「消費者の権利」規定の改定を!



  ケネディ大統領が「消費者の利益保護に関する特別教書」(1962年)において消費者の4つの権利を提唱し、その
擁護のための消費者行政の重要性を指摘した。それから遅れること45年、ようやく日本では福田総理によってその重
要性が叫ばれ、行政改革に手が付けられようとしている。
 
  なぜ、消費者庁の創設が求められているかといえば、消費者の権利がないがしろにされているからである。その理
由を考えれば、消費者の権利を確保するという理念を政治や行政を司る者が十分に認識していないということであろ
う。福田総理はその重要性を理解しているからこそ、このような改革に手を付けたといえる。
 三笠フーズに端を発した事故米の食用米への流用事件はこの国の食の安全が極めて危ういことを示している。そし
てその主要因は国民・消費者の立場で農産物行政を行なってこなかった農水省にあることが明らかになりつつある。
農水省が「相手先企業の同意が得られていない」などと、流通経路の公表に慎重姿勢をとったことに対して首相は「全
く分かっていない。何か勘違いしている」と激怒したと報じられている。農政事務所の担当課長が三笠フーズから接待
を受けていた事実まで明らかとなって、福田総理は官邸に野田消費者行政推進担当大臣や太田農水大臣らを呼び、
野田大臣に「消費者庁の先行的な実施だ。司令塔としてやってもらいたい」と指示したという。

  しかし、福田総理は辞任を表明し、自民党では5名の候補が自民党総裁の椅子を争い、麻生太郎氏が総裁に就任
した。福田総理は法案を閣議決定し、次期総理・総裁にも消費者庁設置の政策を引き継ぐと述べた。総理が代われ
ば、再度、新総理が閣議決定する必要がある。ユニカねっとのアンケートでは、麻生氏は消費者庁設置3法案を政権
発足後に閣議決定し、国会へ提出する意思を示しているが、どの程度熱心なのかは未知数であり、先行きは不透明で
ある。三笠フーズの事件では、総理自らが消費者行政担当大臣に指令塔の役割を直接命じたから、農水大臣も農水
省の官僚もそれに従っているが、今後、総理大臣自身に消費者問題への関心がなければ、制度上、消費者行政担当
大臣が置かれ、そのもとに消費者庁が組織されていても十分機能するか疑問である。

  そこで、私は、現在の消費者基本法に謳われている消費者の権利規定をより明確、強力なものにし、すべての政
策遂行において消費者の権利確保が最重要であることを強く示し、政権が代わってもそれが政治において高い優先順
位を与えられるべきものであることを明定しておく必要があると考える。現行の規定はあまりにもお粗末である。

  以下、当該条文をみてみよう。

消費者基本法第2条「理念」

「消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策(以下「消費者政策」という。)の推進は、国民の消費生
活における基本的な需要が満たされ、その健全な生活環境が確保される中で、消費者の安全が確保され、商
品及び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保され、消費者に対し必要な情報及び教
育の機会が提供され、消費者の意見が消費者政策に反映され、並びに消費者に被害が生じた場合には適切
かつ迅速に救済されることが消費者の権利であることを尊重するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増
進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援することを基本として行われなけ
ればならない。」 

  これが権利規定と言えるのであろうか。ここでは、8つの概念を述べた上で、それが消費者の権利であるから、これ
らの権利を尊重することが消費者政策推進の基本である、と示しているに過ぎない。消費者の権利を宣言したというよ
り、文章のなかにそれらをすべて盛り込んでしまい、かつそれぞれの権利の内容を具体的に説明しておらず、権利規
定と呼べるか疑問なほどお粗末なものである。

  再度、当該部分に該当する権利規定を入れて以下に示す。

「消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策(以下「消費者政策」という。)の推進は、国民の消費生
活における基本的な需要が満たされ(最低限の需要を満たす権利)、その健全な生活環境が確保される(健康
的な環境への権利)中で、消費者の安全が確保され(安全である権利)、商品及び役務について消費者の自主
的かつ合理的な選択の機会が確保され(選ぶ権利)、消費者に対し必要な情報(知らされる権利)及び教育の
機会(消費者教育を受ける権利)が提供され、消費者の意見が消費者政策に反映され(意見を聞いてもらう権
利)、並びに消費者に被害が生じた場合には適切かつ迅速に救済される(救済を受ける権利)ことが消費者の
権利であることを尊重するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動す
ることができるよう消費者の自立を支援することを基本として行われなければならない。」 ( )内、色付筆者


  さらに言えば、前半の「国民の消費生活における基本的な需要が満たされ、その健全な生活環境が確保される中
で」という「中で」で括った2つの説明文は一体何を意味するのか不明である。

  これは、消費者保護基本法の改正による2004年の消費者基本法の制定によって規定されたものである。権利を明
示することを基本的にきらう与党と、CIの提唱する権利規定を含む8つの権利を挿入することを求める野党の妥協の
産物として生まれたものである。理念において妥協を許し続けていれば、かならず政策や組織においても妥協が芽生
える。ぜひ消費者基本法の「消費者の権利」規定を見直していただきたい。あるいは基本法と法案が準備されている
消費者安全法等を統合することも考えてよかろう。包括的な「消費者権益法」を作ることも検討に値する。


(本文:日本消費経済新聞2008年10月6日号に投稿)                             細川幸一




付記:ユニカねっとのアンケートに対する麻生太郎氏の回答(総裁選時)
(ユニカねっとHP掲載の08.09.18 自民党総裁候補アンケート(結果)から転載。回答は要約したもの。麻生氏以
外の候補の回答は省略)

********************
 自民党総裁候補アンケートについて、全候補者からの回答が出そろいました。
結論としては、全ての候補者が、消費者庁関連法案を国会に成立すること、地方消費者行政充実に配慮することにつ
いて、「はい」との回答です。
 これまで、政府・与党として検討してきた法案である以上、当然といえば当然の回答ではありますが、この結果は評
価するとともに、今後、現在の法案が後退することがないよう、意見を述べていくことが必要です。

麻生太郎候補
(1)総理大臣に就任された場合、消費者庁関連法案を国会に提出していただけるか。
はい。
(2)仮に、解散、総選挙となった場合でも、その後の国会において、消費者庁関連法案の成立にご尽力いただけるか。
はい。
(3)地方消費者行政の充実に向け、十分な予算確保にご尽力いただけるか。
はい。
(4)自由記入欄(原文どおり掲載)
消費者行政については最善を尽す考えです。
********************

  
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