上総路 2005410日(日) 2005/4/16土 公開)

 

「特急わかしお号」と「ローカル気動車」に乗って、桜が満開の上総路を訪れた。

今回のテーマは、

1. 春旅行(出発に際して考えた事)

2. 房総特急「わかしお号」

3. いすみ鉄道…なのはな紀行

4. 一人旅の若い女性と意気投合

5. 上総中野駅…前田亜季写真集「あき」撮影地

6. 小湊鐵道…東京近郊に残る、古き良き鉄道風景

7. 帰宅時(五井からの帰宅時に知った事や考えた事)

 

 

1. 春旅行(出発に際して考えた事)

 私は毎年、桜の咲く頃には気分が沈む。当然、出かける気持ちにさえなれない。桜が咲き、新入生や新社会人などの存在を意識すると世の中が進み行く事を実感する。ろくでもない人生を送ってきた私は、そのように春を意識してしまうと、ますます世の中から取り残されたような惨めな気持ちになるのである。もう十年以上もそのような気持ちが続いている。とりわけ今年は新人研修を担当しており、帰宅後にはどうしようもなく沈み込んでしまうほどである。

 それにしても本当につらい季節だ。48日(金)の夜、日付が変わった9(土)に帰宅した。どうしようもなく思い悩んでいて夜中に近所の川原で1時間ぐらい座り込んでいた。9(土)も引き続きそのまま一日中調べ事や考え事をしていた。

 10日(日)は昼前に起床した。このまま自宅で考えていてもどうしようもないので、思い切って出かけることにした。

 すぐさま旅程を組み立てられる事は私の特技である。私は東京都心より西に住んでいる。東京都心部で自動車を運転するのは嫌いなので、自動車で出かけるのはいつも西方面である。せっかくだから列車に乗って東の方へ行こうと考えた。とりあえずいつも乗っている路線では考え事をして、東京駅から先は旅行気分に切り換えようと考えた。なお、極度にストレスが溜まっている時には安全面を考慮して自動車を運転しないようにしている。また、自家用自動車は言わば「動く自室」であり、よほど遠くまで行かない限り心が外に向かないという一面がある。心を開放したい時には公共交通機関で出かける方が良いと思う。

 行先は房総半島にすぐさま決まった。天気もいいし出かけよう。

 さて、この季節は朝晩と昼の寒暖差が激しい。朝晩に必要となる大量の防寒着は日中には大きな荷物になるので、公共交通機関を利用する旅はけっこう辛いものがある。今回もやや薄着にコートを加えた服装で乗り切った。

 

 

2. 房総特急「わかしお号」

東京1400→大原1510 京葉線・外房線3063M  E257500番台5連 モハE257-506

 東京駅地下4階、京葉線ホームから今回の旅が始まる。東京駅京葉線乗り場は、成田新幹線用として計画されていた空間を転用したものである。

 昭和47年、外房線特急「わかしお号」と内房線特急「さざなみ号」が誕生した。これが房総特急の始まりである。昭和57年、房総半島の国鉄路線では急行をいっせいに格上げする形で特急に切り替わった。これらの房総特急には、普通車が片側2枚扉の183系特急形電車が投入された。特急とは言うものの、線路状況が良くない上に停車駅も多いので表定速度はせいぜい60km/h程度と低く、ボッタクリ特急だと評判が悪かった。房総半島の特急は今でも悪い印象を引きずったままである。

 183系モノクラス編成の置き換え用として、平成1610月にE257500番台が登場した。今回乗車した「特急わかしお13号」もE257500番台である。東京⇔大原間は96.4kmであり、本当ならばグリーン車に乗るのにちょうどよい距離であるが、残念ながらE257500番台の「特急わかしお号」にグリーン車は付いていない。グリーン車は255系「特急ビューわかしお号」には付いているのだが、普通車とあまり変わらないと評判が良くないみたいである。いずれにせよ、出発する時間帯が遅かったので列車を選ぶ余地は無い。

 この安房鴨川行きの「特急わかしお13号」は、よく見ると東京→大原間96.4km70分で走破している。少なくともこの区間の表定速度は80km/hを軽く超えている。遅いと評判の房総特急であるが、これは意外な発見であった。

 発車間際に乗り込んだのだが、十分に空席があった。5両編成なのに乗車率があまりにも低く、非都市圏鉄道の衰退ぶりを実感した。

 京葉線内において、並走する高速道路の自動車群よりわずかに遅い場面が見られるのは、毎度の事ながら残念である。蘇我までの43.0kmを無停車30分で駆け抜ける。この区間の走行速度は目立って高いというわけではない。

 蘇我から意外に多くの乗客があった。いよいよ外房線に入る。ここから小刻みに停車するようになるわけだが、驚いた事にここから高速走行に輝きが見えた。短い停車駅間を鋭い加速で俊敏に駆け抜ける。またまた度肝を抜かれた。

 茂原から先は、揺れが若干気になった。ちなみに、今回はホリデーパスを購入していたのだが、区間外となる茂原→大原間の運賃400円は別払いである。それでもこの方が安くつくのである。

 座席は快適で、速達性も高く、900円の自由席特急料金に見合う十分な魅力があった。房総特急は、昔から印象は良くなかったようだが、なかなかすてきではないか。

「特急わかしお13号」は、大原では駅舎がある進行方向右側の1番線に到着した。

 

 

3. いすみ鉄道…なのはな紀行

大原15:28→上総中野16:20 いすみ鉄道19D  2連 いすみ202

 いすみ鉄道は、昭和63年に旧国鉄木原線から転換された第三セクターの鉄道である。「房総の魅力500選」に数えられている。それにしても、500選ってえらい多いなぁ。

 さて、大原からいすみ鉄道・小湊鐵道を乗り継いで内房線の五井まで行ける房総横断記念乗車券を買い求めたのだが、いすみ鉄道においては大多喜駅でのみ販売しているらしい。他にも希望者がおり、運転士さんが無線連絡で切符を予約していた。この乗車券は、「小湊鐵道上総鶴舞駅」と「いすみ鉄道大喜多駅」が「関東の駅百選」に認定された記念きっぷである。乗車日と発行駅が手書きで記されていた。大人1,600円である。

 この列車は2連だが、2両目は締切扱いであった。さすがにローカル線の気動車というだけあって、申し訳ないが先ほどの快適な電車特急との乗り心地の差が気になった。

 いすみ鉄道は、菜の花で有名な鉄道であることは以前から知っていた。菜の花と桜の見事な共演が観光客を惹きつけてやまない。この企業努力が同鉄道の増収に結びつけばよいのだが、残念ながら自動車でやってくる観光客も多い。

総元駅ではこのように多くの人が線路内に進入して撮影していた。

 

 

4. 一人旅の若い女性と意気投合

 国吉駅では、なんと対向列車を撮影している若い女性がいた。私は前面展望の為に、席が空くたびに車両の前の方に移ったのだが、彼女も同様に前の方に移って来た。いつの間にか隣同士になっていた。

 大喜多駅停車中に発車時刻を尋ねられた。その時から会話が始まった。彼女は旅行者で上総中野から引き返すとの事。終点で写真を撮ってほしいと頼まれた。

 鉄ヲタではないとの事だが風景が好きらしい。本日は○武沿線から3時間かけて来たそうである。彼女は「いすみ鉄道1日フリー乗車券」を持っていた。また、四国までトロッコ列車に乗りに行ったとも言っていた。ずいぶん旅慣れた様子である。本当は軽度の鉄ヲタではないのだろうか?

 旅先で見知らぬ女性と会話する事はごくたまにあるのだが、旅の志向が似ている一人旅の女性と出会ったのは生まれて初めてである。

 私は通常、このように女性と接する場合でもなるべく関わりを短く切り上げるようにしている。なぜなら、せっかく旅行に来たのに、私のようなくだらない男に長時間拘束されるのは女性にとって苦痛だと思うからである。このような場面になってしまうと、「せめて自分が人並み程度の人間ならばなぁ…」といつも思ってしまう。また、旅行中に限ったことではないが、私のところに拘束せずに逃がしてやる事こそが女性に対する思いやりだと常々思っている。…とは言うものの、今回はとりわけ話が弾んでしまった。彼女に申し訳ないと思いつつも、なんだか楽しかった。ようやく心が快復してきた。

 上総中野駅ではお互いに写真を撮りあった。彼女の行動を見ていると、私の視点と似たような観察行動をとっていた。

 さて、若い女性といえば、テーマパークや高級レストラン、および高級ブランド品の店に連れて行かないと気が済まないものかと思っていたのだが、私と同様に自然の景観を訪ねて一人で旅する人もいるようである。意外な発見であった。誤解の無いように言っておくが、彼女はいわゆる「キモヲタ」ではなく、ごくごく「ノーマル」な人であった。 

 

 

5. 上総中野駅…前田亜季写真集「あき」撮影地

上総中野駅…いすみ鉄道と小湊鐵道の終点である。双方の線路は一本だけ繋がっている。無人駅であり、待合室はあるが、何かしらの機能を持っていた駅舎というわけではなさそうだ。

 

上総中野駅…ここは1998年に発行された前田亜季さんの写真集「あき」を撮影した所である。このバス停に見覚えのあるファンもいるのではなかろうか。バス停がその後に移設されたのか、あるいは写真集の写真が合成なのかは知らないが、バス停の直近に桜の木なんて全く無かった。満開の桜に囲まれたローカルバスの停留所の佇まいを期待していたのだが、現場を見てがっかりした。せっかく桜が満開の時期だから来たのに…。写真集のあの写真は出来過ぎではないだろうか。

 

 この光景も写真集「あき」に登場する。ただし、左側の信号機はわざと写し込んだ。いすみ鉄道の信号機は低い位置にある。

 

 

上総中野駅で並ぶいすみ鉄道の気動車(左・停車中)と小湊鐵道の気動車(右・入線中)

 さて、先ほどの彼女とはここでお別れである。彼女は1本後の列車で大原へと引き返すのである。もちろん、名前やメールアドレスなどの個人情報を聞き出すようなことはしなかった。私のような変な奴にそんな事を尋ねられたら迷惑に違いないし、私自身もそんな事を望む人間ではない。

 

 

6. 小湊鐵道…東京近郊に残る、古き良き鉄道風景

上総中野16:38→五井17:48 小湊鐵道 2連 キハ213

 それにしても窓がひどく汚れている。外を見るためには窓を開ける必要がある。多くの乗客が窓を開けて外を見ていた。子供のようにロングシートに後ろ向きに座っている若い女性もいた。

 ローカル線には珍しくワンマン化されていない。若い女性車掌さんが乗務していた。

 それにしても、ほぼ駅毎に撮影者がいた。上掲の写真のとおり、小湊鐵道では懐かしい形状の気動車が活躍している。沿線風景とあいまって、古き良き時代を彷彿させるローカル線である。更に東京から気軽に行けるということもあって人気が高い。実際に何かと撮影地になっているようである。

 上総鶴舞駅では、セーラー服姿の女性とその女性を撮影するカメラマンがいた。それにしても、鉄道車両にカメラを向ける人は多い。駅や車両は風景における主役であると思う場面もある。それゆえに、全国的に見られる似合わない塗装や全面広告の車体意匠はいかがなものかと思う時がある。

 上総牛久からは列車本数も多くなり、近郊路線の趣になる。変わった音色の踏切を過ぎれば五井に到着である。五井駅では同じ改札内でJRのホームと繋がっている。

 

 

7. 帰宅時(五井からの帰宅時に知った事や考えた事)

 いすみ鉄道・小湊鐵道の沿線でみやげを買う機会を得られなかった。仕方が無いので五井駅前でみやげを購入した。

 もしもここまで自動車で来ていたら、帰宅の事を考えるとうんざりするであろう。こういうところは列車の旅のいいところである。

 帰宅時にいつもの駅で列車を待つ時に読もうと考えて日本経済新聞を持ってきていた。外がだんだん薄暗くなってきたので、五井駅で列車を待つ間に新聞を広げたところ、いすみ鉄道の記事が載っていた。沿線に咲く菜の花から採れる菜花油を原料とした燃料で気動車を走らせる構想があるらしい。また、沿線の約33,000uに菜の花を植えていて、桜とともに見ごろを迎えているとの事だ。

 また、帰宅時に知ったのだが、小湊鐵道の上総中野とその隣の養老渓谷の間は1日に5往復しか走っていない。つまり今回は最適な旅程を組めたという事だ。この区間だけの乗客もいた。

 話は少し逸れるが、蘇我では東京行きの103系が健在なのを見た。一方、417日を最後に山手線運用から205系が撤退する。鉄道車両は風景だと思うと先ほど記したが、東京の風景にもいろいろな変化模様があるようである。

 それにしても、いすみ鉄道・小湊鐵道の沿線は、時間があればいろんな駅で途中下車してみたいと思わせる所だった。

 

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