消費者庁構想を考える


消費者庁設立は消費者の三重苦を取り除くために


 消費者が被害を受けてその被害回復を求めた場合、その実現はなかなか難しく、消費者には三重苦があると私は
考える。

 消費者被害は、通常、事業者の不当な行為や過失等によって生ずるから、まずは消費者自らが与えられた権利を当
該事業者に対して主張し、最終的には司法手続きによって十分な救済がなされることが基本である。しかし、消費者自
らが利用できる民事消費者法の整備は未だ十分とは言えず、司法が消費者にとって権利回復のための手段として必
ずしも十分機能していないことは周知の事実である。これが第一番目の「苦」である。

 消費者が自ら権利回復できないとすれば、行政が消費者に代わって事業者の違法行為を是正し、かつ消費者の被
害救済に一定の役割を果すことが期待される。事実、日本の消費者法は私法ではなく、行政法規(取り締まり法規)が
中心であった。従って、消費者のために行政が積極的に活躍してくれれば良いのだが、それも期待できない。これが
二番目の「苦」である。
  いわゆる主務官庁は事業者に対する規制権限は有していても、その行使には従来は消極的であり、仮に何らかの行
政処分を行使する場合でも非常に甘い処分しかしないことが多い。また、主務大臣の行政処分の内容には被害者の
救済は含まれない。一方、国民生活センターや消費生活センターにおける被害救済は当事者の自主的な合意を促す
ことが基本であり、事業者が受け入れを拒否したり、あるいははじめから行政を相手にする気するらなければほぼお
手上げの状態である。すなわち、消費者は十分な権利も与えられていないことに加え、行政も頼りにならないとなる。

 それでも行政の不作為を消費者が追及し、それを是正させることができれば良いのだが、なかなかそうはいかない。
それが三番目の「苦」である。主婦連ジュース裁判がその典型である。行政による不利益処分を直接受けた者(消費
者問題で言えば、規制を受ける事業者)は異議申し立て権が認められているが、行政が、消費者等の国民一般のた
めの事業者に対する不利益処分をしなかったとか甘すぎるといった場合に、消費者等の一般国民の行政に対する不
服申し立て(義務付け訴訟等)はほとんど認められてこなかった。
 国民生活センターや消費生活センターでは消費者相談を「問い合わせ」、「苦情」、「要望」に三分類している。このう
ちの「要望」は消費者行政の問題点の是正に重要な指摘を含むものである場合も多いが、ほとんど無視されてきたと
いってよい。これらは「消費者苦情」ではなく、「消費者行政苦情」として扱われるべきである。(例:運輸審議会におい
て「利害関係人」に消費者は含まれないという国土交通省の解釈等)
  

 すなわち、日本の消費者は権利を与えられず、法の執行をほぼ独占している行政も頼りにならず、その頼りな
い行政の姿勢を正すための権利も与えられてこなかったのである。

 生活者・消費者の立場に立った消費者政策を推進するのであれば、

@消費者が十分に被害回復を図ることができる民事消費者法の整備(包括的な消費者取引・製品被害補償法制)

A不当な行為のやり得を防ぐための行政の事業者制裁活動の強化、行政による事業者に対する民事救済命令ある
いは民事救済を裁判所に求める訴権の創設

B消費者や消費者団体による消費者行政に対する不服申し立て権の整備(「消費者苦情窓口に加え、「消費者行政
苦情窓口」(かつての衆議院の「平成目安箱」類似の窓口の設置)

 等をぜひ検討していただきたい。
細川幸一


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