包茎手術 自由診療の契約トラブルをどう解決するのか




  6月26日付日本消費経済新聞が、美容整形クリニックで、10万円で包茎手術ができるという広告をみて受診してき
た未成年者が、手術当日、診察室内で140万円のクレジット契約をさせられたトラブル事例を紹介している(熊本県消
費生活センター扱い)。

  手術当日にも再度窓口で費用を確認したにもかかわらず、診察室で、出来映えの違う2種類の包茎手術の写真を
見せられ、「今しないと一生後悔する」、「性感感染症にかかる可能性が高い」などと言われて、高額な手術を勧められ
たのだという。支払いができないと言うと、クレジット契約を勧められ、診察室内でクレジット会社からの確認を受けさて
いる。以前から、こうした苦情は各地消費生活センターに寄せられており、手術台の上で高額の手術の話をされ、承諾
してしまったという苦情も聞いたことがある。包茎手術直前に、執刀する医者に逆らえば何をされるかわからないという
不安もあろう。

  今回の案件は未成年者の契約であり、クリニックがさりげなく「紙に親の名前を書いて印鑑を押してくるように」と告
げており、同センターでは相談者に未成年者契約の取消し通知をクリニックとクレジット会社に出すようアドバイスし、ク
リニックが広告記載の支払い額での和解を提案してきたことから、その提案を受け入れ、相談を終了したという。

  しかしながら、こうしたトラブルで消費生活センターに相談に来る消費者は少数であり、多くの消費者があきらめて
いることが予想される。こうしたし問題は個別に相談に来た消費者だけを救済して済む問題ではない。健康保険指定
の医師が診療報酬の不正請求で、指定医取り消し処分を受けることはあるが、患者と医師の自由診療の料金を巡るト
ラブルで医師が処分を受けることはほとんどない。医師の倫理上の問題として厚生労働省が取り締まったり、医師会に
よる自主規制等は期待できないのが現状なのか? 


 今回の包茎手術案件は未成年契約であったために和解にこぎつけたが、これが成年であったら解決は困難であった
であろう。クレジット会社にも大いに問題がある。

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 同種事例を調べたところ、本年(平成18年5月18日)、岩手県消費生活条例に基づき、岩手県知事が岩手県消費生
活審議会(会長 高橋 耕)に「美容医療(自由診療)の手術費用等に係る紛争」として包茎手術にかかわる処理を付
託していることがわかった。概要は以下のとおりである.
  (参照:岩手県庁HP http://www.pref.iwate.jp/~hp1303/event/hutakuhunnsou.htm)

紛争の概要

  消費者(申出人)A及びBは、事業者(その相手方)の広告(雑誌やホームページ)を見て事業者の診療所に出向
き、包茎治療を受けた。

(消費者Aの申立)

○事業者から消費者Aに対し、保険適用で受けられる施術かどうかの説明がなかった。

○手術費用について、広告で15万円程度としていたが、手術の際に、事業者から15万から115万円かかるという説
明をされた。クレジットの金利を含めた支払い総額が約188万円となることを消費者Aが知ったのは手術が終わった
後だった。

○そこで、消費者Aは、治療前に具体的治療内容や金額、保険適用で受けられる施術かどうかの十分な説明がなかっ
たことに加え、広告の価格と実際の治療費の差が大きいことを理由に契約の取消しを申し出た。

(消費者Bの申立)

○広告で治療費が10万5千円と明示して、電話での説明でも同様に治療費が10万5千円であると勧誘し、術後に63万
円を請求。

○受付段階で保険が効かない医療機関であることを告げていない。

○カウンセラーによる問診の際、事業者は「5、60万円かかるかも知れない」と告げたので消費者Bが「考えさせてく
れ、親に相談する」と告げたところ、事業者は「今直さないと大変だよ」等心理的に不安な状態に陥らせる言動等を用
いて契約させている。

○そこで、消費者Bは、治療前に具体的治療内容や金額、保険適用で受けられる施術かどうかの十分な説明がなかっ
たことに加え、広告の価格と実際の治療費の差が大きいこと、心理的に不安な状態に陥らせる言動等で冷静な判断が
できなかったことを理由に契約の取消しを申し出た。

(事業者の主張)

○上記に対し、消費者A及びBに対し事前に症状や治療方法を説明し、本人からの承諾を受けており、契約の取消し
には応じられない。

  以上のことから紛争状態にある。


付託理由

  「美容医療」は医師が行う医行為ではあるが、保険診療の対象ではなく、全額費用負担する自由診療で行われる。
また、「美容医療」は、雑誌広告などで活発な営業活動が展開されているが契約に際しての情報提供や説明が不十分
なことがあり、消費者トラブルになる例が少なくないところである。

  さらに、付託に係る紛争は、契約の問題点と医学的な専門知識を総合的に勘案して解決に結びつける必要があ
る。

  加えて、消費生活条例、消費者契約法等に照らし問題があると思われるので、岩手県消費生活審議会に見解を求
めるとともに解決をゆだね、適切かつ迅速な解決を図るとともに、今後同種被害の防止・救済に役立てる。

今後の取組み

  同審議会の紛争解決部会において、消費者(申出人)A及びBと事業者(その相手方)の双方から事情を聞いて、あ
っせん等による紛争解決に向けた取組みを行う。


  これに対して、6月22日に紛争の申出人(消費者)らとその相手方の医療機関(事業者)の双方から話を聞き、同審
議会紛争解決部会が調整を行ったところ、消費者と医療機関が同部会のあっせん案を受け入れ、解決したという。

   医療機関は、雑誌やホームページ等に、包茎治療で「包茎を切って治す」場合、治療の程度に応じて105,000円と、
210,000円の二つの価格を設定しており、この価格には、麻酔代、手術費用、薬代、消費税等すべてを含む額として広
告していた。しかし、実際は、 形成術と称してさらに別料金がかかることを手術の当日になって説明しており、この申出
人らに とって予期せぬ請求がトラブルとなっていると考えられるとしている。

  合意内容は以下のとおりである。
  (参照:岩手県庁HP http://www.pref.iwate.jp/~hp1303/event/18.06.22.htm)。



申出人Aについては、当初契約金額 1,888,530円(手術費用1,150,000円とクレジットの金利)のところ、医療機関のホ
ームページにおける治療費、210,000円と、申出人Aが当日現金払いした額7,625円の合算額 217,625円(約1/9)

申出人Bについては当初契約金 630,000円のところ、医療機関のホームページにおける治療費、105,000円を基本
に、医療機関の主張と申出人Bが125,500円を当日現金払いしたという事情を勘案した額125,500円(約1/5)となっ
ている。               


細川幸一

  
包茎手術トラブル関連情報:国民生活センター「美容医療にかかわる消費者被害の未然防止に向けて



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