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第8巻〜第11巻 『動物及び昆虫』

陸棲動物、水棲動物、鳥類、昆虫、動物と人間の身体の構造の器官についてが主な内容。
特に人間と関係の深い動物(ゾウ、ライオン、イヌ、ミツバチなど)について微細に記述してあり、 当時の動物の扱い方、考え方など興味深い記述にあふれている。また、高級で贅沢な食品としての魚や鳥 について、染料としてのムラサキ貝についての記述など、精細を放っている。
昆虫のような小動物のについても深い観察を行って、当時の昆虫学的知識への重要な貢献をしている。

また、本著で述べられる動物には伝承による数々の怪物(サラマンダ、マンティコラなど)や、迷信など 奇事異聞が溢れているが、17世紀に到るまでアリストテレス「動物誌」に並んで教科書的役割を担う。


狼と狼人間 「第8巻34章」

「アルカディア人の伝承によると、アンタイオスという一族から選ばれた男がある湖に連れて行かれる。 そして着物をカシワの木にかけ、湖を泳ぎきり荒地へ向かうと狼に変身し、9年間狼の群れで暮らす。その期間、人間と接触せずに過ごし、元の湖を泳ぎ渡ると人間の姿を取り戻すが、元の外見からは9年間の年輪が加わる。」

プリニウスは狼人間など妄想だと完全否定していますが、第6巻35章では、エティオピアには犬の顔をした「犬乳族」が住んでいるといった記述があり、突っ込みたくなるものもあります。

>オラウス・マグヌス「北方民族文化誌」においては、プリニウスは否定しているがと断った上で、今日でも狼人間は存在すると実例を挙げて紹介している。
また、マグヌスによれば、神の秩序に背くものが、魔術に通じたものから呪文と共に変身術を学ぶとされている。

>皇帝の閑暇(南仏民話集)第120章では、『月の満ち欠け』に応じて狼に変身するという今日で良く知られたケースでの記述があり、「無から想像するより、変形によって姿を変える方がずっと容易だろう」との言があり、実在の裏づけを強調しています。

>アイルランド地誌 第2部第19章では次の記述がある。
ある聖職者が森で野宿をしていた所、狼が近づきこう言った。
「われわれはオソリの出身です。そこでは7年間、とある聖職者・・・つまり修道院長ナタリスという方の呪詛によって、男女二人が人間の姿を失い故郷から離れるよう強いられます。人間の形を完全に捨てて、狼の姿になるのです。7年たってもし生き延びていたら、別の二人が同じようにして彼らに換わり、元の二人は故郷に帰って元に戻ります。」

>ヘロドトス「歴史」第4巻では、スキュティアのネウロイ人について次の記述がある。
「ネウロイ人はみな年に一度だけ数日にわたって狼に身を変じ、それからまた元の姿に還るという。私はこのような話を聞いても信じないが、話し手は一向に頓着せず、話の真実であることを誓いさえするのである。」

>備考
7年と9年の差、また、『皇帝の閑暇』と『アイルランド地誌』はほぼ同年代の著作にも関わらず、ひょっこり『月』の記述が出るのも興味深いです。

プリニウスの時代には既に半ば伝説化していた狼人間・・・。ルーツの元はヘロドトスでしょうか?

フクロウ 「第10巻16〜17章」

「フクロウの類、特にワシミミズクは凶兆の鳥であり、公の予兆としては 最悪のものである。 彼らは、人が近づかないばかりか、不気味で危険な場所を好んで探し、そこに住み着く。 その鳴き声は音楽的な調べには程遠い金切り声のような叫びである。 従って、市内や白昼にそれを目撃するのは恐ろしい凶兆である。
パウペリウス・ヒステルとルキウス・ペダニウスが執政官の時(紀元43年)に、1羽の ワシミミズクがユピテル神殿に飛び込んだため、同年3月日に町全体の清め式が行われた。
また、ルキウス・カッシウスとガイウス・マリウスが執政官の時(BC107年)にもワシミミズクが現れたため 清め式が行われたという。

しかし、私(プリニウス)は、個人の屋根にこの鳥がとまって、不幸など起こらなかった例を いくつも知っている。」

フクロウは古代から中世において、その不気味な鳴き声と夜行性質から凶鳥と思われ、 別名『夜ガラス』とも言われた。 それゆえ、スペンサーは『妖精の女王』(1579年)の中でも、「悲しみのラッパを吹き鳴らす、しわがれ声の夜ガラス」と記した。

>備考
時に女神アテネ=ミネルウァの聖鳥として、知恵の象徴とされるフクロウですが、 その大きな眼は勉強しすぎて近視になった「メガネ目」と読まれ、読書人や 学者を風刺する劇画にも登場することがあり皮肉と受け取られることもあります。


鶴−渡り鳥 「第10巻三30章」

「渡り鳥である鶴は、夜になると嘴に石を咥えた見張りを立てる。眠くなると咥えた石が落ち、その音で眼が覚め、鶴は自らの怠慢を責める。」

他にも記載はありますが、ここでは >オラウス・マグヌス「北方民族文化誌」から次の逸話を紹介します。

「かのアレキサンダー大王はこの鶴の寝ずの番から、見張りの方法を学んだらしい。石の変わりに銀の玉を手に持ち、銅の金盆を下に置き、眠気で筋肉が緩むと、銀の玉が落ちてその音で眼をさますようにした。
30人の暴政の圧制から祖国を救ったトラスビュルス(アテネの政治家)も、このような警戒をしていれば、召使いが寝入っている時に、敵の夜襲で殺されることはなかったろう。」

>アイルランド地誌では、鶴は足で石を持つとし、次のように褒めています。
「鶴は教会の高位聖職者のようである。鶴はある種の尊い注意心を石のように持っていなければいけない。それがあらゆる怠惰を振り落とし、自省以外は許さないからである」


>備考
伝承によれば、鶴は飛行の前に石を飲み込むため、人々は捕まえた鶴を船の重りとしたという話があります。しかし、アリストテレスは「石の話」は嘘だと断定、プリニウスは間違いないと言い、アリストテレスからの引用も多いプリニウスにしては珍しく解釈が違っています。
本当はどちらなんでしょう・・・

>関連ページ−「第7巻2章 ピグミー」


蟻 「第11巻36章」

「インドの蟻は、穴を掘り金を採掘する。外見は猫のようでな色をし、大きさはエジプト狼ほどである。蟻の採集した金を人間が奪うと、蟻は人々の匂いを嗅ぎつけてしまう。人々は俊足の駱駝に乗って逃げるが蟻は凄まじい速さで追いかけ、彼らを殺してしまう。」

>ヘロドトス「歴史」の第3巻でも同じ供述があり、プリニウスがそれを引用したと思われる。
今日では野生のモルモットだったと言われる。

>マンデヴィル「東方旅行記」においても同じように語っている。
「プレスタ・ジョアンの治めるある島の金山には、犬ほどの大きさの大蟻が金を採掘している。大蟻の襲撃を恐れて誰も金山へは近寄らない。」

>フィシオログスでは、蟻のほかに「蟻ライオン(右図)」の寓話がある。
「頭はライオンで身体はライオンという幻獣。 頭はライオンのため肉を食うが、身体は蟻なので消化できない。(※当時の蟻は草食と思われていた) 肉を食うこともできず、草も食えず、やがて餓死する。
−−−蟻ライオンと同じような二心を人は持ってはならない。」

>備考
蟻ライオンは、ストラボン「地誌」で謳われたミュルメクス (ギリシア語で蟻)の内容や、プリニウスの巨大蟻の記述等がまざわり、聖書の誤訳という形でいつのまにか生まれた幻獣というのが一般説です。


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