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グレーゾーン金利廃止等を目指す貸金業規制法改正論議が、大詰め段階で後退している。内閣府の後藤田正純
金融・経済財政担当政務官がこれまでの有識者懇談会の議論の方向性と全く異なることへの抗議の意志を示して、政 務官を辞職した。 金融庁・有識者懇談会は、出資法の上限金利(29・2%)と利息制限法の上限金利(年15〜20%) の間のいわゆるグレーゾーン金利をなくすため、出資法の上限金利を利息制限法の上限金利にまで引き下げる方向 性を示していたが、金融庁が自民党金融調査会に示した改正案では現在、出資法上限金利を、利息制限法上限金利 に引き下げ、グレーゾーン金利を解消するまで、改正法施行後3年間もの経過期間が設けられている。しかも、その後 も、少額短期の融資には同28%の特例金利を最長5年間認めるという。
問題は大きくわけて二点ある。
第一は、年利15〜20%の利息制限法を超えていた出資法の上限金利とほぼ同じ金利が、特例を理由に今後9年
間存続し、「改正が事実上骨抜き」になることである。少額短期の特例での貸付額が30万円、50万円で検討されてお り、現在の消費者金融の貸し付け平均が約20万円を考えるとほとんどの貸し付けが特例を容認することになり、特例 が特例でなくなる事態を引き起こす。国民生活センターの調査によると多重債務などで弁護士や司法書士に相談に訪 れた人の約3割は初めて借りたときの年収が200万円未満である。50万円は必ずしも少額とはいえない。
第二は、今までの論議を無視した法案が突如金融庁から出されたことである。金融庁総務企画局長の私的有識者
懇談会「貸金業制度等に関する懇談会」での議論や、担当の与謝野馨経済財政担当相のこれまでの発言と全く反対 の改正案が作られたことである。金融庁に業界からの圧力がかかったとしか思えない。
後藤田議員は金融庁案が「国民にとってまったく不可思議で説明できない」(9月8日付毎日新聞社説)と述べてい
る。その後、自民党では金融調査会、法務部会などの合同会議で協議が続いているが、意見がまとめっていない。後 藤田議員のように国民全体のことを考え、発言・行動する若手政治家が与党自民党にもいることは頼もしいが、依然、 業界の代弁者となってしまっている議員が未だ多数いるのであろう。
たとえば、消費者契約法改正による団体訴訟制度導入に際しては、裁判管轄の問題で、政府提出法案では、事業
者の所在地だけとしていたものが、国会での議論を経て、違法な行為地も含まれることとなった。これは民主党が激し く政府案を追及した成果でもあるが、政府案に異を唱え、自民党に接触した関係者によると、理論詰めでいくと理解し てくれる自民党議員が若手を中心に確実に増えているとのことであった。
しかし、消費者契約法改正問題おける産業界側の圧力は特定の産業というより、経済界一般からのものであるが、
グレーゾーン金利問題となると、貸金業という特定の業界の死活問題にもつながる可能性があり、その場合の業界の 政治への圧力はより激しくなっていることが予想される。政治の場では、majorityの声はsilentであり、minorityの 声の方がnoisyであることはよくある。majorityである国民・消費者の声を反映した法改正になるよう声を上げ る時期である。
細川幸一
関連資料:細川・齋藤・坂東「金銭消費貸借の貸し出し金利と利息制限法」(消費者法ニュース 2004年4月)
追記:本件に関するマスコミの対応にも注目したい。マスメディアへの貸金業からの広告収入は相当なものであろう。
広告主が反社会的な行動を起こしたり、それを批判すべき問題が起きたときに、マスコミがその報道に尻込みすること はよくあるように思われる。たとえば、自動車の商品テスト結果がなかなか大手新聞に取り上げられなかったり、平成 電電投資組合の広告を大々的に掲載した朝日新聞が平成電電の倒産問題をほとんど取り上げないなどである(広告 媒体としての新聞社の責任も議論されるべきである)。こんなこともあった。某大手鉄道会社の不当表示問題をある新 聞記者に情報提供して、記事になったが、その記者いわく、かつて経験したことのない圧力を受けたというのだ。
しかし、今回の案件では、多くのマスコミが消費者サイドの視点に立って報道をしているように思う。広告主だから問
題を扱わないというのでは、社会的公器を自称するマスコミとしては問題であろう。どこかで線引きがあり、一定の社会 的問題として認識されると圧力を跳ね返すらしい。私が注目しているのは、TBS「のみのもんた朝ズバッ!」の辛らつな 金融庁・自民党批判である。みのもんたの個人的な意向も働いていると考えられるが、どのような背景があるのであろ うか。たとえば、不思議とフジテレビは実名での悪質商法批判報道に強い。消費者問題に対するマスコミ報道について の学問的な研究が必要と考えている。
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