大河ドラマ「新選組!」のツボ

 

第2回  多摩の誇りとは  

  (第1回から第21回までは、最終回まで視聴した後、DVDを観ながら書いています。)

“勇とその盟友である土方歳三は、ともに武蔵国多摩郡の農民の出身である。勇の幼名は宮川勝五
 郎、天然理心流三代目近藤周助の養子となり、島崎勝太、のちに近藤勇を名乗る。当時勇は天然
 理心流の師範代であり、一方歳三は奉公先を逃げ出し、放蕩の日々を送っていた。図らずも幕末
 の英雄と出会い、動乱の時代の幕開けを感じながらも、自らの運命がどう変わるのか、思いも及ば
 ぬ若き二人であった。”


安政四年(1857)10月13日 多摩
日野へ出稽古に来たついでに、調布の実家に寄った勇を、兄音五郎が暖かく迎えてくれています。
なぜ、おみつさんがついてきてるのかはわかりませんが・・・。(苦笑) 武家の奥方がそうそう出歩いてなどいられないはずなんですけどねぇ。
甥っ子の勇五郎にせがまれて、拳を口の中に入れてみせる勇。
近藤さんのこの芸は有名な話ですが、まさか香取くんが出来るとは思わなかった。改めて見ると、確かに口大きいんだ。>慎吾くん
さらに、
「口がでかいのは我が家の血筋だ。」
と、音五郎さんまで入れてみせるとは! 二人並んでうがうがやってる画、笑えます。

音五郎兄さんは勇に、袱紗に包んだお金を差し出します。
「いつもすいません。兄さんのおかげで、また来月もしのげます。」
この、勇の兄宮川音五郎さんや、これから出てくる歳三の義兄佐藤彦五郎さんなど、多摩の豪農や名主たちが、試衛館を、そしてのちに結成される新選組の初期を、支えてくれていたんですよね。
「後悔はしてないか?養子に入ったこと。」
弟の気持ちを思い遣って尋ねる兄に、
「まったく。おかげで勝太は武士になれました。」
と、嬉しそうに笑う勇。音五郎兄さんも、ほっとしたように頷きながら笑います。

日野に着いた二人を、今度は歳三の義兄彦五郎が、嬉しそうに迎えています。
「今日はね、たまたまですが、若先生、弟が来てるんですよ。先生がみえるって話したら、とっても喜
 んで。」
お茶を運んできた、歳三の姉のぶの言葉に、勇も目を輝かせます。

日野へは、行商のついでによく立ち寄るという歳三。
「行商?」
「虚労散薬といって、胸の病によく効く。良かったら。」
「胸は悪くないから、打ち身に効くような奴はないのか?」
勇の注文に、歳三は膝をぽんと叩いて、
「打ち身、挫き、でしたら、こちらの石田散薬がお薦めですね。多摩川で採ってきた牛革草を一旦、天日干しして、それを黒焼きにしてから、挽いて粉にする。手間かかってんだよ。」
「ほんとに効くのか?」
「どんな痛みも一晩で引く。やるよ」
と、歳三は薬の袋を差し出します。
受け取った袋を見ながら、
「行商人か。」
呟いた勇の言葉に、笑みを消し表情を固くする歳三。
「俺はこれで身を立てる。日本中の打ち身と挫きを治す。」
決意を語るその瞳は、だけどとても暗くて・・・。
勇は歳三を剣術の稽古に誘いますが、これから相棒と一緒に甲府まで行かなきゃならないと、歳三は断ります。

彦五郎の屋敷に近在の若者が集まってきて、勇の稽古が始まりました。
えい、とう、えい、とう・・・・。
太い木刀を構えての素振りの稽古に、脱落者が出始めます。
「旦那さま、き、きつ過ぎますよ。」「百姓なんだから、少しは手加減してほしいです。」
村人の言葉に、
「だからもう、いつも言ってんじゃないか。これからの百姓はな、これがないと駄目なんだって。」
と彦五郎さん。
そうなんですよね。黒船が来航し、世の中が不穏になってきて、この頃は農民も自衛のために、剣術を習ったり武装する必要が出てきたりしていたんです。
「でも重過ぎますよ。なんで竹刀じゃ駄目なんですか。」
更なる問いに、
「本物の刀というのは、竹刀みたいに軽くない。そんな竹刀でいくら稽古をつけていても、剣術の試合
 に強くなるだけだ。本当に大事なのは、戦の時に相手をどう倒すか。」
と勇が答えます。
天然理心流というのは、実戦向きの流派だそうですね。昨年行った新選組水戸派史料館(2005年
1月10日をもって閉館)で、この木刀を持たせてもらいましたが、本当に太くて重かった。とても女の腕で振り回せるものではなかったです。
甲府まで行かなきゃならないと言っていた歳三が、いつのまにかやってきて、柱に寄り掛かって稽古の様子を見ています。
それに気づいて、微笑みかける勇。

歳三は道場を離れると、台所の方に回って、板の間に横になりました。
聞こえてくる勇たちの掛け声。
「あなたも混ぜてもらえば?」
と、おのぶ姉さんがやってきて声をかけます。
「薬屋に剣術は必要ありませんから。」
「やりたいくせに。」
「行商をやれって言ったのは姉上ですよ。」
「あなたが何にもしないでふらふらしてるから。」
「剣を習ったところで、百姓は百姓です。」
言い捨てて、出て行く歳三。姉さんはそっと、溜め息を吐きます。
この、浅田美代子演じるおのぶ姉さんが良かったんですよねぇ。屈折した弟のこと、温かく優しく見守ってくれていて。(感涙)

稽古の終わった勇は、彦五郎さん、そして後見人の小島鹿之助さんと話をしています。
小島鹿之助は小野路村(現在の町田市)の名主で、彦五郎同様、勇の義父周助に入門しました。彦五郎、鹿之助、勇の3人は剣を通じて交流を深め、義兄弟の契りを交わしていたそうです。彦五郎も鹿之助も、名主としての実力だけではなく、文武に秀でた大層な人物で、勇は二人から大きな影響を受けていました。
その二人から、頼み事をされる勇。
近頃多摩には盗賊が徘徊していて、3日前には澤田村の滝本繁蔵さんの屋敷が狙われた。繁蔵さんは鉄砲を取り出し、賊を追い払ったけれど、奴らは必ず戻ってくる。とりあえず蔵の物を彦五郎さんのところに移そうということになったので、道中の警護をお願いしたい、ということでした。
「近藤勇も多摩の男です。お役に立てるよう、力を尽くします。」
と、勇は快く引き受けます。

彦五郎さんの道場から木刀を借りていこうとしていると、おのぶさんがやってきました。
自分の口からは何も言わないが、歳三は本当は、剣の道に進みたいんじゃないかと言うおのぶ姉
さん。
「隠れてよく剣術の稽古をしてるみたいだし。勝太さんがお侍の家に養子に入るって決まった時、
 一番喜んだのはあの子でしたから。」
それを聞いて、嬉しそうに微笑む勇。
「歳三も、武士になりたいんですよ。」
おのぶ姉さんが、一番わかってくれているんだなぁ。(嬉)

澤田村に向かって歩き始めると、道端に歳三が座って待っていました。
相棒のひも爺との約束は、断ったらしい。
「加勢はしない。俺は薬屋だから。かっちゃんが怪我した時の介抱役で。」
と照れたように見上げる歳三。ほんとは、かっちゃんと一緒に行きたかったのね。素直にそうと言えないところが、子どもみたいで愛しいんだなぁ。(爆)
「あたしも介抱役ということで。」
お転婆おみつさんもついてきてしまいます。

「澤田村の繁蔵さん、しばらく会ってねぇなぁ。」
「息子がいたの、覚えてるか? いけすかねぇ、ガキでさ。」
「あぁ、捨助か。」
「家が金持ちなのを何かと鼻にかけて。」
「あいつ、今どうしてる?」
「いけすかねぇ、大人になってるよ。」
このやり取り、笑える。
ロケがいいですねぇ。田畑の間を歩いていく様子が、のどかで、広々としていて気持ちいい。
兄に渡す物があるから、家に寄ってほしいと歳三が頼みます。

歳三の実家、土方家。
このお兄さんは、長兄の為次郎さんですね。豪胆なお人柄でありながら、目が見えないために家督を相続することができず、隠居して俳諧や音曲の道に生きたと言われています。土方さんが新選組鬼の副長と呼ばれながら、一方で俳諧などという風流な趣味を持っていたのは、祖父とこの為次郎さんの影響だとか。
そして今回、この土方為次郎を演じているのが、その昔、ドラマ「新選組血風録」「燃えよ剣」の土方歳三役で絶賛された、栗塚旭氏です。今まで新選組を扱ったドラマや映画はいろいろあって、様々な俳優さんが土方歳三を演じてきていますが、土方役といえばやはりまず最初に、栗塚さんの名が挙がるはず。(大河ドラマが終わった今は、きっとそこに、山本耕史くんの名が並ぶと思うのですが。) 私が新選組に嵌まった頃、深夜に「燃えよ剣」の再放送をやっていて、朴訥として不器用な中に芯の通った土方さんを、溜め息つきながら観ていたことを懐かしく思い出します。そんな訳で、これはまさに夢の共演なんですよね!

さて為次郎を訪ねた歳三は、お兄さんが好物の黒砂糖を手渡します。
勇も昔は為次郎兄さんに、いろいろ相談に乗ってもらっていたらしい。大抵は恋の悩み。(笑)
歳三が、これから澤田村の繁蔵さんのところに行くと報告すると、
「近藤勇さん。この多摩は、徳川家康公以来250年の間、多摩の者の手で守り育ててきた。それ
 が、ここに生きる者の誇りなのです。なにとぞ、よろしくお願いします。」
と頭を下げる為次郎さん。
「はい、かしこまりました。」
勇は潔く承ります。

三人は、澤田村の繁蔵さんの屋敷に到着しました。本当に、すごい門構えの立派なお屋敷だ〜。
3日前、盗賊を追い払ったという繁蔵さんは、床に臥せっていました。
あ、枕元には、さっそく石田散薬の袋が置いてあります。(^^)
「勝五郎、蔵にある米や金銀は、村人たちが汗水垂らして蓄えた宝だ。くれぐれも、盗賊どもには渡さんでくれ。」
勇に頼み込む繁蔵さん。勇はしっかり頷いてみせます。
その時、スパンッと襖が開いて、捨助が飛び込んできました。
「かっちゃーん!!知らせてくれよぉ。水臭ぇなぁ。」
とたんに、勇と歳三が顔をしかめているのが可笑しい。

囲炉裏端に席を移して、捨助が三人にお茶を運んできます。
「かっちゃんが来てくれれば、もう恐いもん無しだね。」
と言う捨助に、歳三はすかさず、
「近藤さんと言え。」
って、鬼副長の片鱗がチラリ。(笑)
一人舞い上がっている捨助に、勇も厳しい顔で、
「お前、親父殿が賊と対してた時、何してた?」
と訊ねます。途端に表情を強張らせる捨助。
勇に胸倉掴まれて、前の日が遅くて寝ていたと白状します。
「言ってた通り、いけすかない奴ねぇ。」
ほんと。(呆) 
ところで、捨助は勇たちが来てくれるとは思わず、自分で勝手に助っ人を呼んだらしい。昼間茶屋で出会った旅人に、もう既に銭は渡したと話す捨助。勇は、
「引き取ってもらえ。俺達の多摩の土地は、多摩の者が守る。」
と突っ撥ねますが、歳三は、
「兵の数は多いにこしたことはない。会うだけ会ってみれば?」
と提案します。うふふ、ここにも副長の片鱗が。(*^^*)

捨助が助っ人を頼んだ旅人は、
「永倉新八。神道無念流。猿楽町の撃剣館で、本目録を頂戴致しました。見聞を広げようと、奥州に武者修行に出る途中です。」
と自己紹介。後に、新選組二番隊組長となる人ですね。
勇は話をして、力になってもらうことに決めたようです。
自分のしたことが無駄にならず、かっちゃんの役に立って、大喜びの捨助。
勇と歳三に順番に抱きつきます。そして、順番に、嫌そうに振り払われる。(笑)

囲炉裏端で、寛ぐ4人。そして、一生懸命もてなそうとする捨助。
突然勇は永倉に、自分たちは人を斬ったことがないと言い出します。永倉さんは一度、旅先でしつこく絡んできた浪人を斬ったことがあるらしい。
「今回も私は、剣を使いたくないのです。甘いと思われるかもしれませんが、賊を懲らしめるだけで終
 わりにしたい。それで私は、木刀を持参しました。」
と言う勇。そんな勇を、
「侍が斬るの、恐がってどうする!」
と歳三が責めます。
「恐がってる訳じゃない。斬らなくて済むのなら、それにこしたことはないと言っているだけだ。」
「仲間が目の前で斬られても、同じことを言えますか?」
と永倉も追求します。
険悪な雰囲気になってきたところで、
「いいんじゃないですか?各々が力を尽くすってことで。」
と捨助。いいじゃん。あんた、いけすかない奴だけど、場の雰囲気は読めるらしい。

捨助の心尽くしの猪肉と酒のおもてなし。
お膳のものを口に運んでいる、土方さんの後ろ姿。山本くん、なかなか芸が細かい。おみつさんが徳利を運んでくると、ちらりとそちらを見たり、一息ついて、ふっと肩を落としたり。人は確かに、無意識のうちにそんな動作してるよなぁ。
「永倉さんはずいぶん落ち着いていらっしゃいますけど、おいくつでいらっしゃるの?」
「天保10年の生まれです。今年で19になります。」
思わず咳き込む歳三と、目を丸くして永倉の顔を見つめる勇。
「年下じゃない。」と言うおみつさんに、「見えない。」と呟く勇と、「さん付けしちまったよ。」と訴える歳三。
笑える〜。ぐっさんの永倉、19歳はさすがに無理がある。でも、こうして笑い話にしてしまうと、これはこれでOKかな。

捨助が呼んできた娘たちに酌をされて、すっかり酔って寝てしまった勇たち。あれ、永倉さんはいない。
すると、どうやら門の前に、盗賊らしき一団が。
女中から「大変です!」と報告を受けて、慌てて外に出る4人。
永倉は既に屋敷を見下ろす土手の上から、盗賊の様子を窺っていました。さすがだ、新八さん。
賊は4人。一人は鉄砲を持ち、既に蔵の物を大八車に積み始めています。
火縄銃を持ち出してきた捨助に、歳三が「捨、撃てるか? 急げ!」と声をかけますが、なかなか上手く火縄を装填できません。
「行ってしまうぞ!」「何してるの!」
勇とおみつさんからも急き立てられて、ますます焦る捨助。
その間に盗賊たちは荷物を積み終わって、そろそろ引き上げようとしています。

痺れを切らした勇が、土手を駆け下りていきました。永倉は逆方向から。
「いやぁ〜!!」
木刀を振りかざして盗賊たちに向かっていく勇に、賊の鉄砲が火を噴きます。転がる勇。
「かっちゃん!!」
歳三が思わず駆け出し、おみつさんが捨助から銃を奪い取ります。
狙いを定めて、火縄銃を撃つおみつさん。さすが、お転婆姉さん。捨助より頼りになるみたい。(笑)

勇は右腕を撃たれていました。
「くっそぉ〜〜っ!!」
勇の代わりに、歳三が木刀を握り締め、盗賊たちに向かっていきます。
鉄砲を持った男に打ちかかる歳三。男が刀を抜いた時、永倉が駆けつけて斬り捨てます。
相対している敵は二人。そのうちの一人が裏へ逃げていき、永倉はその後を追います。
残された歳三は、刀で向かってくる敵に果敢に立ち向かいますが、やがて木刀を叩き落されてしまいます。絶体絶命。

気づいた勇が、刀を抜いて助けに向かいました。
「トシ、しゃがめーーっ!!」
しゃがんだ歳三の上を飛び越え、盗賊を上段から斬り下げます。勇の顔に撥ね返る返り血。
「お見事!」
戻って来た永倉が勇の腕を褒めますが、勇は肩で息をしながら、険しい表情のままです。
視線を下ろすと、自分が斬った盗賊の死に顔が見えます。動揺し、歯を食いしばる勇。

蔵の物は無事でしたが、結局盗賊の頭目は逃がしてしまいました。
さっさと火縄銃を撃っていれば・・・と、永倉は捨助を責めます。
莚を被せた盗賊の死体を、見つめ続ける勇。
「気分、悪いの?」
勇の腕を手当てしていたおみつさんが尋ねると、
「人を斬った。」
と答えます。
「斬らねば、この人が死んでいた。」
呆然と座り込んでいる勇を見下ろして、苛立たしげに指摘する永倉。
その言葉に、勇と歳三は顔を上げて見つめあいます。
それでも勇は後悔する気持ちを拭えなくて、莚を捲って、自分が斬った盗賊の顔を見つめます。
「殺すつもりはなかった・・・。」
合わせた手に額を押し当てる勇。
そんな勇を、心配そうに見つめるおみつさん。怒りの表情で睨みつける永倉。溜め息をつく歳三。
「しかし、おかしいな。賊は4人のはずだ。莚の下に二人、逃げたのが一人、あと一人は?」
さすが、冷静な歳三!!・・・と喜んでいたら、女中が駆けてきました。
「母屋に怪しい男が!」

慌てて母屋に戻ってみると、確かに怪しい男が一人、囲炉裏端に座って鍋を抱え込み、お櫃のご飯を頬張っています。
「お、どうだった? あ、これはあげないよ。」
って、誰のだよ!!
外に出て、向かい合う賊と永倉。
あ、この怪しい男が、後の新選組十番隊組長 原田左之助なんですね。
「戦わんといかんのか。」
「盗っ人の分際で、何を言う。」
「俺、別に、盗っ人じゃねぇし。江戸に向かって歩いてたらな、こいつらに声かけられて、手伝ってくれ
 って言われたから加勢したまでよ。」
しかし永倉は刀を抜き、原田もしぶしぶ槍を構えます。その時、
「ちょっと待った! 付いてる。ここに飯粒が。」
と原田に指摘する勇。
永倉はすっかり気勢を削がれて、
「もう、よい。やめた。」
と刀を納めます。満足そうに微笑む勇。
原田は軒下の干し柿を齧りながら、永倉に問われるままに、
「伊予松山。大坂 谷道場。種田宝蔵院流。名は原田左之助。好きな食いもんは鯵の開き。好きな
 女子は、小柄でお茶目。はっはっはっはっは。」
と、自己紹介。いや、別に、そこまで訊いてないけど。(苦笑)
とぼけた人柄に、永倉も思わず笑い出してしまいました。

その夜、井戸端で一生懸命、手を洗っている勇。
そこへ、歳三がやってきます。
「落ちないもんだな。血の匂いってやつは。」
勇は呟きます。その後ろ姿を、無表情で見つめる歳三。
「侍にさえならなければ、刀を持つこともなく、人を斬ることもなかった。あの賊は、まだ生きてる。」
「俺は死んでたぜ。」
「・・・。」
「いいのか、俺は死んでも。俺は死んでも、あいつが生きてりゃ、お前、苦しまねぇのか。」
「・・・。」
「侍になれた男が、侍になったことを後悔してる。侍になれない俺にしてみれば、こんなに腹の立つ
 ことはない。」
歳三はきっと、優しいかっちゃんの苦悩は十分理解してる。だから今まで一言も、自分からは勇を
責めなかったのでしょう。けれどやはり、理解してるけどやはり、勇の苦悩は贅沢な悩みにしか思えない。だって自分はこんなに、焦れるほど、焦がれるほど、侍になりたくてもなれないのだから・・・。(泣) という気持ちは、また胸の奥にしまって、歳三は事務的に報告します。
「今、繁蔵さんと話してきた。逃げた賊が戻ってくるかもしれん。蔵の物は、明日の朝一番で、彦五郎
 さんのところに運ぶ。以上。」
最後にちらっと笑みを見せて、立ち去る歳三。
さすが、後の副長。段取りを決めるのが素早いですね。(惚)

そして朝、一行は荷物とともに、日野へ向かいます。
途中、おみつさんを先に江戸へ帰そうとする勇。
「そんなこと、一言も言ってなかったじゃない。わかった。あんたの入れ知恵ね。」
「俺は知らねぇ。」
とばっちり受けてる歳三が笑える。いや、いかにもやりそうだけどさぁ。(爆)
「わかってください。もうこれ以上、何の知らせもなしに、家を空ける訳にはいかんのです。今の様子
 を、早く誰かが戻って伝えないと。明日の夜には帰ると父上に・・・。」
むくれるおみつさんを、勇は必死に説得します。横から歳三が、
「つべこべ言わずに、早く行きゃぁいいんだよ。」
と毒づいたら、ほら、おみつさんに蹴り入れられた。(笑)
お転婆姉さんにやられて、苦笑する歳三。
おみつさんはぷんぷん怒りながら、江戸への道を歩いていきました。
「惚れてんのか。」
「なに言ってんだよ!」
「好みだろ?ああいう、男勝りな女。」
「変な勘繰りはやめろ。あの人には旦那がいる。」
「?!」
目が点になる歳三。確かにかっちゃんも気がありそうだけど、そういう土方さんも、実は好きなんじゃないの?ああいう男勝りな女。(爆)

夜。勇と歳三は、為次郎兄さんのところへ報告に来ていました。
「こいつは、賊を斬ったことを、まだ悔やんでいるんです。」
「トシ、俺はもう・・・。」
「いや。見ればわかる。」
かっちゃんのことは、お見通し。
すると為次郎さんが、勇に話します。
「いけませんな。刀の前で、人は平等です。最後は、生きようとする思いの強い方が生き延びる。斬
 る者と斬られる者の差は、そこです。あなたに斬られた盗賊は、生きたいという思いがあなたより
 弱かった。ただそれだけのこと。違いますか。」
いいなぁ、為次郎兄さん。侍とは・・・とか、立ち合いとは・・・とか、難しい理論理屈ではなく、もっと根本的な、人間の持つ生命力で説いてくれるのが嬉しい。
勇もこれで、少しは吹っ切れたでしょうか。

勇と歳三は、庭に出ます。空には美しい満月が・・・。
「月が出ていますね。」
目の見えない為次郎兄さんに言われて、驚いて振り返る二人。
「月が無ければ、わざわざ立ち止まって、空を見ることはない。私は、目が見えない。だからこそ、見
 える物もある。余計な物は見なくて済むので、大事な物だけを感じ取ることができる。」
あぁ、為次郎兄さんの言葉は、一つ一つが奥が深くて、味わい深くて、素晴らしいお人柄が本当に偲ばれます。
「近藤さん。風が変わり始めていますよ。世の中に、これまでとは違った、新しい風が吹き始めてい
 る。動くことのなかった岩をも揺るがす、新しい風が。それが良き風か、悪しき風かは、私にはわか
 らない。しかしその風は、いずれ必ず嵐となる。間もなくです。もう間もなく、あなたのその剣が求め
 られる時が、必ずややってきます。それまで、ひたすら腕を磨いておおきなさい。風に乗るにせよ、
 逆らうにせよ、一度抜き放ったら、近藤さん、あなたの刀が鞘に収まる暇はない。そしてその横に
 は、お前がいる、歳三。お前の知恵で近藤さんを支えろ。二人の力で、この時代と切り結ぶのだ。」
為次郎兄さんの言葉に、二人は顔を見合わせます。
この先、自分たちが京へ上って、幕府のために尊攘浪士を追いかける日々が来るなど、もちろん予想もできなかったでしょう。それでも、自分たちの将来には何かがあるのだと、自分たちは何かを為すのだと、予感できるものを、二人は感じ取ったでしょうか。

翌日、勇と歳三は、川崎の方へ出たようです。
土手に座って、江戸へ向かう駐日総領事 ハリスの行列を眺める二人。
大名駕籠がちょうど二人の前を通りかかった時、引き戸が開いて、ハリスが顔を覗かせました。
その顔を見て、すぐさま天狗を想像した勇。
「鼻、でかっ!」
と、思わず口にします。(笑)

川崎から戻ってきた二人は、江戸と多摩の分かれ道に差しかかります。
「お前、もしよかったら・・・。」
と言いかけた勇の言葉を遮って、
「俺たちは違う道を歩き出したんだ。」
と答える歳三。
勇は歳三に一緒に来てほしくて、歳三も勇と一緒の道を歩きたくて・・・。
だけど今はまだ、それが叶わぬ二人。
歳三は、胸にぶら下げた袋から、浦賀で拾ったコルクの栓を取り出します。それを見て、勇も、腰に付けた袋から自分のコルクを取り出します。見せ合って、微笑む。
いつか、このコルクが、二人の道を一つにするのかな。
「じゃ。」
「うん。」
二人は分かれて歩いていきます。
と、勇が立ち止まって、歳三の方を振り返りました。
「うちの道場にこないか〜? 一緒になんか、でかいことやろうぜ!」
叫ぶ勇。
歩き続けていた歳三が、足を止めます。
「考えとく!」
ちょっと微笑む歳三。それを聞いて、勇は飛びきりの笑顔を見せて・・・。

後半に入って、山本耕史くんが一番お気に入りのシーンとして、挙げていた場面ですね。勇と歳三、二人のすべてがここから始まったんじゃないかって・・・。
のどかな田園風景の中、行く道は違えども、すでに思いは一つみたいな、二人の笑顔がとても印象的でした。

 

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