自分が作った商品を理解していない保険会社


  新聞各社は、損害保険主要6社の平成19年3月期連結決算が出揃ったと伝えている。産経新聞(5月24日)によ
れば、保険の売上高にあたる正味収入保険料は、保険金の不払い問題で行政処分を受けた三井住友海上火災保険
と損害保険ジャパンが単体で減収となった。単体の正味収入保険料は、三井住友海上火災が前年同期比1%、損保
ジャパンは0・6%それぞれ減少した。損保業界では、不払い問題だけでなく、火災保険料の取りすぎ問題などの不祥
事が次々と表面化している。不払い問題は生命保険でも拡大の一途をたどっている。

  保険には「ひとりは万人のために、万人はひとりのために」とういう助け合いの精神が基本理念として存在してい
るはずである。しかし、最近の保険金不払い問題をみるとそうした理念を保険会社が忘れていると言う他はない。

  不払い問題の多くが保険の基本契約に付随した特約に関連する保険金の支払いをめぐるものだとされている。保
険料を稼ぐために特約をたくさん作り、その魅力を大々的に宣伝し、いざ保険金支払の段階になると故意か、過失か、
それを怠る。まさに保険という制度の存在意義の否定である。通常の商品の品質や性能は、保険で言えば、約款その
ものである。約款で約束された内容こそが商品価値である。しかしながら、保険商品の特徴として、その商品価値を享
受できるのは保険加入時ではなく、まさかのときである。そこにタイムラグがあるために、商品価値を契約時に見極め
るのが難しかったり、保険金の支払い事由が生じたときになって、消費者の思い違いやセールストークと約款との違い
に気付くことも多い。あるいは保険会社が提示した保険金が正当なもとの思い込んでしまっている事例も多い。

  そういう意味では消費者は保険の仕組みを理解した上で、加入する必要があり、消費者教育の重要性が指摘され
ているが、保険会社が自ら作った商品を理解していない現状がまずは改善されるべきである。


  先日、アメリカンホーム・ダイレクトの「ご家族まるごと保険」という交通障害保険の資料請求をしたところ、パンフレ
ットが送られてきた。交通事故や建物火災、駅改札内での不慮の事故等を対象に保障する保険だが、「特約スーパ
ー」が大々的に宣伝されている。「特約スーパー」に入ると日常生活のほとんどの事故でのケガまで保障範囲が広がる
とある。例えば、公園でころんでケガをしても「特約スーパー」に入っていると保障されるのだという。パンフレットには
「商品についてご不明な点はお客様サービスセンターのフリーダイヤルまで」とあったので、電話して、「公園で転んで
死亡してしまったら死亡保険金は出るのですか?」と聞いたところ、「特約スーパーに加入すれば出る」と回答があっ
た。しかし、それならば、「交通障害保険」の範囲を超えるし、その割には特約の保険料が安いので、再度、確認させた
ところ、「すみません、間違えていました」とのことだった。この「特約スーパー」は正式には「障害医療費用保険」で、公
的医療保険制度(職場の健康保険や国民健康保険等)に加入していることを条件として、それらで保障されない自己
負担分を最高100万円まで保障するというものであった。非常に分かりづらい。

  契約内容についての説明を担当しているお客様サービスセンターが約款と違うことを言うのだからどうしようもない。
私は責任者を電話に出させ、「もし先ほどの回答を信じて保険に加入した人が公園で転んで死ぬような状況になったら
御社は死亡保険金を払うのか払わないのか」と聞いたところ、「約款の規定どおりであり、死亡保険金は支払わない」と
のことだった。


  同社だけではなく、ほとんどの生命保険、損害保険各社がこの程度なのだろう。製造業で、自ら作った商品の性能
や品質を理解していないなど考えられない。保険業界には猛省が求められる。

細川幸一


トップへ
トップへ
戻る
戻る