TECHNICAL MEMO その2 「撮影モード」

〜まずはカメラにおまかせ〜




●概要

前章の「露出」の話、おわかりになったでしょうか?「シャッタースピード」や「絞り」の意味はわかったけど、結局、適正露出はどうやって決めるのかわからないという御不満を持たれた方もいらっしゃると思います。まあ、私なんかの場合はたいていはカメラが勝手に決めてくれます。いわゆるオートってやつです。しかし、一口にオートと言ってもいろいろ「撮影モード」なるものがあって状況に応じて使い分ける必要があります。オートにはオートなりに理解しなければならないことがあるので、今回はそのあたりを説明します。 

【1】シャッタースピードと絞りの関係を図であらわしてみる

オートで写真を撮るとき、カメラは出鱈目にシャッタースピードと絞りの組み合わせを決めるのではなく、ある決まった組み合わせで、カメラに取り込む光の量を調節します。この「シャッタースピードと絞りの組み合わせ」がどのように推移していくのかが視覚的にわかると、カメラがやろうとしていることを先読みできてとても便利です。その組み合わせパターンを視覚的にあらわしたのが図2-2〜図2-5です。しかし、まずは図2-1を使って図の見方を説明しましょう。前章では『適正露出が決まっても「シャッタースピード」と「絞り」にはいろいろな組み合わせがある。』と言いました。その組み合わせは以下のような表であらわすことができると言いました: 

1/30
|
f16
1/60
|
f11
1/125
|
f8
1/250
|
f5.6
1/500
|
f4
1/1000
|
f2.8

■ 長時間シャッタースピード:図2-1で、1秒以上のシャッタースピードには「”」を付ける。例えば「30”」と書けば、これはシャッタースピードが30[秒]であることを示す。 


この組み合わせは図2-1では青線上の点であらわされています。これは、「1/125-f8」の組み合わせ(図2-1の緑色の点)が適正露出ならば、この青線(とその延長線)上の「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせならばどれでも適正露出であることを示しています。つまりこの線上の組み合わせならばどれでも、フィルムには等しく正しい量の光が届くことを意味しています。

とにかく、この図を使えば、「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせと、カメラが取り込む光の量(後述のEV値)との関係を一目で示すことができます。  
シャッタースピードと絞りの組み合わせとEV値との関係図
【図2-1】 シャッタースピードと絞りの組み合わせとEV値との関係図


【2】EV値について

図2-1では「EV値」という聞き慣れない言葉が出てきます。昔は「EV値」を知らずして写真は撮れないと言われていたそうです。現在ではオートである程度撮れるようになって、あんまり使われない言葉になりましたが、話の都合上説明させていただきます。「EV値」は Exposure Value の略で、「露光量」とも言います。これは一言で言うと、カメラが取り込む光の量のことで、「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせで決定される値です。図2-1の例で示したように、一つの「EV値」でも、「シャッタースピード」と「絞り」のいろいろな組み合わせがあります。「EV値」が大きくなるほどカメラが取り込む光の量は少なくなり、逆に「EV値」が小さくなるほどカメラが取り込む光の量は多くなります。

オート撮影では、カメラがこの「EV値」を自動的に変えることによって適正露出を得ます。被写体が明るい場合、カメラが取り込む光の量を少なくしなければならないので「EV値」は大きめにセットされます。逆に被写体が暗い場合は、カメラが取り込む光の量を多くしなければならないので「EV値」は小さめにセットされます。 


← 小さい 【EV値】 大きい →
← 多い 【カメラが取り込む光の量】 少ない →
← 暗い 【被写体の明るさ】 明るい →

【3】プログラムモード

プログラムモード(メーカによって呼び方は多少違うかもしれない)は、「シャッタースピード」も「絞り」も両方ともカメラが勝手に決めてしまうという、まさにオートの王道を行くモードです。では、カメラはどのようにして「EV値」を変えていくのでしょうか? 「EV値」を変えるには「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせを変えていくわけですが、その組み合わせの変わり方を示したのが図2-2です。

図2-2の見方ですが、「シャッタースピード」、「絞り」の組み合わせが「1/2000 - f32」→ 「1/1000 - f22」→ ・・・・ → 「15 - f5.6」→ 「30 - f5.6」というように青線+赤線の上の組み合わせで変化していきます。「EV値」が低くなると絞りがf5.6で一定となってしまいますが、これはこの場合使っているレンズの「最小絞り値」をf5.6と仮定しており、これ以上小さな「絞り値」はとれないので「シャッタースピード」だけ遅くなっていくという様子を示しています。広角レンズなんかを使えば「最小絞り値」はf2.8とかのように小さい値をとることができます。

というわけで、プログラムモードの場合「水平線+右肩下がりの線」という折れ線の形で変化していきます。レンズの種類(広角、標準、望遠)やフィルムの種類(ISO 50、ISO 100、・・・・)などで若干のズレはありますが、形は同じです。 




■ EV値の定義の詳細:シャッタースピード=1[秒]、絞り=1fのとき、「EV値」を0とする。カメラが取り込む光の量が半分になる毎に「EV値」は1ずつ増えていく。 

さて、このモードでの注意点ですが、これは図2-2の青線、赤線に関係があります。図2-2を見ると、「シャッタースピード」は最も速くて1/2000[秒]、最も遅くて30[秒]まで変化します(カメラの機種によって最小値、最大値に違いあり)。三脚を使わず手持ちで写真を撮る場合、手ぶれが起きない「シャッタースピード」の限界は1/30[秒]と言われています。つまりこの値より遅い「シャッタースピード」で写真を撮ると手ぶれの起きる可能性が大きいわけです。水中写真では三脚を使うことはまず無いのでこの制限は深刻です。図2-2では、赤線は「シャッタースピード」が1/30[秒]よりも遅い組み合わせ、青線は「シャッタースピード」が1/30[秒]よりも速い組み合わせを示しています。 

プログラムモード
【図2-2】 プログラムモード

プログラムモードで写真を撮るとき被写体が暗ければ、カメラは取り込む光の量を多くするために(「EV値」を下げるために)容赦なく「シャッタースピード」を遅くしてきます。オートと言えども、「シャッタースピード」と「絞り値」はファインダー内で表示されますので、「シャッタースピード」が1/30[秒]よりも遅くならないように注意します。

カメラの機種によっては「プログラムシフト」という仕掛けもあります。カメラが図2-2の線上で適正露出となるEV値を決めると、今度は撮影者が図2-1のように同じ「EV値」の線上で「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせを選択できるというものです。これだと、上記の1/30[秒]の壁の問題は解決できるかもしれません。しかし、私の持っているEOS Kissでは「プログラムシフト」の操作が面倒なので使ったことがありません。たいてい、暗い被写体は撮るのを諦めています。 


【4】絞り優先モード

絞り優先モードは撮影者があらかじめ「絞り値」を決めて、「シャッタースピード」はカメラが勝手に決めるモードです。つまり、カメラは「シャッタースピード」だけを変えることによって「EV値」を変えていき、適正露出となる「EV値」を探していきます。図2-3に「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせの変わり方を示します。図2-3では、撮影者が「絞り値」をf22にセットしたと仮定しています。「絞り値」は指定された値で一定となるので、「シャッタースピード」、「絞り」の組み合わせが「1/2000 - f22」→ 「1/1000 - f22」→ ・・・・ → 「15 - f22」→ 「30 - f22」というように青線+赤線の上の組み合わせで変化していきます。 

さて、ではなぜ、わざわざ撮影者が「絞り値」を決めるのでしょう? これは前章を読んだ方はピンとくるでしょう。「絞り」による表現効果を撮影者自身でコントロールしたいからですね。前章では『絞りを絞れば絞るほどピントの合う範囲(被写界深度)は広くなり、絞りを開ければ開けるほどピントの合う範囲は狭くなる。』と言いました。つまり、撮影者は「絞り値」を自らセットすることにより、自分の好きなように「ボケ」の効果を決めることができるわけです。 
絞り優先モード
【図2-3】 絞り優先モード

というわけで、「シャッタースピード」はカメラまかせなわけなんですが、もしも暗い被写体を撮ろうとすると、プログラムモードのときと同様に、カメラは必要とあらば容赦無く1/30[秒]以上の遅い「シャッタースピード」をセットしてきます。例えば図2-4の点線では「絞り値」をf22をセットしてあり、このときの適正露出がEV値=13のときだったとします。そうすると、カメラは「シャッタースピード」を1/15[秒]にセットしてきます。このままだと手ぶれになってしまう可能性が大です。こういう場合撮影者は、現在の「絞り値(=f22)」を諦めて、もっと小さな値、例えば図2-4の実線のようにf11にセットし直してやります。こうするとカメラは「シャッタースピード」を1/60[秒]にセットしてくるので手ぶれの可能性は小さくなります。 

水中の撮影では暗い被写体が多いので、結局こんな風に絞り値をセットし直すはめになることが多いような気がします。私の場合はそれが面倒なのでついプログラムモードを多用してしまう傾向があります。

それから、図2-2のプログラムモードと図2-3の絞り優先モードを見比べてみてください。じつは、プログラムモードの方がEV値をカバーする範囲が広く、さらに青線の領域が大きい(つまり「シャッタースピード」が1/30[秒]以下の組み合わせが多い)という特徴があります。こんなところもプログラムモードを多用する要因にはなっています。 
絞り値の再設定
【図2-4】 絞り値の再設定

【5】シャッタースピード優先モード

シャッタースピード優先モードは撮影者があらかじめ「シャッタースピード」を決めて、「絞り値」はカメラが勝手に決めるモードです。つまり、カメラは「絞り値」だけを変えることによって「EV値」を変えていき、適正露出となる「EV値」を探していきます。図2-5に「シャッタースピード」と「絞り」の組み合わせの変わり方を示します。図2-5では、撮影者が「シャッタースピード」を1/125[秒]にセットしたと仮定しています。「シャッタースピード」は指定された値で一定となるので、「シャッタースピード」、「絞り」の組み合わせが「1/128 - f32」→ 「1/128 - f22」→ ・・・・ → 「1/128 - f4」→ 「1/128 - f2.8」というように青線上の組み合わせで変化していきます。 

ではなぜ、わざわざ撮影者が「シャッタースピード」を決めるのでしょう? それは「シャッタースピード」による表現効果を撮影者自身でコントロールしたいからです。前章では『動きのあるものの軌跡を残すように撮る場合は、シャッタースピードを遅くします。』と言いました。つまり、撮影者は「シャッタースピード」を自らセットすることにより、自分の好きなように「動感効果(流し撮りの程度)」を決めることができるわけです。 
シャッタースピード優先モード
【図2-5】 シャッタースピード優先モード

シャッタースピード優先モードでは、撮影者が「シャッタースピード」を速い値にセットしてしまえば、カメラが「絞り値」をどう変えようが手ぶれの心配はありません。しかし、「絞り値」は「シャッタースピード」に比べて取り得る値が少ないので、カバーできる「EV値」の範囲が小さく、適正露出となる「EV値」から外れてしまうこともあります。この場合は、やはり「シャッタースピード」の再設定で対応してやる必要があります。

ちなみに、水中写真では一般にシャッタースピード優先モードが使われることは少ないようです。ということは、面白い写真が撮れる余地がまだまだ残されているということかもしれません。



というわけで、今回はこれでおしまいです。本当は露出補正の話しまでやりたかったのですが、なんだか撮影モードの話しが膨れ上がってしまいました。ちょっと細かい話しに突っ込みすぎたかもしれません。(^^; 露出補正については次回にまわしたいと思います。ところで、ここまでの話しで『水中の撮影では暗い被写体が多い』と言いましたが、これはあくまでも自然光で写真を撮るときの話しを仮定しています。ストロボを使った撮影についてはずーと後ほどに説明したいと思います。 



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