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                    | 野外調査──漢語系諸語の場合 (Fieldwork on Sinitic languages) | 
                   
                
               
               
              ※ここに記す内容は,吉川が大学院生時と2008年以降に行った野外調査での経験から得た知見の一部分です。 
               
              
               
               言語体系全般を記述するための調査の各段階と調査票の一例について,以下に記します。特定の事項や言語現象のみを調査する場合はこの限りではありませんが,文法調査はインフォーマント/コンサルタントの発話内容を調査者が聴いて理解できることが前提になりますので,良質な調査を志向する限り,音韻と語彙についての知識を持っておくことが不可欠と言えます。 
               
              1.漢字音(第一段階) 
              【目標】調査対象言語の漢字音について,共時的特徴を概観し,通時的特徴(主に中古音との対応関係)の目鼻を立てる。 
              ①丁声樹・李榮(編)『漢語方言調査簡表』(中國科学院語言研究所,1956年)→東大OPAC(外部サイト) 
              
              
              「壹.語音部分」の「声調,声母,韻母,音系基礎字」 
               
               
               
              2.漢字音(第二段階) 
              【目標】漢字音を網羅的に収集する。 
              ②丁声樹・李榮(編)『漢語方言調査簡表』 
              
              
              「壹.語音部分」の「単字表」 
               
               
               
              3.連読変調 
              【目標】連読変調(tone sandhi)の中で顕著に現るパターンを把握する。 
              【作業】中古漢語の声調(平上去入)と声母(清濁)に基づいて,8つのカテゴリー(清平・濁平・清上・濁上・清去・濁去・清入・濁入)に分類した漢字を掛け合わせた二音節・三音節の形式を発音してもらう。二音節の場合,「清平×清平」から「濁入×濁入」までの64(8の二乗)の組み合わせについて,それぞれ調べていく。 
              ③『現代漢語声調結構詞彙』(四川辞書出版社,1997年)などを参考に,調査者が調査票を作成する。 
              
              
               次の書籍を用いるという手も有る。 
               
               Richard VanNess Simmons,顧黔,石汝杰(編著)『漢語方言詞彙調査手冊』(中華書局,2006年)→東大OPAC(外部サイト) 
               
              この調査票は二音節の形式しか掲げていないので,三音節の形式については『現代漢語声調結構詞彙』や連読変調に関する先行文献を参考に,調査者が調査票を作成する。なおこの調査票は,江淮官話と北部呉語を仮想した調査票という性格が強い。 
               
               
               
              4.言語音 
              【目標】漢字音は言語音の全体ではない。当該社会において漢字表記の習慣が無い音節や形態素は,漢字音調査の段階では現れてこない。そのため調査対象言語の全音節を把握する必要がある。 
              【作業】声母・韻母・声調の結合表を作成し,既に得られた漢字音や語彙音を欄に記入した上で,空白欄に該当する形態素や音節が無いか逐一尋ねていく。 
              ④無し。調査者が作成する。 
              
              
               漢字音調査で発音が明らかになった漢字は全て欄内に記して言語音調査に臨む。同音の漢字は同じ欄内に併記する。この段階は漢字音調査で調べた漢字の発音の再確認も兼ねていることを忘れてはならない。 
               粤語系の言語・方言であれば,オノマトペや語気助詞が相当数存在する可能性が有り,この段階で調べておくことが望ましい。 
               連読変調が存在する場合,原調と変調をインフォーマント/コンサルタントが混同する可能性が有るので,注意を要する。 
               
               
               
              5.語彙(第一段階) 
              【目標】基礎語彙を限定的に把握する。調査対象言語の語彙特徴を知る場合など。特徴的な形式が現れると予測される語彙項目に特化して調査を行うこともある。 
              ⑤丁声樹・李榮(編)『漢語方言調査簡表』 
              
              
              「貳.詞彙語法部分」 (172項目) 
               
               
               
              6.語彙(第二段階) 
              【目標】常用語彙を把握する。複数の地点を調査し,その対照を目的とする場合など。 
              ⑥中国語言資源有声数据庫建設領導小組辧公室(編)『中国語言資源有声数据庫調査手冊・漢語方言』(商務印書館,2010年) 
              
              
              「詞彙」 (約1000項目) 
               
               
              ⑦『アジア・アフリカ言語調査票』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所,1967年)→東大OPAC(外部サイト) 
               
              7.語彙(第三段階) 
              【目標】言語研究に資する語彙を網羅的に収集する。語彙集を作成する場合など。 
              ⑧Handbook of Chinese dialect vocabulary (Princeton University, 1972年)→東大OPAC(外部サイト) 
              ⑨中国社会科学院語言研究所方言研究室資料室(編)「漢語方言詞語調査条目表」(『方言』2003年第1期,pp.6-27) 
              
              
               いずれにしても,既存の調査票に盲従するのではなく,①現地の自然環境や物産に応じて,②同系統もしくは隣接地域の言語の語彙特徴を手がかりに,調査対象言語の語彙特徴がより良く反映されるよう工夫を施したい。また③調査対象言語の語形成や統語法の特徴がより反映されるよう,工夫も施したい。 
               
               
               
              8.文法(全般) 
              【目標】文法特徴を俯瞰する。 
              ⑩「方言調査詞彙表」(『方言』1981年第3期)の文法部分 
              
              
               その他,漢語系諸語の文法に関する先行文献を読み,そこで触れられている特徴が検出できるような調査票を調査者が作成する。 
               
               
               
              9.文法(特定事象) 
              【目標】特定の項目や現象について掘り下げた調査を行う。 
              ⑪Anne Yue-Hashimoto, Comparative Chinese Dialectal Grammar: handbook for Investigators (Ecole des Hautes Etudes en Sciences Sociales, 1993年) 
              
              
               その他,当該事象を論じた先行文献を読み,そこに掲げられている例文などを参考に,調査者が作成する。 
               
               
               
               
              
               
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