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日本女子大学准教授 細川幸一
10月1日の所信表明演説で福田康夫首相は「国民の安全・安心を重視する政治への転換」をうたい、消費者保護
のための行政機能の強化を表明した。しかし、消費者行政の整理・縮小が進んでおり、現場の担当者からは悲鳴が聞 こえる。
内閣府は独立行政法人の整理合理化の一環として、国民生活センターにおける消費者からの直接相談受付の廃
止、商品テスト業務の大幅な外部化を打ち出し、同センター発行の情報誌「たしかな目」、「国民生活」の廃刊も決定し ている。地方自治体の状況も深刻だ。全国消費者団体連絡会の調査によると、都道府県の消費者行政の予算総額は 2002年度には約74億円だったものが、06年度には51億円と4年間で31%もダウンしている。一般会計の予算総 額はこの間6%減であるので、消費者行政が狙い打ちにされていることは明らかだ。
近年の経済政策の特徴は規制緩和を通じて、自由闊達な事業活動を推進し、それによって事業者も消費者も共に
潤う自由市場を実現することにある。従来型の行政による事前規制中心主義の政策は、産業振興の御旗のもと、官僚 の恣意的な采配による事業者の選別や事業者との癒着を生み、経済の進展に障害となってきた。そこで、規制緩和を 通じて、そうした弊害を除去し、事業者が互いに競争をし合い、結果として消費者がより良い商品・サービスをより安く 手に入れることが出来る社会の到来が期待されている。
しかしながら、ライブドア事件など、金融分野での規制緩和が問題となっているし、耐震強度不足のマンション販売
や食品の偽装表示など消費者の安全に係わる分野でも事業者が安全性を無視して価格競争に走ることの危険性が 露呈された。すなわち、規制緩和は消費者の利益に資する面がある一方、消費者被害を招く危険性を増大させること もある。
そうした中で、消費者を保護する対象と捉えるのではなく、市場で自立した消費者を支援することこそが行政の役割
とされ、消費者自らが権利を行使するための法律の整備や企業の健全経営の自主努力等が促されている。しかし、自 立のための法整備は未だ不十分であり、また、自立できない高齢消費者等の被害が急増している。それにもかかわら ず、消費者行政=弱者保護行政=恩恵的な行政というレッテルが貼られ、消費者行政予算の削減、業務の縮小が止 まらない。
消費者の権利確保を本来の目的としている国民生活センターや自治体の消費生活センターが、悪質業者の情報
開示や迅速な被害救済等を行い、より強力なセーフティ・ネットとして機能しなければ、規制緩和は、悪事を働く者を肥 えさせるだけの政策となる。
国民生活センターの縮小計画が年内にも実施されようとしている。そうなれば自治体への波及も必至だ。全国的な
消費者行政の衰退を意味し、首相の言う「国民の安全・安心」など絵空事になる。政府の方針転換へ、首相の英断を 望みたい。
(共同通信社配信 11月19日山梨日日新聞、11月20日日本海新聞、12月8日京都新聞、他掲載)
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