大河ドラマ「新選組!」のツボ

 

第3回  母は家出する  

  (第1回から第21回までは、最終回まで視聴した後、DVDを観ながら書いています。)

安政5年(1858)8月14日
江戸の町中で、勇は坂本龍馬とばったり出会います。
甘味処に入って、お汁粉を食べながら話す二人。そうか。今だったら、「ちょっとお茶でも飲みながら・・・」と喫茶店に入るところが、この頃だと、「汁粉でも食いながら・・・」になる訳ね。
龍馬は藩の命令で、土佐に帰ることになったらしい。
そこへ、店の外を越前松平家臣 橋本左内が通りかかり、龍馬が招き入れます。
左内と龍馬は、一緒に象山先生に学んだ仲とのこと。
そしてその象山先生は、弟子の吉田松陰が黒船に乗ってメリケンに渡ろうとした責任を負って、今は捕縛されて獄にいるらしい。
「あの話、聞きましたか? 取調べの最中、北町奉行所の役人に、先生が食ってかかったという。」
役人の読み間違いを一々正して、役人に「この不埒者〜!」と怒鳴られている象山先生の様子が流れます。
「象山先生らしいのう。」
と笑う龍馬ですが、
「利口なやり方とは思えません。その、先生の人を小馬鹿にした振舞いが、ご自分の首を絞めること
 になったのです。」
と心配する左内。
先程、左内を追うようにして入ってきた侍たちが、勇たちの様子をずっと窺っています。
勇は二人に、「もしよかったら、うちに来て下さい。」と、試衛館に誘います。
一足先に左内が店を出ると、侍たちも出ていきました。どうやら、左内を追う公儀隠密だったようですね。

「さて、ここに取り出したるは、石田散薬。酒と一緒に一度(ひとたび)飲めば、これなる名刀もただの
 鈍(なまく)ら。」
歳三とひも爺が、往来で石田散薬を売っています。
わぁ〜い。まるで、ガマの油売りの口上みたいだ〜。山本くん、上手いなぁ。
「さぁさ、お立会い。近くば寄ってご覧ぜよ。これ、この通り。えいっ!」
歳三は腕に刃を当てますが、傷つくどころかその跡さえ残りません。見物人から上がる歓声。
「さぁ、石田散薬の効能がわかったら、遠慮はご無用だ。これを一日一包み、酒と一緒にぐいーっと
 飲めば、骨接ぎ、打ち身、挫きに切り傷、腰の痛みに歯の痛み、どんな痛みもたちどころに治る。」
「買った!」
「へい、まいどありぃ。はいはい、順番だよ。はい、押さないで。銭が先だよ。ありがとう。」
侍の格好をして、赤い鉢巻に赤い襷。かっこいいですぅ。二つも三つも買ってしまいそうだ。(爆)

勇と龍馬は、試衛館に戻ってきました。
「おまん、自分の行く末を考えたことがあるかえ? 十年後のわしは、何をやりゆうろう。土佐で藩の仕事に着いちゅうか、どこかの道場で剣術を教えちゅうか。どっちかゆうたら、わしはそっちがええきに。」
龍馬の言葉に、遠くを見つめる勇。
「天然理心流は、相当荒っぽいらしいのう。北辰一刀流と、どっちが強いぜよ。いつか、立ち合うてみたいのう。」
「是非!」
その頃、左内は隠密を必死に捲いて、ようやく試衛館に到着しました。

龍馬と左内にお茶を出そうと、勇が戸棚を漁っていると、義母ふでに見咎められてしまいました。
「お客様が・・・。」
「聞いてません!」
「急な話で・・・。」
自分でやりますので、と言うも、お茶っ葉の在り処を教えてもらえず、結局白湯を出す勇。
「すみません。白湯しかなくて。」
「お気遣いなく。」
「すまんにゃ。」
龍馬も左内も優しいわ。

「水戸藩は急ぎ過ぎたのです。」
「幕府の頭越しに、水戸藩に勅命が下ったがが、そんなにまずかったがや。」
「幕府の面目は丸潰れです。」
「けんど、これで大手を振って、攘夷ができるぜよ。」
「彼らは必ずや、巻き返しに出ます。井伊大老は、水戸藩が独自に朝廷に働きかけたことで、彼らに
 対する疑心を強めました。」
6月19日、大老井伊直弼は、勅許を待たずに、日米修好通商条約に調印しました。これに怒った孝明天皇は、諮問する勅書を、幕府を通さずに直接水戸藩に下したのでした。左内が言うように、幕府は水戸藩が倒幕を考えていると疑い、この後翌年にかけて、水戸一橋派ならびに尊攘派の弾圧を行なっていきます。これが有名な、安政の大獄ですね。先程名前の出てきた長州藩の吉田松陰は、水戸藩の動きにはまったく関係ありませんでしたが、反幕府的な言動を問われて死罪となり、今ここにいる橋本左内も、勅書下賜には関わっていませんでしたが、13代将軍継嗣問題で水戸一橋派のために奔走していたことから、投獄され、死罪となってしまうのですね。
とまぁ、そういう難しい政情の話はちんぷんかんぷんな勇。龍馬と左内の会話についていけません。
「あの〜、すいませんが、私にもわかるように話していただけますか。」
とお願いするものの、龍馬に、
「ここは、わからんでもええとこやき。」
と言われてしまいます。こういうの、情けなくて悔しいだろうなぁ。

そこへ、バタンと板戸を開けて、沖田惣次郎登場。なぜか手に筆を持っています。
子役から藤原竜也くんに変わりました。前髪下ろした惣次郎、可愛いですぅ。
「源さん、見ませんでしたか?」
「いや。」
と答えた勇は、龍馬と左内を紹介しようとしますが、そこへ井上源三郎こと源さんが登場。
「いたー!!源さん、ほら、見つけた、見つけた!!源さん、待ってよ!」
惣次郎は龍馬と左内には目も留めずに、源さんをばたばたと追いかけていきます。
捕まえて源さんの顔に墨を塗る惣次郎。
勇は、門弟の幼さに、恥かしくて身の置き所もありません。(苦笑)
「源さんと独楽の勝負をしたんです。負けた方が顔に墨を塗る決まりに。」
「今、我々は天下国家についての、大事な話をしているんだ。向こうへいっていなさい。」
龍馬も左内も、思わず笑ってしまってます。
「若さとは、いいものですね。」
「あっちの人は全然若くないんですけどね。」
って、源さんのことですか。(笑)
源さんと惣次郎は、縁日に出かけていきました。

「これからどうなるがぜよ。」
「やがて、井伊の一派による攘夷派への弾圧が始まります。」
再び、天下国家についての大事な話が始まったところで、今度は奥の座敷から、
「冗談ではありませんっ!!」
ふでの怒鳴り声が聞こえてきました。
座敷から飛び出してくるふでと、それを宥めながら追いかけてくる周助。
「ふで、怒るなよ。ふで!」
ますます渋くなる、勇の表情。(苦笑)
「我々のような身分の低い武士が、藩を動かし国を動かす時代が、そこまで来ている・・・。呼んで
 らっしゃいますよ。」
爆笑。今度は周助が勇を呼びに来た。
無視しようと首を横に振る勇を、
「い、勇・・・。勇さ〜ん・・・。」
柱の陰から、情け無さそうに声をかけてくる周助。邦衛さん、最高。
「少々お待ちください。」
勇は渋々席を立ちます。

夫婦喧嘩の原因は、勇の縁談話でした。
「縁談?」
「今回は、ほんとに良縁なんだよ。なんたって向こうは、徳川御三卿清水家の家臣の松井八十五郎
 様のご息女だ。」
「私は不承知ですっ!!」
喧嘩中の両親を残して、座敷を出た勇は溜め息を一つ。
そこへ、
「よぅ!」
歳三が顔を出しました。
とたんに笑顔になる勇。

せっかく寄ったから、石田散薬をいくつか置いていくという歳三。
「稽古してると、怪我もすんだろ。必ず、酒と一緒に飲むように。」
葛籠(つづら)を下ろして、中から石田散薬の袋を一束取り出します。
「そんなに悪いだろ。」
「次、いつ来られるか、わからねぇからさ。」
身内や仲間にはすごく優しくて、気前がいいんだよね、土方さん。
すると、龍馬と左内が面白そうにやってきました。
「今、こいつ、薬売りやってるんです。石田散薬といって、骨接ぎ、打ち身によく効くんです。」
思わずかっちゃんが宣伝。
「わしも一つ、もらおうかにゃ。」
「では私も。おいくらですか。」
「いいよ。ここで会ったのも、何かの縁だ。好きな分だけ、持ってきな。」
よっ、歳三、太っ腹〜!
と、その時。

「うるせぇ〜ぃ!!」
奥から周助の怒鳴り声が聞こえて、思わず振り向く4人。
「この家の主はわしだ。わしが決めたことには、黙って従え!」
キレた周助に、今度はふでも逆ギレ。部屋を飛び出してきます。
ちょうど廊下にいた左内と龍馬を突き飛ばして、家を出ていくふで。
門の前をうろうろしていた公儀隠密にも、「どきなさいっ!!」 と一喝。思わず逃げる隠密たち。
さすがです。ふで、最強!!(爆)
「母上!!」
慌てて追ってきた勇が叫んだら、屋根の上の鳥も逃げていきました。(笑)

勇が、母上の家出でばたばたしている間に、橋本左内は帰ってしまいました。
そろそろ自分も帰るという龍馬に、見送りたいと申し出る勇。
「私と試合を。それでもし私が一本でも取ったら、見送らせてください。」
ということで、歳三の立ち会いのもと、勇と龍馬は道場で試合をします。
五分五分といった感じでしたが、勇が先に一本を取ります。
嬉しそうに笑う勇に、龍馬もそれ以上は拒めず、
「七つに品川の橋のたもとぜよ。」
と約束しました。

「俺は驚いた。」
「何を。」
「俺たちとそう年も変わらないのに、みんな、ちゃんと、自分の進むべき道をわかっている。」
「俺だってわかってる。俺は日本一の薬売りになる。かっちゃんだって言ってたじゃねぇか。いずれは
 この道場を日本一にしてみせるって。」
「本当にそれだけでいいのだろうか。あの人たちは日本の行く末について真剣に考えている。話の中
 に、井伊大老とか水戸藩とか攘夷とか、そういう言葉がどんどん出てくるんだぞ。すごいだろ。」
目をきらきら輝かせて話す勇。その若さが眩しいな〜。
歳三は苦笑しながら、
「ま、俺には関わりのねぇ話だ。」
と返します。たとえ関わりたくても、関われない話。
きらきらしてる勇に対して、暗い瞳の歳三が切ないですね。
向こうの廊下をふらふら歩いている周助を見つけて、
「行ってやった方がいいんじゃねぇか。」
中途半端に指差す歳三の右手が、なぜかツボです。(爆)
「お前、まだいられんのか。」
「仲間を待たせてるんだ。」
「ありがとう。訪ねてくれて。」
「おう。」
「暇があったらまた、顔出してくれよ。」
「・・・おう。」
複雑な表情の歳三。
かっちゃんと一緒に夢を見たくて、だからついつい寄ってしまったけれど、薬売りの身では同じ夢を見ることは叶わなくて、自分はまた相棒の元へ帰るしかない。あ〜、辛いよなぁ、土方さん。(涙)

囲炉裏端で話す、周助と勇。
「家柄良し、器量良し、気立ても良し。お前も必ず気に入ってくれると思う。」
「そこまでして、なぜ私に嫁を?」
「元を正せば、俺も養子だ。近藤家、三代続けて多摩の百姓の出だよ。この辺でそろそろ、血の繋が
 った息子の顔が見てぇじゃねぇか。」
しかし勇は、気乗りしない様子です。それを見て、
「お前、好きな人がいるのか?」
と訊ねる周助。
「いや、違いますよ。」
「言ってみ。何とかしてやるから。縁談の話なんか断って、そっちの方の話進めてやるよ。名前言え
 よ。」
「やめてください。」
話がとんでもない方向へずれてきたところに、おみつさんがやってきました。
「何、昼間っから揉めてるのよ。縁日だっていうのに。」
おみつさんは勇を縁日に誘いに来たらしい。でも、
「あの、おみつさん、今日は残念だけど、ちょっと取り込んでるんで。」
と勇は断ってしまいます。母上の家出が無ければ、絶対に行っていたのにね。
「あの、父上、やはり嫁をもらうのは、もう少し後にしたいのですが。今は武芸に精進したいのです。
 試衛館の将来のために、力を注ぎたいのです。」
と話が戻ったところで、突然どやどやと人足の人たちが上がってきて、ふでの調度を運び出し始めま
した。
「こちらのご新造さんに、頼まれたんですよ。」
「いったい、どこへ持って行くつもりですか。」
「家の者には教えるなって、きつく言われてますんで。」
周助さんが言う通り、ふでさんの家出は本気みたいですね。(苦笑)

ここは神社の境内でしょうか。縁日が開かれています。
猿回しや曲芸師、見世物小屋にはろくろ首。それを見て、自分も舌を出してる龍馬が可笑しい。焼き蛤が美味しそうだなぁ。
射的屋では、惣次郎が連戦連勝。次々と的を当てて、店の親父を泣かせています。
あら、源さん、顔の墨、落としてきたんじゃない。(笑)
その横を、歳三と相棒のひも爺が通り過ぎていきます。
「おい、トシ。久々に例の手を使ってみるか。」
「今日は乗らねぇな。」
「こいつを全部売り切らねぇと、多摩には帰れねぇぞ。」
その例の手とは・・・。

とある剣術道場に、歳三は来ています。
「まことに申し訳ないが、当方は他流試合をやっておりません。」
「負けるのが恐いとおっしゃるのか。」
「そうではない。」
塾頭は余裕の笑顔を見せながら、袂から懐紙に包んだいくらかの銭を取り出し、歳三の前に置きます。
「私は武芸者。金が欲しくてやっているのではない。」
「見たところ、武士ではないなぁ。」
「それがなんだ。」
「百姓か。」
「悪いか。しかし武士より強い。」
「話にならん。」
「百姓と戦うのが、そんなに恐いか!」
ふっふっふっふっふ。上手いねぇ、喧嘩の売り方が。(*^o^*)
途中から、声のトーンがぐんと低くなるのが、素敵です。(爆)
そして、次々と道場の弟子たちを倒していく歳三。
すげぇじゃん、土方さん。

「どうぞ。」
今度は袱紗に包まれた数枚の小判が差し出されましたよ。
「お納めください。」
「ですから、こういう真似は。」
「今日はなにとぞ、これでお引き取りを。どうか。」
仕方ねぇなぁという表情で、袱紗を手に取った時、
「い〜しだ散薬ぅ〜〜。」
ひも爺の声が聞こえてきました。ちょっと、タイミング良過ぎなんじゃない?
塾頭さん、歳三の顔を盗み見てますけど・・・。
「石田散薬。骨接ぎ、打ち身、挫きに切り傷、腰の痛みに歯の痛み。どんな痛みもたちどころに治ま
 るよぉ〜。」
「薬屋!来てくれ。早く!」
呼び止める、道場のお弟子さん。
「へい、ただ今。」
ひも爺のとぼけっぷりがいいなぁ。(笑)

ふでの行方を捜していた勇が、試衛館に戻ってきました。
ふでには帰る実家もないから、近くに住んでいる、昔馴染みの女のところに行ったのではないかという、周助の推察は当たっていたらしい。
すっかりしょげて、座敷の真ん中に座り込んでいる周助。
「我が家も一皮剥けば、こんなもんだぃ、勝太。ふでは後添い、お前は養子。うちは紙で作った家。
 ちょっとの風で、吹っ飛んじまったぃ。」
「父上、気の利いた言い回しはいいですから、なんとかしないと。母上を連れ戻しに行きましょう。
 さぁ、早く!」
周助先生、可哀想なんだか、可笑しいんだか。(笑)

神社の裏に座っている歳三のところへ、ひも爺が戻ってきました。
「ご苦労だったな。トシ、大漁だぜ、こりゃ。」
重たくなった財布を、嬉しそうに見せるひも爺。
その時、歳三がただごとではない気配に気づきました。木刀を手に取る歳三。
「ひも爺、つけられたな。」
「ん?」
拝殿の向こう側から、さっきの道場の連中が木刀を持って走ってきます。
「逃げろ!」
二人は駆け出しますが、すぐに挟み撃ちにされてしまいます。
「やっぱり貴様ら、グルだったのか。」
「商いは、頭使わねぇとな。」
「薬売りが道場破りか。」
「道場破りが薬も売ってんだ。」
上手いな、歳三。
というか、必死の足掻きなんでしょうね。たとえ道場破りでもいい。薬売りとは思われたくないという。
「ふざけやがって!やっちまえ!!」
「ひも爺、逃げろ!」
戦う術を持たないひも爺を逃がして、歳三は木刀で応戦します。優しい。
しかし、ひも爺の悲鳴に気を取られた隙に、したたかに背中を叩かれ、地面に転がる歳三。
あとは、二人ともさんざんに蹴りを入れられ、懐の財布を奪われてしまいます。
蹴られながら、ふと歳三がひも爺を見ると、ひも爺はさんざんにやられながらも、なぜか嬉しそうに笑っている。

「ちきしょうっ!全部持っていきやがっった。あれが武士かよ!試合で勝てねぇからって、寄ってたか
 って。」
歳三は悔しそうに唾を吐きます。
「忘れろ。」
「悔しくねぇのか、ひも爺。」
「悔しかねぇな。殴られてる時、俺、何考えてたと思う? 女のことよ。俺が昔抱いた、一番上等な女
 のことよ。透きとおるような肌をしてさぁ、抱くと肌が吸い付いてくる。」
「大丈夫か。」
「奴らが俺を殴ってる間、俺の頭ん中はもう、女のことでいっぱいだった。俺の勝ちさ。」
「それでいいのか。」
「いいとか悪いとかじゃねぇんだよ。覚えときな。俺たち百姓があいつらと渡り合うには、これしかねぇ
 んだよ。」
「違う。」
「違わねぇな。さ、帰ろうぜ。」
「違う。・・・違う!!」
転がっている木刀を見つめ、思いを吐き出すように繰り返す歳三。

確かに、ひも爺の言うことは、年の功というか、生きていく上での知恵ではあるんですよね。
だけど、そこまで落ちたくないというか、諦めたくないというか、プライドを持ち続けたいという、若者ならではの抵抗が、痛いほど感じられる土方さん。わかるなぁ、その気持ち。
ひも爺が喋っている間、山本くんが何気なく口の中の傷を探っているのが、自然で良かったです。

ふでさんが転がり込んだ三番町通りのお友達の家は、本当に立派なお屋敷でした。
門構えも立派だし、部屋の調度がまるで違う。
お友達のなつさんが呼びに来て、周助はふでさんに会いに行きました。
「あなたが息子さん。」
「はい。・・・母とはどういう?」
「ふでさんからはなにも?」
「ええ。」
「じゃぁ、教えない。」
「・・・あの・・・、今、何時だかわかりますか?」
「・・・知らない。」
この、なつさんとのやり取り、笑える〜。
ふでさんが何も話していない以上、自分からは余計なことは言わない方がいいと判断したのでしょうけど、なつさんの言い方がほんと可笑しい。

その頃、品川の橋の上では、龍馬が勇を待っていました。
縁日で買ったのでしょうか、風車を持って。
どこかで七つの鐘が鳴っています。溜め息をつく龍馬。

周助が戻ってきました。
「腹に水が溜まってると、そう言ってた。盆までには帰らないそうだ。」
「・・・はい?」
「覆水、盆に返らず。諺ですよ。」
「いったい、どういう意味でしょうか。」
「一度こぼれた水は、元には戻らないってこと。」
なつさんに説明されて、ようやく解かる周助・勇父子。もう、男どもってば、しょうがないなぁ。
勇は、ふでさんに会わせてほしいとなつさんに頼みます。

奥の部屋で向かい合う勇とふでさん。
父上を許してやってほしい、と頼んだ勇は、
「あなたたちは血が繋がっていないというのに、まぁ、よく似た親子だこと。察しの悪さは天下一。」
と、ふでさんに呆れられてしまいます。ふでさんが怒っているのは、勇に対してだと言う。
思いがけないふでの言葉に、心当たりがあるはずもなく、驚き戸惑う勇。
「あなたはご自分をなんだと思ってらっしゃるんですか。ご出身は?」
「出身は多摩ですが。」
「そうです。あなたは多摩の百姓の子です。そのことを忘れてはいませんかと、私は申しておるので
 す。」
「忘れてはいません。むしろ、誇りに感じています。」
「そうですか、そうですか。でしたらいい加減、侍を気取るのはお止めになってはいかがですか。」
「・・・。」
「我が家に養子に入って、ご自分では一端の武士になったおつもりかもしれませんが、私に言わせれ
 ば、ちゃんちゃら可笑しいわ。人には、出自というものがあります。人は、自分の辿ってきた道を、
 消し去ることはできないのです。近藤の名前を頂戴しただけでも、有難いと思いなさい。その上、武
 家の娘を嫁に? 分不相応もいいとこです。身の程を知りなさい!宮川勝五郎。」
「はい。」
「あなたは百姓の子。腰に刀を差したところで、いい着物を纏ったところで、人は出自を変えることは
 できないのです。」
「よくわかりました。・・・一つだけ、お聞かせ下さい。母上は私のことがお嫌いですか?」
「・・・言わずもがな。」

勇は、ふでの言葉を額面通りに受け取ってしまったんだろうなぁ。
でも、ふでさん、ずっと目に涙を溜めてるんですよね。単純に勇が嫌いだとか、百姓の出なのを非難しているとかではないはず。
歳三が自分の目の前に、勇との間に、大きな壁を感じているように、勇もこの時初めて、自分の前に立ちはだかる壁に気づいたのでしょうね。その壁のあまりの高さに愕然とするのは、まだ先になりますけれど。

雷が鳴って、雲行きが怪しくなってきました。
品川の橋のたもとに、勇が現れる気配はいっこうにありません。
大きな溜め息をついて、故郷へ向かって歩き出す龍馬。
まるでこの行き違いが、この後の二人のすれ違いを暗示するかのように。

「もうそろそろ、折れてあげれば? あなただっていい年なんだし、少しは楽をしなさいよ。嫁が来れ
 ば仕事は半分。楽よ〜。」
ふでさんに囁くなつさん。なつさんのキャラ、気に入ったわ〜。
「勇さんも、いずれはお宅の道場を継ぐ訳でしょう? お嫁さんだって、誰でもいいって訳にはいかな
 いじゃない。この辺で手を売っておけば?」
「お願い、します。」
頭を下げる周助。
「帰りますよ。」
ようやくその気になって、帰ろうとするふでさんに、
「息子いじめも程々にしときなさい!」
と叱るなつさん。
「あなただって元を正せば、下総の百姓の・・・。」
「だから、あの子が憎いんです!私が、どれほどの思いをして、今の暮らしを手にしたか。それを思う
 と、なんの苦労もせずに、日に日に侍らしくなっていく、あの子が許せないんです。」
「気持ちはわかるけど。」
「そう、易々と、武士にさせるものですか。」
そういうことだったんですね。ふでさんの心中は、すごく複雑だったんだ・・・。その入り組んだ心の襞までは、とても勇には読みきれないだろうなぁ。

その頃、暗い道場に、勇は端座していました。勇も傷ついてるんですね。
急に庭の方で物音がして、ぼろぼろに傷ついた歳三が入ってきました。
歳三は道場に倒れ込みます。
「いったい何があったんだ。」
「ちょっと横になっていいか。」
「石田散薬、持ってくる。」
立ち上がった勇に、
「あぁ、いい、いい。あれ、効かねぇんだ。」
苦笑する歳三。本気でそう思っているのでしょうか。
さっきのことがあって、薬売りでしかいられない自分にほとほと嫌気が差して、自棄になって言ってるような気がする。

外は雨が降り出しました。
時折、稲光が差し込む道場の真ん中に、座り込んでいる勇と、仰向けになっている歳三。
「かっちゃん、俺に剣を教えてくれ。もっと強くなりてぇ。試衛館に入門させてくれ。」
勇は歳三の顔を見つめます。
「俺は武士になりたい。」
「武士に?」
「お前のように。」
ようやく素直に、自分の思いを口にすることができた歳三ですが、勇が抱えてしまった苦悩を、まだ知らないんですよね。
勇は歳三から視線を外すと、
「無理だ。諦めろ。」
と言い捨てて、立ち上がります。
「おい、ひでぇじゃねぇかよ。」
「ようやくわかったんだよ、トシ。俺たちは所詮、多摩の百姓だ。」
縁側に出て、降りしきる雨を見つめながら呟く勇の背中に、
「そんなことはねぇ。お前は立派な武士だ。」
と、起き上がった歳三は言います。
「違う。俺たちは多摩で生まれたら、死ぬまで多摩の百姓なんだよ。それがこの世の中だ。」
勇の言葉に、表情を険しくする歳三。
「俺はだから決めたんだ。俺は、俺は武士よりも武士らしくなって見せる。」
歳三の横にしゃがむと、その襟を掴んで、宣言する勇。歳三に言い聞かせるように、そして誰より、自分自身に言い聞かせるように。
「日本一武士の心を持った、百姓になってみせる!」
真剣な瞳で、見詰め合う二人。
「お前、そんなに強くなりたいか。」
「ああ。」
「侍にはなれないぞ。」
「侍らしくはなれんだろ?」
「ああ。」
「どっちにしても、俺にはおんなじことだ。」
「厳しいぞ、試衛館は。」
「望むところよ。」
不敵に笑う歳三に、涙を溜めた勇がようやく微笑んで頷きます。
勇と歳三は、ようやく同じ道に立てたんですね。これから一緒に歩き始める。
この時の二人の強い思いが、この先、幾多の山を、嵐を、激流を、乗り越えさせていくんですね。

翌朝、空は高く澄んでいます。まぶしく輝く太陽。
勇と歳三は、早速、道場で激しい稽古をしています。
「トシ、来いっ!」
「おうっ!」
二人の掛け声が、早朝のぴんと張った空気の中を、響き渡っていくのでした。

 

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