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第33回 友の死
| 先週の放送から1週間、カウントダウンするような気分で一日一日を過ごしてしまいました。 こんなにドラマにのめり込んだのは初めてかもしれません。 そしていよいよ第33回の放送。 もうね、三谷幸喜氏の筆、俳優さんたちの力、スタッフの皆さんの腕に完敗です。 初めは、木々の間から差し込む光の美しい野原から。 江戸へ向かうはずの山南と明里はこんなところで道草。 明里が水仙の花を摘んで無邪気にはしゃいでいます。 山南「何の花か知っていますか?」 明里「菜の花。」 山南「菜の花はまだ咲かない。」 明里「咲くこともあるやろ。」 山南「ないですね。」 山南さん、きっぱりと否定してます。 「行きましょう。少し急いだ方がいい。とりあえず草津までは急ぎましょう。」 急かす山南の態度に拗ねた明里は、 「お腹減った。」 と駄々をこねます。呆れる山南。 この時点では山南さん、追っ手から逃げ切るつもりではいるらしい。 けれど、張り詰めた顔を崩して、ちょっと頷いてみせます。 一方、追っ手を命じられた総司は、馬をゆっくりと歩ませています。 かぶさる近藤の声。そして時間は屯所を出る前に遡ります。 山南を逃がしてあげようと言う総司に、近藤は 「法度に背いて脱走した者は切腹。」 と返します。 「ずっと一緒にやってきた仲間じゃないですか!」 総司が憤慨した時、 近藤は 「俺がなぜお前を行かせるか、その意味をよく考えてみろ。」 と。 「新選組局長である以上、逃げた隊士を見逃す訳にはいかん。しかし見つからない者はしょうがな い。草津まで行って、山南さんに会えなかった時は戻ってこい。」 と言い含めるのです。 総司、前回の放送で追っ手を命じられた時は、近藤と土方のこの意図に気づいていなかったのね?(苦笑) ようやく理解して、子どものように嬉しそうに頷く総司。 ところが山南と明里はお団子屋さんで休憩中。総司が来ちゃうよ、総司が・・・。(焦) 串団子を食べていて、奥の方に残った団子をどう食べるか話す二人。 「考えたこともなかったが・・・。」 と悩む山南に、 「先生でも知らんことあるんやな。」 と明里が笑います。 「ほな、うちが教えてあげる。」 「お願いします。」 明里にまで、膝に手を置いて教えを乞う姿勢が山南さんらしい。(笑) 初めて明里が山南に教えたことは、団子が串の奥に残って食べられない時は、串を逆さにして反対側から食べる・・・でした。 食べてみせる明里を見ながら、それじゃ、手がべとべとやん!!と突っ込んでしまった私ですが、山南先生は甚く感動したご様子。 「なるほど・・・。」 と腕組みして頷いています。 この時山南は、物事を角度を変えて見るということに気づいたのかもしれませんね。真面目で不器用な山南が、柔軟に物事を考える明里に教わったこと・・・。 団子を食べ終えた明里がお茶を取りに行った後、穏やかに微笑む山南。 しかし、ふと今来た道を見遣って見つけてしまったものは、ゆるゆると馬を進める沖田の姿でした。両側の景色を眺めながら、わざとゆっくりと、歩くよりも遅いくらいの速さで馬を歩かせてくる沖田。 その姿に、近藤の考えも沖田が追ってきた訳も、山南はすべて気づいてしまったのでしょう。ゆっくりと目を閉じて、笑ってみせます。それから意を決したように沖田の前に出て行くと、 「沖田くん!ここだ!!」 自分から沖田に声をかけるのでした。あまりにも明るい、すっきりとした声で。 山南を認めて、目を見張る沖田。それから、「どうして・・・?」 と言わんばかりに首を振ります。 この表情の変化がね、藤原くん、すごく上手くって・・・。 やるせなくて悔しくて、泣きそうな顔。わかるよ、わかるよ、総司〜〜。(泣) 3人は、大津の宿に入ります。 「いろいろあったのは知ってるけど、逃げることないじゃないですか。卑怯ですよ、そんなの。」 山南を責める沖田。 沖田「一番の訳はなんなんですか?」 山南「しいて言えば、疲れた。」 沖田「そんなの、みんな、疲れてますよ。だめだよ、そんなの。言い訳になりませんよ。」 そうだよね。近藤・土方とは別の意味で、今一番頑張っているのは総司だ。病になって、限りある命を宣告されて、どんなに現実から逃避したいことだろう。それでも頑張って踏みとどまっている。逃げた山南を「卑怯だ」と言いたくなるのもよくわかる。 「怒られてしまった・・・。」 しかし、山南は淡々としています。 確かにこれは脱走だけど、山南は逃げたつもりはなかったのかもしれない。運を天に任せて、捕まらなければ新しい人生を踏み出し、見つかれば屯所に戻り切腹する。自分の人生を賭けたのでしょう。 自分と会わなかったことにしてこのまま江戸に行ってくれと言う沖田に、「それはできん。」と突っぱねる山南。こうして会ってしまった以上、屯所に戻り切腹すると言います。 「だめだよ・・・。そんな・・・。だってそんなこと、誰も望んじゃいないんだから・・・。」 山南は微笑んでいるばかりだ。そう、誰もそんなこと望んじゃいない。だけど、山南自身がそれを望んでいるんだ。きっと・・・。 明里と入れ替わりに、お風呂に行く沖田。 山南は明里に、京に戻らなければいけなくなったことを伝えます。そして、丹波の実家に帰るようにと。山南さん、明里さんを身請けしてきたんだね。 「なんでそないに親切なん?」 山南の優しさにとまどう明里に、その手を両手で包み込んで、 「私はあなたに感謝しているのです。心の底から・・・。」 と告げる。愛しい女(ひと)に・・・。 「そうかて、うち、何もしてへんよ。」 という明里。首を横に振ってみせる山南。穏やかに見つめて、優しく抱き寄せて・・・。 「今度はいつ会える?また会うてくれるんやろ?そうかてうちはあんたのもんや。ほったらかしにした らあかんもん。」 甘えてねだる明里が、いじらしくて泣けてきます。 「そのうち丹波に遊びに行きます。」 「ほんまやな?」 「ほんまや。」 「きっとやで。」 「・・・きっと・・・。」 この遣り取りがすごくいい。 山南さんの表情が優しくて、声も一段と優しくて、特に 「ほんまや。」 って言う台詞。 明里に出会わなければ、山南は相手に合わせて相手の言葉で喋るなんてこと、きっとなかったと思う。 二人の表情を見て、なんて尊い出会いをしたんだろうと思うと同時に、それがきっかけとなって、山南が命を賭ける道を選択したのだという結果に、切なくやるせなくなるのです。 大津に一泊し、翌朝総司とともに屯所に帰ってきた山南に、近藤は苦悶の表情を浮かべます。 「どうして戻ってきたのだ? 我らの気持ちをなぜ察してくれない。」 怒る近藤に、山南の表情は穏やかだ。 「申し訳ありませんでした。」 と、深々と頭を下げる。 「こうなった以上、私はあなたに、切腹を申し付けることになる。」 「覚悟はしております。」 障子越しの明かりがうっすらと差し込む部屋の中、寺の鐘が聞こえてくる。 「今日が何の日かご存じですか? 2月23日。2年前のこの日、我らは京に到着した。」 そうか・・・。試衛館のみんなにとって、忘れることのできない日だったのですね。この京でなにかをなしとげるのだと、希望に胸をときめかせた日・・・。 「私はあなたに出会い、あなたに賭けた。近藤勇のため、新選組のためにこの身を捧げてきました。 しかし、それはもう、自分の手の届かないところへ行ってしまった。ここにはもう、私のいるべき場所 はない。」 今の心境を初めて素直に語りましたね? 山南さん。それは覚悟を決め、すべてを受け入れることができたからでしょうか。 しかし、近藤にとっては辛いこと。 「こうなる前に、あなたの思いに耳を傾けることができなかった自分を、恥じ入るばかりです。」 「その言葉が聞けただけでも、本望です。」 涙が溢れそうになって慌てて立ち上がった近藤が、庭に面した障子を開けます。それから山南の背後に回り、座って固く目を閉じます。もう一度だけ、見逃すから逃げて欲しいという近藤の願い。 しかし、それに気づいた山南は軽く微笑んだあと、立っていって静かに障子を閉めます。すでに覚悟はできている、逃げるつもりはないという意思表示。 歯を食いしばって堪えている近藤の前に改めて座って、山南は、 「近藤さん」 と呼びかけます。 「私はあの日、試衛館の門を叩いたこと、少しも後悔はしていませんよ。」 近藤が自分を責めることがないようにとの、山南の優しさ。人生のすべてを受け入れたからこそ、言える言葉。山南の微笑みは、これまでの“にやにや”ではない、相手を包み込むような微笑みです。 後ろに流れる男性コーラスが、どうにもならない運命を表わしているようでとても哀しい。 山南の処分を決める幹部会議。 永倉「なぜ切腹しなければならないのか。謹慎で十分ではないか。」 土方「隊を勝手に離れた者は、切腹と決まっている。」 原田「だけど、山南さんだぜ?」 土方「だからこそ、腹を切ってもらわなきゃ困るんだ。ここで山南を助ければ、俺達は情に流されたこ とになる。それを一度でも許せば、隊はばらばらになる。」 土方の言葉は筋が通っているだけに、永倉・原田も反論はできない。 そこへ、伊東参謀が言葉を挟む。 「新参者が口を挟むなと言われそうだが、土方くん、厳しさだけが人の心を繋ぎとめておく唯一の方 法だろうか。温情を与えるということも・・・」 「新参者が口を挟まないでいただきたい。」 頑なに拒絶されて、参謀は驚きの表情だ。 観柳斎がまとめようとしたのを遮って、永倉が近藤の言葉を求める。 永倉さんは、あくまで近藤についていくという筋を通したいんだなぁ。本当に真っ直ぐだ。 「すでに山南さんは覚悟を決めている。今、我らにできることは、武士に相応しい最後の場を用意し てやることだけだ。」 いつものような迷いを一切見せない近藤に、永倉も原田も言葉をなくします。 山南脱走という現実にぶつかって初めて、近藤にも覚悟が生まれたのでしょうか。今日の近藤は毅然としていて、局長の重々しさが漂っています。 会議を終えて廊下に出てきた近藤たちの前に、松原・河合・尾関が飛び出してきてひれ伏しました。 「お願いがあります!山南先生をどうか、助けてやってください!!」 「お願いします!私達を採用してくださったのは、山南先生なんです。」 山南さんのあの 「採用です!!」 の声が甦りますねぇ。 「向こうに行っていなさい。」 近藤が困っているのを察して、止めに入る源さん。それでも、 「先生を許してやってください。お願いします!お願いします!!」 涙さえ浮かべて、必死に頭を下げる3人。 黙って聞いていた土方がついにキレる。 「うるせぇんだよ、てめぇら!! 一緒に腹切りてぇのかっ!!」 怒鳴りつけた土方の表情は、まるで泣きべそをかいているようだ。 源さんが3人の肩を抱くようにして、近藤の前から下がらせる。 自分たちだって、助けられるものなら助けたい。しかし立場上、どんなに請われようとも責められようとも、鬼となり夜叉となって、許す訳にはいかないのだ。その苦悩がびんびん伝わってくる。(涙) そして近藤・土方を守りつつ、松原たちを慰めてやる源さんの優しさが、胸を打ちます。 近藤が、幹部会議の結果を山南に告げに来ました。 「切腹は七つ時にここでと決まりました。」 介錯を沖田に頼みたいと願い出る山南。 「初めて試衛館に伺った時、私と試合をしたのが彼でしたから。」 その時からずっと、沖田の剣の上達を見守ってきたのですね? 可愛い弟弟子といった存在だったのでしょうか。 山南の意を受けて、総司に伝えに行く近藤。 総司は中庭の階段に力なく寄りかかっています。山南を連れ帰ってきてしまった自分を、彼は責めているのでしょうか。 何かを察して近藤の方を振り向いた後の、厳しい表情と真っ直ぐな瞳が印象的です。 八木邸では土方が、八木源之丞・雅夫妻から山南の助命嘆願を受けていました。 一点を見つめたまま、能面のように表情を動かさない土方。 源之丞「山南はん、助けてやってください。」 土方 「それはできません。」 雅 「悪い人やないです。」 土方 「それはよく知っています。」 静かな口調でずっと答えてきた土方が、 「山南はんを死なしたらあかん!」 と言われた時、初めて、 「源之丞さん、それはあなたが言うことではない。」 厳かに毅然と拒絶します。 絶句する源之丞さん。 山南の部屋の前、島田が見張りをしています。 中では山南が尾形と河合に、今後のことを託しています。 新選組の活動の記録を残し、正しく後世に伝えるように。 そして河合には、隊費の出入りは細かく記録しておくようにと。 今後の展開を考えると、泣けるものがあります。 見張りの島田のところへ永倉・原田がやってきました。 「土方さんがお呼びだ。」 と席を外させて、その隙に部屋の障子を開け、 「早く逃げろ。」「あとは俺達がなんとかする。」 山南に逃げるように勧めます。 しかし書き物をしていた山南は、 「私は逃げるつもりはありません。」 と、きっぱりと断りました。 「私を逃がせば、今度はあなたがたが罪に問われる。」 「俺達のことはいいんだよ。」「あなたを逃がして俺達も逃げる。」 「それはいけない。」 二人の目の前でぴしゃんと障子を閉める山南。 山南の意思と覚悟を知って、目を剥く永倉と原田。 山南は二人に、 「あなたがたにはこれからの新選組と近藤さんを見届けてやってほしい。」 と頼むのです。 「これから時代は動く。新選組はその渦に巻き込まれていく。永倉さん、その時あなたには近藤局長の傍にいてやってほしいのです。」 「今まで以上に辛い決断をしなければならない時もあるでしょう。原田さん、あなたの底抜けの明るさがいよいよ必要になってくる。」 これからの新選組を二人に託す山南。その瞳はきらきら輝いています。 「この国を動かすのは、考え方や主張ではなく、人と人との繋がり」 坂本に言った言葉。その通りに、今、人生の最後に、山南さんは人との繋がりを紡いでいるのですね。 一方、土方の元へ行った島田は、 「呼んだ覚えはねぇな。」 とあっさり否定されてしまいます。そりゃ、そうだよね。(笑) 土方さん、手枕作って物憂げに横になっているんだけど、どうせならこれ、着流しでやってほしいな〜。その方が絶対色っぽい・・・などと思っている私は、ちょっと不謹慎です。(爆) 「もう一度永倉さんに確かめてきます。」 島田が戻ろうとした時、土方は永倉の意図に気がついて、島田を呼びとめます。泳ぐ目が上手い。 「思い出した。呼んだのは俺だ。」 立場上、表立って逃がすことはできないけれど、時間稼ぎをしてやろうと思ったのですね。 「で、なんでしょう?」 「・・・あ・・・渡したい物があったんだ。俺の実家から送ってきた石田散薬だ。」 「で、何に効くんですか?」 「これを飲むと・・・」 続きが思いつかずに、周囲に視線を走らせる土方。ちょうど本を読んでいる、背の低い観柳斎に目が留まり、 「背が伸びる。」 途端に反応する観柳斎。思わず爆笑。 しかし、薬を飲ませようとしている島田は、かなり大柄な男だ。 「(背丈は)もう2、3寸はほしいところだ。」「今、飲め。」「これは酒と一緒じゃねぇと効かねぇんだ。八木さんの台所へ行ってもらってこい。」 とりあえず時間稼ぎとばかりに、あれこれ指示する土方に、ちんぷんかんぷんで首を捻る島田がおかしい。島田が去ったあと、石田散薬の袋に興味を示している観柳斎も笑える。 このシーン、今日の放送で唯一の笑いどころですね。ちょっと一服できて、助かります。 「つまり、土方さんは山南さんを憎んでた? せやから切腹させるんやろ?」 おひでちゃんが総司に尋ねています。 でも山南に介錯を頼まれた総司は、自分の気持ちを整理するだけでいっぱいいっぱい。おひでちゃんの言葉を否定してあげることもできません。 「それは違う。俺から見るとあの二人は、お互いに敬い、認め合っていた。」 代わりに正したのは斎藤でした。(気づくといつも斎藤がいる・・・ってキャラですね。(爆)) 斎藤は、以前大阪の呉服屋に、不逞浪士を取り締まりに行った時のことを話し始めます。 流れる回想シーン。 これはたぶん、岩木升屋事件をイメージしているのでしょう。最後に流れた新選組紀行で、ボロボロになった山南の刀の押型が出ていた、その時の事件です。この時に山南は大怪我をして、そのため隊務にはつけなくなって、その後の記録から名前が消えたのではないか?という説もあります。 さてこのドラマの場合、不逞浪士が押し入ったと報告を受けて、向かったのは土方・山南・斎藤の3人でした。浪士は5人くらいかな? すぐに斬り合いになります。 途中、浪士に刀を折られ、脇差を抜くこともできず、壁際に追い詰められる山南。 斎藤が助太刀に行こうとするも、別の浪士に阻まれる。 絶体絶命かと思ったその時に、後ろから浪士を斬ったのは土方でした。 立ち上がれずに、浪士が倒れるのを呆然と見ていた山南に、土方は手を差し伸べる。 土方の手を借りて立ち上がる山南。握り合う手と手。それを見つめる斎藤・・・。 そうなんですよね。芹沢鴨暗殺の時にあれ?と思ったのですが、山南は北辰一刀流免許皆伝という腕を持ちながら、たぶん人を斬ることができないんですね。あるいは追い詰められた時、体が動かなくなってしまう。(このドラマの設定では) だからそれを知った土方が、山南の命を守るため、総長という役職を与えて、実戦部隊から外したのではないでしょうか。 池田屋事件の時も禁門の変の時も、屯所でお留守番だったのはそのため。 けれど山南のためにと思ってやったこの人事が、結局彼の居場所をなくしてしまうことになったのだとしたら、山南本人はもちろんのこと、土方もどんなにか苦しんだことでしょう。 そういえば池田屋事件以降、意見が対立するたびに、土方は山南に怒るというより、泣いているような堪えているような、そんな表情をしていたように思います。とすれば、山南が精神的に追い詰められていくのを傍らで見ながら、土方は自分のせいだと責任を感じていたのかもしれませんよね。 ひで「そしたら、何で山南さんは死なんならんの?」 斎藤「法度に背いた者は切腹。それだけのことだ。」 その時、沖田が搾り出すような声で呟きます。 「どうしてこういうことになるのかなぁ。私の好きな人は、みんな私の刀で死んでいく。私はこんなことのために剣を学んできたんじゃない。」 芹沢もお梅も、自分が斬ってきた。そして今度は山南・・・。 あと数年しか生きられない自分が、健康な人の命を絶っていく。その悲しみ。やるせなさ。 いつもは飄々としている斎藤も、辛そうに瞳を揺らしています。 もう自分に関わらないでと言われながら、打ちひしがれている総司を慰めたい、傍にいたいと、願ってやまないおひでちゃんがいじらしい。 さて、八木家へ行って、お酒で石田散薬を飲んできた島田。相変わらず見張りをしているものの、 ちょっと酔いが回ってきているらしい。(笑) そんな彼に源さんが再び、 「土方さんがお呼びだ。」 と伝えて、行かせます。 今度は土方さん、どんな理由をつけて島田さんを足止めするのでしょうか。(爆) 島田が去ると、山南に食事を差し入れる源さん。 「山南さんが好きなものを揃えてみました。」 と、山南の前に膳を置きます。 障子を開けたり、膳の向きを変えたり、源さんというか小林さんも所作がすごく綺麗なんですよねえ。 切腹の前の食事は控えたい、しばらくは目で楽しませていただきますと言う山南。 膳を置いて立ち去ろうとする源さんに、 「これは持って行ってください。」 と返したのは、膳に乗せてあった、竹の皮に包んだ握り飯です。それを持って逃げろというつもりで、源さんは食事を運んできたのですね。 「島田くんを呼び戻すのも、お忘れなく。」 山南の覚悟に、黙って頭を下げる源さん。(泣) 次々と自分の元を訪れてくれる仲間たちに、自分の居場所はまだここにしっかりあったのだと、山南は感じることができたでしょうか。 山南に会いに、明里が京へ戻ってきてしまいました。 一緒に丹波へ帰ってほしいという明里に、 「私はこれから、行かねばならないところがあるのです。」 と告げる山南。 すると明里は、一緒についていくと言い出します。 大津の宿での総司と山南のただならぬ雰囲気に、何事かを察したのでしょうか。 今日の明里は、ひどく聞き分けが悪い。 優しく諭していた山南ですが、傍に控えていた近藤にまで駄々をこね始めたのを見て、、 「我が侭を言うな!!」 と一喝します。初めて本気で叱られて、驚き固まる明里。 この山南さんの一喝が良かったですね〜。 山南さんが怒鳴るのは3回目だけど(軍議の席と、明里に八つ当たりした時と、今回)、前の2回は自分の感情をぶつけただけだったのに対して、今日は明里のためを思っての一喝なんですよね。 だからすごく重みがあるというか、温かい感じがして・・・。 さらに怒鳴ったすぐ後で、限りなく優しい声で、 「これ以上、私を困らせるな。」 と明里をなだめます。こんな風に諌められたら、何も言えなくなってしまう・・・。 必ず迎えに行くから、一緒に富士山を見に行こうと約束する山南。明里を見つめる山南の瞳が、これ以上ない程優しくて・・・。 「きっとやで。忘れたらあかんで。」 何回も確認する明里。山南を見つめる明里の瞳もこの上なく優しくて・・・。 近藤は二人の遣り取りに居たたまれず、部屋を出ます。 山南を切腹させなければならないだけでなく、明里から山南を奪わなければならない。そんな自分に耐えられなくなったのでしょう。 隣りの部屋に入ると、しゃがみこみ、がっくりとうなだれる近藤。 そんな近藤を見守る、永倉・原田・松原の3人も辛そうです。 近藤・土方たちのやり方に、ずっと疑問を抱いてきた永倉と原田。たぶん、この時初めて、隊をまとめる立場の苦悩がわかったのではないでしょうか。人の痛みを感じることなく、ただ厳しくあるのではない。人の痛みに自らも傷つきながら、それでも厳しくあらねばならない立場の辛さ。それは、近藤のことを山南に託されて初めて、気づくことができたのですね。 日も暮れました。 隊服を羽織り、刻限を待つ幹部たち。誰も言葉を交わす者はいません。 山南も、白の小袖に浅葱色の裃を身に付け、静かにその時を待っています。 すると、外から出窓を叩く音が・・・。 障子を開けると、明里が立っていました。 駆けてきたのか、息をはずませて、格子の間から花を差し出す明里。 明里「これ、菜の花やろ?」 山南「菜の花だ。」 明里「な? 今頃でも咲くことあるんよ。うちの言うてたとおりやろ。」 山南「私の負けだ。」 素直に、本当に自然に、負けを認める山南。今までは、負けを認めることなんてできなかったはず。ずっと肩をいからせて生きてきた。でも、すっぱり負けを認める山南の姿は、潔くて凛としています。 ふと見ると、明里の後ろには山崎が控えていました。山南に深く頭を下げ、 「必ず(明里を)送り届けますので、ご安心ください。」 と約束する山崎。あ〜、いい人だ〜。 「待ってるからな。」 と、いつまでも明るく笑いかける明里を見つめ、そっと障子を閉める山南。今度こそ本当に、別れを告げたのですね。 ずっと笑っていた明里は、障子が閉まるとその笑みを消して、 「何しでかしたん? 切腹するんやろ? これから。」 と山崎に尋ねます。明里さん、気づいていたんだね? 山崎さんも驚いています。 「そうかてあれ、死に装束やもん。」 さっき怒鳴られて気づき、そして死に装束を見て確信に変わったのでしょうか。 「ご存じやったんですか。」 「うち、それほどアホやないもん。うちが泣いたら、あの人、悲しむだけやろ。ほやから騙してやったん。せんせもすっかり信じ込んで・・・。案外、あの人もああ見えて、信じやすいんやな。」 泣き笑いしながら話す明里。 あぁ、そうだったのかと、気丈な明里のけなげさに、涙がこぼれます。 そして彼女は、閉じられた障子の向こうに向かって 「アホや。」 と・・・。 自分の悲しい人生でさえ笑って話せた明里が、山南の生き方に泣いている。 恵まれない境遇の中、しなやかにしたたかに生きてきた明里から見れば、山南の生き方は呆れるほど不器用に感じられたことでしょうね。そして不器用だからこそ、愛しく感じたのかもしれません。 やるせなさも愛しさも、万感を込めた言葉。 やがて泣きながら、それでもしっかり上を向いて歩いていく明里の後ろ姿に、涙が止まりませんでした。 その時が近づいてきます。 山南の部屋の障子が開けられて、入ってきたのは土方でした。 朝からずっと、かける言葉を探していたのでしょうか。だから最後になってしまった。 山南も、土方が来るのをずっと待っていたのかもしれません。 土方を見上げる山南。立ち尽くしたまま山南を見つめる土方。 けれど、土方はやはり思いを言葉にすることができずに、立ち去ろうとします。 「悔やむことはない。」 山南の言葉に土方は立ち止まる。 今までずっと土方の方から呼びかけて呼びかけて、だけどそれに応えることなく自分を追い詰めていった山南が、最後に自分の方から土方に言葉をかけるのですね。 「君は正しかった。私を許せば、隊の規律は乱れる。私が腹を切ることで、新選組の結束はより固まる。それが総長である私の、最後の仕事です。」 あぁ、山南さんは、土方さんがこれ以上自分を責めることのないよう、そう言ってくれるのですか。 そして最後に、新選組のために、土方さんと一緒に作った法度に従って切腹するのだと・・・。あの芹沢粛清の頃のように、土方さんとともに、新選組を大きくする仕事をするのだと・・・言ってくださるのですね。山南さんのその優しさ、土方さんの胸にどんなに響いたことでしょう。それはきっと、体が引き裂かれそうなほど。 振り返る土方は辛そうに山南を見つめて、それから障子を閉めて出て行きます。 みんなが逃がそう逃がそうとして開けてきた障子を、最後に土方だけが、山南のために閉めていく。反発しながらも、山南を一番理解してきた土方だからこそ、山南の覚悟が十分わかっていた。もはや、その覚悟を尊重することこそが、山南のためなのだとわかっているのでしょうね。 この時の土方の表情が、切なくて哀しくて、胸が締め付けられるよう。 土方が去った後の山南は、これでやるべきことはすべてやったというように、穏やかな表情をしています。 切ないです。苦しいです。涙が止まらないんです。 時刻になりました。屯所は静寂の中にあります。 スタッフと堺さんが、山南らしい最期をと話し合って、正式な作法に則った切腹のシーンにしたそうです。リハーサルから本番と、まるで仲間である堺さんが本当に死んでしまうような気がして、みんな泣きながら撮影したのだとか。そんな現場の緊張と慟哭が、画面から伝わってくるシーンでした。 切腹に立ち会うのは、試衛館派のメンバーと、伊東参謀、武田観柳斎。介錯は沖田総司。 厳かな空気の中、立会人に一礼し、山南の切腹は始まります。彼らしい、一つ一つ手順を踏んでいく所作。 立ち会う仲間たち一人一人の表情は、すでにみんな、目を真っ赤にし、あるいは涙に濡れている。 それでも、山南の死を最後まで見届けるんだという悲壮なまでの決意が見て取れます。 その中で、伊東参謀と観柳斎だけが違う表情をしているんですね。何の感情も持たず、仕事として割り切っている様子の観柳斎。酷くてとても見ていられないというように、思わず目を伏せてしまう伊東参謀。 山南の背後で介錯の刀を抜く総司の目も、心なしか潤んでいるよう。 その総司に 「声をかけるまで待つように。」 と言い置いて、山南は刀を腹に立てます。 横一文字に切り、さらに上へと切り上げる。十文字に切るやり方を想定しているそうです。(す、すごい・・・) 山南の額に血管が浮き出て、上半身が朱に染まっていく。 みんなの瞳に涙が溢れ、それでも歯を食いしばって山南を見守っている。左之助の頬を涙が伝い、斎藤が唇を震わせている。(彼がこれだけ感情を表に出したのは初めてじゃないだろうか。) 「沖田くん・・・」 山南が苦しい息で総司の名を呼んだ時、総司の刀が一閃して、山南はその最期を迎えたのでした。 はぁ・・・。一息ついて初めて、ずっと息を止めていたのに気づきました。 幹部が揃って刻限になるのを待っているシーンからずっと、流れていた切なく重厚なメロディーが、とてもよく合っていました。 胸が重たいです。何かに押し潰されているように・・・。 隊服を脱ぐのも忘れ、縁側に並んで座りこんでいる近藤と土方。言葉もなくし、ただ呆然とどこかを見つめています。がっくりと肩を落とし、丸めた背中・・・。 そこへ、伊東参謀が部屋に入ってきます。彼もまた、今日の出来事は衝撃だったことでしょう。二人の後ろに座り、悔やみの言葉を述べ始めます。 山南を偲んで詠んだ歌を一首。 「春風に 吹きさそわれて 山桜 ちりてぞ人に おしまるるかな」 山南を追悼して詠んだ四首のうち、最も有名な歌ですね。 けれど伊東先生、明日にしておやんなさいよ。この二人、ぼろぼろなんだから・・・。 伊東参謀が既に羽織を着替えているのも、近藤・土方とは悲しみの度合いが違うことを表わしていて上手いですね。 「お辛いでしょう。お二人の心中、察してあまりあります。」 そのうち土方に怒鳴られるぞ・・・と思っていたら、 「あなたに何がわかるというのだー!!」 近藤が一喝した。 そうか。土方さんはぼろぼろ過ぎて、もう怒ることもできないんだね。 怒鳴られたあとの伊東参謀、叱られた子どもみたいです。 ごめんなさい、伊東先生。今この人たち、普通の精神状態じゃないから・・・。っていうか、二人のあの背中を見たら、普通遠慮して出て行くでしょうが〜。思ったより気の利かないとこあるんだな、この人。 近藤が伊東参謀を一喝したことで、支えていた最後の糸まで切れてしまったのでしょうか。 土方が嗚咽を漏らし始める。土方の肩を抱き寄せる近藤。 近藤に肩を抱かれて、声をあげて泣く土方。鬼の面を外して、子どものように顔をくしゃくしゃにして・・・。 京に上ってきてから、土方がずっと近藤を引っ張ってきた。悩む近藤を土方がずっと支えてきたように思います。だけど土方さんが崩れ落ちてしまった今夜は、近藤さんが土方さんを支えてくれるんですね。嬉しい。 くしゃくしゃの顔で(現場では、ぐだ顔にぐだ泣きと呼ばれていたらしいが)泣く二人は、多摩の頃のトシとかっちゃんに戻ったみたいだ。 泣きなさい、今夜は・・・。どうせまた明日からは、鬼の面をつけて走り続けなくてはならないのだから・・・。 半年以上放送を観てきて、現場の皆さん同様に私たち視聴者も、新選組に、山南に、思い入れが強くなってきていて、だから私たちも、本当に友を失うような気持ちで観ていました。山南や明里の心情はもちろんのこと、大切な人を自ら死に追いやらなければならない仲間たちの気持ちには、胸を抉られるような痛みを感じました。 愚かだけど、これが“新選組”なんですよね。時代の流れの中でもがいて足掻いて自滅していく・・・まっすぐで不器用な男たち。その生き方が、切なくてめちゃくちゃ愛しいんです。 さて、山南敬助はとても謎の多い人物です。 仙台藩出身と言われていますが、仙台藩士の中に「山南姓」の人物は見当たらなかったり、元治元年2月に病に臥せっているとの記録があった後は、新選組の史料から名前が消えてしまったり・・・。 そして1年後に山南の名が登場した時は、屯所で切腹してしまうのです。 切腹の理由も、伊東甲子太郎に思想的に影響を受けてだったり、西本願寺の屯所移転計画で副長土方と対立したためだったり、はっきりとしていません。 そんな謎だらけの人物だからこそ、三谷氏がこのような新しい山南敬助像を創作できたのだと思うし、そこに堺雅人さんの演技があったからこそ、これだけ魅力のある山南敬助が出来上がったのでしょう。さらに言うならそこへ、対立する土方歳三の山本耕史くんや、恋人として明里の鈴木砂羽さんが絡んだことによって、ますます輝くことができたのではないでしょうか。 ちなみに明里もその存在ははっきりしていないのですが、本当は島原の天神(太夫に次ぐ高い位の遊女)だったと言われています。太夫や天神ともなれば、遊女といえども芸事や教養もしっかり身につけ、一目置かれる存在だったとか。でもこのドラマの山南には、こういう明里で良かったように思う。自分とは正反対のタイプの女性だったからこそ、そこに安らぎも刺激も見出せて、山南の“明るい里”になれたんだと思います。 山南敬助は、知識人であり思想家であり、理想派だと思うのです。山南は北辰一刀流を修めていましたが、その道場「玄武館」は全国から優秀な門弟が集まり、当時は尊王色がとても強かったようです。だから山南も、日本はどうあり、新選組はどうあり、自分はどうあるべきか、常に考えていたと思う。けれど、理想に捉われ過ぎて、踏み出せない、結果が出せないことも多かったのではないでしょうか。 一方土方歳三は、現実派であり、職人だと思うのです。思想を知らない、時勢がわからないというより、あまり関係ないんだ。それよりも、自分がどう生きるか、そのために今どう行動すべきか、どう仕事をこなして、いかに結果を出すかの方が大切なんだと思う。 本当に、この二人ががっちり手を組めば、最強だったんじゃないでしょうかねえ。 性格的に合わなかった二人。だけど、土方は山南の才能を認め、頼りにしていました。山南も、土方の才能を認め、考えを理解していた。近藤を大きくするためには無くてはならないパートナーだと、お互いに考えていた。 大きくなる組織、否応なく時代の真ん中へと押し出されていく。そしてなぜか、時代の流れと逆へ逆へと流されていく皮肉。その中で、歯を食いしばって走り続ける土方と、方向さえも見失い立ち止まってしまう山南。自分の居場所も進むべき道も見失ってしまった山南は、どんなにか苦しかったでしょうね。そして、それを傍で見つめていた土方も。 明里との出会いによって、ようやく身近な幸せ、現実の中で自分はどう生きたいかを見つけた山南が、改めて自分のため、新選組のため、日本のために命をかける。それを見届けた近藤が土方が仲間たちが、今度はどう変わっていくのでしょうか。 堺さんがTV雑誌の記事の中で、「山南の出番は終わっても、自分にとっても山南にとっても『新選組!』は終わらない。最終回まで見届けたい。」と話していました。私も楽しみに見守っていきたいと思います。 堺さん、本当にお疲れ様でした。 |