学術研究


野外調査──漢語系諸語の場合 (Fieldwork on Sinitic languages)

※ここに記す内容は,吉川が大学院生時と2008年以降に行った野外調査での経験から得た知見の一部分です。

 三.言語体系外についての調査

 言語体系外の事柄についての調査法を,以下に記します。

1.言語種と話者数
 調査対象地にどのような言語・方言が存在し,それぞれどれ程の話者数がいるかは,調査の初期に把握しておきましょう。マニュアルは有りませんが,当該地域や近隣地域の言語に関する論著(学術論文や地方誌)を参考にすることで,主要な言語種の存在は予測できるはずです。
 下記の②(b)が最も理想的な調査方法です。
①県全体について把握する場合
県政府の民委や文化局などに尋ねる。ただし概容としての情報しか得られないことが多く,実際に郷や鎮に入らねば詳細は分からないと考えた方がよい。
②特定の郷や鎮について把握する場合
(a) 実際に郷や鎮に入り,郷鎮政府の幹部に各行政村の状況を尋ねる。当該郷鎮生まれの年配の幹部に質問すること。他の郷鎮出身者や若い幹部は詳細を知らないことが多い。
(b) 郷鎮政府にお願いして,各行政村の支書に電話をかけてもらい,「××語が○○名,△△語が◎◎名」のように代理で調査を行ってもらう。
③特定の自然村や集落について把握する場合
実際に自然村や集落に入り,村長やインフォーマント/コンサルタントに尋ねる。

2.民族識別 Wikipedia(外部サイト)
 中国南部では話者が何族に帰属するかという事柄と話者の母語が何語であるかという事柄とが,一対一の関係になく,錯綜した状態を呈していることが有ります。例えば,民族識別は瑶族であるのに,母語は客家語(漢語系諸語に属する一言語)であるという事例も有りえます。そのため,調査対象言語の話者集団について,何族であるかを確認しておいた方がよいでしょう。
 これはインフォーマント/コンサルタントに尋ねれば,教えてもらうことができます。


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