学術研究


野外調査──漢語系諸語の場合 (Fieldwork on Sinitic languages)

※ここに記す内容は,吉川が大学院生時と2008年以降に行った野外調査での経験から得た知見の一部分です。

 一.調査の順序

1.最初は漢字音調査
 漢語系諸語に対する調査では,先ず漢字音調査を行い,調査結果を分析することで,音節の構成要素(声母・韻母・調類)或いは音素のレパートリーを立てていきます。調査対象言語に声母や声調が幾つ有るか,音韻体系の中でどのような分布を為しているか,といった事柄についてはこの段階で概容を把握します。把握のために,分析の段階で声母・韻母・調類を掛け合わせた音節表を作成し(該当する結合を表す欄に漢字を記入),インフォーマント/コンサルタントに欄内の漢字の発音について逐一確認を行うことになります。

2.漢字音調査の次は
 漢字音調査と連読変調調査が済んだら,次に言語音調査か語彙調査を行います。漢字音調査の結果のみを以て音韻体系の全貌とすることはできません。

(a)漢字音調査→連読変調調査→言語音調査→語彙調査→文法調査
(b)漢字音調査→連読変調調査→語彙調査→言語音調査→文法調査

 特定の文法事項や現象が研究対象でなければ,文法調査は最後になります。
 言語音調査では,次の作業を行います。
①音節表の「漢字が記入されていない空欄」に形態素や音節が存在しないか,逐一確認を行います。
②無意味音(発音できるが形態素が存在しない音節)のチェックも行います。
③得られた「有音無字」音節については,本字の考証を行う場合があります。

3.文法調査の後は
 文法調査まで済ませた後は,次のような調査を行うこともあります。
(1)実際の会話の採集。
(2)口承文芸(物語,歌謡など)の採集。
(3)特定の文法事項や現象に特化した調査。


NEXT