近距離型鉄道でも顧客獲得競争始まる


 従来、首都圏の近距離型の鉄道各社は沿線の観光客誘致を除いて、そのサービス内容について広告を出すような
ことはほとんどなかった(JRと私鉄が多くの路線で競合する大阪通勤圏は異質である)。なぜならば、広告できるほど
のサービスを提供してこなかったからである。現在の顧客の大部分を占める通勤・通学客により良いサービスを提供し
ても、収益が増えるわけでもないから、サービス向上には積極的ではなく、より良いサービスによって更なる顧客を勧
誘するような姿勢もなかった。唯一、JRと私鉄が競合する一部路線では、料金や所要時間短縮競争を行なっていた
が、大きな流れにはなっていなかった。

 そのような中で、2007年8月24日付け読売新聞で、つくばエクスプレス(通称TX)の開業2周年の全面広告に接した。
「TX5つの魅力」として、@踏み切りゼロ、A安全のホームドア、B最高速度130km、C快適な乗り心地、D高速インタ
ーネットをあげ、「住むなら、やっぱりTX沿線だね」とアピールしている。明らかに沿線への転居促進を目指した広告
である。

 だれでも快適により早く勤務先、通学先に通える鉄道を選びたいはずだが、従来はどこの鉄道各社ももたいして変わ
りはなく、結局、居住コストと通勤・通学時間の関係や沿線のイメージで居住地を選んでいたと言えよう。

 しかし、そうした状況は変化してきているように思う。例えば、首都圏の南北間輸送をみても、JRの湘南新宿ラインが
開通したことで、鉄道各社間での競争意識が生まれた。東京メトロ副都心線(池袋ー渋谷間)が来年には開通して、東
武東上線、西武池袋線と直通相互運転を開始する。そして、池袋ー渋谷間の地下鉄区間においても急行を走らせると
いう。これによって埼玉県からJRを使わずに渋谷に出る直通ルートが確保される。渋谷と横浜地区を結ぶ東急東横線
では、2001年から特急の運転を開始して、湘南新宿ラインを意識した速達化を実施いているし、さらに数年後には東京
メトロ副都心線との直通相互運転を予定している。これらにより埼玉県等の首都圏北部と首都圏南部の神奈川県を結
ぶ大動脈がJR VS 東京目メトロ・私鉄連合の競争によって急速に整いつつある。新宿と藤沢を結ぶ路線を持つ小田急
電鉄も客を奪われまいと、有料特急であるロマンスカーの本数を減らしてまで、「快速急行」を新宿・藤沢間に走らせは
じめた。

 私は、かねがね、鉄道選択(居住地選択)の重要な情報であるターミナル駅から最寄り駅までの所要時間の表示の
あり方に注目してきた。鉄道によっては、ラッシュアワーにおける恒常的な遅れが生じ、時刻表における時刻表示や不
動産広告の所用時間表示が実際のものと異なっており、消費者の選択情報として正しくないからである。かつて、私
は、西武鉄道の恒常的な遅れについて公取委に景表法違反事案として排除命令を申告したことがあるが、却下され
た。最近ようやくその問題に鉄道各社は気付き始めたのか、東急電鉄では、朝ラッシュ時の田園都市線の慢性的な遅
延を抑制するため、二子玉川〜渋谷間を全列車各駅停車にすることをはじめているし、西武鉄道では池袋線の急行
等の速達列車と普通列車の待ち合わせ・発車方法の変更を行なっている。

 適切な選択情報が提供され、それに基づいて消費者が居住地・鉄道会社を選ぶことより、近距離型の鉄道でも顧客
獲得のためのサービス競争が起きることを期待したい。

細川幸一



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