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あすなひろし
「青い空を白い雲がかけてった」「風と海とサブ」 など
小学生時分に読んだ時はお決まりの「わん ぱたーん」や夏子先生の「抜き打ちテストじゃ!」を面白がっていただけだが、最近の復刻ブームのおかげで再読して気がついた。虚ろ、とも取れる表情、描写がやたらと多いのだ。視点がどこを向いてるのか、コマだけでは理解不能である。大体漫画の登場人物というものは、コマには描かれていなくてもそこにいるであろう人物/物体に視点を合わせて描写されているものだが、あすなひろしにおいてはかなりの頻度で視点が明後日を向いている。その視点は過去への郷愁であったり、未来への不安であったりするのだが、とにかく遠くを眺める描写が頻発する。三人に一人はその場面に視点を置いていない、というのは言い過ぎか。
スクリーントーンをほとんど使わず、また余白の多い絵柄である。これほど白い漫画は中崎タツヤぐらいしか知らないが、それでも4コマメインの中崎の方が余程描いているとすら思える。家財道具や風景など、ともすれば全部省略なのだ。登場人物がコマの1/3で後は余白、これが当たり前なのだ。復刻版の文庫本サイズですら真っ白に感じてしまう程である。しかし逆に、その白さは描く線の繊細を際立たせる事にもなる。背景の一種異様な美しさは特異的である。
糸井重里はあすなひろしの漫画を評し「真っ昼間の悲しさ」と表現したが、さすがである。上の記述を一言で言い表してしまった。白昼を連想させる白い絵柄の中、遠くを眺める登場人物、そこから得られる不安、無力感、郷愁、そして現実。ストーリィ上で表示されたそれら諸々を、あすなひろしはまた、その特異な絵でも表現し得ているのである。
こんなものを小学生の頃に好んで読んでいたわしはどんだけペシミストな事か呆れてしまう。On Timeで読んだのは上記二作だが、いずれも十代の主人公の成長がメインテーマである。これは週刊少年チャンピオンで連載されていた事にも依るのだろうが、だからといって「君の未来は明るいんだよ」的な事は全く以て描写されない。どちらの作品も未来は全く霧の中、なのである。茫漠とすらしていない。むしろ何も示されていないと言った方が正しいだろう。しかしだからこそ、彼の作品群にわしは惹かれてしまうのだろう。未来への不安や世間への無力を言葉にはできないままに感じていたわしは、それこそが現実であるとあすなひろしに教えてもらったような気がする。
2001年没。