消費者の方を向いていない鉄道事業者


 通常事業者は顧客を獲得するために他の事業者と競争する。他の競争相手より自社の商品やサービスの質や価格
が劣っていれば、顧客を奪われ、自らの経営が危うくなるからである。

 しかし、競争相手がいない場合、あるいが競争相手がいても顧客が固定化しており、顧客に逃げられる恐れがない
か、低い場合には競争する動機が乏しくなる。したがって、その提供する商品やサービスの向上は望めない。鉄道の
場合は後者の要素が強い。関西の鉄道の方が安くてサービスも良いからといって関東における通勤・通学には利用で
きない。またそれを理由に転居する人もいないだろう。近隣の鉄道事業者の場合も同様である。西武線は良くないから
小田急で通勤・通学しようとはだれも思わないであろう。サービスの質や料金の安さが消費者の選択情報としては存在
し得るので、これから住居を考えるという消費者にとっては選択が可能であるが、全体の鉄道利用者からみれば少数
であろう。空路や高速バスは同一路線で複数の事業者が参入できるので競争が起きる。長距離の場合は空路と鉄道
(新幹線)でも競争が起きる。しかし、地域的な鉄道はそれがほとんどない。


 私は通勤に東京メトロと西武池袋線を利用しているが、問題が多い。いくつかの例を示そう。

 まず、東京メトロである。護国寺駅護国寺方面出口を利用しているが、駅員に創意工夫する姿勢がまったくない。こ
の駅は深度が深く、エスカレーターは5階建てのビルほどの高さがあるのだが、修理や保守でよく停止となる。しかし、
まったく予告はなく、当日も何の案内はなく、エスカレーターの下に来てはじめて気付く。健常者でもつらいほどで、お年
寄りは本当に気の毒である。同方面出口の利用者は少なく、改札口の駅員は何もすることがなく、ただ座っているだけ
である。何か掲示を出すとか、お年寄りが改札を通過するときはエスカレーターが止まっていることを教えてあげると
か、そうした考えはまったくないようである。そもそも挨拶ひとつされたことがない。暇ですることがなく、爪きりで爪を切
っているような駅員もいる状況である。「ありがとうございました」の一言さえ言おうとは思わないようである。駅員のすぐ
横にある「お客様の声」BOXも一ヶ月近く用紙が補充されないままである。気付かないのか?
 たまに立っている係員がいるが、たぶん、客がいるときは、できれば立っていろと言われているのであろう。でもただ
立っているだけなのである。

           
  一ヶ月近く用紙が補充されない「お客様の声」BOX      予告も掲示もなく停まるエスカレーター




 西武鉄道もまだまだである。例えば、運賃表である。これは数年前に新しくなった運賃表である。たしかに面積は大
きくなり、カラフルになった。

       


 しかし、はじめてこれを見たとき目を疑った。駅名が小さくしかも斜めに書いてあるため、探し辛いのだ。これは事業
者サイドの発想によるものである。いくら払えばどこまで乗せてやるという発想だから料金表示の方が大きく、しかも複
数駅をまとめてしまっているのである。利用者はいくら払えばでこまで行けるかを知りたいのではなく、○○駅まではい
くらかかるかを知りたいのである。料金から検索するのではなく、駅名から検索するのだという根本を分かっていない。

 自動発券機も問題である。下の写真は「普通回数券」のボタンを押したときにまず出る画面である。これも私ははじ
めてみたとき何のことだか分からなかった。回数券の総額がまず出てくるのである。そして、「1700」とか「2300」を押
すと、「170円」あるいは「230円」区間の駅名が出てくるのである。
 利用者は1700円の回数券がほしいのではない。○○駅までの回数券、あるいは「170円区間」の回数券がほしいので
ある。これも事業者サイドの発想である。これについて同社に苦情を言ったら、このシステムは私鉄各社と共同開発し
たものだという回答があった。すなわち、どこの鉄道会社も同じだから文句をいうなということである。そこで調べてみ
た。私が調べた限りでは、他の鉄道会社では総額と区間金額の併記である。常識であろう。
          
          


 もう一つ例を示そう。

        


 列車の種別表示である。左は準急、右は通準(通勤準急)である。準急は池袋を出ると5つめに練馬にはじめて停ま
る。通準(通勤準急)は練馬も停まらず、かなり先の10駅目の大泉学園が最初の停車駅である。したがって、両者は名
前は似ていてもまったく違う種別の電車である。ところが、英文標記はどちらもSemi Exp(Semi-Express)なのである。
私の知人の外国人がおかしいといっていた。そこで、同社に苦情を言ったが、英文名称を変えると混乱を招くからこうし
ているのだという回答だった。一体どういう意味か理解できない。要は、良い英文名称がなく、変えるのが面倒くさいら
しい。乗客数からみればほんのわずかの日本語がわからない外国人消費者の不便や不利益など同社にはどうでも良
いことなのだろう。
 ちなみに、小田急線に乗ったときに、区間準急というこれまた英語にならないだろう名称の列車があった。興味があ
ったので、英語の標記を調べた。Sector-Semi Express だそうだ。ネイティブがどう思うか分からないが、これで
とは区別がつく。
 西武鉄道には進言したが、無理やり日本語を直訳しようとするからうまい名称がないのだ。Exp.TypeTExp.Type
U・・・そういうことで良いのだ。日本語だって、急行、快速、特別快速、快速急行、特別急行、通勤急行、準急、通勤準
急等各社でバラバラな名称をつけ、どれが一番早いかなど一般的なコンセンサスはないのだから・・・



細川幸一

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