学術研究 |
野外調査──中国大陸での場合 (Fieldwork in mainland China) |
※ここに記す内容は,吉川が大学院生時と2008年以降に行った野外調査での経験から得た知見の一部分です。
1.現地政府との交渉
中国大陸で野外調査を行う場合,正論を言うと調査地を管轄する現地政府の許諾を事前に得ておく必要があります。県政府もしくは複数の県を統轄する地区(市)政府の何れかの部局と打診し,彼らの許諾を得て,然る後にその支援の下に郷鎮や村落に入ることになります。そのため政府との交渉や協力・付き合いも野外調査を構成する重要な一過程になります。言語調査を開始する以前に先方にこちらの意図を理解してもらうに越したことはありませんし,調査終了後は将来の調査継続のために信頼関係を深める努力をしておいた方が良いでしょう。因って,言語調査は野外調査そのものを意味するものではなく,野外調査に内包される営みということになります。言語調査を始める前にすでに野外調査は始まっているのです。なお台湾や香港・澳門ではこの限りではありません。
2.現地での政府との連絡
調査地点に入ってインフォーマント/コンサルタントを確保し,調査を開始した後も,現地政府との連絡を取る必要が生じることが有るでしょう。多くの場合,携帯電話で連絡を取ることになりますが,決して土日や祝祭日に政府官員に実動してもらってはいけません(彼らにとっての休日です)。ただし,先方から食事などに招かれた場合はこの限りではありません。もし翌週月曜日の調査で政府の援助が必要であるならば,遅くとも金曜日までに打診をしておくようにしましょう。
また調査地点への移動に際しては,集合時間までに必ず集合を済ませ,決して政府官員を待たせないことが必要です。彼らに対する遅刻は顰蹙を買いますので,注意せねばなりません。
3.調査を行う時期
調査地点が農村部(県庁所在地や郷鎮政府所在地の外)である場合,言語調査に適・不適な時期があります。次の時期は不適ですので,調査を行うのは極力避けましょう。
①農繁期:老年層の一部を除いて多忙になります。農作物の収穫期がその代表ですが,地域によって異なりますし,南方だと二期作を行っている地域も多いので,予め調べておく必要が有ります。
②猛暑期(7,8月):地域によっては連日35度近くまで気温が上昇することがあります。調査者自身はともかく,インフォーマント/コンサルタントが高齢者であることに配慮しましょう。
③雨季:地域によって異なりますが,洪水が起こり,訪問先の村まで行けないことがあります。
④旧正月や国慶節:中国大陸では政府も休暇に入ります。
参考文献
現地調査に関して一読を勧める論文には次のものが有ります。いずれも野外調査を専門として研究を遂行している研究者が執筆されたもので,大いに参考になります。
・田口善久(2002),「中国西南地域少数民族現地調査事情(2001年度版)」,『千葉大学ユーラシア言語文化論集』(5),197-202.
・樫永真佐夫(2003),「ベトナム現地調査指南」,『ベトナムの社会と文化』(4),150-162.
|
|