公正取引協議会はだれのためにあるのか


  読売新聞(5月14日付)は、はちみつ業界で、過去7年間で検査対象の2割の商品に、人工甘味料などの混入疑
惑が発覚したと報じた。社団法人「全国はちみつ公正取引協議会」(東京都中央区)は定期検査で公正競争規約
違反が判明しても、事務局長を務める公正取引委員会のOBが詳細を把握しながら、不透明な内部処理にとどめてい
たという。


  同紙は、「業界の自助努力に任せられた公正取引協議会制度の下で長年、不適正な表示が見逃されてきた可能
性が高い」と指摘している。同協議会内では、でんぷんなどを原料とする人工甘味料などの混入を調べる定期検査に
ついて、陽性反応が出た業者名を知るのは、「事務局長と事務局員の2人に限られ、会長ら他の役員にも漏らさない
のが“不文律”だった」という。


  公正競争規約とは、景品表示法10条の規定により公正取引委員会の認定を受けて事業者または事業者団体が、
景品類または表示に関する事項について自主的に制定する業界のルールである。
 販売競争は、本来の姿としては品質と価格による競争であるべきだが、ある事業者が過大な景品提供や誇大な広告
宣伝を行うと、他の事業者もこれに対抗して景品の額や誇大な広告宣伝の競争に陥りやすく、しかもこの種の競争は
特に波及性と反復性を有して際限もなく広がり、邁進する性格を持っている。そこで、過大な景品類の提供や不当な表
示が蔓延する大きな原因となっている事業者間の無益な対抗意識や相互不信を取り除き、業界大多数の良識を商習
慣として明文化し、この商習慣を自分が守れば他の事業者も守るという保障を与え、とかくエスカレートしがちな過大な
景品類の提供や不当表示を未然に防止するというところに公正競争規約制度の目的があるとされている 。
 公正競争規約で定めることのできる内容は景品類または表示に関する事項に限られるが、このほか規約を運用す
るために必要な組織や手続きに関する規定も定めることができる。また、公正マークを設けている。公正マークは公
正競争規約の運用機関である公正取引協議会等が、規約の参加事業者の商品で規約に従い適正な表示をしている
と認められるものに表示するようにしたもので、その商品が協議会が行った表示の審査会などで合格した適正な表示
をしている商品であると保証したものであり、消費者はそれを信用して選ぶことができる。全国はちみつ公正取引協
議会も、規約に定めた成分基準などを守り、個別の検査結果に基づいて適正な表示をしていると認めた業者に対して
は、商品に公正マークの使用を認めており、会員106業者のうち約80業者が使用している。 ところがその後の定期
検査で、このマークが付いた商品でも陽性反応が出て、「注意」を出したケースがあるという。これについても、同協議
会では業者への事情聴取を行わず、使用許可を取り消すこともしなかったと同紙は報じている。これが事実とすれは、
消費者の選択情報としての公正マークが虚偽だったことになる。

  公正取引協議会は商品ごとに74団体があるが、その総括機関として、社団法人公正取引協議会連合会があ
る。1979年4月19日に設立され、これらの公正取引協議会の統括機関として、@公正競争規約の順守状況の実態調
査、A会員構成事業者に対する研修会、説明会、B公正取引に関する調査、研究、C一般消費者等に対する公正競
争規約の啓蒙、普及、Dその他情報活動等を事業としている。こうした公正取引協議会制度そのものの信頼性が揺ら
ぐ事態であろう。従来から、公正取引協議会に対しては、「業界利益の擁護団体になっている」、「公取委OBの天下り
機関となっている」等の批判があった。

  公正競争規約が真に消費者の利益のために機能していないことを物語る事件は主婦連ジュース裁判(最判昭和
53年3月14日判時880号3頁)である。主婦連ジュース裁判は、社団法人日本果汁協会、社団法人全国清涼飲料工業
会他が締結し、公取委の認可を受けた「果汁飲料等の表示に関する公正競争規約」が、果汁含有量が5%未満ある
いは無果汁であっても、その旨の表示を要しないとした件につき、主婦連合会が景表法10条6項により不服申立てをし
た事件の最高裁判決である。公取委は主婦連には不服申立適格なしとして、これを退けたため、主婦連が当該処分
の取消しを求めて訴訟に及んだ。これに対して最高裁は、不服申立てには「法律上の利益」の侵害が必要であるが、
個々の消費者の利益は反射的であり、「法律上の利益」にはあたらないとした。本件では、一般消費者には、「法律上
の利益」はないとした判決である。

  筆者もかつて不動産関係の公正取引協議会にあることで問題提起したが、「我々は消費者のために仕事をしてい
るのでない」と平然と言われたことがある。適切な選択情報が提供されないどころか、公正取引のための制度が不公
正な取引を助長している現行制度の抜本的な改革が急務であろう。


細川幸一
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