司法による消費者問題の解決は進むか?



  消費生活センターのあっせん等による消費者被害救済は一定の効果を挙げている。しかし、そこでは、いわゆる
「落としどころ」や「痛みわけ」といった形で解決することも多く、消費者の権利実現の観点からは消費者が真に救済さ
れているというより、仕方なく解決に至るといったケースも多いように思う。こうした裁判外紛争処理機関(ADR)の活用
は米国でも進んでいる。しかし、こんなことを言う識者もいる。「米国では訴訟件数が増え、裁判所の処理能力を超えて
しまい、それを減らすためにADRが機能しているのに対して、日本では消費者が訴訟できないあるいは勝てないからA
DRが整備されてきた」 

  私も同感である。裁判所による消費者の門前払いや法の不備・裁判官の理解不足による消費者の敗訴・過度の過
失認定等が行われてきた。

  しかしながら、最近少し流れが変わってきているように思う。12月になって消費者問題にとって重要な最高裁判決が
続いている。


  第一は、賃貸住宅の入居者が退去する際、貸主が自然に傷んだ内装などの補修費を敷金から差し引けるかが争
われた訴訟の上告審判決が12月16日、最高裁第2小法廷であった。中川裁判長は「入居者が負担する自然の損傷と
はどのようなものかを、貸主が契約書に具体的に明記するか口頭で説明し、入居者がその内容を明確に認識して合
意した場合に限り、差し引きは許される」との初判断を示した。そして、今回は許されるケースに当たらないとして、入居
者の敷金返還請求を棄却した2審の大阪高裁判決を破棄し、高裁に差し戻した。
  民法の解釈では、自然に傷んだ部分の補修費は原則として貸主が負担するべきものとされるが、入居者との間で
そうした補修費も入居者が負担する旨合意した場合(実際には合意させられているということであろう)についてトラブ
ルが多発していた。判決は、貸主がどのような説明をし、入居者がどんな意思表示をすれば合意があったとみなせる
かを最高裁が初めて示したものと言える。(読売新聞参照)


  第二に、消費者金融の主力商品となっている「リボルビング方式」のカードキャッシングを巡り、利息制限法の上限
金利を上回る利息を徴収することが許されるかどうかが争われた訴訟の上告審判決が12月15日、最高裁第1小法廷
であった。島田裁判長は「業者が採用しているリボルビング方式は、超過利息が例外的に許される条件を満たしてい
ない」との初判断を示し、超過利息分を債務者側に返還するよう命じた1、2審判決を支持、業者側の上告を棄却し
た。これで消費者側の勝訴が確定した。
  消費者金融大手が扱う商品の利率のほとんどは利息制限法の上限金利(年20〜15%)を超えている。今回の判
決で、リボルビング方式についてのみの判断であるが、業界は、超過利息(過払い金)の返還や融資方式の見直しを
迫られることに間違いはない。
  貸金業規制法には、十分な情報提供などを条件に、超過利息を払う側も同意したとみなして認める「みなし弁済」の
規定がある。訴訟では、同方式の下での超過利息の返済が、みなし弁済に当たるかが争点となった。同判決は、同方
式による取引の際、業者が発行する書面に債務がどれくらいあるかを把握するため必要な返済期間や回数が記載さ
れていない点を指摘し、「業者がみなし弁済を適用するには、返済期間と回数を両方とも記載する義務がある」と述
べ、この義務を果たしていない同方式について、みなし弁済の主張は認められないとの判断を示した。(読売新聞参
照)  関連情報


  第三は、小田急線高架化事業を巡り、東京都世田谷区の沿線住民40人が国の都市計画事業の認可取り消しを
求めた行政訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・町田最高裁長官)は12月7日、地権者以外は都市計画事業の取り消し訴
訟を起こす資格(原告適格)がないとした99年判例を変更し、地権者ではない周辺住民37人に原告適格を認める判
決を言い渡した。
  これは、今年4月の行政事件訴訟法の改正を踏まえ、原告適格を幅広く認める姿勢を明確にしたものである。ただ
し、この判決は原告適格を認めただけであり、今後は第1小法廷(泉裁判長)で認可の適否を巡る実質的な審理が続
けられることとなる。
  99年判例は、都市計画事業認可の根拠となる都市計画法について「周辺住民の個別的利益を保護する趣旨は含
まれていない」と解釈し、地権者以外の周辺住民の原告適格を否定した。一方、改正行政訴訟法には、原告適格の判
断基準として「根拠法令と目的を共通にする法令の趣旨や侵害されることになる利益を考慮すべきだ」との規定が加わ
った。
  この日、最高裁大法廷は、「基本法や都条例の趣旨を考慮すれば、都市計画法は騒音や振動で健康や生活環境
の被害を受けないという住民の利益を保護している」と判断。都条例で定められた「事業で著しい影響を受ける地域
(関係地域)」に住む住民37人について原告適格を認めた。主婦連のジュース裁判や近鉄特急料金裁判のようなケー
スが今後起きた場合に、消費者団体・消費者に原告適格が認められることを期待したい。(毎日新聞参照)

細川幸一

追記:
  上記第二の問題に関連して、借金の分割返済で支払いが遅れた場合、残金の一括返済を求められる特約(期限
の利益喪失特約)が付いた融資をめぐり、貸金業者が利息制限法の上限を超えた金利を受け取れるかが争われた訴
訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)は2006年1月13日、「債務者が事実上強制を受け、超過利
息を支払った場合、特段の事情がない限り、任意に支払ったといえず無効」とする初判断を示した。いよいよ貸金業者
の違法性が司法の場で糾弾されはじめた感じである。


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