TECHNICAL MEMO その1 「露出」

〜最初の難関〜




●概要

カメラを使いこなすのに最初に立ちはだかる難関は、ピントとか手ぶれとかいろいろあると思うけど、やっぱり「露出」が一番悩むところだと思います。オートにすべてお任せならば問題ないんですが、ちょっと手のこんだことをしようとすると、とたんに面倒になります。これは結局、「シャッタースピード」と「絞り」をどうセットするかという問題なんですが、まずはそのへんを考えてみたいと思います。 

【1】適正露出について

カメラというのは結局のところフィルムに光を記録する機械です。フィルムに光を当てすぎれば「露出オーバー」となって、画面全体が白っぽくなってしまいます。一方、光が少なすぎれば「露出アンダー」となって画面全体が真っ暗になって、甚だしい場合は何を撮ったかわからなくなります。まあ、ちょっとくらい露出アンダーならば色がはっきり出て良いという説もありますが。。何が「適正」かは個人の好みによるところもあるみたいです。とにかく、カメラではこの「光の量」を調整するのが「シャッター」であり「絞り」であるわけです。 

【2】カメラの仕組み

カメラの仕組みなんですが、ざっくり言えば図1-1のようになります。以下の4つのパーツからできています。まあ、たいていのカメラはこんなふうな作りになっていると言ってもいいでしょう。
  1. レンズ
  2. 絞り
  3. シャッター幕
  4. フィルム
本当は全体がカメラのボディで覆われていて、光はレンズだけから入ってきます。図ではボディは省略しています。 
カメラの仕組み

【図1-1】 カメラの構成図

【3】シャッタースピード

まずはシャッターの仕組みから説明します。フィルムのすぐ前に「シャッター幕」があります。普段は図1-2のように、幕がフィルムを覆って光が到達できないようにしています(幕が閉じた状態)。しかしシャッターボタンを押すと図1-3のように、幕が移動してレンズを通った光が全部フィルムに届くようになります(幕が開いた状態:厳密にはちょっと違うのですが詳しくは後程)。そして「一定時間」その状態が続いた後に、また図1-2の幕が閉じた状態に戻ります。

というわけで、「幕の開いている時間」(図1-3)が長ければ長いほどフィルムにはたくさん光が当たるし、短ければ短いほど光は少ししか当たりません。つまりこの「幕の開いている時間」で「光の量」を調節するわけです。この「時間」を表わすのがいわゆる「シャッタースピード」です。

シャッタースピードは、カメラなんかではよく「500」とか「60」とかの数字で表わされます。これは1/500[秒]、1/60[秒]という時間を表わします。カメラでは以下の表のような目盛りでシャッタースピードをセットできます。下表の目盛りでは1目盛り変えるごとに「光の量」が倍々で変わります。例えば、シャッタースピードを「1/250」から「1/125」に変更すると、フィルムに届く「光の量」は2倍になります。 


1/15 1/30 1/60 1/125 1/250 1/500
← 遅い 【シャッタースピード】 速い →
← 多い 【光の量】 少ない →
シャッター幕が閉じた状態

【図1-2】 シャッター幕が閉じた状態


シャッター幕が開いた状態

【図1-3】 シャッター幕が開いた状態



【4】絞り

上で説明したように、シャッタースピードさえ変えれば適正な露出を得ることができます。しかし、カメラにはもう一つ「絞り」による「光の量」の調節ができます。なぜ「絞り」が必要なのかは後で話すとして、ここではまず「絞り」が何なのかを説明します。

レンズのすぐ近く(厳密には何枚かあるレンズの間)には、真ん中に穴の開いた板があります。これが「絞り」です。この「真ん中の穴」は、カメラの絞り調節用ダイアルを回すことによって自由に大きさを変えることができます。図1-4のように「真ん中の穴」を大きくすることを「絞りを開ける」と言います。逆に、図1-5のように「真ん中の穴」を小さくすることを「絞りを絞る」と言います。

というわけで、「真ん中の穴」が大きければ大きいほど(図1-4)フィルムにはたくさん光が当たるし、小さければ小さいほど(図1-5)光は少ししか当たりません。つまりこの「真ん中の穴の大きさ」で「光の量」を調節するわけです。この「穴の大きさ」を表わすのがいわゆる「絞り値」です。

絞り値は、カメラなんかではよく「16」とか「5.6」とかの数字で表わされ、「f16」とか「f5.6」とかのように「f」を付けて呼ぶことが多いです。この数字が大きければ大きいほど「真ん中の穴」は小さくなり、数字が小さければ小さいほど「真ん中の穴」は大きくなります。カメラでは以下の表のような目盛りで絞り値をセットできます。下表の目盛りでは1目盛り変えるごとに「光の量」が倍々で変わります。例えば、絞り値を「f11」から「f8」に変更すると、フィルムに届く「光の量」は2倍になります。 


f2.8 f4 f5.6 f8 f11 f16
← 開ける 【絞り】 絞る →
【真ん中の穴】
← 多い 【光の量】 少ない →
絞りを開けた状態

【図1-4】 絞りを開けた状態


絞りを絞った状態

【図1-5】 絞りを絞った状態



【5】なぜ「光の量」の調節手段が2つもあるのか?

「シャッター」か「絞り」、どちらかがあれば適正露出は得られます。しかし、たいていのカメラは「シャッター」も「絞り」も両方付いているので、その両方をうまく調節して適正露出を得なければなりません。それがなんとなくややこしさを感じさせます。。

適正露出ひとつとってもいろいろな組み合わせがあります。例えば今、仮に、露出計などを使ってシャッタースピード、絞りの組み合わせが「1/125 - f8」のとき、適正露出を得られることがわかったとします。ここで「f8」を「f11」に変更すると絞りによってフィルムに届く「光の量」は半分になります。しかし一方で「1/125」を「1/60」にしてやればシャッタースピードによる光の量は2倍になるので、結局「1/125 - f8」による光の量と「1/60 - f11」による光の量は同じになり、両方の組み合わせは共に適正露出となります。このように考えていくと、以下の表のように、適正露出にはいろいろな組み合わせがあることがわかります。 


1/30
|
f16
1/60
|
f11
1/125
|
f8
1/250
|
f5.6
1/500
|
f4
1/1000
|
f2.8

同じ「光の量」を表わすのに、こんなにたくさんの組み合わせがあるのはなぜでしょう?じつは、「シャッタースピード」や「絞り」は写真の表現上重要な効果をもたらします。その表現効果をいろいろ変えるために、たくさんの組み合わせがあるのです。 

【6】シャッタースピードによる表現効果

シャッタースピードを遅くすることによって、まあ「動感効果」というかなんというか、要するに動きの速い被写体を流れるように撮ることができます。写真1-1を見てください。単なる手ブレ写真にも見えますがよく見ると、背景は流れておらず、手前のギンガメアジほど流れて撮れています。写真をクリックすると拡大写真が現れるのでチェックしてみてください。この写真はオートで撮ったものですが、結構深いところで撮ったので被写体に当たる自然光が乏しく、カメラはシャッタースピードを遅めにセットしたようです。

このように、動きのあるものの軌跡を残すように撮る場合は、シャッタースピードを遅くします。遅くすれば遅くするほど派手に流れます。この手の被写体として有名なのは滝などの水の流れです。水の流れが肉眼で見るのと異なり、白い条となって幻想的!?な表現となります。

一方、「わたしゃこんな流れた画像(え)はイヤじゃ。」という人はシャッタースピードを速くします。被写体の動きの速さにもよりますが、速ければ速いほど確実にピタッと止まって見えます。まあしかし、水中写真の場合、ストロボを使わないで(つまり自然光で)撮影するとき、あまり光が入ってこない暗い条件で撮ることが多いので無闇にシャッタースピードを速くできないことが多いです。シャッタースピードを速くするとフィルムに届く光の量が減ってしまいますから。。。 
「遅いシャッタースピードの画像」:26KB
【写真1-1】 遅いシャッタースピードの画像



【7】絞りによる表現効果

絞りを開けることにより「ボケの効果」を出すことができます。もっと正確に言うと、絞りを調節することによりピントの合う範囲を変えることができます。写真1-2、写真1-3を比較してみましょう。共に同じ被写体:イルカの置き物を撮っており、ピントは目に合わせています。両者の違いは、写真1-2では絞りを絞って撮り、写真1-3では絞りを開けて撮っています。写真1-2では、口の先や背ビレもピントが合っていますが、写真1-3ではその部分はボケています。つまりピントの合っていないところがボケているわけです。ボケの違いで言えば、特に背景(じつは手ぬぐい)の違いが大きいです。

このように、絞りを絞れば絞るほどピントの合う範囲は広くなり、絞りを開ければ開けるほどピントの合う範囲は狭くなります。言い換えれば、絞りを開ければ開けるほどボケの効果が強くなります。ところで「ピントの合っている範囲」のことを「被写界深度」と呼びます。よく使う言葉なんで、覚えておいて損はないと思います。ボケの効果を使う典型的な場面は、背景をぼかして被写体を浮かび上がらせる場合です。PHOTO LIBRARY のアケボノハゼの写真がまさにその例です。ごちゃごちゃした背景が整理されたように見えませんか?

逆に、ピントの合う範囲を広くしたい場合もあります。魚の群れを撮るときなどがその例です。群れを撮るときはたいてい手前から奥までピントが合った方がきれいに見えるような気がします。例えば PHOTO LIBRARY のムレハタタテダイの写真なんですが、これはもう少し絞り込んだ方が全体的にピントが合ってシャープな写真になったんではないかと思っています。まあ、個人の好みの問題かもしれませんが。。 
「絞りを絞った画像」:12KB
【写真1-2】 絞りを絞った画像

「絞りを開けた画像」:10KB
【写真1-3】 絞りを開けた画像

【8】ケーススタディ

再び先ほどの例を持ち出します。今、仮に、露出計などを使ってシャッタースピード、絞りの組み合わせが「1/125 - f8」のとき、適正露出を得られることがわかったとします。すると下表のようにいろいろな組み合わせで適正露出が得られます。 

← 流れる 【動感効果】 止まる →
1/30
|
f16
1/60
|
f11
1/125
|
f8
1/250
|
f5.6
1/500
|
f4
1/1000
|
f2.8
← 広い 【ピント範囲】 狭い →

「1/125 - f8」の組み合わせで正しい写真は撮れます。しかし、例えば被写体がスポーツの選手で、その選手の一瞬の動きを捉えたいとすると「1/125 - f8」の組み合わせでは被写体が流れて写ってしまう可能性があります。そこで、この場合は「1/500 - f4」などのシャッタースピードの速い組み合わせを選択します。

一方、ポートレートなどで被写体にだけピントを合わせ、背景を完全にぼかしたい場合、「1/125 - f8」の組み合わせでは背景がはっきり写ってしまう可能性があります。そこで、この場合は「1/1000 - f2.8」などの絞りを開けた組み合わせを選択します。

では、一瞬の動きを捉えたいし、ピントも広い範囲に合わせたいときはどういう組み合わせにすればよいでしょう? 答えは「そういう組み合わせは無い。」です。どちらかを重視し、どちらかを諦める。そういうトレードオフを考えることになります。



というわけで、写真って意外としょぼい表現方法しかないように見えるんですが、プロとかが撮ると、とても凄い画像が出来てくるわけです。このあたりなかなか奥が深いんだと思ってしまいます。さて、今回は露出について説明してみましたがどうだったでしょう?御意見、御質問等ありましたら掲示板にお願いします。 



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