「燃油サーチャージ」の別立て表示はおかしくないか?



  「燃油特別付加運賃」(いわゆる「燃油サーチャージ」)なる運賃が現在、航空運賃に加算されている。最近の世界
的な航空燃油価格の高騰を受け、航空各社は「燃油特別付加運賃」を設定し、利用者にも一部負担をさせている。ニ
ューヨークのテロ以降「航空保険特別料金」というものも加算されている。これらは各社が国土交通省に申請して認可
されたものである。

  運賃に燃料費や保険料の高騰分を反映させること自体はそれが適正であれば異論がないが、その国際線の表示
方法はおかしい。WEB上や冊子の料金表にはこれらを含まない料金が表示され、どこかに小さく加算される旨が書い
てある航空会社が多い。また、WEB上で航空券を購入しようとすると最後の購入段階になってはじめてこれらが加算
された金額が表示され、商品選択の段階では表示がなされない。

  これは問題でないか? 公正取引委員会はこうした表示を「有利誤認」にあたるか否かで判断するはずだが、どう
であろうか? すべての航空会社や旅行代理店が同様な表示を行っていれば、他社より著しく有利であると誤認させる
ことはないから、不当表示ではない・・・日ごろの公取委の消極性を考えれば、そのような回答がかえってきそうであ
る。しかし、たとえば、最近では「東京ーニューヨーク 39,800円!」(航空会社不詳)なるチケットもある。下記は加算運
賃の例であるが、往復で燃油サーチャージが16,000円である。これに航空保険特別料金及び成田・ニューヨークJFK
両空港の空港税が加わると約24,000円にもなる。仮に、この39,800円の航空券を買うとすると、実際にはほぼ6割り増
しの支払い総額である。これは問題ではないか?

  しかも、旅行代理店のパックツアーなどの広告でも料金表示にこれらが含まれておらず、「規定の空港税、特別保
険料、燃油サーチャージを申し受けます」という、金額表示がない簡単な、しかも小さい活字の表示があるだけのもの
も多い。そもそも、燃料費は公租公課と違って運賃に含まれるべき性質のものである(公租公課についても詳細がわ
からず問題ではある)。この別立て表示が許されるのであれば、鉄道だってタクシーだって同様なことが可能となる。あ
るいは映画館でさえも、1800円と表示があるのに、「燃料費高騰のおり、館内空調燃料費として50円いただきます」など
と小さく表示しておいて、支払いの段階で1850円徴収するなどということも許されることとなる。

  ちなみに、国内線については私が調べた限りではこうした特別運賃(燃油サーチャージについては国内線への適用
なし)、空港使用料を含んだ料金表示が行われている。これは、国内だと航空機、新幹線、高速バス等が競争してお
り、料金表示基準を同じにするためであろうか。もちろん、ニューヨークに航空機以外で旅行するケースはほぼ想定で
きないが、適正な表示をすべきである。39,800円ではなく、実際には18,000円高い57,800円ということになれ
ば、旅行先を国内に変更するような消費者もいよう。

 
                                                                 細川幸一


国際線「燃油特別付加運賃」 ひとり1区間あたりの設定額例(JAL日本発 2006年8月現在)

日本−韓国   1,300円
日本−香港   1,800円
日本−中国   3,000円
日本−台湾・フィリピン・ベトナム・ミクロネシア 3,900円
日本−インド・インドネシア・シンガポール・タイ・マレーシア 6,500円
日本−ハワイ・北米・欧州・中東・オセアニア 8,000円
日本−ブラジル 11,500円

国際線 「航空保険特別料金」 設定額例(JAL)

 ひとり1区間毎に300円

 

追記:
  本件に関して、旅行業公正取引協議会に有利誤認にあたらないか問い合わせたところ、日本旅行業協会が扱って
いる問題とのことで、関与しない姿勢であった。日本旅行業協会に確認したところ、国土交通省から燃油サーチャージ
は通常の運賃とは別枠表示とするよう通達があったためにこのような表記となっているとのことであった。そこで国土交
通省に問い合わせをしたところ以下の回答があった。

  お問い合わせいただきました件につきましては、通達を発出しております。この通達におきまして「燃油サーチャー
ジ」とは、燃油に係る原価の水準の異常な変動に対応するため、一定の期間及び一定の条件下に限って、運送サービ
スを含む旅行商品の対価に含められるべき通常の運賃と異なる性格の付加的な運賃として、あらゆる旅行者に一律
に課せられるものであって、航空法に基づく手続きを経て設定されるものをいうと旅行業法上の位置づけを行っており
ます。このように、燃油サーチャージは、航空会社が自らの経営判断で徴収することとしたもので、航空当局により、運
賃とは別の付加的な運賃として切り離して認可されておりますので、先の位置づけとしております。

  この通達は通常の運賃と別立ての運賃として燃油サーチャージを位置づけるとしているだけであって、その金額を
広告表示で消費者に明らかにしなくても良いと言っているものではないと考える。

  なお、先日、ANAのマイレージによる無料航空券で旅行をしたが、その際も燃油サーチャージの支払いを求められ
た。燃料費の一部を負担しなければならないのであれば、それは「無料航空券」ではないのではないか? ANAに問
い合わせたところ、下記の回答があった。

  燃油特別付加運賃は航空燃油価格の高騰とその長期化に関わる急激な費用増により、弊社の自助努力で対応で
きる範囲を大幅に越え、費用増の一部ご負担をお客様にお願いせざるを得ない状況となり、設定させて頂きました。
なお、大人・小児・幼児ともに同額とし、ご搭乗される全てのお客様にお支払い頂いており、誠に恐縮ではございます
が AMCマイレージ特典航空券ご利用の場合も同額となります。
  燃油特別付加運賃はあくまでも燃油価格高騰に伴い、通常の航空運賃とは別に設定させて頂いたものであり、
お客様にとって分かりやすいという透明性を確保する観点から現在のところ航空運賃に組み込む考えには至っており
ませんこと、また、無料の特典航空券をご利用のマイレージ会員様を含めご搭乗される皆様にご負担頂いておりますこ
と、何卒ご理解頂きますようお願い申し上げます。

  燃料費高騰の折、航空会社の事情はよく分かる。その分を運賃に転嫁するのは当然であろう。しかし、その金額は
大きく、消費者が旅行をしようとする際の空路とそれ以外の手段、あるいは国内旅行との比較において消費者の選択
情報が歪められてはいないか? 消費者の「知らされる権利」が確保されていない。(2006.1)


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