学術研究


野外調査──中国大陸での場合 (Fieldwork in mainland China)

※ここに記す内容は,吉川が大学院生時と2008年以降に行った野外調査での経験から得た知見の一部分です。

 三.音声録音について

1.音声録音は不可欠
 言語調査では必ず録音を行って下さい。これは決して「調査終了後には録音に頼れ」とか「調査現場では録音さえ行えばよい」などという意味ではありません。調査現場では必ず国際音声記号(IPA)での書き取りを行うべきです。それにもかかわらず録音を行う必要があるのは,将来の口頭発表や論文投稿に向けて証拠を確保しておく必要があるからです。学術研究を支える基本要素の一つに客観性が有ります。そのため調査者以外の研究者に提示できる証拠を確保しておくことは,調査者の責務と言えます。また,録音は後に自分の調査方法を反省するための材料ともなりえます。
 なお研究内容によっては録画を行う必要も出てきます。

2.音声録音に適した静かな環境を探す努力
 言うまでもなく防音の録音室などは有りませんので,静かな環境を探すに努力が必要となります。概して,次の事が言えます。
①県庁所在地:住宅内では各種の騒音が存在するが,ホテルには静かな部屋が有る。
②郷鎮政府所在地:住宅内では各種の騒音が存在するが,民宿の中に静かな部屋が有る可能性が有る。
③農村部:住宅内では上記①②とは異質な騒音が存在する。
農村が調査対象である場合,インフォーマント/コンサルタントをそこから県庁所在地や郷鎮政府所在地まで呼び寄せるのは,彼らにかなりのストレスを与えることになりかねないので,調査者自らが農村のインフォーマント/コンサルタント宅まで通い,そこで録音するのが望ましいです。
 農村の住宅内で録音を行う場合,次の点に注意を払うことになるでしょう。
①近年建てられたレンガ造りの住宅だと音声が反響する危険性が有る。
②蠅が多いと羽音が録音される危険性が有る。
③乳幼児や家禽の鳴き声が録音される危険性が有る。
④雑貨屋としての機能を果たしている住宅には,頻繁に来客が有り,喧噪が絶えない。
①の対処法として玄関前の敷地内や屋上で録音を行うという手がありますが,屋外での録音ではレコーダーが風切り音を拾ってしまう危険性が生じますので,ウインドジャマーを用意した方が無難です。また熱中症に気をつけましょう。③に関しては,インフォーマント/コンサルタントや家長に事情を説明すると乳幼児を遠ざけてくれるかも知れませんが,家禽については対処法は期待できません。④に関しては,当該農村で最も外れに位置している住宅(喧噪が最も少ない)で録音を行うという手が有ります。


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