エピローグ

 よんでくださって、本当にありがとうございます。
「馬から落馬」、「頭痛が痛い」的な文章しか提供できない自分がHPを開設していること自体、噴飯ものですが、今回のレポートだけは『どうしても書かなければ』という思いに突き動かされ、イッキに書き上げました。

 正直、今回の顛末をHPにUPすることには大変抵抗がありました。だって自分の恥をさらすわけですからね。
それに、必ずしも少なくない文章を駆使しなくては、今回の手の込んだ詐欺を再現することは不可能なわけで、、、。自分の楽しかった思い出が実は非常に不快だった、という事実を自らと向き合って文章に再現するのは、正直シンどかった。

 それでもなお、どうしても書かなきゃ、と思ったのは、『海外への一人旅のイメージ』が日本ではずいぶんとイノセントなものに祭りあげられている、と感じたからなのです。

 「世界ウルルン滞在記」、「世界の車窓から」、「深夜特急」、「ガンジス河でバタフライ」など、海外に一人で旅をし、行き当たりばったりでさまざまな人と出会い、その善意に打たれて成長し、帰ってくる。そこにいる人たちはみな、一様に純朴で、打算もなく、まるで旅人の人生の一場面を光り輝かせる照明係のようですらあります。
俺の一人旅もそうであるべきだし、そうであることが当然だ、という根拠のない自信もありました。
幸いにして、オアフ島をハーレーで一周し、ニューヨークでは地下鉄とバスを駆使し移動、夜は適当にほっつき歩いて、なんにもなかったんです。
で、なめちゃったんですね、海外を。

 今回の詐欺でも、そうだと気付くまでは自分のコミュニケーション能力を非常に高いものだと自己満足してましたし、わらしべ長者よろしく、ちょっとしたきっかけから旅でいい思いができるんだなぁ〜、とウキウキだったわけです。

 しかし、その気分はまっさかさまに奈落のそこへ突き落とされました。

 最初は自分に、そしてだんだんとだましたやつらに腹が立ってきました。
むかし、少年漫画で、好きな女の子と仲良くなるために、友達に『ようよう、ねえちゃん』とカラんでもらい、偶然を装ってその娘を助ける、という手口がありましたが、まさに今回の詐欺はその方法論の延長線上にあるんですよね。
『世の中に偶然なんてない、あるのは必然だけだ』という考えからなのか?
旅行者が、その土地の人とカタコトでも意思を通わせることに飢えていることを見事に利用した詐欺に、本当にあきれるというか、感心するというか。

 ただ、よくよく考えてみると、そればかりじゃないんですね。カモられる理由って。
だまされる側に奥深く眠っている虚栄心や欲を、詐欺師は自らを鏡として現出させ、それを利用し詐欺を成功させる。まるで、相手の力を利用してポイ、ッと投げちゃう合気道みたいに。そのことに気付いたとき、『あ〜、おれは、この精神の動き(少しでも得したい、というキモチがまるで見透かされていることに気付かない己の幼稚さ)から逃げちゃいけないんだ』と強く思ったんです。

 たしかに一日も早く忘れたい事実です。そして、俺のほかにも被害にあっている人たちはいっぱい居ますが、はっきりと『自分がカモられた』経験談をカミングアウトする人はごく少数でしょう。これから旅に出かける前にわざわざ詐欺のケーススタディーのみを好んで読む人、というのもあまりいないでしょうし(この点、自分は甘かった)。

 であるならば、アクセス数がすずめの涙ほどのHPでも、一応『旅のページ』として機能している自分のサイトを読んで、たとえ1人でも詐欺被害を未然に防げるなら、という強い思いにかられて自らの恥をさらしました。

 ただ、それを実現するためには『客観的事実のみを再現してもそれではだまされたときの臨場感がナイ』という壁が俺の前に立ちふさがります。『オレオレ詐欺』などの報道を見ても、「どんな電話がかかってきて、どんな役割の人がいてだまされた」など、いわゆる5W1Hの情報では、「なんでそんなもんにだまされるの?」くらいにしか思いませんよね。

 でもそのとき、実際は実にさまざまな状態が複雑に絡み合い、(詐欺を受ける人=ここではオレオレ詐欺)自らの保身、という最大のエゴが決め手になってだまされる瞬間を再現するしか、『詐欺』という憎き犯罪をリアルに感じてもらう方法はないのです。これはだまされた経験のある自分が断言します(あまり自慢できることではないが)。

 だから今回、(詐欺に)引っかかったときの状況だけを描写するのではなく、そのとき自らの裡に現れた虚栄心や欲望の立ち上がり(ありもしないビッグパーティーや国際的な会議に出席する自分)をも文章で再現できるなら、それを読んでくれた皆さんは少なくとも『詐欺』というものをリアルに感じてくれるのではないか?
『自分だけは』という思い込みが『もしかしたら自分も』にまで変化するんじゃないか?という非常におこがましい思いがあったわけです。

 タイトルにも『詐欺』を匂わせるようなものは一切つけずに、途中までは普通の旅行記の雰囲気で文章を書いてたつもりですが、どこまで目的が達せられたのかは自分ではよくわかりません。俺が「だまされた」と気付いたときのインパクトの、たとえ100分の1でも伝わればとてもうれしい。

 ここに登場する「ヴィーナスハウス」は以前、宝石で同様の商売をしていたようですが、宝石はキャンセルの対象になる(加工したり食べるわけではない)ので商品を被服に変更したそうです。さらにこういったぼったくり店にしては長生き(15年間)しているそうです。
また、以前はカードも使えたらしいのですが、被害者がカード会社を巻き込み支払い拒否という手段をとるようになってからはいつもニコニコ現金払い商法を採用、とも。

 幸いにして、おれは五体満足でしたが、暴力沙汰に巻き込まれたり、知らないうちに麻薬をかばんに入れられ、グルの警察官に職務質問を受けた際、身に覚えのない罪でしょっぴかれそうになるのですが『賄賂を払えば見逃してやる』など、世の中だれも信用できなくなるような手口や、ホテルのボーイに扮したヤツが『チェックインに際しパスポートが必要』と部屋に来て、コピーをとると預かったままドロン(死後)するなど、さまざまなケースあるらしいです。

 むかしどこかで聞いた「東南アジアの試着室は床が落とし穴になっていて、女性一人客を飲み込んで拉致し、手足を切り落とし歯を全部たたき折られて見世物小屋に売り飛ばされる」、ような話がありました。多分、『口裂け女』、や『人面犬』などと同じ都市伝説の一つだと思いますが、そういった危険性をハナからありえない、と切って捨てることも、今の俺には出来ないんです。
 
 これを読んで中には「だまされるおまえがバカだ」、「危機意識が足りない」などという方はいるでしょう。そして海外に行ったことのない人ばかりではなく、旅なれている人もそう思い方がいっぱいいることでしょう。

 ただ、日ごろ神経をすり減らし、やっとこさとれた休みでまで、新たな神経の研ぎ澄ましを要求されるのが海外一人旅なら、俺はそんなのまっぴらごめんです。
本当によい人と出会っても「こいつは何をしておれから金を奪うんだろう」とびくびくしているなら、そんなことに少なくないお金を費やすのはアホ以外のなにものでもない。

 「また、海外に行きたいか?」最近、自分に問いかけるんです。
正直、二度と行きたくない、という思いと、また行きたい、という思いが相半ばしています。
やはり、日常からスッパリ切り離される体験は、一度してしまうとヤミツキですしね。

 それに、あれだけいやな思いをしたタイですが、何か(タイの)話題がテレビに出ると、「オッ」と見入ってしまう自分もいるんです(2004年12月26日、インド洋で地震がおき、プーケットに津波が押し寄せた)。
不思議だなぁ〜。

 とにもかくにも、これからタイに限らず、海外旅行に行く皆さん。十分気をつけてくださいね。あまりガードを上げすぎるのも楽しくないけれど、常にわきをシメて、ってカンジでしょうか。
ここだけの話、俺自身またプーケットには行きたいんですよね、、、。

それでは気をつけていってらっしゃい。


※バンコクについての犯罪情報は
・http://www.anzen.mofa.go.jp/pamph/bangkok/guide.html

・http://embjp-th.org/indexjp.htm



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