東横イン事件から学ぶもの

 
  全国的な店舗拡張を続ける東横インはビジネスマンの間では知られる存在であったが、駐車場をつぶしてロビーに
したり、身体障害者用の客室を会議室や倉庫に改造するという違法行為が発覚して、皮肉にも主婦や学生も知る有名
ビジネスホテルチェーンとなってしまった。

  問題発覚直後の、「時速60キロのところを68キロくらいのスピード違反ならかまわないと思ってやっちゃった」云々
の社長の発言が更に批判をかうきっかけとなったように思える。しかし、120店舗のうち違法改造が80件などという情
報に接すると、もはや少々のスピード違反などではなく、高速道路で他のバスが渋滞にはまっているところを路肩走行
で突っ走り、うちのバスは早くて安いよと顧客を集めてきた・・・そんな商売であったように感じる。

  事業者がより良いものをより安く提供することは消費者の利益に資することであり、歓迎されるべきものである。し
かし、事業活動が空気や河川の水を汚すといったような問題(外部不経済)が生じる可能性がある。所有する土地に高
い建物を建てれば、隣地の日照権を脅かすこともあるし、住宅地に大規模商業施設ができれば、交通渋滞や環境悪
化を招く。だからこそ、現代資本主義社会は自由競争を経済秩序の基調としながらも事業活動に一定の制限を加えて
いるのである。さらに、社会的弱者も市場原理の恩恵を受けられるように、国家の給付的援助に加え、サービスを提供
する事業者に対して消費者との民事契約における一定の義務を課しているのである。交通機関や宿泊施設における
バリアフリー対策等がその例である。市場原理だけに委ねていてはバリアフリーは進まない。なぜならば、その対策を
講じたからとって事業者の収益が必ずしも増えるわけではないからである。そこではある一定の条件を定め、その条件
を守った上で、品質やサービスにおける競争が行われることが期待される。

  私自身、東横インには何度か宿泊したことがある。値段も手ごろで、部屋はどこもきれいで広く、朝食無料、インタ
ーネット無料、そしてロビーの電話機を使えば国内固定電話ての通話も無料というサービスはとてもよかった。しかし、
これらの対消費者サービスのコストが建築基準法で定める容積率の超過や違法な駐車場の撤去でまかなわれていた
としたら、許されるものではない。思い出してみると東横インでこんな経験もあった。チェックアウト時にやたらにエレベ
ーターが混み、中間階では降りてくるエレベーターが満員で乗れないのだ。仕方なく上がっていくエレベーターに乗って
そのまま降りてくるしかないのである。というのも階段が建物内にはなく、非常階段が外にあるだけなのである。そこの
東横インでは、エレベーターの数が客室数に対して少な過ぎるのである。たしかにエレベーターを一機減らせば、その
分かなりの数の客室を増やすことができるだろう。

  このように効率追求で経営した東横インだが心配なことがある。構造設計にもこの思想があったのかどうかだ。姉
歯建築士によるマンションの強度偽装が大問題になっているが、東横インの建物は本当に建築基準法で定める強度
を維持しているのであろうか? 調査が必要な気がする。

  自由競争を経済秩序の基調とする今日、「自由」の意味をもう一度考える必要がある。強者の自由を一方的に認め
れば、それは弱者の自由を制限することになる。CI(国際消費者機構)の標語にこのようなものがあった。


「 Not just for free trade, but for fair trade 」


  我々が目指すべき社会は自由で公正な社会である。

細川幸一


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