マイケルジョーダン引退会見(U)



 質疑応答

質問:いつ、引退を決意したのか? そしてなぜ今日という日を引退会見に選んだのか?

「たぶんこれでは答えられないな(最初だけマイクの音が入らなかったことを言っている)。実際には去年シーズンが終わった時点で、ジェリー(ラインズドルフ)に話してあった。精神的にちょっと疲れたと言ったんだ。来年プレイするかどうか、わからないとも。彼には知っておいてもらいたかったからね」

 「ジェリーはあのとき時間をかけて考えてくれ、と言ったんだ。1993年のときみたいに。今度こそ最後の決断になるだろうから、僕としても後々まで後悔しないように決断したかった。そういうときに、彼はしばらく待つよう助言してくれたんだ。そうこうしているうちにロックアウトが起こり、僕はプレイヤーをサポートしたいと思うようになった。その場に仲間として居合わせて、僕の意見を述べたかった。なぜなら将来のある選手たちに対して、それが自分の義務だと思ったからだ。先人たちが立ち上がってくれたから、今の僕の契約が成り立っている。今度は僕が同じことをする義務感を感じたんだ」

 「だから、ロックアウトが終わったら引退を発表しようと思った。そうすればブルズだってその後のことを考えて動くことができるし、僕の契約が終わることによって経済的な余裕が生まれる。そこから将来のためにチームを建て直すことができるはずだ。それがここまで引退発表を伸ばした理由のひとつなんだ」

質問:93年と今回とでは引退を決意した理由は違うのか?

 93年と今回の引退はとても似ている。精神的に疲れてしまった。チャレンジする気持ちが起こらないんだ。肉体的にはまだまだやれそうだけどね。93年のときには他にもっといろいろと考えていることがあった。野球をやってみたかったから、ぎりぎりの年齢だと思ったしね。また、父の死を現実のものとして受け止める必要があった。でも、今はもっとずっと穏やかな気持ちでいるんだよ。僕はひとりの選手としてできることはすべて達成してしまった。もう以前のようにバスケットボール・プレイヤーとしてチャレンジ精神をもてなくなってしまったんだ」

 「きっと多くの人がまた違ったチャレンジがあるはずだと言うだろう。ただいったんシーズンに入ってしまって途中でやる気がなくなってしまったら、それはチームメイトたちにもファンに対しても不誠実だと思う。だから、今がゲームから遠ざかる完璧なタイミングなんだ。自分でも満足している。残念なことに労使間で問題が起きてしまったけれど、われわれはそれを解決した。あれは通過しなければいけない道だったんだ」

質問:経営側との考えの相違が、引退の原因なのでは? もしフィル・ジャクソンがいたら引退しなかったのか?

 「それはとても大きな“もし”だね。最初に引退したときもフィル・ジャクソンがコーチだったよ。もし今フィルがコーチだったとしても、僕はチャレンジする気持ちを持ち続けていられたかどうか……。今までたしかに彼は僕にチャレンジする機会を与えてくれたけれど、今シーズンも彼がそれを与えてくれたかどうかは誰にもわからないことだ。実は昨シーズンも途中まではあと2年ぐらいやってみたいと感じていたけれど、終盤はとても疲れてしまったんだ。だからフィルがそれをもう一度元どおりにしてくれたかどうか、それはわからないことだと思う」

 「経営側との意見の食い違いというのは、決断の仕方が食い違うということなんだ。それはあくまで僕の意見にすぎないけどね。最後通告でもなんでもないのさ。どんな事柄でも意見の食い違いというのは付きものなんだからね。だからといって、意見の食い違いがあるということが、双方が違うことを考えているということを意味するわけではない。どちらの側もチームを強くするためにできることをやろうと考えている。そこから生まれる意見の食い違いなんだ。経営陣はチームを再構築したりとか、そういうプロセスの上で、僕らとは違ったアプローチをとるだろう。でもそれは彼らの特権だ。僕はそのこと自体を間違っているなんて一度も言ったことはないよ。何かを発表したり、自分たちの意見を述べたりということは彼らに与えられた権利なんだ。僕はもうプレイはしないけれど、これからだって彼らをサポートするつもりでいる。今回の引退ということに関して言えば、意見の相違が僕の決断を変えることなんてなかったね」

質問:むずかしい決断だったのでは?

 「とてもむずかしい決断だった。心の底から愛しているものを捨てなければいけないんだから。ゲームに対しての僕の愛はものすごく強いものがある。その愛を捨てるということは、とても大変なことだ。でも、マイケル・ジョーダンがベストの力を発揮するためには、チャレンジ精神が必要なんだ。100パーセントの状態でないことを自覚しながら、自分をだましだましプレイを続けることなんてできやしない。肉体的には大丈夫なんだ。残念なことに指をちょっとケガしてしまったけどね。それ以外は大丈夫。でも、どうやら僕にはもうチャレンジ精神がなくなってしまったようだ」

質問:ブルズはこれから大変なのでは?

 「ブルズにとって今はチャレンジあるのみだ。われわれがシカゴにもたらした功績は非常にスケールが大きなものだ。それを維持していくということはジェリー・クラウス、ジェリー・ラインズドルフ、ティム・フロイドにとって、挑戦を意味していると言えるだろう。でも、彼らはそれを望んでいるわけだから、これでよかったんじゃないかな。どういう行動を起こすかにかかっているような気もするけどね。彼らがフリーエージェントの選手たちに対して、これからどういう決断をくだすか僕にはわからない。これはあくまで私見だけど、スコッティ・ピッペンは残して、彼を正当に評価してもらいたいな」

 「これまで僕たちは非常に高い水準でプレイしてきたから、これからもそれを維持していくなんて、さぞかしプレッシャーがかかることだろう。いったいいつまで続くかな? 来年までかな? 僕にはなんとも言えないがね。でも、彼らはより多く活発に動くことで、そのレベルを守っていく必要がある。それは確かなことだ。きっと彼らはそれをやり遂げてくれるだろう。それが彼らにとってのチャレンジなのだから、僕はそれをサポートしていくつもりだ」

質問:二度めの3ピートのほうが最初の3ピートより重要だったのか? それから、今回コートを去るにあたって、プレイしたいという欲望は完全になくなってしまっているのか

 「まず、二度めの3ピートのほうがより貴重だったと思う。大変なことだったからね。一度はチームがバラバラになってしまい、それから新しい人材が入ってきた。よそから来た選手はわれわれが、ここシカゴで経験してきたように大きな期待を一身に集めながらプレイした経験がなかった。そうした状況にあって3年連続して勝ったということは、前の3ピートよりもすごいことだったと思う。どちらのチームが上かって? 僕は最初のチームのほうが実力は上だったと感じているんだけど。でも、だからこそ2度めのほうがより難事業だったし、それでも3年連続して勝ったということは最初の3ピートより価値があるんじゃないかな」

 「“プレイしたいという欲望”について言わせてもらうと、いつだって“欲望”はそこにあった。もし“欲望”というものが存在しなければ、そこには“愛”だって存在しなかったはずだ。コートに立つならば、その“欲望”がそこになくちゃならない。どんな時も、常にだ。でも今はもう、そうは言えなくなってしまったんだ。1年間に82試合とか100試合とかプレイするためにこの建物に足を踏み入れるときに、いつもそこに“欲望”があるとはもう言いきれない。今まではハッキリと“欲望”があると言えた。なのに、今はその気持ちがぼやけてしまっている。そうした疑念が僕に引退することを決意させたのだ」

質問:長男のジェフリーがシャキール・オニールがいちばんグレートだと言ったから、前のときカムバックを決意したというのは本当の話なのか?

 「(笑いながら)いや、それは本当じゃないな。でも真ん中の子供はデニス・ロッドマンが好きで、赤い髪にしたがっているよ。でも、そのことが僕を復帰に駆り立てたりはしないのさ。だいたいそれは正しい報道とはいえないよ。僕は子供たちが他の選手に憧れることを反対したりはしないもの。彼らは僕のことをバスケットボール・プレイヤーではなく、父親として見ているんだ。それは同時に彼らが妻と僕が両親としての義務を果たしていることを認めてくれているんだと思う。だから、子供たちが他の選手を好きになったって、僕はちっとも不満ではないんだ。家の中で赤い髪は困るけどね」

質問:自分のメンタルな面での才能と運動選手としての才能のどちらを誇りに思っているのか? 維持していくのはどちらが大変なのか?

 「最初はスポーツ選手として、もって生まれた肉体的才能だけでここまで来たんだ。ところが年をとるにつれて、いろいろな欲望が高まってきた。メンタルな意味での能力は試合で学び、磨かれることが多い。コーチ・スミス(ノースカロライナ大学元ヘッドコーチ)から教わったものもあるし、敬愛するコーチングスタッフからのものも大きかった。テックス・ウィンターから得たものが、もっとも大きいかな。なぜなら彼は誰よりも僕のプレイを批評してくれた。そのことが僕にプラスの作用を与え、さらなる戦闘意欲をかきたててくれたからだ。メンタルな意味での能力と一口に言っても、それがいちばん大変なことなんだ。長い時間をかけて学び、さらにそれを試合で試し、実践に結びつけなければモノにはならない。そうすることで、選手はより理想に近づくことができる。どちらかというと肉体的な能力のほうが簡単に身につき、メンタルな意味での能力のほうが何倍もむずかしいように僕には思えるな。また、このことが“グッド・プレイヤー”と“グレート・プレイヤー”とを分けているのではないだろうか」

質問:もう考えを変える可能性はないのだろうか?

 「ノー。“決してない”とはいいたくない。けれども、99.9パーセントの確率で自分の決断は間違っていないのだと確信している」

質問:どういう心境で今、こうした会見に応じているのだろう?

 「結構大変なんだ。感情を今ぐらいに抑えるのが精一杯だよ。なぜなら心から愛しているものを遠ざけようとしているのと同じことだからだ。12歳から始めて今は36歳、24年間もプレイしていたことになる。試合から遠ざかるのは寂しいけれど、まったく違ったステージでこれから自分の人生がスタートするのかと思うと、なんだかうれしくもあるね。最初のステージは僕にとってバスケットボールだった。人生のどの時点でそれを終えるべきなのかってことが、今の僕にはちゃんと把握できている。僕の人生はもう違ったステージにさしかかろうとしているんだ。そこにはこれまでとはまったく違ったチャレンジが待ち受けているようだ。僕はそれを大歓迎するつもりでいる。こう言うときが来ることはわかっていたからね。それに、キミたちに放り出されるわけじゃないというのもうれしい。僕は自分からコートを去って行くんだ。まだ戦える、まだプレイできるとわかっているけど、ここでユニフォームを脱ぐんだ。現役生活を終える時はこういうふうに幕を引きたいとずっと思っていた。僕が願っていた通りの結末なんだ」

質問:次は何をするつもり?

 「次のステップかい? やってみたいことがたくさんあるんだ。今朝は子供たちを学校に連れていったんだけど、楽しかった。帰りも迎えに行くつもりだから、これも楽しみだな。それから子供たちが遊んでいるのをただ眺めていたい。妻と僕は子供たちが1オン1をするのを見るのが好きなんだ。他の人にとっては単純なことでも、この14年間、スケジュールの関係でやれないことばかりだった。だから、そうしたちょっとしたことをじっくりと味わってみたいと思う。ビジネスの機会もあるだろう。でも、そうしたことは僕の心を疲れさせたりはしないだろうね。バスケットボールから遠ざかってしまうことで、やり場のなくなった僕の競争心を発揮する場になるかもしれない。ともかくいちばんやりたいことは人生を楽しむこと。今までやれなかったことをありったけやってみたい」

質問:達成したかったけれど、達成できなかった記録はあるのか? そして最近の若い選手たちの精神面について何か気になるところはあるのか?

 「ノー。達成したかったけれど、届かなかった記録なんてない。多くの人が僕は常にリーグの頂点に立ちたがっているとか、史上最多得点記録を目指しているとか思い込んでいるみたいだけれど、そんなものよりも6度の優勝のほうが重要だった。代償というべきかな」

 「最近の若い選手たちに対しては、辛抱強く接していかなくてはならない。彼らにはゲームを楽しむことと、全エネルギーをゲームに注ぐこと。この2つを指導してあげるべきだろう。アンラッキーなことに自分も他の数人の選手たちも、金銭的な部分ばかりで注目を浴びてしまった。そうしたイメージを拭い去るためにも、おのれのゲームへの愛情を再認識すべきではないだろうか。ゲームへの愛情とはすなわち、コートの上で全力でプレイするということだ。僕はデビッド(スターン)もそう願っていることと確信している。オーナーたちだってそれを待っているはずだ。バスケットボールというビジネスがどうなろうと、しょせんはどうでもいいことだ。お金を支払ってもらうことができなかったらできなかったで、バスケットボールの試合はどこででもできるんだ。ゲームへの愛情っていうのはコートの外であろうと中であろうと、自分たちがプレイすることで獲得するものなのだ。そして、プロのバスケ選手としてだけではなく、プロのアスリートとして大衆の前に現れるからには、このことをしっかりと頭の中に入れておかなければならないというのが僕の考えだ」

質問:競技生活で多くのスリルを味わい、味あわせてくれてきたあなただが、もっとも興奮したプレイを1つか2つあげてほしい。

 「最初と最後のシュートだね。僕のキャリアのはじまりと終わりだから、消しゴムで消そうとしたって消えるものじゃない。ピストンズを破った年も大きな思い出だ。ようやくそれまでのイラだちから開放されることができたんだからね。あれは越えなければならない壁だった。クリーブランドを破った年は誰も僕たちが勝つなんて予想していなかった」

質問:コーチ業に興味は?

 「今のところ全くないとしか言えない。決してありえないとは言えないけれど。将来的にそういう気持ちが湧いてきたら、それはそれでいいことだと思っているんだが、今のところ全くそういう気配は感じられない。今はどちらかというとバスケットボールから距離をおいて、遠くから静観してみたい気分ですらある。家の中でコーチすることですら、どうかすると億劫に感じてしまうんだ。ちょっと当分はゲームから遠ざかっていたほうがいいみたいだね」

質問:フィルがニックスのコーチになったとしたら?

 「僕がそこで一緒にやるなんて想像したこともないよ。たぶんそんなことにはならないだろう。ありえないと強く確信している。フィルにとってはハッピーなことだろうけどね。ニューヨークは僕も好きな街なんだけど、引退を撤回してニックスのユニフォームを着るなんてありえないことだよ」

質問:(マイクロフォンが不調のため、質問が聞き取れず)

質問:指のケガについて

 「ツイてないことに葉巻をナイフで切るときに、指の腱を傷つけてしまったんだ。数週間以内に外科手術をすることになるだろう。幸いなことにゴルフはプレイできる。医者が言うにはもし現役を続けていたとしたら、2か月はプレイできなかったそうだ。でも、このケガが引退を決断させたなんてことはないよ」

質問:あなたは国境を越え、人種を越え、あらゆる社会的な壁を越えた存在だ。才能もあり、尊敬も得ているあなただが、完全に引退し隠居生活に入ってしまうのか? それとも世界中に広がるいろいろな問題を解決するつもりはないのか?

 「2つの大きな“ノー”だ。まず僕は完全にみんなの前から消えてしまうことなんてできるとは思っていない。そして世界中の問題を解決できるとも思わない。世の中にはたくさんの惨事がおきている。僕にサポートできることもたくさんあるだろうから、そのときはできるだけのことをするつもりだけどね。引退というのは僕にとっては、ほんの少しだけ公の場に出なくなるくらいのことなんだ。広告の契約がまだ残っているから、もうしばらくは人前に出てなくちゃならないし。でも少しは減らしたい。コマーシャルに出演することはあるだろうけどね。これはすごく簡単なことだ。でも、世界を救うなんてことは僕にはちょっと無理だと思う」

質問:もし人から引退を反対されたら?

 「そういう言葉を耳にしたことはあるけど、彼らはマイケル・ジョーダンについて何も知らない。たいていは憶測ばかりだから、僕が決断するうえでそれに左右されるということはありえないんだよ。マイケル・ジョーダンにとって何がいちばんベストか、それは本人がいちばんよく知っているんだ。妻や友だちに相談して助言をもらうことはあるけど、最後に決断するのは自分自身だ。読んだり、聞いたりしたことで影響を受けるなんてまずありえないはずだ。憶測記事ばかりで、真実はほとんどない。でも、多くの人がそれを読んで楽しんでいることを僕は知っている。でもそれが、僕が決定することに影響を与えたりすることはまず考えられない」

質問:前回の引退では「ドアは開けたままにしておく」という言葉を使っていたが、今回は「99.9」と言っている。これは「ドアをまだ完全に閉めていない」という意味なのか? そしてもうひとつ、もうすでに優勝リングを受け取ってしまったようだが、リングセレモニーにはもう1度ここに来るのかい?

 「ジェリーにリングセレモニーをやるのか聞いてみることにするよ。ぜひ来たいものだね。他の選手をサポートしたり、今日来れなかった選手と会ったりしたいな。それを楽しみにしているよ」

 「99.9パーセントというのは、その通りの意味だ。100パーセントではないが、それに近い。それが僕のとるべきスタンスなんだ。僕は“決してありえない”とは言わない。だから99.9という数字が何を意味するかはきみたちで決めてくれ」

質問:“ネクスト・マイケル・ジョーダン”はいないと言ってもいいのか?

 「マイケル・ジョーダンは他にいやしないんだ。ドクターJが他にいないのと同じようにね。エルジン・ベイラーも他にはいない。わかりきったことだ。だから、明日の子供たちから第2のマイケル・ジョーダンが生まれることも、ありえないことなんだ。グラント・ヒルやアンファニー・ハーダウェイやコービ・ブライアントにしても、同じことが言える。マイケル・ジョーダンはマイケル・ジョーダン。僕のゲーム・スタイルとか人間性を少しずつ取り入れることはできても、自分の人生は自分でクリエイトしていく必要が出てくる。元祖と比較することは簡単だけれど、それぞれの時代で対処するべきことが出てくるだろう。ドクターJの時代に彼が持っていたものを僕は持っていない。また、コービ(ブライアント)など後輩たちは、僕と同じものは持っていないはずだ。きっとこれからもいろいろな影響を受けることになるだろうが、マイケル・ジョーダンが2人いるわけはないんだ。ジョーダンになる努力なんてしないように助言したいね」

質問:これまでいちばん苦労したことは?

「NBA入りしたばかりの頃は、負けることがとにかくイヤでイヤでたまらなかった。負けることも自分のゲーム・スタイルを変えていくうえでの試練と受け止める必要があったんだけどね。批判もたくさん受けた。マイケル・ジョーダンはチームプレイがへただ、とね。でも、それには真実も含まれていた。なぜなら、あの頃の僕はそれをどうやって学んだら良いのかわかっていなかったからだ。今思えば、あれこそがチャレンジだった。ネガティブなことが降りかかってきても、それをポジティブに利用することを覚えようと努力していた。僕の人生ではたびたびネガティブなことが起こった。バスケット・コートの中でも外でもだ、でも、前に進むためにネガティブな体験から学び、ポジティブな姿勢を保つことを心がけたんだ。これからもそれは変えないよ。過去の苦い体験から学んだものを変えようなんて思わない。傷つかなければ、人は成長しないものなのだからね」

質問:ロックアウトがこんなに長く続くと考えていましたか? そして今回の合意案はフェアなものと思いますか?

 「こんなにロックアウトが長引くとは思わなかった。選手会はフェアなものを求めただけのことだ。僕も多数派に賛成している。もし、この結果にみんなが喜んでいるのなら、僕もうれしいよ。いつもそう思っていたし、前にも言ったことがあるんだけど、僕はどんな内容の協定でも満足できる。それが多数の賛成を得られるものならばね。そして今回の協定は多くの人が賛成しているものだ。パトリック・ユーイングをはじめとして代表者は大多数の選手にとってベストな取り引きになるように戦った。そして、その通り多くの選手もそれに賛成した。フェアかどうかはそのうちわかることだ。また、揉め事がどんなふうに派生するかがわかったはずだ。オーナーたちが要求してきたことも承諾させられたんだしね。ともかく選手たちは具体的な数字をあげて、フェアな結果を追求しつづけたんだ。僕は両サイドが納得がいくような結果を求めていたから、ああいう形で終わったことを喜んでいるよ」

質問:ブルズの再建をサポートするつもりなのか?

 「それを断る理由がない。マイケル・ジョーダンがいなくてもブルズはとりあえず見切り発車してしまい、何とか生き残ることが最善策だろう。これまで多くの喜びを分かち合ったシカゴ・ブルズの球団組織なんだから、今後もサポートしていくつもりだよ。でも、マイケル・ジョーダンがいないスタートなんだから、マイケル・ジョーダンの力を借りるのはまずいかもしれないね。ともかく、もし彼らが僕のサポートか何かを必要としたときはできるだけのことはするつもりさ」

質問:成功を手にしたことで、救われている部分もあるだろうが、これまでにいろいろなことを犠牲にしてきたと思う。その中でも、特に怒りを感じたり悩まされたりしたことは何だったか? そして今度はプライベートな部分とパブリックな部分とを使い分けていくことはできるのだろうか? 

 「僕の人生には許し難いことがよく起こるんだ。それをできるだけ受け入れることにしている。だって仕方がないことだもの。全く事実でない憶測でいろいろなことを書かれたりする。でもそれを受け入れなければいけないし、後ろに投げ捨てて、前に進まなきゃいけない。あまりそのことばかりクヨクヨ考えてはダメだということも、僕はすでに学んだ。なぜなら頭痛を起こすほどの価値もない、くだらないことだったりするからね。現役引退することでそれらが遠のくことを切に願うね。そうはならないかもしれないけれど。だから、耐えなければならないから名声をもった人間は不幸なんだ。デタラメなことが記事になったりする。フェアーじゃない。でも、そういうものだと思うしかないんだろうね」

質問:きみの友だちはチャンピオンシップをきみから奪うことができなくなってしまったね。

 「誰も僕からチャンピオンシップを奪うことができなくなってうれしいよ(笑)。パトリック(ユーイング)ともチャールズ(バークリー)ともカール(マローン)とも話した。彼らは皆、同じ気持ちでいるはずだ。彼らにしてみたら、僕にカムバックしてほしいだろうね。『シカゴから、マイケル・ジョーダンからチャンピオンを奪い取った!』と言うためにね。それはいいことだよ。でも、彼らはもうずっとそれを言う機会がないんだからね。マジックとラリーがプレイしているときにチャンピオンになることができて、僕はうれしい。ボストンやレイカーズと戦って勝つ必要があったんだ。パトリックはマイケル・ジョーダンを破ることができないのなら、もう生きていけないそうだ(笑)。それから、チャールズに対しては、勝利のためにすべてを捧げていないからマイケルに勝つことができないんだと言ってやったよ。みんなしてジョークにしていたけど、僕がいなくなるのを本当にいやがっているみたいだ。もう僕に勝つことはできないんだからね。それを誇りにさせてもらうことにしようかな」

質問:ファニータ、マイケルの引退であなたの人生は変わりますか?

(ファニータ・ジョーダン)「マイケルが引退しても、私の人生は何もかわりません。もうすこしこどもの送り迎えをしてくれるようになるかしら。それだけのことですね」

質問:引退を決意するうえで、フィル・ジャクソンはどういう役割を果たしたのか? そしてシーズンが予定通りに始まっていたなら、現役復帰の可能性はもう少し高かったのか?

 「フィルと僕はシーズンを通して、シーズン後の可能性について話し続けた。彼はいったん決断してしまったら、その決断が僕に影響を与えてしまうことを望まなかった。僕もそれはありえないと彼に言った。また、僕の決定が彼の決定に影響することも避けたいと言ったんだ。たしかに僕は、フィルがここにいるなら、一緒に現役を続けたいと言ったよ。でも、それはあくまで僕の意見であって、それをフィルに押し付けるようなことはしちゃいけないんだ。フィルにとってベストな決定を尊重したかったし、彼にはハッピーでいてもらいたかったしね。だから、フィルは今回の僕の決断に何の影響も与えてはいない。それにフィルは僕が引退を決意したことは知らないはずだ。昨年の夏以来、話をしていない。もし10月に開幕していたとしても、僕の決定は同じもので変わりはなかっただろう」

質問:なぜ1パーセントの可能性を自分のポケットに入れたまま、この場を去っていくのか?

 「この1パーセントは僕のものであってあなたのものではないから。それが答えさ」

質問:もしお父さんに相談していたら、彼は何と答えただろうか?

 「もし父が生きていても、今と同じ結果だったと思う。彼もきっと同じ選択をすすめただろう。きっと僕よりも早く答えを出していただろうね。父はきっとこう言うだろう。これが完璧なタイミングだ。時はきた。顔を上げて歩いていけ、そして子供たちと先に進め、とね。つまり僕が今やろうとしていることさ。第2の父はガス(ガードマンで、ジョーダンの友だち)だ。彼はどこにいても同じことを言っているよ。ここからどこか暖かいところに移りたいなあって。同じことなんだよ。父はきっと同じアドバイスをくれただろうし、母だって基本的には同じことを言うのさ」

「さあ、今日はどうもありがとう。サンキュー、シカゴ