 者、勝海舟はその目前、大きな賭けに出た。西郷吉之助を、薩摩藩邸に訪ねたのである。”

西郷さん、髷を落としてしまいましたねぇ。
「話は簡単だ。江戸の町は、あんたにやるから、明日の総攻めは、やめろ。」
いきなり本題に入られて、驚く西郷さん。
「まぁ、慶喜公のこととか、軍艦のこととか色々あるけど、まぁそれはゆっくりと話せばいいよ。とりあ
 えず、そういうことだから。いいな。」
いいなって急に言われても・・・と突っ込んでしまいましたが、西郷さんは「はい。」と即答。さすがだ、大物は違う。(笑)
「よし、細かいことは奥で話そう。俺の部屋じゃねえけどな。」
「ふははは。」
勝のペースに、爆笑する西郷さん。


手紙を読んでいた近藤が、
「江戸城総攻めは取りやめになった。西郷に勝先生が談判したそうだ。上様の命をお救いする代わ
 りに、江戸城を奴らに明け渡した。」
と幹部の隊士たちに説明します。
そして近藤から手紙を渡された土方が、内容に目を通しながら、
「勝先生は我らに、早々にここを立ち去ってほしいそうだ。江戸近辺に軍勢がいるとまずいらしい。」
と伝えます。
「解散?」
島田と尾形が、心配そうに斎藤を見ます。
「解散はしねぇ。方々から隊士をかき集めて、ようやく形になってきたところだ。俺たちはここで、もう
 一度新選組を旗揚げする。」
土方も斎藤を見ながら説明します。
みんなの視線を浴びて、怪訝そうな斎藤。
「どうしてみんな、一々俺を見る?」
不安そうに尋ねます。
「そりゃ、だって・・・。」
「あの勝沼で聞いた斎藤君の思いは、胸に突き刺さった。」
近藤に言われて、
「やめて下さい。」
と、恥ずかしそうに俯いてしまう斎藤さん。
「俺、この間の斎藤さんの言葉、泣きそうになりました。」
感慨深く思い出す島田さん。そして、前回のラストシーンの回想。

「この旗が、俺を拾ってくれた。局長ー!!俺がいる限り、新選組は、終わらない!!」

「俺もこの目で見たかったな。」
と土方が冷やかします。
さらに居たたまれなくなる斎藤さん。
「私も驚きました。普段は無口な斎藤さんが、あんなに熱い男だったとは...。」
尾形にまで言われて堪らなくなった斎藤は、尾形に飛び掛かってその胸倉を掴み上げると、
「あの日の話はするな!」
と脅します。
「はい・・・。」
怯えて答える尾形さんが可笑しい。
そして、
「続きを。」
と近藤に促す斎藤さんも可笑しい。

「会津に行こうと思う。しかしその前に、やるべき事がある。それは調練だ。新選組の名に恥じない
 部隊を作るのが先だ。」
自らの意思を表明する近藤。それに対して、
「場所を探さないといけねぇな。」
と土方が答えると、島田が
「利根川をちょっと上って下総に入った当たりに、良い場所がありました。」
と言いながら、目の前の籠の中から紙袋を取り出します。
おっと〜、島田さん。それは石田散薬の葛籠(つづら)に、石田散薬の袋ではないですか〜。
土方さんちから借りて、薬売りに化けて、情報収集していたのですね?
こういう細かいところのスタッフさんの遊びを見つけるのも、このドラマの楽しみです。
「あそこなら広くて調練も出来るし、陣を敷くにはもってこいじゃないかな。」
島田が取り出したのは地図でした。
「そこは、なんていうところだ。」
島田は近藤の前にその地図を広げます。
「確か・・・、流山。」
島田の指がその地名で止まります。
「流山。」
近藤が、運命の地の名前を口にします。
うわぁ、近藤さん!近藤さ〜ん!!(焦)


植木屋平五郎宅で療養している沖田を、近藤が見舞いに来ました。
「流山?」
「しばらくは、そこにいることになった。お前も、早く来い。」
「これからでもいいですよ。」
お孝に助けられて、やっとのことで起き上がっているというのに、強がりを言う総司。
でも、縁側に出てくるだけで息が切れています。
近藤の前に座りながら、さすがに総司も、
「治ってからね。」
と付け足します。辛いだろうなぁ。誰よりもプライドが高くて、負けず嫌いな人なのに。
「この戦が終わって、また徳川様の時代が戻ってきたら、まずはお前の天然理心流五代目襲名披露
 だ。」
「はい。」
「盛大にまた野試合をやろう。」
「やりましたね。こんなの付けちゃって・・・。楽しかったですね。」
「そして多摩の神社を回って、額の奉納もしなければならない。忙しくなるぞ。」
「寝てなんか、いられないじゃないですか。」
「お前はだから今のうちに、しっかり養生しておけ。」
微笑みあう二人。
近藤は立ち上がると、
「また、来る。」
と総司に告げます。
「皆さんによろしく。」
「あぁ。」
近藤の背中を見送りながら、
「ほんまにまた、徳川様の世が来るのやろか。」
そう呟いて、総司の方を振り返るお孝。
「来る訳なんか、ないじゃないか。そんなこと、あの人だってわかってるんだ。」
そして総司も、自分の命が残り少なくて、二度と剣は持てないだろうことをわかっているんだね?
以前総司が平助に、何も言わない間柄が一番深いんだと表現した、近藤と自分との関係。この二人は最後まで、相手の気持ちを尊重して、黙って見守る姿勢を崩しませんでしたね。


慶応4年(1868)4月3日。
甘味屋で、永倉と原田がぜんざいを食べています。
「やっぱり、うちのやつのじゃなきゃ、駄目だな。味が濃すぎるんだよ。」
と椀を置く左之助。
「だけどさ、江戸に戻ってくるんだったら、近藤さんたちと一緒にいりゃぁ良かったんだよ。」
「江戸で同志を集め、俺たちの軍を作って会津へ行く。新選組のあるべき姿を、近藤さんに見せてや
 る。」
気合い十分の永倉に対して、口に入れかけたたくあんをぽろりと落とす左之助。
「今から、人集めかよ。」
と呆れます。
「新選組の永倉・原田と聞けば、来る奴はいくらでもいる。」
自信たっぷりな永倉。
「さぁ、お参りに行くぞ。勘定。」
永倉はさっさと立ち上がります。
ん〜、永倉さん、わかってないなぁ。試衛館のみんなで作り上げた、あの組織の他に、新選組はないってこと。たとえそれが新選組の永倉・原田が作ったものでも、新しい組織は新選組とは別物なんだってこと。あの「誠」の旗の下にしか、新選組はないんだってこと。

二人はこれから、弁天様にお参りに行くようです。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ。なんで、弁天様なんかにお参りに行くの?」
と左之助が永倉に尋ねます。
「おそのが芸者だった時、よく弁天様にお参りしていた。」
勘定を払いながら、そんな会話を交わしていた時、
「新八じゃないか。」
と背後から声を掛けられます。
「俺だよ!市川の宇八郎だよ!」
あまりの驚きに呆然とする永倉。
「死んだんじゃなかったのか?」
思わず足を確認している新八さんが笑える。
そりゃぁ、別れる時は、今にも死にそうでしたものね。そして、おそのさんに簪を渡してくれるようにと頼まれたのでした。
「死ぬもんか!このとおり、ぴんぴんしてるよ!」
宇八郎、ほんと元気そう。(笑)
「誰?」
永倉に訊いた左之助は、
「おそのは、元気にしてたか?」
という宇八郎の問いに、事情を察します。(苦笑)


流山・長岡屋。新選組が移動してきました。
長岡屋は、味噌醸造業を営んでいたとされています。確か今も、蔵だけが残っているんですよね。
外から戻った尾形が、近藤に報告しています。
「すべて合わせて、大砲3門、鉄砲は250丁。」
「ずいぶん集めたな。」
感心する近藤に、
「江戸中、駆け回ったからな。」
と土方が答えます。
尾形は急に表情を固くして、近藤の前ににじり寄ると、
「ひとつ、気になることが・・・。」
と言い出します。
「薩長軍が、既に近くまで来ているようです。」
声を落として報告する尾形。
「こんなところにいるはずがねぇ。斥候だろう。」
土方は否定しますが、
「いずれにしても、我らが軍を作っていると知れたら・・・。」
と心配する尾形。
 土方「攻めて来るかな。」
 近藤「戦をするには、まだ早い。」
 土方「よし、何か言われたら、しらを切る。」
確認し、頷き合う3人。だんだん緊迫感が高まってきます。

近くの寺の境内では、隊士たちの調練が行なわれています。
いよいよ新選組も、銃を使った調練に変わりましたね。
指導しているのは島田。そして補佐しているのが尾関です。
昔、木刀を使って稽古していた時は、平助が、そして総司が師範をしていたなぁ。
ほんの2〜3年のことなのに、時の流れを感じます。

新政府軍の本陣では、軍議が開かれていました。
大軍監 香川敬三に、土佐藩士 上田楠次が報告をしています。
 香川「何者なのだ、そいつらは。」
 上田「それが、よーう、わからんがぜよ。村のもんの話によると、昨日あたりから、どっからともなく
  現れて、戦の調練をしゆるそうじゃき。頭は、大久保大和という。」
 香川「知らんな。」
 上田「ただ、この近辺には、甲州勝沼から逃げてきた、近藤勇が潜んじょるちゅう噂があるがぜ
  よ。」
 香川「近藤が?」
 上田「ひょっとしたら、その男...。」
 香川「近藤が、こんなところに、おる訳なかろう!」
 上田「一応、調べちょいた方がええがと。」
 香川「余計な仕事を作ってくれるわ。有馬にでも行かせろ!」
うわ〜ん、近藤さ〜ん。(焦)

庭で、黒熊(こぐま・黒の被り物・主に薩摩藩士が被った)を被った有馬藤太が、示現流の稽古をしています。
「ちぇーーーすとー!!!」
「有馬殿。」
・・・聞こえてない。(苦笑)
「ちぇーーーすとー!!!」
「有馬殿!!」
上田が叫ぶと、ようやく振っていた剣が止まります。
「仕事ぜよ。」
上田の言葉に振り向いた有馬の顔は・・・ちょっと恐い。(苦笑)


いよいよ、植木屋平五郎さん登場です。わ〜い。
今回は、往年の沖田総司 島田順司さんが出演されてるんですね〜。中学で新選組にちょうど嵌まった頃、深夜の時間帯に、ドラマ「燃えよ剣」の再放送をやっていて、夢中で見ていました。飄々とした司馬総司にぴったりで、本当に素敵だったんですよ。今でも、総司を「そうし」と読む人が多いのは、この「燃えよ剣」の総司が「そうし」だったから。そして、何故「そうし」と呼んだかというと、演じていたのが「じゅんし」さんだったからなのだそうです。
ちなみにその時土方を演じて、島田さん同様、一世を風靡したのが栗塚旭さん。今回の大河では、土方の長兄、盲目の為次郎を演じてくださっています。為次郎兄さんは、次回また出演があるみたいで、それがまた感動的なシーンになるみたいで、楽しみなんですよね〜。
こうして、島田さんや栗塚さんがわざわざ出演してくださっているのは、ファンとして本当に嬉しい限りです。

さてその平五郎さん。庭で弟子に、植木の手入れを指導しています。
カメラが引いていくと、旧総司の陰から現総司が現れます。心憎い演出だな〜。
だるそうに縁側に座って、植木の手入れを眺めている総司。
そんな総司を、買い物から帰って来たお孝が見咎めます。
「また、起きてる!」
「そうやって、様子を窺うのはやめてくれないかな。」
「そうかて、見張ってろって、先生に言われたんや。」
「もういい加減、寝るのに疲れちゃったんだよ。」
「そんなこと、言われても。」
「私のことは、心配しなくてもいいから。」
「けど、また隠れて素振りしたりするんやろ?」
「もう、そんな気力残ってないよ。」
「今、卵買うてきたから、雑炊作るね。」
おいおい、総司。隠れて素振りなんかしてたのかよ〜。でも、その気力も無くなってしまったというのが悲しかったり。

総司が、手の上に這い上がってきた蟻を見つけ、摘んで捻り潰してしまいます。
「何してるん?!」
凄い剣幕で飛んでくるお孝。
「そっと戻って来るなよ。」
「今、何した?」
「蟻がいたから。」
「なんも、潰して捨てることないでしょ!」
「蟻だよ。」
「蟻かて生き物や。」
「蟻は生き物じゃないよ。」
「あほや。蟻かて人かて、命の重さに変わりはないんよ。」
「何言ってんだか。」
「さすがは新選組の一番組長さんや。生き物殺しても、何にも感じんのやな。」
「あんたは、蟻殺したことないのかよ!」
「無いわ。」
「無い訳ないだろ。知らないうちに、10匹くらい踏んでるって。」
「避けて通ってます。」
「そっちのが馬鹿だ!!」
「あのなぁ、命あるもんを大切にせんと、罰あたるで。あのな、食べるためや無しに、他の生き物殺す
 のは人間だけなんやて。」
「そんなことないよ。」
「良順先生が言うとった。」
「じゃぁ、狐とか狸は、蟻を殺さないのか。」
「殺さへん。」
「嘘だよ。」
「嘘やない!」
「そんな話、聞いたことない。じゃ、狐は道を歩いていて蟻がいたら避けて通るのか。」
「避けて通る。」
「あり得ない!」
「ある!!」
命の尊さを考える、すごく真剣な会話なのに、痴話喧嘩のような二人のやりとりには、思わず笑ってしまいます。

ふと気づくと、平五郎さんが二人を見て笑っています。
「何か?」
「お二人は、本当に仲がよろしいんですな。」
「そんなこと、ないですよ。」
思わず顔を見合わせ、それから憮然とする二人。
「ははは。沖田様、お客様でございます。」
門の方に目をやると、入ってきたのは斎藤でした。
「斎藤さん。」
総司の顔が、嬉しそうに輝きます。


宇八郎の家で、永倉がおそののことを詫びています。
「おそのについては、言い逃れをするつもりはない。」
「しょうがねぇよ。俺が死んだと思ってたんだもんな。」
「最後におそのが呼んだのは、お前の名前だった。」
真っ正直な新八さんらしい。黙っていることなど、いくらでもできるだろうに・・・。
旗本の芳賀家に養子に入ったという宇八郎。それで、身奇麗な格好をしていたんですね。
「今は、弁天様の敷地の中にある道場で、剣術を教えている。」
それを聞いて、
「おそのが、会わせてくれたのかもしれないな。」
と永倉は呟きます。
「新八!俺のところへ来ないか。俺も新しく隊を結成した。力を貸してくれないか。」
宇八郎に誘われる永倉さん。

左之助が庭で、親亀の上に子亀を乗せて遊んでいます。
そこへやってきて、隣りに腰を下ろす永倉。
「宇八郎が、自分たちの仲間に入らないかと言っている。」
「入りゃいいじゃねぇか。お前はおそのちゃんのこともあるし、断れないだろ?」
「一緒にどうだ。」
「俺はいいよ。別の隊に入るつもりはねぇ。」
「どうする?」
「京へ戻るわ。そろそろ、茂も生まれる頃だしな。」
嬉しそうに子亀を眺めているのは、子亀の姿に、生まれてくる茂を重ねて見ていたのね?
「今戻るのはまずいだろう。」
「心配するな。俺の人生は俺がなんとかする。今までだって、そうして来たんだから。」
「左之助。」
「いろいろあったけど、楽しかったな。」
「ああ。」
最後に笑い合う二人。
やがて、左之助は超ハイテンションで、京へ向かって走っていきます。
“新選組の二本柱(by左之助)”も、ついにバラバラになってしまいましたね。


総司と斎藤が、縁側に並んで座っています。
「来てくれて嬉しいです。」
素直に喜びを伝える総司。
「いつ頃、死ぬんだ。」
おいおい、斎藤さん・・・。思わず吹き出した。(爆)
総司も最初は唖然としていましたが、やがて静かに、
「夏の終わりぐらいかな。」
と答えます。
「お前はいいなぁ。」
「何がですか。」
「お前は戦に出たことがないからわからないだろうが、もう刀の時代じゃないんだ。」
「土方さんも言ってました。」
「人を斬るしか能の無い奴は、これからどうやって生きてく。」
刀架けに架けられた、総司の佩刀と、二人の背中が映ります。
二人の向こうを、葉桜の花びらがはらはらと散っていきます。
「今は、薩長相手に戦っていればいい。だが、もし生き延びて...。」
「近頃思うんです。この200年、ずっと戦が無くて、いよいよ世の中が不穏になって来たら、刀の時代
 は終わっちゃった。そのほんの短い間に、私はこの世に生まれて、近藤さんたちと出会って、京で
 新選組として働けた。なんて、自分は運がいいんだろうって。」
総司の表情に、もはや暗い影は見えません。晴れ晴れとした表情。そうやって、自分の人生を客観的に見られるところまで、総司は来たんですね。
「それを言うなら、俺はもっとついてる。もしも近藤さんに出会わず、薩長の側に付いてたら、京の町
 でお前と戦ってたかもしれない。俺は間違いなく負けてたよ。」
斎藤の言葉に、驚く総司。斎藤は、穏やかに微笑むと、総司の肩に手を置いて立ち上がります。
「涼しくなる前にまた来る。」
それは、夏の終わりぐらいと自分の命を見切った総司に、もう少し生きてみろという言葉なのかな?
立ち上がって斎藤を見送る、総司の後ろ姿。部屋の中にぽつんと置かれた佩刀とともに、そこはかとなく寂しさが漂います。


ついに長岡屋に、有馬が現れました。
応対する尾形がちらりと門の外を覗うと、周囲は新政府軍に囲まれているようです。

尾形の報告に、
「ずいぶん早かったな。」
と感想を漏らす近藤。
「400ほどの兵士が、周りを取り囲んでいるようです。」
と、尾形が付け加えます。
「とにかくあんたは、旗本の大久保大和で押し通せ。近藤勇とばれたら、終わりだ。」
土方の言葉に、頷く近藤。

まずは、土方が有馬に応対します。あ、土方さん、袖章外してきた。
「旗本、内藤隼人と申します。」
「薩摩藩、有馬藤太ち、申します。」
名乗り合う二人。
「兵を集め、鍛えているち聞き申したどん、そいは、どげなためのもんごわすか。」
「江戸城の明け渡しが決まって以来、江戸表から脱走した兵が、方々の村を襲って乱暴するという
 騒ぎが、度々起きております。我らは、それを取り締まるために集まった者。」
「じゃっどん、そいは、おいどんたち、官軍の役目。おはんらの仕事ではなか。」
「官軍の皆様の、お手を煩わせるつもりはありません。身内の不始末は、我らの手で収めたいと存じ
 ます。」
「とりあえず、兵の様子を見せて頂きもんそ。」
「今は、離れたところで調練を行っております。」
「案内して、もらいもんそか。」
「少々、お待ちを。」
一礼して、土方は一旦奥へ戻ります。
このシーン、お互い目を合わせたまま、一歩ずつ近づいていく二人が、迫力ありましたねぇ。
勢いに乗る新政府軍の将有馬に対し、丁重な応対をしつつ、対等に、まったく怯むことのない土方の態度が良かったです。案内してもらおうって畳み掛けられて、微かに瞳が揺れるところも。

 近藤「連れて行くしかないだろう。今ここで断れば、余計に怪しまれるだけだ。」
 土方「しかし、島田たちには、まだ話は伝わってない。」
 尾形「新選組と覚られたら、万事休すですね。」
 近藤「一か八かだ。」
近藤が決断して立ち上がります。
って、その前に、“新選組屯所”の看板、どこかに隠しておきなさいよ!!


寺の境内では、熱心に調練が続いています。
そこへ、有馬を連れて現れる近藤と土方。
二人の姿を見て、
「局長!」
と声を掛ける島田と尾関ですが、黒熊を被った有馬に気づいて、一瞬表情が固まります。
島田がさりげなく、
「どうされましたか。」
と尋ねると、近藤はわずかに頷いてみせ、隊士たちの前に立ちます。
「みんな、手を休めてちょっと聞いてくれ。薩摩藩士、有馬藤太殿である。有馬殿は、我らが官軍に
 逆らう者たちであるか否か、検分されているところである。」
島田と尾関、周平と鍬次郎、みんななんとなく顔を見合わせます。
その間、絶え間なく周囲に視線を走らせ、最悪の事態が起こらないよう、注意を払っている土方。
「村を守るために志願してくれた者たちです。百姓もいれば、町人もいます。」
隊士たちにわざわざ聞こえるように、有馬に説明する近藤。
有馬は隊士たちに近づき、持っている銃を調べ始めます。
 近藤「全て、寄せ集めでございます。」
 有馬「どこで手に入れたと。」
 土方「江戸には、官軍に恐れをなして逃げ出した兵士たちの銃が、あちこちに残っているのです。」
有馬は、脇に据えられている3門の大砲にも気がつきました。それに対しても、
「運んで来たのはよいものの、我らにはとうてい使い方がわかりません。」
と説明する土方。
「脅しに使うための、見せかけでございます。」
さらに有馬は、弾薬入れなども見て回ります。
「かように我らは、兵といっても急ごしらえ。皆様にお手向かいするなどと、大それた考えはございま
 せん。」
近藤の言葉に、
「なるほど。」
と有馬が答え、近藤と土方は一礼します。
なんとか乗り切ったかと思えたその時・・・。


「よーぅ!かっちゃーん!!元気だったか。」
うわ〜、捨助だよ〜〜。(汗)
近藤と土方が、瞬時に引きつった顔を見合わせます。
「捨助・・・。」
土方がさっそく動きます。
「呼ばれもしねぇのに、やって来るのが捨助様でございますよ。俺を抜きにしてね、何かしようなん
 て、そうはいかねぇぞ。」
にこにこ笑って近づいてくる捨助を、土方が抱き止めます。
「あっちで話そう。」
土方は境内から連れ出そうとしますが、捨助は土方の腕を振り払うと、
「なんだよ。助太刀に来てやったんだよ。」
と言います。
思わず有馬の反応を見る土方。
「やっぱり、村でおとなしくしてんの、俺の性分には合わねぇや。」
そう言いながら近づいてきた捨助に、
「捨助。」
近藤は強張った表情で緊急事態を伝えようとしますが、捨助は相変わらずの調子で喋り続けます。
「これからもよぅ、力を合わせて、あの野郎どもを、ぎょふんと言わしてやろうぜ!ははははは。」

捨助の言葉に、有馬が反応しました。近藤の体を押しのけると、捨助の前に立ち、
「あの野郎どもち、誰のことじゃ。」
と尋ねます。
「誰のこと? 決まってるじゃねぇですか。」
「言うてみれ!」
土方は、有馬と捨助がやり取りしている間に、周平のところへやってきて、周平の銃を奪います。
思わず振り向く周平に、
「動くな。」
と小声で命じる土方。
近藤は捨助を、ずっと睨み付けています。
「心配すんな。おいは、味方じゃ。」
と、なんとか捨助の口を割らせようとする有馬。
土方は周平の肩の上で、銃を構え、照準を定めて、張り詰めた表情で撃鉄を起こします。
その土方が視界に入ったのか、捨助は一瞬表情をひきつらせますが。
にやにやする捨助。その捨助を見つめる近藤。捨助を狙う土方。
張り詰める雰囲気。高まる緊張。頼むから!捨助ーーー。(懇願)
もう駄目かと近藤が目を閉じた時、捨助の口から出て来た言葉は、
「江戸表から脱走して、このあたりを荒らし回っている奴らのことですよ。」
でした。
思わず、有馬の表情が動き、近藤は目を開け、土方は銃の照準を外します。
「罪もない人達を困らせて、あいつら断じて許せねぇ!これからもよろしく頼みますよ、大久保
 先生!!」
にこやかに近藤に歩み寄ると、その両肩を掴んで揺さぶる捨助。
思わずみんなの肩から力が抜けます。

有馬が再び検分を始めると、土方が近藤と捨助のところにやってきました。
近藤の両肩を掴んだまま、
「ここに来る前にね、本陣に寄って来たんだ。尾形さんから話はみーんな聞いた。」
嬉しそうに小声で囁く捨助。
「ハラハラした? ね、ハラハラした?」
捨助のばかやろうーーー!!ハラハラしたに決まってるじゃねーかっ!!
でも思いがけず、銃を構えるかっこいい土方さんが見られたから許す。(爆)
近藤は苦い顔で目を閉じたまま。
土方は捨助の顎を掴むと、
「あっち、行ってろ。」
と捻り上げます。有馬がいなかったら、きっと2、3発殴っていたことでしょう。(苦笑)


しかしその間に、新たな危機が迫っていました。
有馬がお堂の前で足を止めます。
そこには、みんなと共に戦い抜いてきた、真紅の「誠」の隊旗が・・・!!
「しまった!」
有馬の様子に、土方が気づきます。
「一体なんだ?」
「旗だ。」
その一点を見つめたまま動かない有馬に、思わず土方が刀の柄に手を掛けます。
土方の手を抑える近藤。
有馬はゆっくりとこちらに向きを変えると、厳しい目つきで隊士たちを見渡し、それから近藤の前に
戻ってきます。
土方は、有馬の動きに合わせて近藤から離れ、さりげなく有馬の背後に回ります。

「こん時節に兵を集めれば、痛くもなか腹を探らる。即刻、解散をお勧めしもす。」
「かしこまりました。」
「手間を取らせもした。戻りもんそ。」
山門へと向かう有馬に、近藤は深々と頭を下げます。
見逃してくれるというのでしょうか・・・。
見詰め合う近藤と土方。島田や尾関、捨助が、安堵の吐息を漏らします。
近藤も有馬の後に続こうとした、その時、
「時に、大久保どん。」
有馬が振り返り、近藤の前に立ちはだかりました。
「近藤勇を、ご存じな?」
「はい、名前は。」
有馬はにやりと笑うと、
「近藤のこつを、どけん思うな。京では散々、乱暴狼藉を働いたち聞いちゅう。新選組に斬られた勤
 王の志士は数知れず。最後まで徹底抗戦を主張したのも、近藤ち、聞いちょいもす。」

やはり有馬は、この集団が新選組であり、大久保は近藤勇であることに気づいたのですね。わかった上で、近藤を試すつもりらしい。それに対し、
「近藤は、天下の大罪人でございます。されど、盗人にも三分の理があると申します。」
と、近藤は微塵も動揺することなく、有馬の問いに、静かに、しかし力強く答えていきます。
「近藤の言い分とは?」
「薩長のことを許す訳にはいかなかったのでしょう。この天下を我が物にするために、帝を利用して、
 戦を起こした。あの者たちのやり方が。」「薩摩は特に徳川に、力を貸すように見せかけ、最後に
 裏切った。それは、武士のやることではない。」
背中合わせの位置で、近藤の胸の内を探る有馬と、答える近藤。
見守る土方、捨助、そして隊士たちを背景に入れながら、二人の周りをゆっくりと回るように撮った画面が、その場の緊張と厳粛さをみごとに表現しています。

「おいも、そん薩摩の人間ごわす。」
「今のは私の意見ではありません。あくまで、近藤勇の気持ちを。」
「なるほど。」
「薩摩のやり方を、有馬様はいかが思われますか。」
「おいは、藩の命に従うのみでごわす。」
「義を重んじる者にとって、薩長を認める訳にはいかなかった。戦では負けましたが、勝敗は時の
 運。悔いはない。今でもはっきりと言えます。正義は我らにある。これから何度生まれ変わっても、
 戦い続けます。」
土方も隊士たちもみんな、震えるほど近藤に感動したんじゃないでしょうか。まさに命を賭けて、自分の“誠”を語っていく、新選組局長に・・・。
近藤の瞳の力強い輝き。そして見守るみんなの瞳もきらきらと輝いています。

「そう、近藤は思っておるのではないでしょうか。」
振り向いて、表情をわずかに和らげて、有馬を見つめる近藤に、有馬は静かに歩み寄ると、
「もし、近藤が、ほんのこてそげな男じゃれば、敵ながらあっぱれち、言わんにゃなりもはんな。
 一度、膝を付き合わせて、酒でも飲みたか。」
と答えます。
有馬は、近藤の“誠”に心打たれたのでしょうね。
微かに笑みを浮かべる有馬と、わずかに頷いてみせる近藤。
境内でのこの一連のシーンは、本当に圧巻でした。


長岡屋に戻ってきた近藤は、有馬に武器を引き渡しました。
「これで全部です。」
土方が明細を書いた書き付けを有馬に渡します。
「確かに。では、こいで失礼しもす。」
「お役目ご苦労に存じます。」
双方、目礼した時、一人の兵士が有馬に駆け寄ってきました。
近藤たちから離れて、報告を聞く有馬。
近藤と土方が心配そうにそれを見つめます。
「軽はずみに、そげなこつを言うな!」
「間違いありません!」
有馬は近藤たちのところへ戻ってくると、
「弱ったこつになりもした。部下の一人が、おまんさぁを京で見たち言うちょる。」
と話します。
「京で私をですか。」
「おまんさぁのこつを、近藤勇じゃちうて、聞かんとじゃ。」
「お待ち下さい。」
土方は慌てて有馬に詰め寄りますが、有馬は土方を制して、
「こげんなった以上、本陣にて取り調べを行う。」
と近藤に告げます。
思わず、視線を投げ合う土方と近藤。
そんな二人の気持ちを察して、
「心配は要らん。形だけ、ごわす。疑いが晴れれば、すぐにもお帰り頂きもす。断れば、立場が悪くなるだけじゃ。ここは、おいを信じてたもんせ。」
有馬が力強く説得します。見つめ合う近藤と有馬。やがて近藤は、
「はい、わかりました。」
と応じます。近藤の答えに、驚く土方。
「支度をして参ります。」
近藤は有馬にそう断ると、長岡屋の中に戻ります。

柱を叩いて悔しがる土方。
自分たちの運の無さを悔しがっているのか、有馬にあっさり同行を承諾した近藤のことを悔しがっているのか、かっちゃんを守りきれない自分に悔しがっているのか・・・。たぶん、そのすべてだと思う。
思い詰めた表情・・・。
土方が柱に感情をぶつけるときは、孤独な時だと思う。河合の切腹の時もそうだったけど・・・。一人で悩み苦しんでいる時。
部屋の中から、島田の声が聞こえてきます。

 島田「行けば、殺されます。」
 近藤「行かねば、近藤勇であると認めたことになる。表の者たちが踏み込んで来る。」
 島田「その時は戦えばいいじゃないですか。なぁ、みんな!」
島田は立ち上がって、部屋の中の隊士たちに呼びかけます。
「そうです、戦いましょう!」
一斉に立ち上がる隊士たち。
この緊迫した時に、尾形にべったりくっついている捨助と、迷惑している尾形さん、笑えるんですけど・・・。勘弁してください。(笑)
「俺はここで死んでもいいです。」
「私も同じ気持ちです!」
と言う島田と尾関に、
「死んではならん。それでは無駄死にだ。」
と返す近藤。

その時、
「降参するつもりか!」
土方が入ってきました。
「俺が近藤であることを、有馬様は見抜いている。その上で、力になってくれると言っているのだ。俺
 はあの人を信じる。」
「あいつだって、薩摩の人間なんだぞ。いつ裏切られるか、わかったもんじゃねぇ。」
「その時は堂々と近藤勇を名乗り、俺は腹を切る。」
「そんなことが通ると思ってんのか!あんたは敗軍の将だ。下手すりゃ、打ち首だぞ。」
「打ち首にはならん。」
「新選組を仇と思ってる奴らだ。甘く考えるな!」
「ならば、今ここで腹を切るまでだ!」
「違う!!」
激して言い合っていた二人ですが、土方に一喝されて近藤は口を閉じます。
「あんた、何にもわかっちゃいねぇ。あんたが死んで、俺たちが生き残って、それでどうなる?! 俺
 たちゃ、近藤勇についてきたんだ。残った俺たちのため、死んでいったあいつらのためにも、近藤
 勇には生きてもらわねぇとならねぇんだよ!!」
土方の必死の叫び。その言葉に、考え込む近藤。
「お前たちもそうだろう?!」
土方の呼びかけに、
「はい!」「はい!!」
隊士たちは口々に答えると、一斉にその場に座って、近藤に頭を下げます。
「みんな局長に死なれたら、この先どうしていいか、わからねぇってよ。」
「俺は、どうすればいいんだ。」
「こうなったら、手は一つだ。死ぬ気で嘘をつき通せ!大久保大和として奴らの本陣に行き、大久保
 大和として帰って来るんだ。生きろ。どんな手を使っても。」
力強く、近藤を説く土方。その土方を、黙って見つめる近藤。
土方のこの、「生きろ。」の一言がたまらない!!

その頃、長岡屋の前で近藤を待っていた有馬は、部下に、先に本陣へ武器を運んで戻るように命じます。


着替えを済ませた近藤。白羽二重の羽織に仙台平の袴は、死に装束とはいかないまでも、近藤の覚悟を表わしているのでしょうね。
近藤は、控えていた周平に、声を掛けます。
「俺にもしもの事があった時、これは仮の話だが。」
「はい。」
「土方は、皆を連れて会津へ行く。お前は行ってはならん。俺は勝沼の戦いではっきりわかった。こ
 の戦が終われば、世の中は大きく変わる。お前のような男が力を発揮出来る時代がやって来るの
 だ。俺たちの時代はもう終わった。これから先はお前が切り開け。今まで以上に勉学に励み、学ん
 だことを生かして、身を立てろ。」
近藤は周平の両肩に手を置くと、
「そのために今は、命を惜しめ。それが我が息子への、父からの願いだ。いいな。近藤周平。」
と言い聞かせます。
「はい。」
じっと近藤を見つめて答える周平に、近藤は頷きます。
そして、息子の姿をその目に焼き付けるように見つめたまま、
「行きなさい。」
と別れを告げる近藤。
周平は近藤に一礼して、大刀を手渡すと、部屋を辞します。
実際には、周平は江戸へ戻った時に脱走しているのですが、このドラマでの近藤と周平の関係を生かしつつ、うまく史実に結び合わせましたね。三谷さん、お上手です。


近藤が廊下に出ると、そこで待っていたのは土方でした。
柱を背にして佇んでいる土方。まるで好きな子に告白しようと待ち伏せしてる高校生みたいじゃないですか?(爆)
「別れの言葉なんて、いらねぇぜ。」
「別れは言わん。お前には礼を言う。」
「礼なんか言われる筋合いはねぇ。」
礼なんかいらないっていうのは、土方特有の照れと、自分が好きでしたことなんだからという気持ちと、あとはもしかしたら、それを聞いてしまったら本当の別れになってしまいそうな不安もあるのかもしれませんね。

「俺がここまでやってこれたのは、お前がいたからだ。お前がいたから、俺はなんとか踏ん張れた。
 辛いこともあっただろうが、今までよく助けてくれた。」
近藤の言葉を聞きながら、土方は縁側に座り込みます。
「あんたはどうだったんだよ。あんたを悩ませてばかりいたような気がする。新選組を作って、俺は
 余計な重荷を与えちまったんじゃねぇかって。」
近藤は土方の隣りに座ると、
「そんな訳ないだろう。」
と明るく答えます。
「あんなに楽しいことはなかった。」
「本当にそう思っているか。」
「考えてもみろ。腕だけを頼りに京に上り、俺たちの手で薩長に一泡吹かせてやったんだ。俺は満足
 だ。」
近藤のその言葉を聞いて、感無量といった表情の土方。

近藤さんの「俺がここまでやってこれたのは、お前がいたからだ。」 の言葉も嬉しかったけど、土方さんの「あんたを悩ませてばかりいたような気がする。新選組を作って、俺は余計な重荷を与えちまったんじゃねぇかって。」 っていうのが嬉しかったですねぇ。
土方は、ずっと近藤の気持ちを気にしながら走ってきたと思うんだけど、それを直接近藤に対して口にしてくれたのが嬉しかった。
もちろん近藤さんは、土方さんのそんな気持ちも、すべてお見通しだったんじゃないかと思うけど。

「お前、あれはまだ持っているか。」
近藤が土方に尋ねます。
「当り前だろ。」
嬉しそうに近藤を見ると、首から下げた袋を取り出す土方。
近藤も腰に付けた袋を取ります。
年季の入った袋から二人が出して見せ合ったものは、あの日拾ったシャンパンのコルクの栓・・・。
感慨深く、コルクを見つめる二人。
「全ては、これからだったな。」

黒船を見に行った浦賀の海岸で、二人は流れ着いたコルクの栓を拾います。
「戦利品だ。」
と言って、それを嬉しそうに見つめる二人。
月代の若々しい姿、希望に満ちたやんちゃな表情が、懐かしくて甘酸っぱい。

「そしてまだまだ、終わった訳じゃねぇ。」
土方の言葉に、近藤は土方の目をしっかりと見つめて、
「行ってくる。」
と告げます。
近藤の目を見つめ返して、しっかりと頷く土方。
立ち上がって、遠く空を見つめる二人の瞳は、浦賀の海岸の時と同じ、希望に満ちています。
「近藤勇、一世一代の大芝居だ。」
見つめ合って、どちらからともなく、二人は抱き合います。コルクの栓をしっかり握ったまま・・・。


長岡屋の前に、有馬は一人で待っていました。
ようやく出てきた近藤が、有馬に丁寧に一礼します。
有馬も軽く礼を返して、二人並んで新政府軍の本陣に向かって歩き出します。


「何度も繰り返すが、私は大久保大和。近藤ではござらぬ!」
新政府軍の本陣の一室で、近藤は香川と上田に取り調べを受けています。
「お前を京で見た者がおるんじゃ!」
と強い口調で責める香川。
板の間に正座の近藤に対し、香川と上田は床几に腰掛け、上からの目線で近藤を威圧します。
「箱根より西へは、行ったことがございません。」
「江戸では、何をしちょったか。」
と、赤熊(しゃぐま・赤い被り物・主に土佐藩士が被った)を被った上田。
「講武所で剣術を教えておりました。」
「でたらめを申すな!」
「でたらめではござらぬ!」
近藤の迫力に思わずたじろぐ香川の後ろで、有馬が密かに頷いています。

廊下を歩く香川と有馬。
「強情な奴だ。」
と吐き捨てる香川に、
「これ以上、引き留むっとは、どげんかと存じます。そろそろ、帰してやりもはんか。」
と、有馬がさりげなく近藤を助けようとします。
しかしその時、上田が二人を追いかけてきました。
「天は我らの味方のようじゃき。我が陣営に、かつて新選組にいちょったという者がおったきに。」
嬉しそうな上田の報告に、息を呑む有馬。
「すぐに大久保大和に引き合わせろ!」
香川の下知が飛びます。

本陣の庭で、行軍の調練をしている兵士たち。
出て来た上田が、
「加納鷲雄はおるかえ?」
と声を掛けると、
「はっ。」
と返事が聞こえて、一人の兵士が列から離れて敬礼します。
「私ですが。」
そうです。かつて“新選組にいた者”とは、御陵衛士となって分離した、加納さんでした。
近藤さん、絶対絶命・・・!!

取り調べ室の近藤のところへ、香川と上田、そして有馬が戻ってきました。
「お主に会いたいという者がおる。」
瞑目していた近藤は、香川の言葉に目を開けます。
「入れ。」
「失礼します。」
香川に命じられて、加納が遠慮がちに部屋に入ってきました。
加納は近藤の前に立つと、とまどいがちに近藤を見つめます。
近藤も、黙って加納を見上げています。
そしてもう一人、加納の反応をじっと見つめている有馬。
「どうだ。近藤勇に間違いないか。」
香川の言葉に、加納は近藤から目を逸らして、困惑しています。
師である伊東甲子太郎の、そして油小路で斬られた仲間たちの、仇。
・・・でありながらも、一度は同じ新選組同志であった近藤勇。
自分が証言することで、目の前のこの男の死は確定してしまう。近藤を売ることになってしまう。
かつて、近藤暗殺を企む伊東に、異論を唱えようとした加納さん。近藤を狙撃しようとする篠原に、闇討ちではないか!と憤慨した加納さん。情け深く真っ直ぐな、彼らしい逡巡です。

近藤は、加納の苦悩を見て、自らの取るべき道を悟ったのでしょう。
やがて静かに微笑むと、加納に自分から声を掛けるのです。
「加納君、お久しぶりです。」
近藤の言葉に、はっとする加納。
香川と上田がにやりと顔を見合わせ、有馬が呆然と近藤を見つめています。
加納は瞳を潤ませると、
「ご無沙汰しております。局長。」
と、近藤に向かって深々と平伏します。
きっと、近藤の自分への心遣いに感じ入ったとともに、その潔い態度に敬意を表さずにはいられなかったのでしょうね。
障子を通して差し込む神々しいまでの光に浮かび上がる、平伏した加納の美しいシルエット。そして、それを受ける近藤の、背筋を伸ばして座する厳かな佇まい。流れる女性コーラスが、さらに荘厳な雰囲気を演出しています。
近藤は加納の方へ向き直り、穏やかな表情で加納を見下ろします。
やがて視線を上げ、近藤が笑顔で、口の中で呟いた言葉は、もしかしたら土方への言葉だったでしょうか・・・。



はぁ・・・。流山・・・。
重苦しく悲しい回になると思っていました。
それなのに・・・。
ずるいよ。ずるいよ、三谷さん。

土方との今生の別れは、絶対修羅場になると思ってた。
近藤と土方、お互いに大切に思い合っているからこそ、激しくぶつかり合うんじゃないかと思ってた。
それなのに、それなのに、こんなに穏やかで優しい別れにするなんて・・・。
死を覚悟しながら、それでも土方の思い、隊士たちの思いを受け入れて出かける近藤と、生き延びろと言いながら、もしかしたらこれが今生の別れになるのではという不安に駆られ、祈るような気持ちで送り出す土方と。
近藤は既に、これが最後の別れと確信して、涙を堪えているんだけど、土方はそれでもわずかな希望を信じて、その可能性に祈っているんですよね。
あの、かっちゃんの温もりを確かめているような、土方の穏やかな祈りの表情を見てしまうと、来週それが絶望に変わった時の、土方の後悔と苦悩を想像して、今から胸がきりきり痛んできてしまう。
悲しさと切なさがじわじわと浸透してくる。

最後の加納の証言の場面も、なんて厳かな美しいシーンだったでしょうか。

これから一週間・・・。どうやって生活していったらいいんだか・・・。

 

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