一階下宿部屋
▲一階の下宿部屋。壁には作り付けの木製ベッドと洋服ダンス。下宿屋として使用されていた頃、マントルピースの中にはガストープが備え付けられていたそう。
 新館の一階にはオリジナルの状態にきわめて近い部屋がふたつあります。
 ちなみに二階は洋室を畳の和室に改造し、宿泊用の部屋として使用されていました。

 4月上旬の撮影の折。西郊の女将さんはこうおっしゃっていました。
「一週間後には工事が始まるので、いいタイミングでしたね」。
 私たちはそれを、リフォームするという程度の軽い意味に考えていたのですが… 実際はもっと、大がかりなものでした。

階段上 一階下宿部屋・窓際 二階の廊下
▲(左)階段上。(中央)一階のもうひとつの下宿部屋の窓際。ここもオリジナルの状態に近い。(右)二階の廊下。
 現在西郊の新館は、賃貸マンションとして生まれ変わるための工事中です。

 今回の改築にあたっても、全面建て替えするという案もありました。しかし「これだけのものをもう一度建てることは二度とできない」と思われたことがひとつ、もう一つは容積率の問題で、西郊の敷地は建ぺい率60%、容積率200%というのが建築の基準だそうで、これでは三階建て以上のマンションなど建てることはできない。その結果、「できるだけ本来の姿を残して改築する」という結論に至ったそうです。

 下宿屋から旅館へ、そして賃貸マンションへ。
 まるで建物自体が、現役を引退することを拒み、生き残る道を一生懸命模索しているようにさえ思えてきます。

洗面台 丸窓
▲(左)洗面台。(右)丸窓の右手の窪んだ部分が、新しい賃貸マンションの入口になるようだ。
ラジオ1 ラジオ2
▲(左、右)ロビーにある古いラジオ。戦中はこのラジオを玄関脇に運び、軍歌を流したりしたこともあったという。
階段下 ロビーのストープ
▲(左)新館階段下。(右)ロビーにはなぜか『ダ・カーポ』のバックナンバーがたくさん。西郊が掲載されている『東京人』や『散歩の達人』が置いてあることも。
一階の廊下
▲一階の廊下。
 さて、これまで元下宿屋としての西郊ばかり紹介してきたましたが、割烹旅館・西郊もお薦めの物件です。

 もともとが荻窪の閑静な住宅街にあり、宿の中に入れば都内とは思えないほどの静けさ。
 素泊まりならばビジネスホテル並みの値段で泊まれて、広い畳の部屋でゆっくりできて、風呂上がりに古いラジオやストープに囲まれたロビーで雑誌なんか読んでると、気分はもう別荘地!

 本館のほうは今後も旅館として営業を続けるそうですから、ちょっとした宴会や、同窓会にはぴったりの宿ではないかと思います。ご主人も女将さんもきさくな人で、決して敷居の高い場所じゃありませんよ、ホント。

(2000.5.1記)
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